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エンドロールの後も人生は続きます

お見舞い

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「本当に、無理はして居ないのですね?」

「ご心配をおかけ致しまして、申し訳ございません。それとお忙しい中、お見舞いにいらして頂き、ありがとうございます」

 頭を下げるレンに “自分が顔を見たかっただけだ” と言い、ロイド様は扇の陰で、ほう、と安堵の息を吐いた。

「ベットでぐったりしている貴方を見た時は、生きた心地がしませんでしたよ」

「そんなに酷かったですか?」

「酷いなんてものじゃ有りません。まったく、それもこれも、全てあそこに居る、朴念仁の所為です、普段からしんねりムッツリした子ですけど、あっちの方もムッツリとはね」

 レンの前でムッツリとか言うなよ。
 至って健康な、雄の反応だと思うのだが?

 レンが回復したお陰で、今日は機嫌がいいのかと思て居たが、やはり俺には塩対応だ。

 身から出た錆。
 辛辣にこき下ろされるのは致し方無いが、朴念仁とは・・・。

 俺は、口下手だが、分からずやでは無いと思うぞ?

「それで、図体ばかりの体力お化けは、あそこで何をやっているのです?」

「あはは」

 扇の先で俺を指し示す皇太后にレンは、乾いた笑い声を上げた。

「見たところ、基礎鍛錬の様に見えますが」

「アレクが謝ってくれたので、私はそれで充分なのですが、アレクが納得できないそうなので、ちょっとしたペナルティーです」

「まあまあ、それで?あれはどういう鍛錬なの?」

「あれは空気椅子という、太腿やお尻を鍛える自重トレーニングです。筋肉量や代謝を上げる効果があるのですが、見た目よりキツいので、ちょうど良いかと」

「なるほどねぇ。レン様は、本当にこの程度で許してあげるの?」

 レンは俺の方をチラリと見て、うっすら頬を染めた。

 何を言うつもりか分からんが、恥じらう番が、可愛い。

「その、毎回だと困りますけど、今回の事で、アレクも加減を覚えてくれたと思うので、それに、私達は伴侶ですから」

 ・・・・伴侶。

 レンの唇から発せられると、耳慣れた言葉も、花弁が舞うようだ。

「レン様は、人が良すぎるのではなくて?私だったら、鉱山の一つ二つ差し出させるか、商会を私名義で買い取らせるところですよ?」

「鉱山ですか? 流石にそれはちょっと」

「本当に人が良いったら」

 頬に手を当て首を振る皇太后を、レンは不思議そうに見つめていたが、何かを思いついたのか、唇に指先を当て、ハッと息を飲んだ。

「もしやロイド様は、上皇陛下に鉱山を頂いたのですか?」

 すると皇太后はニヤリと笑い、レンを手招きその耳に顔を寄せると、何事かをヒソヒソと囁いた。

 真面目な顔で、うんうん と頷きながら、話を聞いて居たレンは、最後にガバッと身を起こした。

「マジですか?!」

「マジ 大マジ」

 砕けた口調の皇太后は、扇で口元を隠し “内緒ですよ” と、レンに念押しをした。

 正直な所、親父殿がロイド様の機嫌を取る為に、何を差し出したのか、非常に気になる。

 しかし、俺は部屋の一番隅で空気椅子の最中で、ロイド様も俺の耳でも拾えないよう、巧みに誤魔化しながらの囁きだ。

 レンも“内緒だ”と念押しされれば、絶対に漏らすことはないだろう。

 これは、今後の参考の為にも、親父殿から聞き出すしかなさそうだ。

「あっ、アレク時間です。お疲れ様」

「もう良いのか?」

「もうって、30分・・30ミンもやってたんですよ?それ、明日絶対筋肉痛になると思います」

「ん? 大丈夫じゃないか?」
 
 騎士の鍛錬は、こんなものでは無い。
 レンには悪いが、この程度では罰にならんのだぞ?

 余裕を見せる俺に「治癒はしないので、頑張ってね?」と、レンは意味深な笑みを浮かべた。

 普段から鍛えている俺が、こんな地味な鍛錬で筋肉痛になるか?

「レン様?やはりアレクサンドルには、もっとキツい仕置きが必要だと思いますよ」

「いいえ。これで充分です」

「そう?レン様が良いと言うなら、これ以上口は挟みませんけれど。アレクサンドル、貴方しっかり反省している?」

「勿論です」

「そう?ならアーノルドの王配選びの話しも、レン様にしてありますね?」

 しまった!
 すっかり忘れていた。

 バツの悪い顔をする俺に、ロイド様は、溜息を吐いた。

「アレクサンドル、座りなさい。貴方が立っていると、こちらの首が痛くなります。それに影ができて、部屋の中も暗くなります」

 地味に酷いことを言われた気がするのは、気のせいか?

「これ!レン様を膝に乗せない! 真面目な話をするのですよ!」

 別にレンを膝に抱いていても、真面目な話しくらい出来るだろう?

「降ろしなさい」

「はい」

 渋々膝からレンを下ろす俺に、ロイド様は再びため息を吐き、レンはクスクスと笑っている。

「まったく、やる事だけやって、大切な話を忘れるとは、貴方には呆れて物も言えません」

 いや。
 さっきからメチャクチャ話してるよな?

「ロイド様? アーノルドさんの王配選びに問題でも?」

「そうでした。レン様?宴の席で、アレクサンドルにレン様と二人で、アーノルドの王配選びを手伝う様頼んだのです」

「そんな大切なことを?」

 チラリと俺を見上げるレンの視線から、思わず フイ と目を逸らしてしまった。

「皇兄とその伴侶としても、アーノルドの王配候補、今はまだ皇太子妃候補になりますが、彼らとの顔合わせは必要です。レン様達には、候補者を集めた集まりや、個別の茶会に参加してもらい、意見を聞かせて頂いきたいのです」

「私は構いませんが・・・」

 俺の表情を探るレンは、社交嫌いな俺を案じているのかもしれない。

「元々、アレクサンドルの休暇が終わってから、と言う話だったのですが、誰かの所為で、レン様も体調が万全ではなくなってしまいましたからね。特別に、休暇を1ヶ月間に延ばすことを許します」

「ロイド様、良いのですか?」

 叱責を受ける覚悟で居た。
 それが休暇の延長とは。
 叱責どころか、褒美じゃないか。

「レン様の為です。貴方の為ではありませんよ」

 喜ぶ俺に、皇太后の視線は冷たかった。

「一年後、戴冠式の際、対外的な貴方達の婚姻式も同時に行います。そして、アーノルドの婚約も、そこで発表出来るよう、妃候補の選定も終わらせたい」

「あぁ、王配教育に時間が掛かるからですか?」

「その通り、候補者達は其々優秀では有りますが、王配の座に着くには、心許ないのです」

「大変そうですね・・・私、大公妃の教育をきちんと受けて居ないのですが、そんな私が選定に関わっても、良いのでしょうか?」

「何を言っているのです。レン様に足りない所は有りませんよ?むしろ足りないのは、大公の方でしょう」

 この方は、俺に厳しい。
 いや、アーノルドにもだな。
 
 皇后たる者は、厳しくならざるを得ないのかもしれん。

「私は、レン様の目に狂いは無いと、信じています」

「ロイド様・・・・」

 なんと言うか、手を握り合い二人だけで感動するのはやめて欲しい。

「分かりました、お引き受けいたします」

「期待して居ますよ? そう言うことですから、アレクサンドル、貴方はレン様に大公妃に相応しい衣装を、二十着は作るように」

「承りました」

「20着? 多すぎませんか?」

「20着でも足りないくらいです。レン様、候補者達は、それなりの家格の者達ばかりです。茶会一つとっても、彼らに負けない衣装は必要ですよ?」

「はあ、そうなんですね?」

「あと、一年後の挙式用の衣装も、直ぐに作らせないと、間に合いません」

「同じ衣装では駄目なのですか?」

「皇家の一員となるのですからね、同じ衣装など、論外です」

「・・・そうなんですね」

 なるほどな。
 ロイド様が、休暇の延長を許したのは、この為か。

 しかし、レンはあまり贅沢を好まんから、豪華な衣装を20着以上作るのは、気が重いだろう。

「レン? 番を着飾らせるのは、雄の楽しみの一つなんだぞ?」

「そうなの?」

「俺の道楽に付き合ってくれると、嬉しいのだが?」

「・・・うん。分かった」

「まぁまぁ、相変わらず仲が良いこと」

 によによと笑う皇太后の目が、スッと眇められ、レンに向かって身を乗り出した。

「その衣装の事なのですけれど、レン様は、ご自分で衣装のデザインをなさるのですよね? 次の挙式用のデザインが有れば、見せて貰いたいのだけれど」

 宴の時、この話しに随分食いついて居た。
 皇太后の本当の目的は、これだったのか。
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