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幸福の定義は人それぞれ

復帰と暗躍

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 雪に埋もれた極寒の森で、フェンリルに続き、レンと従魔契約を結んだシルバーウルフ達は、騎士達を群れの一員と認識したのか、良好な関係を築く事が出来た。

 15頭もの狼に一度に名前を付けるのは、中々骨が折れる作業だった。

 何せ頭を悩ませ、思いついた名も狼側が気に入らなければ、契約することが出来ないのだ。

 最初は一頭一頭名前を付けていたのだが、5頭目辺りで、名前を思いつかなくなり、騎士達にも一緒に考えて貰う事になった。

 そこで、一頭のシルバーウルフに名前の候補を読み上げている時に、別の個体が返事をし、従魔契約を結ぶというハプニングがあり、この際だからと、名の付いていない全ての狼たちの前で、名を読み上げ気に入ったものを、選んでもらうという、なんとも締まらない契約の場となった。

 狼の名は、騎士たちが頭をひねっただけあり、中々良い名も多かったのだが、狼たちに気に入られたのは、レンが考えた名が一番多かった。

 だが、レンには悪いが、俺の番の名のつけ方は少し変わっていて、ほぼ見た目重視だった。

「この子は前足の色が違うから、ソックスなんてどうでしょうか?」

「狼に靴下と名をつけるのか?」

「ダメですかね?」

「・・・選ぶのは、狼だから・・・選ばれるといいな?」

「へへへ。じゃあ、あの子はチベット砂狐みたいに困った顔をしてるから、”チー”で」

「狼なのに狐なのか?」

「だって、そっくりなんですよ?」

「なるほど・・・」

 そのあとも、あの子はハスキー犬に似てるから、ハスキー。
 あっちの子はシェパードっぽいから、ジャーマン。
 うわっ!この子、ハシビロコウに顔がそっくり・・・・ホオズキでいいかな。

 と、まあ、こんな感じだ。

 ほぼ異界の生き物に似ているという、見た目からの連想だったようで、最後の方の連想がどうなっているのかは、聞いても理解出来そうもなかったので、放置することにした。

 そんなレンも、 ”まさか、これを選ぶの?” と、子狼が選んだ名前だけは、自分で考えたにも関わらず、納得がいかない様子で、別の候補を上げればよかった、と後悔していた。

 タロウ・ジロウ・シロ・ポチ

 異界で犬につける定番の名らしいが、簡素で響きもいい、良い名だと思うのだが、何が気に入らなかったのだろうか?

 緑黄月。
 骨に染み入る冬の寒さも、漸く緩み始めると、暖炉の前で縮こまっていたロロシュが現場復帰を果たした。

「なんかよう。俺が冬眠してる間に、賑やかな事になってるじゃねぇの」

 演習場を走り回り、騎士達との連携を見せるシルバーウルフの鳴き声に、ロロシュが目を丸くしている。

「マークから聞いてなかったのか?」

「聞いちゃぁいた、と思うんだけど、ほら半分寝てたわけだろ?夢と現実がごっちゃでよ?」

「なるほど、蛇も大変だな?」

「いやマジで。こんなに酷いのは初めてだわ。まぁ、冬場は南部に避難してる事の方が多かったからな。これが正常っちゃぁ、正常なのかもな」

「毎年年明けの宴を欠席するようだと、マークがへそを曲げるかもしれんぞ?」

「それなんだよなぁ。冬場は南部に出向とかって出来ねぇの?」

「出来んことも無いが、レンの専属護衛のマークがついていくか?」

「だよなあ・・・領の管理もしなきゃだしよ。毎年こんなかと思うと、マジでへこむわ」

「俺の方でも、どう対処するか考えてみる。最悪副団長の席は、空けて貰うことになるやもしれんぞ?」

「それはまぁ、仕方ねぇよ。俺としちゃ暗部を任してもらえるなら、文句はねえ」

「暗部か・・・宵闇の頭目が来たのは聞いているか?」

「あぁ。聞いた。いい歳なんだから引退すりゃいいのにな」

「部下の数が多すぎて、引退したくとも出来んのだろうよ。アーノルドにはロイド様が育てた烏がついている。宵闇はウィリアムの息が掛かっていた以上警戒されて当然、前の様に仕事は回ってこんだろう?それでも部下を飢えさせるわけにはいかん。と言っていたな」

「人を殺めても顔色一つ変えないくせに、昔っから変な正義感つうか漢気があんだよ、あの親父は・・・・で?どうすんだ、飼うのか?」

「そうだな・・・神殿関係には詳しいそうだから、暫く面倒を見ようかと思っている」

 大厄災の後、非公式に、夜中に勝手に宮に入り込むのを、非公式と言っていいか迷うが、とにかく何度か話をしてみると、宵闇が調べ上げた、神殿の悪行の報告の多くが、ウィリアムにより握り潰されていたことが分かった。

 母とウィリアムの愚かな願いの見返りだったのだろうか、それとも願いを叶えるための交渉材料だったのだろうか・・・・。

 改めて頭目から渡された報告書は、宵闇の力を欲するに、十分な内容だった。

「あ~~。例の離宮の話しか?」

「それもある、後はまぁ、色々だ」

「色々ねぇ・・・・なに企んでんだよ?」

「俺は適材適所を心掛けていてな? 苦手な部分は、得意な人間に任せる事にしている」

「なんだよ。俺の暗部じゃ物足りねぇってか?」

 この程度で気色ばむとは、ロロシュも存外かわいいところがあるじゃないか。

「お前には外交方面を頼みたい」

「はあ?外交?!」

「声が大きい」

「すまん。つい」

 これで暗部を統括しているのだから、もう少し落ち着きを持ってもらいたい。

「実はな、ウジュカとゴトフリーがアーノルドの王配の地位を狙っていてな?」

「あ~~、なんかそれ聞いたわ」

 冬眠していても、必要な事は頭に入っているのか。

「なら話が早い。表向きは俺とレンの婚姻の祝いと、愛し子への謁見を申し込んできた。だがその使節団の代表は、ウジュカの第二公子とゴトフリーの第三王子だ」

「あからさまだな」

「だろ?帝国はアーノルドの王配候補を国内で選出すると通達を出している。だが、この二国はそれを無視することにしたらしい。使節団の代表として、帝国に来る公子と王子を帝国に預け、紳士としての教育を受けさせたい、とのことでな」

「二国同時ってのも、胡散臭ぇな」

「一応同時ではないぞ? ウジュカが先に申し込んで来た。それを知ったゴトフリーが負けじと申し込みをした・・・と言うシナリオになっているな」

「ん?二国が裏で繋がってるって、考えてんのか?」

「どうかな?帝国を恨んでいるのは、どこも同じだ。しかし魔物の被害で以前の様に、喧嘩を吹っ掛ける余裕はないからな。搦め手に変えたのか。レンを狙ってウィリアムにこっぴどくやられても居るから、狙いはレンやも知れん」
 
「なほどな。合わせ技ってのが一番ありそうだけどな」

「そう云う事だ。タランもこのまま黙っているとは思えんし、烏と宵闇。外交部ともつなぎを取って、三国の思惑を調べてほしい。公子と皇子の為人もだ」

「王配候補としてなら、皇太后がきっちり調べんだろ?」

「ロイド様から俺とレンは、候補者の選出に手を貸すよう言われていてな?」

「はあ? ちびっ子は分かるが、閣下には無理だろ?」

 こいつ本当に失礼だな。
 
「俺はこう見えても、皇兄でな?候補者との顔合わせは必須だと言われた。だが俺もレンも社交には疎い。ましてや他国の公子と王子ともなれば、予備知識がないとどうにもならんだろ?」

「まぁ、そうか」

「念には念を入れて、と言うだろう?同じものを見ても、見る目が変われば見方も変わる、情報は多いに越した事はない。それに二国が手を組んでいるなら、適当に仲違いさせるのも面白いだろ?」

「いい性格してんなぁ」

「知っているか?俺はこれでも皇子なんだぞ?皇宮で生き残るには、これぐらいは基本だ」
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