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エンドロールの後も人生は続きます

愛し子の鬱屈

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「レン様が、私達と違う性をお持ちなのは理解しました。ですが、身近な者に打ち明けるだけに留めた方が、良いのではなくて?」

「そして、禁書庫にしまい込むのですか?」

「そうね。でもレン様が好奇の目を向けられたり、危険な目に遭うのよりは、ずっとマシだと思うのだけれど」

「人は自分と違う存在を恐れたり、気味悪がったりしますよね? そう言う人が私を敬遠してくれるなら、公表することで、魅了の抑止力になるのではないでしょうか」

「そんな事の為に、自分を貶めるような事を言ったり、自分から危険に足を踏み入れる必要は無いのですよ」

「でも、私はこの力をコントロール出来ません。自分の意思に関係なく、無意識に人を惹きつけるようになるのでしょう? それって他人を操っているのと同じじゃないですか。私、そんなのは嫌です」

「レン・・・・・」

「私は紫藤蓮とういう人間を知ってもらった上で、相手の方と仲良くなりたい。其れに、魅了の所為で、私に近付きすぎたり、傷つける様な事があったら、魅了で操られただけのその人は、何も悪く無いのに、処罰されるのでしょう? 私の所為で誰かが傷つくより、私が傷つく方がマシです」

「その言い分は認められん」

「何故ですか?」

「レンに傷ついてほしくない、守りたいと思っている、俺やロイド様、他の皆んなの気持ちを、蔑ろにした言い草だからだ」

「あ・・・・・・ごめんなさい、考えが足りませんでした」

 しょんぼりと俯くレンの頭を撫でたが、レンの気分は持ち直しそうもない。

「・・・これは、あまり言いたくなかったのだが、俺たち獣人は番に対してマーキングが出来るのだがな?」

 これにレンは、ガバッと顔を上げる、戦いた顔を見せた。

「マーキング?!」

 何をそんなに驚いているんだ?

「あぁ。異界には魔力が無いからな。俺達獣人がマーキングで番に付けるのは、魔力の匂いなのだが。どうやら獣人相手なら、俺のマーキングで、レンの香りを誤魔化せる様でな」

「魔力・・・そっか、向こうとは違うものね・・・よかった」

「向こうにもマーキングがあるのか?」

「えっ? えっと・・動物が縄張りを主張するために・・・自分の体の匂いをつけたり、おしっ・・いえ!なんでもありません!」

「む? 向こうでは動物のする行動なのだな? 良く分からんが、多分それとは違うと思うぞ?」

 あからさまにホッとしているな。
 向こうの動物は余程、おかしな行動をとる様だ。

「獣人にとって、マーキングは署名の様なものだ。獣人は相手がマーキングされていれば、番がいることが分かるし、ある程度なら、マーキングの主の強さがわかる」

「強さも分かるの?」

「ザックリだ。自分より強いか弱いか、その程度だな。俺は猫科最強種になるから、そこらの草食系の獣人なら、まず近づかんだろう」

 ロイド様が、ローガン相手に、俺のマーキングの効果を問い正し始めた。
 
「今の話だと、獣人の執着心の強さの話に聞こえるのだけれど?」 

「そうとも言えます」

「アレクサンドルのマーキングはどうなの?」

「その時の濃さにもよりますが、私の様な一般人は、恐ろしくて近付くどころか、気絶寸前。気の弱い草食系の獣人なら、寝込むレベルです」

「まぁ!そんなに?」

「四六時中垂れ流しなので、威嚇よりタチがわる・・コホッ! 効果が高いかと」

「人族には、効果が無いのですか?」

「威嚇の様な指向性はございませんので、レン様をお助けした日に、陛下が何もお感じにならなかったのでしたら、効果は薄いのでしょう」

「あの時の事は頭に来すぎて、良く覚えて居ませんね・・・ですが、今の話を聞く限りでは、半数の人間に効果が見込める、という認識であって居ますか?」

「仰せの通りで御座います」

 ロイド様は一つ頷き、レンに向き直った。

「ねぇレン様。聞いての通りです。貴方の伴侶に任せておけば、わざわざ危ない橋を渡る必要は無いのではなくて?」

「それは良く分かりました。でも」

 これでも、レンの心は晴れないのか。
 レンの鬱屈の原因はなんだ?
 そもそも、何故デザインの話から、性の公表に話が飛んだのだろう。

「レン。婚姻式の衣装に何があるんだ?」

 俯いてしまったレンの肩が震えたように見えた。

「レン?」

 レンはどこか観念したように、テーブルに重ねられた、スケッチブックから二冊を引き抜き、その内の一冊を手渡された。

「それは、彼方の一般的な女性の服装です。普段私はこんな格好で過ごしてたんです。 此方とは全然違うでしょう?」

「そうだな」
 
 確かに全く違うな。
 こんな風に、膝下が見える格好などしていたら、はしたないと非難されてしまうだろう。

 俺が見終わった絵をロイド様に手渡すと、皇太后も、その違いに小さく唸り声を上げている。

「今私が身に着けているお着物は、故郷の伝統的な衣装の中でも、かなり古い時代の装束なのです。 あの日・・・この世界に渡ってくる前、私はお祭りの舞台に立っていて、たまたま禿の格好をして居たのですが、此方に女性がいないことを知って、体型を隠すのに丁度良かったので、それを続けているんです」

「嫌だったのか?」

 レンはフルフルと首を振った。

「お着物は好きですし、袴もお稽古で着慣れて居たので、嫌では無いです。ただ、自分の存在のあり方を偽っているようで、一生隠し続けていくのかと思ったら、少し苦しくなってしまって」

「そうだったのか」

 自分の本来の姿を隠し、偽っていくのは、確かに苦しいだろう。

「それに、後から来る愛し子達が私と同郷とは限らないでしょう?別の国の女性だと、私のような幼児体型ではなくて、もっとメリハリのある体型の方が多いから、隠し続けるのは、無理があると思います」

「メリハリ?」

「ボンキュッボンって感じです」

 全く想像できんな。

「それに婚姻式の衣装の事を聞かれて、ちょっと悲しくなって来ちゃって」

「悲しく? 何故だ?」

 俺との婚姻が嫌になったのか?

 動揺する俺にレンは、もう一冊のスケッチブックを渡してくれた。

「それは、向こうの結婚式で新婦、女性が着る婚礼衣装なんです。お姫様みたいで素敵でしょう? 結婚式でこんなドレスを着るのが、子供の頃からの夢だったの」

「夢・・・・」

「白無垢とか文金高島田も素敵だけれど、やっぱりウェディングドレスは、女子の憧れなので。でも、体の線がハッキリ出てしまうから、体の事がバレちゃうでしょ?だから着ることは出来ないんだなぁ、って思ったら悲しくなっちゃったんです」

 とても美しい衣装だと思う。

 レンが纏ったら、妖精と見紛う美しさだろう。

 レンの夢なら叶えてやりたい。

 だが、官能的すぎる。
 
 肩の薄さや、豊かな胸も、細く括れた腰も、全てが他の雄に見られてしまう。

 こんな、格好をされたら、魅了など関係なく、レンに魅せられた雄が、虫のように湧いてくるだろう。
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