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エンドロールの後も人生は続きます

思い出は大切に

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 騎士達が掲げた剣のアーチを潜り、神殿の庭園に出た俺とレンは、夜に開く宴の準備の為、ひと足先に柘榴宮へ戻った。

 軽食を摘み、一休みしたら宴用の衣装に着替え、宴の参席者も出迎えなければならない。

 俺としては、柘榴宮の使用人達から、黄色い悲鳴が上がるほど、今の衣装はレンに似合っているし、この姿をもっと見て居たい。

 着替えなんてしないで、このままでも良いのでは?と思ってしまうのだが、そんなことをすれば “衣装替えもさせないのか” とロイド様の逆鱗に触れる事、間違いなし。

「やっぱり、カメラが欲しいですよね」

「かめら・・・?あぁ、本物そっくりな姿を絵に焼き付ける、と言うあれか?」

「そう。原理は解ってるから、すぐに作れると思ったのですけど、画像を定着させられる素材が見つからなくて」

「ふむ・・・・魔通信の映像を撮っておく様なものか?」

「えっ? 魔通信って音声だけじゃないの?」

「ん? あぁ、音声だけだったのだが、最近近距離なら映像も送れる様になったらしいぞ?」

「うそ? 聞いてない」

「まだ試作段階で、一応軍事用だからな。魔法局にも緘口令が敷かれている」

「今、トップシークレットを、サラッと漏らしました?」

「む? まぁそうなるか。だが、レンなら問題ないだろ?」

「えぇ、まぁ。 コンプラ違反なんてしませんけど・・・・今その通信機って有りますか?」

「あぁ、書斎に幾つか試作品があったと思うが」

「それ、ちょっと貸して貰ったりできる? だめ?」

「グッ?  ウゥーー」

 軍事機密なのだが・・・・。
 そんな期待の籠った、潤んだ瞳で見つめられたら・・・・。

 相手がレンなら、情報漏洩の心配はない。
 それに、改良の糸口を見つけてくれるかもしれん・・・・。

 心の中で言い訳を並べたて、レンのおねだりに負けた俺は、いそいそと書斎へ向かい、あっさり軍事機密をレンに手渡した。
  
「へぇ~~。 本体の魔晶石はほぼ空なんだ。台座に付けた小さい魔石が、撮影用と投映用かな?台座の魔法陣が・・・・・送信に使われるのがここだから・・これをこう変えれば・・・」

 純白の衣装のまま、通信機を調べていたレンは、取り外した台座に魔力を流し、魔法陣を書き換えた。

「ちょっと試してみましょうか」

 そういって、通信機を組み立て直したレンは、抱えた通信機を俺に向けてきた。

「アレク、何か喋ってくれる?」

「なにかと言われても・・・」

「ん~。じゃあ、ちょっと歩いてみて?」

「歩くだけで良いのか?」

「はい。お願いします」

 レンに乞われるまま、書斎の中を何度か往復し、その度にレンは台座の魔法陣に手を加えて行った。

「よし! 次こそは!! アレク、何回もごめんね。もう一回歩いてくれる?」

 申し訳なさそうにして居るが、訓練で土嚢を背負って、山を登らされた時に比べれば、部屋の中を歩き回る事など、何でもない。

 それでレンが喜んでくれるなら、絨毯が擦り切れ、穴が開こうとも歩き続けよう。

 抱えた通信機で、俺の姿を追っていたレンが、いく度目かの確認を行なっている。
 
 その真剣な眼差しが、ぱっと花が開く様に喜びに輝いた。

「見てみて!」

 レンはソファーの自分の隣をペシペシと叩いて、隣に座れと催促している。

 もちろん俺は、隣ではなく、レンを膝に抱き上げてソファーに腰を下ろした。

 出会った頃は、こんな些細なことでもレンは恥ずかしがって、逃げようとしていたが、今では、こんな俺の行動もすんなりと受け入れ、俺の胸に身を預けてくれる様になった。

 実に感慨深い。
 あぁ、幸せだ。

 幸せを噛み締める俺に、レンが見せてくれたのは、礼服を来た大男が、のそのそと歩き回る姿だった。

「これは、俺か?」

「そう! 上手にできたでしょ?」

 上手にって・・・それどころの話じゃないのだがな。

「どうやったんだ?」

「この通信機は、台座の魔石が取り込んだ映像を、魔晶石の力を使って、任意の場所に送信できるようになって居るのですが、私は映像を送るのではなくて、魔晶石の中に留めて保存するように、魔法陣を書き換えたんです」

 魔法陣を書き換えるには、相当な魔力と、計算能力が必要なはずだが・・・。

 この通信機だって、ウィリアムの思いつきで命じられてから、開発に10年近くかかったと聞いている。

 それを、こうもあっさりと、作り変えてしまうとは・・・・。

 アウラの加護があったとしても、能力が高過ぎないか?

「??・・・どうかしましたか? 軍事品を勝手に作り変えちゃったから、怒ってる?」

 顔を曇らせる番を、そうじゃない と抱き寄せた。

「君の発明が素晴らしくて、驚いただけだ。いつも思うが、君は俺の常識を軽く超えてくる。天才とはこう言うものかと、感心して居ただけだ」

「ふふ。褒めてくれるの嬉しいですけど、私は天才じゃないですよ?私はこう言う物が有るのも、その原理も知って居ただけです。天才っていうのは、予備知識なしに、この通信機を作った、魔法局の人のことを言うのです」

 謙遜しているが、ただ知って居る事と、作れる事には、大きな差があると思う。

「そうか。それで、この魔道具で何をするんだ?」

「それは勿論、今日の思い出を、この道具で撮りまくります」

「とりまくる?」

「はい! まずは、ローガンさんが戻ったら、この衣装を着た私達を、撮ってもらいましょうね」

 ウキウキ、ソワソワとローガンの帰りを待つ番は、土産を待つ子供のようで可愛かった。

 この時俺は、この魔道具が齎らす幸せを、全く理解できて居なかった。
 便利というには、高性能すぎる道具に戸惑って居ただけだ。

 それでも、楽しそうにして居る、美しく愛らしい番が愛おしく、堪え性の無い俺は、これからの蜜月に、思いを馳せるのだった。

 その後レンは、行き違いになるのを避けるため、ローガンの帰りを今か今かと待って居たのだが、待ち侘びたローガンが戻ると、もう一度クレイオスの神殿に引き返した。

 招待客は帰った後だったし、宴の準備に追われて居るはずの、俺達が姿を見せた事で、部下達も戸惑って居る様だった。

 訳も分からず、連れてこられた俺とローガンも同様だ。

 戸惑うローガンに、レンは魔道具の使い方を説明し、俺の手を引いて、礼拝堂や庭園をゆっくりと歩き、その風景と俺達の婚礼衣装を、魔道具に記録させた。

「お式の様子を撮れなかったのは、ものすっっごく残念だけど。記念のムービーは残せたから、満足です」

 ふくふくとした様子は、本当に満足そうで、俺まで嬉しくなってきた。

「そうか? レンが喜んでくれて俺も嬉しいよ」

「我儘を聞いてくれて、ありがとう」

「この程度、我儘の内に入らん。レンの望みは全て俺が叶えてやる。遠慮も金の心配もしなくて良い」

 それ聞いてレンは、驚いたように目を見開いた。

 今のは、ちょっと重過ぎたか?
 
「過保護すぎて、ダメ人間になりそうです」

 呆れたように頬に手を当てる、番の細腰を引き寄せ耳元で囁いた。

 “もっと、駄目になって。俺無しでは居られないようになって”

「うぅぅ・・・。そういうのは反則だと思います」

 熟れた果実の様に、真っ赤になった番を抱き上げ、頬に唇を寄せると、レンは益々赤くなり、下を向いてしまった。

「ゴッホン! あ~~。閣下それ以上は、騎士達の目もありますので、ご遠慮ください」

「ん? ローガン居たのか」

「はい。居りましたとも。お忘れの様ですが、レン様から魔道具を、お預かりしておりますから」

「あ? あぁ、そうだったな」

「私としても、お二人のお邪魔はしたく無いのですが、そろそろお戻りになりませんと、宴に間に合わなくなるかと」

「そうよね!? もう戻らないと!!」

 慌てる番に、少しくらい待たせても問題ないだろう、と言うと可愛い番は頬を膨らませ・・・。

「それ。ロイド様に言えます?」

 それは・・・そんな恐ろしい事、想像したくないな。
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