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幸福の定義は人それぞれ

ゴシップ

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「国内の王配候補について、何か知っていることはあるか?」

「たしか、5人だったか?」

「そうらしいな」

「らしいって。あんた弟の婿候補の事、なんも知らねぇのか?」

「まだ先の事だと思っていたからな」

「あ・・・・まぁ、そうだよな」

 ウィリアムが健在なら、あと5年は先の話しだった。
 
 ウィリアム。お前は弟の晴れ姿を、見たいと思わなかったのか?

「オレの知る限りだと、アーべライン、オーベルシュタイン、アメリアの三家は王配として申し分ないな。シエル・アーべラインは5人の中で最年長の21だ。陽気な性格で家族関係も良好。南を守護するアーべライン侯爵は、タランとの国交にも尽力していて、最近タランとの関係が改善したのはアーべライン侯爵の功績だ」

「アーべライン侯爵の話しは聞いている。武人としても勇猛らしいな」

「閣下の興味はそっちに偏ってっからな」

「ほっとけ」

 人を戦闘狂みたいに言うな。
 俺はゲオルグとは違うのだぞ。

「東を守護するオーベルシュタイン侯爵も、ゴトフリー相手に、一歩も引いてねぇ。アーべラインみたいな勇猛さはねぇが、こっちがめちゃくちゃ切れるって話だ」

 自分の頭を指でつつきながら、ロロシュは話を続けた。

「次男のリアンは19だったな。一見穏やかな見た目をしているらしいが、父親の薫陶よろしく、嫡男より怜悧なんだとよ」

「ほう?兄より優秀な弟か、揉め事はないのか?」

「リアンは外腹で、5年前に継承権を放棄済み。公爵から伯爵位を相続することが決まってる。今は領地運営を兄と一緒に勉強中だとか」

「身の程を弁え、早々に実利を得たと云う事か」

「賢いよなぁ。次はディータ・アメリアの番な。アメリア伯爵は、西の海岸地方が領地だから、一昔前は海路での交易で、かなり潤ってたみてぇだな。だが相次ぐ魔物の被害で、船が出せなくなった。没落寸前まで追い詰められたが、今の当主が始めた真珠の養殖が大当たり。一躍時の人って訳だ」

「アメリアの真珠は質が良い。婚姻式でレンのベールに縫い付けてあったのも、アメリア真珠だったはずだ」

「あのベールか・・・マークもちびっ子みたいなベールが良いって、言ってたな。でも、おたけぇんだろ?」

「それなりだ。これはロイド様から言われたことなんだが、婚姻と妊娠中の恨みは一生らしいぞ? 婚姻式でケチって一生恨まれるより、番の好きにさせてやるのが一番だろうよ」

「マジか!」

「お前、メリオネス侯爵家の財力を分かってないのか?真珠ぐらいで傾く家ではないだろう?」

「そうなんだけどよ・・・こればっかりはどうもな」

 侯爵家の跡継ぎになっても、庶民の感覚は、簡単には抜けないものらしい。

「アーチャー家は、家紋も古ければ貴族の中でも裕福な家柄だ。当然マークの目も肥えている。嫌われたくないなら半端な事はしない方がいいぞ」

 きまり悪そうに無精髭を撫でるロロシュだが、贅沢と必要経費の違いが分かっているのだろうか。
 それを抜きにしても、番への貢ぎ物は何より優先させるべきものだと思うが・・・。

「分かったよ・・・んじゃ続きだ。19になる嫡男のディータは、物静かで理知的だと言われてる。ただ、社交界じゃ没落寸前からの大逆転で、やっかみの対象だ。特に貴族が商売をするのは、はしたない、って考えの奴らから、親子共々成金扱いされてるな」

「くだらん。自分で稼がなければ、貴族など領民に寄生している虫以下の存在だろうに」

「閣下みたいな、実力重視の貴族は少数派だかんな? 文官なんかひでぇぞ? 寝る間も惜しんで働いて、手柄は全部上司の貴族のもんだ。マジやってらんねぇよなぁ」

「それは、うちの文官の話しか?」

「いや。内宮の文官が嘆いてた」

 うちじゃ無いなら納得だ。

 部下に対する待遇の良し悪しは、レンもかなり気にしている。

 レンの言葉に倣えば、俺はホワイトを目指しているが、内宮はブラックと言うことだな。

「・・・そうか。残りの二人は?」

「あとの二人が候補に残ってる理由がわかんねぇんだよな」

「どういうことだ?」

「オズボーンとグレコの二家は王配になるには、胡乱な噂が絶えねぇからだ。オズボーン伯爵とグレコ伯爵は、神殿との繋がりが強かったんだよ。皇家としちゃ神殿の影響なんて受けたかねぇだろ?」

「両家の息子が、優秀だからじゃないのか?」

「何を基準にするか、にもよると思うぜ?オレステス・オズボーンは甘やかされた我儘な小僧だ。テイモン・グレコはオズボーンほど金持ちの家じゃなぇから、我儘放題じゃねぇけど、子供の頃からオレステスの子分みたいなもんでよ。陰気で陰険な性格だ。二人とも先帝が即位してから、皇都に住まいを移し、それからは、夏の避暑以外は皇都から出た事がねぇ。って事は社交界で顔が利くってことだ」

「社交の影響力程度で、ロイド様が認めるとは思えんがな。この二人をメリオネス侯爵は何と言っている?」

「目障りなコバエ」

「・・・・なるほど。肝に銘じよう」

 話しが一段落したところで、演習場に散らばる部下を呼び集め、離れたところに居るレンにも、戻ってくるように合図を送った。

 集まった部下に問題点を指摘し、解散を言い渡したが、レンはまだ戻ってこない。

「今日は随分早く終わったな」

「今夜の夜会の準備があるからな」

「夜会?あぁ、あの夜会は今日だったのか。だから王配候補の話しになったんだな。でも今からで、ちびっ子の準備は間に合うのか?」

「レンの衣装は、見た目は凝っているが、着付けは慣れると簡単だからな」

「なるほど・・・ってあんたが着せてんのか?」

「番の世話をするのは、俺の権利だ」

「いや・・そういう事じゃなくてだな・・・まぁ、いいや。好きにしてくれ」

 言われ無くとも好きにしているが?

「つ~か。さっきから気になってたんだけどよ。ちびっ子が乘ってるでかいあれ。フェンリルか?」

「そうだが?レンが浄化を掛けたら、フェンリルとシルバーウルフは一回り小さくなってな?フェンリルのアンはレンに懐いているし、散歩と演習を兼ねて騎乗の練習もしているところだ」

「さいですか・・・もう何でもありすぎて、なんて言っていいのか分かんねぇよ」

「そのフェンリルの事で、お前に相談したいことが有る」

「なんだ?俺は魔獣の専門家じゃねぇぞ?」

「それはまた今度、詳しく話す」

 そこへフェンリルに乗り、頬を赤く染めたレンが、息を切らせて戻って来た。

「ロロシュさんお久しぶりです。もう具合は良いの?」

「おかげさんで。やっと眠気とおさらばできたよ」

「よかった!ライルと二人でずっと寝てるから、マークさんが寂しそうにしてましたよ?今日はたくさん甘やかしてあげてね!」

「お?おう。ちびっ子は、ちょっと見ない間に、派手なペットを飼いだしたみてぇだな」

 ロロシュの言葉にレンは嬉しそうに、アンの首を撫でながらニッコリした。

「かわいいでしょ?すごく賢いの」

 褒められたことが分かるのか、アンは自慢気に首を擡げ、エメラルドの瞳で、ロロシュを見下ろした。
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