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エンドロールの後も人生は続きます

挙式前日 side・レン

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 side・レン


「じゃあ、先に行って待ってますね」

「あぁ。ミュラーの一家が部下達と、先についているから、困った事があれば、ミュラーとザックに言うんだぞ?」

「もう。それ何回目です? クレイオス様とセルジュさんも一緒なんだから、困ることなんてないと思いますよ?」

「それは、そうなんだが・・・」

 大きな体でしょんぼりしている姿は、まるで捨てられた大型犬みたいです。

「やっぱり、ここから一緒に、神殿に行くのでは駄目か?」

 まだ言ってる。
 
 今晩は応えてくれるか分からないけれど、アウラ様にご挨拶したいし。当日は身支度に時間もかかるからって、何度もお話したのに。

 そもそも、婚約式もそうだったけど、式当日は挙式前にお互いの姿を見てはいけない。なんて、謎な風習が無ければ、私だってアレクと一緒に居たいのですよ?

「たった一晩じゃない。明日はアレクのために、うんと御粧しするから、楽しみにしててね?」

「俺のため・・・そうだよな、分かった」

 いや。分かったって言うなら、手を離してくれないと。
 いつまでも出発出来ないでしょ。

『王よ、いい加減にせんか。子供でもあるまいし、駄々を捏ねるものでは無いぞ』

「・・・・」

『ほれ。手を離さんか』
 
 クレイオス様は、私の両脇の下に手をいれて、アレクさんからベリッと引き剥がしました。

「おいっ!!」

『其方が納得するのを待っておったら、陽が暮れてしまうわ』

 そう言うとクレイオス様は、そのお姿をドラゴンへと変え、私はアレクサンお手の届かない背中に乗って居ました。

『甘ったれで、我儘な虎に構っている暇はない故、セルジュも早く乗りなさい』

「はい。では閣下、レン様の事は私にお任せください。それと・・・」とセルジュさんは、口元へ手を当てて、アレクさんに ”レン様は騎士の正装や礼服が、殊の外お好きです。明日の御衣装の点検も、お忘れなきように“ とヒソヒソ話して居ますが、バッチリ聞こえてますからね?

 セルジュさんに迄、私の萌えポイントが完全にバレているとは・・・・。
 
 穴があったら入りたい。
 恥ずか死ぬとは、こう言う事です。
 今の私は茹蛸みたいに、顔が赤くなっていると思います。

 羞恥心に悶える私に構う事なく、セルジュさんは、クレイオス様の前足を伝って、背中に乗ると、私の後ろに腰を下ろしました。

 私たちが、腰を落ち着けたのを確認したクレイオス様は、両腕で、私がノワールと名付けた漆黒のドラゴンを抱えると、大きな翼を広げ、空へと舞い上がります。

 どんどん小さくなるアレクさんが、何かを言っている様ですが、風の音でよく聞こえません。
 仕方ないので、私はアレクさんに手を振って、神殿へと出発です。

 クレイオス様が、私たちの周りに結界を張ってくれたお陰で、寒さを感じることもなく、ドラゴンの背に乗っているとは思えない程、空の旅は快適でした。

 まぁ、旅というほどの時間はかからなかったのですけれど。
 
 普通の人が皇都からミーネ迄、陸上を移動すると、4日は掛かる距離ですが、私たちの移動時間は、ほんの数分でした。

 便宜上、ミーネのクレイオス神殿と呼んでいますが、あの神殿は、クレイオス様が創り出した、謎空間にあります。
 なので、スクロールを作る時も、座標の指定を、クレイオス様に手伝ってもらったのです。

 今回私達は皇都を離れ、人気のない山の上に差し掛かったところで、クレイオス様が神殿への道を開いて、あっという間に神殿に到着。と言う感じです。

 あまりの移動時間の短さに、他の場所でもできるのかと聞くと、クレイオス様が創り出した空間と空間を渡っていけば、帝国の裏側でも、数分で移動できるそうです。

 ただ、人が一緒だと、空間同士の移動に、体が耐えきれない可能性が高いため、普通に飛んでいく方が安全だ、と話して居ました。

 う~ん。それってフィアデルフィア実験みたいな感じなのかな?
 だとしたら、かなり怖い。
 
『普通に空間を開いて、そこに移動するだけなら、転移と変わらんぞ?』

 空間を開く事を、普通とは言いませんよ?

 そんなこんなで、神殿に到着した私達は、陸路で先乗りしていた、ミュラーさん御一家と、今回儀仗兵として派遣された、騎士さん達に出迎えてもらいました。

 久しぶりにお会いした、ザックさんはお元気そうで、たくさんお祝いの言葉を頂きました。

 ただ、反抗期の息子さんは、ボソボソと挨拶をしたっきり、何処かへ行ってしまいましたが・・・・。

 思春期の男の子って、扱いが大変です。

 ザックさんは、挙式の準備もお手伝いしてくれていて、感謝しかありません。

「準備と言っても、天幕は騎士達が張ってれますし、私は持ってきた軽食やお菓子を出すだけで、大したことはやっておりませんよ」

 と、にこやかに謙遜されて居ますが、それだって相当な手間です。

「さぁさぁ、レン様は明日の主役ですからね。こちらの準備は私たちに任せて、ゆっくりなさって下さいね」

「ありがとうございます。もし何か困った事があったら、遠慮なく言って下さい」

 するとザックさんは首を傾げて少し、考え込んでいる様に見えます。
 
「どうかしましたか?」

「いえね。困ったというか、季節的にあんまり花を用意出来なかったので、飾り付けが少し寂しい気がして」

「あ~。でも庭園自体が綺麗だから、問題ないと思いますけど」

「そうですか? でもねぇ」

 とザックさんは、残念そうに溜息を吐いています。

『なんだ?そんな事を気にして居たのか?ここの飾り付けは、我がやるとミュラーに伝えたのだがなぁ、其方聞いて居なかったのか?』

 人型になったクレイオス様に、話し掛けられたザックさんは、恐縮し口籠もりながら、聞いては居たが、1日で準備するのは無理だと思った。と話しています。

 すると、クレイオス様は『見ておれ』と言い、私たちから少し離れると、一度大きく両腕を広げ、 パアーン と掌を打ち合わせました。

 打ち合わせた一拍の残響が消えると、庭園の彼方此方から、光が溢れ出し整えられた生垣は花壇に変わり、白い大理石の石像は、花の衣を纏って居ました。

「わあ~~。凄い! お花でいっぱい」

 これにザックさんは、言葉もなく目を見張っています。
 そうですよね、普通そうなりますよね?

『人は祝い事の時に、花を好むのであろう? どうだ?気に入ったか?』

「はい!すごく綺麗です、ありがとうございます!」

 まるでアレクさんと行った、温室みたい。
 
『ふふん。我にとって造作もない事よ』

 うわぁ~。めちゃくちゃドヤってるなぁ。

 クレイオス様にもう一度お礼を言ってから、私は気になっていることを聞いてみました。

「それで、クーちゃんは何処でしょうか?」

『おお、クーか? あれは今、奥の院だ』

「えっ? 奥の院? どうやって?」

 最後に見たクーちゃんは、あの中に入れるサイズじゃなかったけど・・・

『ドラゴンは血肉を持った生き物だが、同時に霊体に近い存在でも有る。あの時は我が力を必要として居たからの、我が体を大きくさせて居たのだが、今は幼体らしいサイズだぞ?』

「なるほど」

 だから、ノワールも最初に見た時よりも小さくなってたのね?

 クーちゃんが奥の院にいると聞いた私は、クーちゃんに会いに、早速奥の院に向かいました。

 クレイオス様が言った通り、クーちゃんは、中型犬くらいにサイズダウンして居ました。
 今は泉から流れ出る水の流れに、尻尾を浸してぐっすりと眠って居ます。

 クレイオス様によると、こうやって体の中に魔素を取り込んでいるらしいです。

『此奴にも、名をつけてやるが良い』

「名前ですか? クーちゃんじゃ駄目?」

『それは愛称であろう? 正式な名をつけてやらねばな』

 なんか、表情はないくせに、目だけは悪戯っぽい感じがするのは、気のせいでしょうか?

「ん~~。ずっとクーって呼んでたしなぁ。クー・・くー・・・・久遠なんてどうですか?」

『クオンか?いい名だと思うぞ?』

 クレイオス様のお墨付きをもらった私は。クー改めクオンの横に跪き、久しぶりにトゲトゲの頭を撫でてあげました。

「クーちゃん? 今からあなたの名前はクオンよ」
 
 私の呼びかけが聞こえたのか、クオンはパチッと瞼を開けると、私の右手に甘える様に、鼻先を押し付けてきました。

「ふふ。相変わらず甘えん坊ね」

 そして、可愛い!
 柔らかいお腹に顔を押し付けて、猫吸いならぬドラゴン吸いを堪能したい!!

 クオンの可愛らしさに、内心で悶えていると、右手に押し付けられていた鼻先が、フワンと光を発し、その光がクオンの全身を包み込みました。

「えっ? これって・・・」

 ノワールに名前をつけた時も、同じように光って居たけれど、何かしら?
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