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幸福の定義は人それぞれ

挨拶と女の勘

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 アーノルドの王配候補で登場人物が一気に増えてしまいます。
 先頭の登場人物紹介の下に、王配候補のリストを挙げてありますので、ご利用ください。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 マークとその家族が辞してから、更に数組の挨拶を受け、残っているのは、候補者の二家族と、メリオネス侯爵家のみ。

 宴の席で皇家への挨拶の順番に厳密な決まりはないが、同じ伯爵家なら、歴史の浅い方が先になり、一番位階と格式の高い家が最後になるのが暗黙の了解だ。

 臣下の立場で言うなら、帝国で唯一の大公と公爵の俺とレンは、序列の一位と二位になる。

 しかし俺達は皇家の一員として、夜会に参席している。

 と成れば、侯爵家が最後を務め、その一つ前を伯爵の中で一番格式の高い家が務める事になる。

 シルベスター候は、大厄災から俺たちの婚姻式まで、何度も北部と皇都を行き来した為、今回の宴には不参加。
 残るアーべライン、オーベルシュタイン、メリオネスの三侯爵家なら、メリオネス家が、最も格式が高く、挨拶の最後をメリオネス侯爵が務めるのは当たり前のことだ。

 今回問題なのは、メリオネス家の前に挨拶をするのが、オズボーン伯爵かグレコ伯爵になる事だ。

 同じ伯爵家なら、アーチャー伯爵家の方が来歴も格式も上だ。
 それはアーチャー家の後に、挨拶に訪れた伯爵達も同様だ。
 それを分かっていながら、オズボーンとグレコが残ったと云う事は、これまでの社交の場でも、この両家が幅を利かせて来たという事だろうか。

 言葉は悪いかもしれないが、この両家は、令息が王配候補になった事を笠に着ているのか?

 位階や格式が全てとは言わないが、守るべきルールや品位はあると思う。

 何より、アーノルドを権力争いの道具にされたようで気分が悪い。

 これは候補者の人格がどうとか言う以前の問題ではないか?

 しかし世の中には必要悪と云うものがある。

 せめて候補者が優れた人であったなら、納得も行くのだがな。

 淡い期待を抱いたが、テイモンとオレステスに対する第一印象は、良いとは言えないものだった。

 テイモン・グレコは、アーノルドの横に立っても遜色のない美貌の青年だった。

 しかし親子そろって、根暗を絵にかいたような印象を受け、折角の美貌も台無しだ。

 何も根暗が悪いと言ってる訳ではない。
 根暗でも優秀な人材はいくらでもいる。

 このグレコ親子は、ただ単に、暗い性格をしていると言うのが躊躇われる陰湿さを感じた。

 上皇夫夫には慇懃な態度を取り、アーノルドへは、執拗で粘着質な視線を隠しもしない。
 
 それにレンへ向けられた瞳には、値踏みするような陰険さがあった。

 では俺にはどうかというと、この親子は俺と目が合っただけで、びくびくと怯え出し、挨拶すらまともに出来ない有様だ。

 ロイド様も仰っていたが、俺相手におびえるようでは話にならない。

 そしてオレステス・オズボーン。

 この小僧は、何を考えているのかよく分からない。

 上皇夫夫とアーノルドの前では、慇懃な態度を取り、アーノルドに話しかける時に、鼻にかかった甘えた声を出しているのは頂けないが、俺とレンにも礼儀を守った態度で接してきた。

 しかし、横に立つ両親はそうではない。
 オズボーン伯爵に至っては、横に伴侶が居ながら、レンに対して色の籠った視線を向けるという、下品極まりない人間だ。

 横に居る母親は、伯爵の下品な行動も、オレステスの事も全く気に留めた様子はなく、一人だけ明後日の方向に目を向けている。

 人族の政略結婚はこんなものか、と冷めた気分で母親の視線をたどると、そこに居たのは、親父殿だった。

 永年皇都に寄り付かなかった上皇が、皇都に戻ってきて、物珍しいから見ている訳ではなさそうだ。

 まぁ、これだけ不躾に見つめるだけでも、不敬罪に問われかねないのだが。
 
 扇に隠されたロイド様のこめかみに青筋が立っているから、手出しは無用、皇太后のお手並み拝見だ。

 しかし何故、ロイド様ともあろうお方が、オズボーンやグレコのような者を王配候補として残したのだろうか。

 衆人環視中、皇太后を問い詰める事も出来ず、疑問はそのままにメリオネス侯爵とロロシュの挨拶を受け、やっと挨拶地獄から解放された。

 だが夜会は始まったばかり、この後も一晩中貴族の相手をするのかと思うと、げんなりしてしまう。

「ご挨拶だけでも、結構疲れますね」

「そうだな。俺は社交向きではないと、改めて思い知らされたよ」

 溜息をつきながら脇に控えた侍従を呼び、花茶とワインを持ってこさせた。
 
「いい香・・・味も甘くて美味しいです」

「だろ? 気分を落ち着かせる効果もあるから、ゆっくり飲みなさい」

 俺もワインで喉を湿らせ、一息ついた。

「マークの機嫌が良かったから、ロロシュは間に合ったみたいだな」

「そうですねぇ。忘れてた、なんて口が裂けても言えないでしょうし。ロロシュさんも必死だったんじゃありませんか?」

「だろうな・・・今日のマークは気合が入っていたしな」

「ですよねぇ。マークさんは美人さんだから、正装をするとどこかの国の王子様みたいですよね」

「帝国一の婿がねだからな。そのマークの番がロロシュとは、未だに信じられん」

「番って本当に不思議ですよね。マークさんとロロシュさんは、よくケンカもしてますけど、幸せそうだし、私もアレクと出会えて幸せです」

 そういうとこだぞ?

「君は息をするように、可愛い事を言うから、今すぐベットに戻りたくなってしまうな」

 髪の一房に口づけを落とすと、レンの頬が、ボン! と赤くなった。

「アレク!人前ですよ!」

「俺達は、伴侶なのだから、なんの問題も無いだろ?」

「もう! 恥ずかしいからやめて!」

 頬を染めた番とのじゃれ合いに、会場がざわついたが、俺の番が可愛すぎるのだから仕方がないよな?

 ぷんすこ と怒る番が愛しくて、笑っていると、ふとレンが会場に目を向け、まじめな顔で見つめ返してきた。

「どうした?」

「・・・・アーノルドさんは、自分でお相手を選ぶことも出来ないなんて、仕方ないって分かってても、切ないです」

「そうだな。俺も自分ばかりが幸せになって、申し訳ない気持ちでいたのだが、想像以上にアーノルドは、婚姻に関して割り切った考えを持っていてな? ”王配となる人と幸せになれる可能性もある” とも言っていたな」

「そうなんだ・・・アレクさんはあの5人をどう思いましたか?」

 窮屈そうな格好で、俺の耳に唇を寄せ、ひそひそと話す番を、抱き上げて膝の上に抱え直した。

「やだ!何してるんですか?」

「なにって、内緒話しだから近い方がいいだろ?」

「それは!・・・・そうなんですけど」

「俺は最初の3人は問題ないと思う。あとの二人は、本人よりもあの親と姻戚関係になりたくないな」

 紅く染まった耳元でささやくと、レンは真面目な顔に戻った。

「私はオズボーン令息だけは駄目だと思います。クソビッチとDQNのコラボなんて冗談じゃないです」

「くそ? え?」

「性格も男癖も悪いって事」

「分かるのか?」

「勘ですけど。こういう事で女の勘は外れませんよ?それにあの人はアルケリスさんと同じ匂いがします」

「匂い・・・」

「え~と。オーラを感じるというか、印象が似てるので」

「分かった、グレコは良いのか?」

「ん~~~。彼は多分、推し活のし過ぎで、拗らせただけだと思うので、無害だと思います。でも王配には向いていないかも」

 話の区切りがついたところで、席を外していた上皇夫夫が会場に戻り、デビュタントが待ちかねた、ダンスタイムの始まりだ。
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