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エンドロールの後も人生は続きます

お帰りなさい

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 こうして俺は、一か月ぶりに番の待つ皇都へ向け出発することが出来た。

 ポータルを利用するよりも速く、移動を続けるクレイオスを急かし続け、漸く視線の先に、皇都が見えてきた。

 始めは黒い点だった街が、次第に大きくなっていく。

 番が待つ皇都が近づくにつれ、胸の中がザワザワと騒めいてくる。
 レンのもとへ帰れる俺自身の喜びと、なんとなくだがレンの心の騒めきが伝わって来る様だ。

 日中の皇都の上空をドラゴンが横切れば、騒ぎが起きるのは当然だ。

 しかし、皇都の民は大厄災を救ったドラゴンの姿を見知っている。
 クレイオスに気付いた民達は、巨大なドラゴンに手を振り、祈りを捧げているようだった。

 そして柘榴宮が見えた瞬間、俺自身の喜びとは別に、胸の中に弾けた歓喜は、番の喜びだろうか。

 解体途中の皇宮の上をぐるりと一周回ったクレイオスは、柘榴宮の前庭目掛け、ゆるゆると降りて行った。

「アレクッ!!」

 懐かしく、愛しい声に振り替えると。
 バルコニーから身を乗り出したレンが、大きく手を振っていた。

「レンッ!!」

 愛しい番に会えた事の喜びはひとしおだ。
 しかし、このままではレンがバルコニーから落ちてしまいそうだ。

 そう思った瞬間、レンが俺を目掛け、バルコニーから飛び降りてしまった。

「危ないっ!!」

 慌てて展開した風魔法で番の体を包み込み、俺のもとへ運ばせた。

「アレク! アレクが帰ってきたぁ~!」

 俺の首に縋り付き、涙声を出す番の柔らかい体を抱きしめると、甘い花の香りに包みこまれた。

 一瞬クラッと来たが、大丈夫だ。
 理性を保てている。

「すまない。遅くなった」

「ううぅ~~~。おっ・・・おかえりなさい」

 番を抱き抱えたまま、前庭に着地したクレイオスの背中から滑り降り、宮へと向かう背中に、クレイオスの声が響いた。

『これ!レン!そんな急に近づいてはいかん。まず問題ないか確かめなければ・・』

「絶対いやっ!!!」

『いやっ・・って。少しずつ慣らさないとな?』
 
 執り成すように話すクレイオスの言葉尻に、レンの拒絶の声が響いた。

「クレイオス様なんて嫌い!!あっち行ってっ!!」

 いつも穏やかなレンが、こんなにハッキリとクレイオスを拒絶するとは・・・。
 驚いたが、それ以上に気分が良かった。

『きっ! きらい?! 我は其方のことを思って』

「加護をもらったら、病気しないって言ったじゃない! クレイオス様のうそつき!!」

 ガァーーン!!

 と何かで殴られた音が聞こえてきそうな程、クレイオスはショックを受けていた。

『うそつき・・・・我は嘘など・・・』

「2週間で帰って来るって言ったのに、1か月も! 私たちの蜜月を返して!」

 だから言ったのだ、ドラゴンと我々とでは、時間の重さが違うと。

『いや・・あの・・・レン?』

 自分でも性格が悪いと思うが、ツンとそっぽを向くレンに、無表情なドラゴンが、オロオロと腕を上げ下げしている姿は、普通に面白い。
 
「落ち着け? 一か月ぶりに会ったのだ、可愛い顔をよく見せて? 体はもういいのか?」

 するとレンは首元まで赤くなってしまった。
 初夜を済ませているのに、相変わらず初心な人だ。
 
「もう少し、お薬を飲むように言われているけど、もう大丈夫」

「そうか。よかった」

 ニコッと笑う番の頭を一撫でして、ザワザワと集まってきた使用人の前を通り、宮の中へ入ろうとした。

『ちょっと待て!』

「クレイオス。助力は感謝する。だがここら先は、俺達が二人で話し合い、乗り越えるべき問題だと思うが?」

『う・・むむ』

「レン、留守の間の話を聞かせてくれるか?」

 俺の胸に顔をうずめ、うんうんと頷く番を連れ、自室へと向かう。

 レンの部屋でもよかったが、番の香りが染みついた部屋で、理性を保てるか自信がなかった。

 クレイオスからは、俺に魅了は関係ないと言われているが、念の為だ。

 膝に乗せた番のつむじに顎を乗せ、ひと月の間にあった事を、二人でぽつぽつと話し合った。

「・・・・と云う事訳で、暫く魚は見たくないな」

 俺の話にレンはくすくすと笑い ”晩御飯はお肉をいっぱい出しましょうね” と言ってくれた。

「レンの手料理は食べたいが、今はレンの傍に居たい」

 小さな手で俺の手を、キュッと握り返してくる番が可愛い。

 よく、ひと月もこの人と離れて過ごせたものだと、自分でも感心する。

「レンは、どうしていたのだ?」

「私は、最初は寝込んでいたし、魔法を禁止されてしまったので、大した事はしていませんよ?ロイド様が心配して、頻繁にいらして下さったので、沢山お話が出来ました。あっ、あと、お茶会とか夜会用の衣装も作りました」

「気に入ったものが出来たか?」

「はい!全部アレクさんとお揃いにしました」

「揃いの衣装を作らせたのか?」

 差し色を互いの色にしたり、似たものを着る者は多いが、完全に揃いの衣装を作るのは、関係が良好だとアピールしたい打算的な者達か、よほど仲の良い番同士だ。

「いや・・でしたか?」

 心配そうに、俺を振り仰ぐ額に唇を寄せると、レンはくすぐったそうに首を竦めた。

「俺が伴侶と揃いの衣装で、社交に出る日が来るとは、想像もしていなかった。嬉しいよ」

「ふふ、楽しみにしててくださいね」

「ああ、楽しみだ・・・・それで、さっき話した修練の話しなんだが、今後も続けなければならないらしい」

「私の神聖力を、奪わないようにする、ってやつですか? でも今は何ともないですよ?」

「その・・・営みを持った時が問題でな?」

「あ・・・・・」

「それで、俺も色々考えてみたのだが、レンが嫌でなかったらなんだが、調整というか、試してみる必要がある、と思うのだが・・・どうだろうか」

「私は・・・全然・・・・嫌じゃないです」

 上から見ていても分かるくらい、レンの耳が赤くなっている。

 この初心な人の体を、俺が暴いたのだと思うと、妙な背徳感で、胸がむずむずするのは、拗らせすぎだろうか。

「少しづつ、様子を見ながらにしようと思う。ただ、その・・・俺は・・・なんでもやりすぎてしまうから、レンが無理だと感じた時の、合言葉を決めようかと思うのだが、どうだろうか」

「あぁ、セーフワードを決めるんだ、でもあれってSMのルールなんじゃ・・・」

「えす え?」

「あっ・・・なんでもないです。気にしないでください」

 えすえむとは? と思ったが、これも異界の何かだろう。

 それに、気まずそうに俯くレンの様子だと、深堀はしない方がよさそうだ。
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