262 / 497
エンドロールの後も人生は続きます
愛し子の鬱屈
しおりを挟む
「レン様が、私達と違う性をお持ちなのは理解しました。ですが、身近な者に打ち明けるだけに留めた方が、良いのではなくて?」
「そして、禁書庫にしまい込むのですか?」
「そうね。でもレン様が好奇の目を向けられたり、危険な目に遭うのよりは、ずっとマシだと思うのだけれど」
「人は自分と違う存在を恐れたり、気味悪がったりしますよね? そう言う人が私を敬遠してくれるなら、公表することで、魅了の抑止力になるのではないでしょうか」
「そんな事の為に、自分を貶めるような事を言ったり、自分から危険に足を踏み入れる必要は無いのですよ」
「でも、私はこの力をコントロール出来ません。自分の意思に関係なく、無意識に人を惹きつけるようになるのでしょう? それって他人を操っているのと同じじゃないですか。私、そんなのは嫌です」
「レン・・・・・」
「私は紫藤蓮とういう人間を知ってもらった上で、相手の方と仲良くなりたい。其れに、魅了の所為で、私に近付きすぎたり、傷つける様な事があったら、魅了で操られただけのその人は、何も悪く無いのに、処罰されるのでしょう? 私の所為で誰かが傷つくより、私が傷つく方がマシです」
「その言い分は認められん」
「何故ですか?」
「レンに傷ついてほしくない、守りたいと思っている、俺やロイド様、他の皆んなの気持ちを、蔑ろにした言い草だからだ」
「あ・・・・・・ごめんなさい、考えが足りませんでした」
しょんぼりと俯くレンの頭を撫でたが、レンの気分は持ち直しそうもない。
「・・・これは、あまり言いたくなかったのだが、俺たち獣人は番に対してマーキングが出来るのだがな?」
これにレンは、ガバッと顔を上げる、戦いた顔を見せた。
「マーキング?!」
何をそんなに驚いているんだ?
「あぁ。異界には魔力が無いからな。俺達獣人がマーキングで番に付けるのは、魔力の匂いなのだが。どうやら獣人相手なら、俺のマーキングで、レンの香りを誤魔化せる様でな」
「魔力・・・そっか、向こうとは違うものね・・・よかった」
「向こうにもマーキングがあるのか?」
「えっ? えっと・・動物が縄張りを主張するために・・・自分の体の匂いをつけたり、おしっ・・いえ!なんでもありません!」
「む? 向こうでは動物のする行動なのだな? 良く分からんが、多分それとは違うと思うぞ?」
あからさまにホッとしているな。
向こうの動物は余程、おかしな行動をとる様だ。
「獣人にとって、マーキングは署名の様なものだ。獣人は相手がマーキングされていれば、番がいることが分かるし、ある程度なら、マーキングの主の強さがわかる」
「強さも分かるの?」
「ザックリだ。自分より強いか弱いか、その程度だな。俺は猫科最強種になるから、そこらの草食系の獣人なら、まず近づかんだろう」
ロイド様が、ローガン相手に、俺のマーキングの効果を問い正し始めた。
「今の話だと、獣人の執着心の強さの話に聞こえるのだけれど?」
「そうとも言えます」
「アレクサンドルのマーキングはどうなの?」
「その時の濃さにもよりますが、私の様な一般人は、恐ろしくて近付くどころか、気絶寸前。気の弱い草食系の獣人なら、寝込むレベルです」
「まぁ!そんなに?」
「四六時中垂れ流しなので、威嚇よりタチがわる・・コホッ! 効果が高いかと」
「人族には、効果が無いのですか?」
「威嚇の様な指向性はございませんので、レン様をお助けした日に、陛下が何もお感じにならなかったのでしたら、効果は薄いのでしょう」
「あの時の事は頭に来すぎて、良く覚えて居ませんね・・・ですが、今の話を聞く限りでは、半数の人間に効果が見込める、という認識であって居ますか?」
「仰せの通りで御座います」
ロイド様は一つ頷き、レンに向き直った。
「ねぇレン様。聞いての通りです。貴方の伴侶に任せておけば、わざわざ危ない橋を渡る必要は無いのではなくて?」
「それは良く分かりました。でも」
これでも、レンの心は晴れないのか。
レンの鬱屈の原因はなんだ?
そもそも、何故デザインの話から、性の公表に話が飛んだのだろう。
「レン。婚姻式の衣装に何があるんだ?」
俯いてしまったレンの肩が震えたように見えた。
「レン?」
レンはどこか観念したように、テーブルに重ねられた、スケッチブックから二冊を引き抜き、その内の一冊を手渡された。
「それは、彼方の一般的な女性の服装です。普段私はこんな格好で過ごしてたんです。 此方とは全然違うでしょう?」
「そうだな」
確かに全く違うな。
こんな風に、膝下が見える格好などしていたら、はしたないと非難されてしまうだろう。
俺が見終わった絵をロイド様に手渡すと、皇太后も、その違いに小さく唸り声を上げている。
「今私が身に着けているお着物は、故郷の伝統的な衣装の中でも、かなり古い時代の装束なのです。 あの日・・・この世界に渡ってくる前、私はお祭りの舞台に立っていて、たまたま禿の格好をして居たのですが、此方に女性がいないことを知って、体型を隠すのに丁度良かったので、それを続けているんです」
「嫌だったのか?」
レンはフルフルと首を振った。
「お着物は好きですし、袴もお稽古で着慣れて居たので、嫌では無いです。ただ、自分の存在のあり方を偽っているようで、一生隠し続けていくのかと思ったら、少し苦しくなってしまって」
「そうだったのか」
自分の本来の姿を隠し、偽っていくのは、確かに苦しいだろう。
「それに、後から来る愛し子達が私と同郷とは限らないでしょう?別の国の女性だと、私のような幼児体型ではなくて、もっとメリハリのある体型の方が多いから、隠し続けるのは、無理があると思います」
「メリハリ?」
「ボンキュッボンって感じです」
全く想像できんな。
「それに婚姻式の衣装の事を聞かれて、ちょっと悲しくなって来ちゃって」
「悲しく? 何故だ?」
俺との婚姻が嫌になったのか?
動揺する俺にレンは、もう一冊のスケッチブックを渡してくれた。
「それは、向こうの結婚式で新婦、女性が着る婚礼衣装なんです。お姫様みたいで素敵でしょう? 結婚式でこんなドレスを着るのが、子供の頃からの夢だったの」
「夢・・・・」
「白無垢とか文金高島田も素敵だけれど、やっぱりウェディングドレスは、女子の憧れなので。でも、体の線がハッキリ出てしまうから、体の事がバレちゃうでしょ?だから着ることは出来ないんだなぁ、って思ったら悲しくなっちゃったんです」
とても美しい衣装だと思う。
レンが纏ったら、妖精と見紛う美しさだろう。
レンの夢なら叶えてやりたい。
だが、官能的すぎる。
肩の薄さや、豊かな胸も、細く括れた腰も、全てが他の雄に見られてしまう。
こんな、格好をされたら、魅了など関係なく、レンに魅せられた雄が、虫のように湧いてくるだろう。
「そして、禁書庫にしまい込むのですか?」
「そうね。でもレン様が好奇の目を向けられたり、危険な目に遭うのよりは、ずっとマシだと思うのだけれど」
「人は自分と違う存在を恐れたり、気味悪がったりしますよね? そう言う人が私を敬遠してくれるなら、公表することで、魅了の抑止力になるのではないでしょうか」
「そんな事の為に、自分を貶めるような事を言ったり、自分から危険に足を踏み入れる必要は無いのですよ」
「でも、私はこの力をコントロール出来ません。自分の意思に関係なく、無意識に人を惹きつけるようになるのでしょう? それって他人を操っているのと同じじゃないですか。私、そんなのは嫌です」
「レン・・・・・」
「私は紫藤蓮とういう人間を知ってもらった上で、相手の方と仲良くなりたい。其れに、魅了の所為で、私に近付きすぎたり、傷つける様な事があったら、魅了で操られただけのその人は、何も悪く無いのに、処罰されるのでしょう? 私の所為で誰かが傷つくより、私が傷つく方がマシです」
「その言い分は認められん」
「何故ですか?」
「レンに傷ついてほしくない、守りたいと思っている、俺やロイド様、他の皆んなの気持ちを、蔑ろにした言い草だからだ」
「あ・・・・・・ごめんなさい、考えが足りませんでした」
しょんぼりと俯くレンの頭を撫でたが、レンの気分は持ち直しそうもない。
「・・・これは、あまり言いたくなかったのだが、俺たち獣人は番に対してマーキングが出来るのだがな?」
これにレンは、ガバッと顔を上げる、戦いた顔を見せた。
「マーキング?!」
何をそんなに驚いているんだ?
「あぁ。異界には魔力が無いからな。俺達獣人がマーキングで番に付けるのは、魔力の匂いなのだが。どうやら獣人相手なら、俺のマーキングで、レンの香りを誤魔化せる様でな」
「魔力・・・そっか、向こうとは違うものね・・・よかった」
「向こうにもマーキングがあるのか?」
「えっ? えっと・・動物が縄張りを主張するために・・・自分の体の匂いをつけたり、おしっ・・いえ!なんでもありません!」
「む? 向こうでは動物のする行動なのだな? 良く分からんが、多分それとは違うと思うぞ?」
あからさまにホッとしているな。
向こうの動物は余程、おかしな行動をとる様だ。
「獣人にとって、マーキングは署名の様なものだ。獣人は相手がマーキングされていれば、番がいることが分かるし、ある程度なら、マーキングの主の強さがわかる」
「強さも分かるの?」
「ザックリだ。自分より強いか弱いか、その程度だな。俺は猫科最強種になるから、そこらの草食系の獣人なら、まず近づかんだろう」
ロイド様が、ローガン相手に、俺のマーキングの効果を問い正し始めた。
「今の話だと、獣人の執着心の強さの話に聞こえるのだけれど?」
「そうとも言えます」
「アレクサンドルのマーキングはどうなの?」
「その時の濃さにもよりますが、私の様な一般人は、恐ろしくて近付くどころか、気絶寸前。気の弱い草食系の獣人なら、寝込むレベルです」
「まぁ!そんなに?」
「四六時中垂れ流しなので、威嚇よりタチがわる・・コホッ! 効果が高いかと」
「人族には、効果が無いのですか?」
「威嚇の様な指向性はございませんので、レン様をお助けした日に、陛下が何もお感じにならなかったのでしたら、効果は薄いのでしょう」
「あの時の事は頭に来すぎて、良く覚えて居ませんね・・・ですが、今の話を聞く限りでは、半数の人間に効果が見込める、という認識であって居ますか?」
「仰せの通りで御座います」
ロイド様は一つ頷き、レンに向き直った。
「ねぇレン様。聞いての通りです。貴方の伴侶に任せておけば、わざわざ危ない橋を渡る必要は無いのではなくて?」
「それは良く分かりました。でも」
これでも、レンの心は晴れないのか。
レンの鬱屈の原因はなんだ?
そもそも、何故デザインの話から、性の公表に話が飛んだのだろう。
「レン。婚姻式の衣装に何があるんだ?」
俯いてしまったレンの肩が震えたように見えた。
「レン?」
レンはどこか観念したように、テーブルに重ねられた、スケッチブックから二冊を引き抜き、その内の一冊を手渡された。
「それは、彼方の一般的な女性の服装です。普段私はこんな格好で過ごしてたんです。 此方とは全然違うでしょう?」
「そうだな」
確かに全く違うな。
こんな風に、膝下が見える格好などしていたら、はしたないと非難されてしまうだろう。
俺が見終わった絵をロイド様に手渡すと、皇太后も、その違いに小さく唸り声を上げている。
「今私が身に着けているお着物は、故郷の伝統的な衣装の中でも、かなり古い時代の装束なのです。 あの日・・・この世界に渡ってくる前、私はお祭りの舞台に立っていて、たまたま禿の格好をして居たのですが、此方に女性がいないことを知って、体型を隠すのに丁度良かったので、それを続けているんです」
「嫌だったのか?」
レンはフルフルと首を振った。
「お着物は好きですし、袴もお稽古で着慣れて居たので、嫌では無いです。ただ、自分の存在のあり方を偽っているようで、一生隠し続けていくのかと思ったら、少し苦しくなってしまって」
「そうだったのか」
自分の本来の姿を隠し、偽っていくのは、確かに苦しいだろう。
「それに、後から来る愛し子達が私と同郷とは限らないでしょう?別の国の女性だと、私のような幼児体型ではなくて、もっとメリハリのある体型の方が多いから、隠し続けるのは、無理があると思います」
「メリハリ?」
「ボンキュッボンって感じです」
全く想像できんな。
「それに婚姻式の衣装の事を聞かれて、ちょっと悲しくなって来ちゃって」
「悲しく? 何故だ?」
俺との婚姻が嫌になったのか?
動揺する俺にレンは、もう一冊のスケッチブックを渡してくれた。
「それは、向こうの結婚式で新婦、女性が着る婚礼衣装なんです。お姫様みたいで素敵でしょう? 結婚式でこんなドレスを着るのが、子供の頃からの夢だったの」
「夢・・・・」
「白無垢とか文金高島田も素敵だけれど、やっぱりウェディングドレスは、女子の憧れなので。でも、体の線がハッキリ出てしまうから、体の事がバレちゃうでしょ?だから着ることは出来ないんだなぁ、って思ったら悲しくなっちゃったんです」
とても美しい衣装だと思う。
レンが纏ったら、妖精と見紛う美しさだろう。
レンの夢なら叶えてやりたい。
だが、官能的すぎる。
肩の薄さや、豊かな胸も、細く括れた腰も、全てが他の雄に見られてしまう。
こんな、格好をされたら、魅了など関係なく、レンに魅せられた雄が、虫のように湧いてくるだろう。
151
お気に入りに追加
1,297
あなたにおすすめの小説
淫らなお姫様とイケメン騎士達のエロスな夜伽物語
瀬能なつ
恋愛
17才になった皇女サーシャは、国のしきたりに従い、6人の騎士たちを従えて、遥か彼方の霊峰へと旅立ちます。
長い道中、姫を警護する騎士たちの体力を回復する方法は、ズバリ、キスとH!
途中、魔物に襲われたり、姫の寵愛を競い合う騎士たちの様々な恋の駆け引きもあったりと、お姫様の旅はなかなか困難なのです?!
迷い込んだ先で獣人公爵の愛玩動物になりました(R18)
るーろ
恋愛
気がついたら知らない場所にた早川なつほ。異世界人として捕えられ愛玩動物として売られるところを公爵家のエレナ・メルストに買われた。
エレナは兄であるノアへのプレゼンとして_
発情/甘々?/若干無理矢理/
クソつよ性欲隠して結婚したら草食系旦那が巨根で絶倫だった
山吹花月
恋愛
『穢れを知らぬ清廉な乙女』と『王子系聖人君子』
色欲とは無縁と思われている夫婦は互いに欲望を隠していた。
◇ムーンライトノベルズ様へも掲載しております。
ドS騎士団長のご奉仕メイドに任命されましたが、私××なんですけど!?
yori
恋愛
*ノーチェブックスさまより書籍化&コミカライズ連載7/5~startしました*
コミカライズは最新話無料ですのでぜひ!
読み終わったらいいね♥もよろしくお願いします!
⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆
ふりふりのエプロンをつけたメイドになるのが夢だった男爵令嬢エミリア。
王城のメイド試験に受かったはいいけど、処女なのに、性のお世話をする、ご奉仕メイドになってしまった!?
担当する騎士団長は、ある事情があって、専任のご奉仕メイドがついていないらしい……。
だけど普通のメイドよりも、お給金が倍だったので、貧乏な実家のために、いっぱい稼ぎます!!
【R-18】喪女ですが、魔王の息子×2の花嫁になるため異世界に召喚されました
indi子/金色魚々子
恋愛
――優しげな王子と強引な王子、世継ぎを残すために、今宵も二人の王子に淫らに愛されます。
逢坂美咲(おうさか みさき)は、恋愛経験が一切ないもてない女=喪女。
一人で過ごす事が決定しているクリスマスの夜、バイト先の本屋で万引き犯を追いかけている時に階段で足を滑らせて落ちていってしまう。
しかし、気が付いた時……美咲がいたのは、なんと異世界の魔王城!?
そこで、魔王の息子である二人の王子の『花嫁』として召喚されたと告げられて……?
元の世界に帰るためには、その二人の王子、ミハイルとアレクセイどちらかの子どもを産むことが交換条件に!
もてない女ミサキの、甘くとろける淫らな魔王城ライフ、無事?開幕!
5人の旦那様と365日の蜜日【完結】
Lynx🐈⬛
恋愛
気が付いたら、前と後に入ってる!
そんな夢を見た日、それが現実になってしまった、メリッサ。
ゲーデル国の田舎町の商人の娘として育てられたメリッサは12歳になった。しかし、ゲーデル国の軍人により、メリッサは夢を見た日連れ去られてしまった。連れて来られて入った部屋には、自分そっくりな少女の肖像画。そして、その肖像画の大人になった女性は、ゲーデル国の女王、メリベルその人だった。
対面して初めて気付くメリッサ。「この人は母だ」と………。
※♡が付く話はHシーンです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる