獣人騎士団長の愛は、重くて甘い

こむぎダック

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エンドロールの後も人生は続きます

挙式に向けて

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 御前会議でアーノルドから、俺とレンの挙式が内々に執り行われると発表された。

 すると案の定

 “喪中に不謹慎だ”
 “国防の要が揃って席を開けるとは、何事だ“
 ”有事の際、誰が責任を取るのだ“ 等々。

 運だけで大厄災を生き残った年寄りが、騒ぎ立てた。

「其方達の言い分は分かった。それが、国を救った愛し子と、大公に対する其方達の礼儀なのだな?」

「殿下。何か誤解されている様ですが、我々は、閣下に含む所が有る訳ではないのです」

 あると言っている様な物だが?

「これは、一般論、そう、人としての常識の話しですぞ」

「クロムウェル大公と、愛し子のシトウ公爵は、神の眷属、ドラゴンのクレイオス様と共に国を救った訳だが、この御三方は褒賞を断られた。財宝も土地も鉱山も要らぬと仰っている。しかし帝国の恩人に、なんの礼もせぬのは、国家の常識として如何なものか」

「それは・・・」

「それに、いつ私が、其方達に意見を求めたのだ? 皇家の婚姻、それも神の眷属であるクレイオス様の許しを得た婚姻に、伯爵のしかも、亡くなった大臣の補佐官でしかない其方達に、口を出す権利は無かろう。其方達は大臣ではない、次の大臣が決まるまでの繋ぎに過ぎない。身の程を弁えよ」

「殿下・・・」
「そんな・・・」

 お~!
 やるなぁアーノルド。
 自信なさ気だったのが嘘みたいだ。
 
けだものめ、ウィリアム陛下であったなら・・・」

 アーノルドに遣り込められた一人が、ボソリと溢した呟きを、俺は聞き逃さなかった。

「ウィリアムだったら如何だと言うんだ? お前の様な恥知らずを、重用したとでも? ウィリアムは獣人の俺も、可愛がってくれたのだがな」

「ヒィッ!!」

 腕を組んだまま、睥睨し威嚇を放つ俺は、年寄りには刺激が強いようだ。
 
 これまで俺は、御前会議で必要な事以外口を開かなかったし、俺を貶める発言は黙殺し、相手を追い詰めることもした事がない。

 相手が勝手に、恐れる事はあってもだ。

 だから今回も、俺が聞き流すと勘違いして居た様だが、俺はレンのお陰で、獣人を貶める奴らを許さない、と決意することが出来た。
 
 この皇宮から無能なくせに、獣人を差別するような奴らは、排除してやる。
 
「良いか? 今お前が獣だと見下した俺と、その獣を生み出したクレイオスに、お前は命を救われた事を忘れたのか? 恥知らずな上に、恩知らずだな?」

「あ・・・」

「今度は、言葉を忘れたのか? 返事ぐらいしたら如何なんだ?」

 威嚇を放つ俺を前にして、こんな宮廷雀に、返事が出来る訳が無い。
 
 放った威嚇を徐々に強めていくと、俺を貶した者だけでなく、部屋にいる貴族達の顔色が悪くなって行った。

「それと、俺は前皇帝の皇弟で、次期皇帝の皇兄だと、理解しているか? たかが伯爵のお前が、大公の俺をけだものだと貶める事が、不敬罪に当たると理解できない程、愚かなのか?」

「ヒッヒィィ・・・おっお助け・・・」

「ミュラー!」

「ハッ!」

「お前も獣人だ。コイツの俺に対する差別的な発言は聞こえていたな?」

「ハッキリと聞こえました」

「ロロシュ・メリオネス。お前は如何だ?」

「閣下をケダモノって言ってたな」

 二人の答えに俺は頷き、アーノルドへ向き直った。

「殿下。この者の差別的な発言は、不敬罪だけで無く、ヴァラク教信徒の疑いがあります。 先程殿下にお叱りを受けた二人も同様かと」

「そうであろうな。クロムウェル大公、皇宮内にヴァラク教の残党など居ては困る。3人を捕縛し、取り調べるように」

「御意。 ロロシュ、ミュラー、3人を地下牢へご案内しろ」

 動揺する宮廷雀の3人を、ロロシュは警護に当たっていた、騎士を呼び込んで取り押さえた。

 3人は物語に出てくる、三流の悪役の様なセリフを喚いて居たが、騎士達に引き摺り出されると、それも次第に遠くなって行った。

「殿下。お目汚し、申し訳ございません」

「良い。気の淀みは風を通さねば、消える事はない」

 アーノルド!
 やれば出来るじゃないか!
 かっこいいぞ!

 弟の成長を見るというのは、存外楽しいものだな。

「まだ、大公と愛し子様の婚姻に、不満のある者は居るか?」

 一連の騒動に、残った貴族達は一様に押し黙り、俺と目を合わせないよう俯いている。

 捕縛した3人が、本当にヴァラク教の信徒なのか如何か分からない。
 だが、俺の婚姻をこの場で報じれば、必ず反発する者が出ると予想はしていた。

 予想した上で、最初からアーノルドの治世の足を引っ張りそうな奴らを、排除する口実に使う事にしたのだ。

 ウィリアムでさえ、扱いに困って居た相手だ、多少乱暴な方法を使っても、ご退場願うべきだろう。

「反対は無い様だな?残った者達には伝えておく、大公と愛し子様の式を執り行う司教は、クレイオス様が引き受けてくださった。 この意味をよく考えるように」


 ◇◇◇


 待ちに待った挙式当日。

 御前会議での騒ぎを払拭するように、空は晴れ渡り、天も俺たちの門出を祝ってくれているようだ・・・・・。

 と、日記に書き記したかったのだが、実際の天気は、あいにくの曇り空。
 今にも冷たい雫が落ちてきそうな、曇天だった。

 だが有難い事に “せっかくの門出の日に、縁起の悪い” などとほざく、空気の読めない奴は、一人もいなかった。

 今は、柘榴宮に集まってくる参列者を、玄関ホールで出迎えているところだ。

 身支度に時間のかかるレンは、昨夜のうちに、セルジュとドラゴンと共に、クレイオスに連れられ、ミーネの神殿に向かっている。

 上皇夫夫とアーノルドは、翡翠宮から、モーガン一家はアイオスから、第5騎士団、団長ランバートと副団長のラッセルは、ゼクトバから、それぞれがスクロールを使い、直接ミーネのクレイオス神殿に向かう事になっている。

 柘榴宮から神殿に向かう参列者は、叔父のシルベスター侯爵、マークを始めとしたメインパーティー3人と、第4のゲオルグとピッド。
 レンの教師役のパオフォス夫夫と、宰相のグリーンヒル夫夫。
 あとは、レンが世話になっている、魔法局の錬金術師が2名とローガンだ。

 式に誰を呼ぶかを、相談している時、互いに仕事を抜きにしたら、友人と呼べるような相手がいないことに気付き、二人で暫く落ち込んでしまった。

 それでも、団長が空位の第1を除いた、帝国騎士団のトップが一堂に会するのは何年ぶりだろうか。

 第五のランバートなど、もう何年も顔を見て居ない気がする。

 あいつの顔はどんなだったか・・・・。

 日焼けした肌と、白い歯しか思い出せん。

 しかし、集まったほとんどの人間が、同じ様な騎士の礼装を身に着けているのだが、なぜかロロシュの礼装だけが、草臥れて見える。

 別に着崩している訳でも、着古した服を着ている訳でもない。

 ロロシュは、侯爵家の後継なのだから、使用人がキッチリ服を管理しているはずだ。

 それなのに、あの草臥ようはなんなのだろう。

 あれなら襟元を寛げている、ゲオルグの方がまだキッチリして見える。

 本当に謎だ。

「なぁ閣下よう」

 そんなことを考えていたら、当のロロシュが寄ってきて声を掛けられた。

「転移なら、パフォスが来てからだぞ?」

「そうじゃなくて。今日の移動は魔道具を使うんだろ?」

「ああ。スクロールを使う」

「それって、ミーネの山から閣下が転移したあれだろ?」

「そうだな」

「あん時から、こんな便利な魔道具があったってのに、なんでちびっ子は自分で持ってなかったんだ?」

「なんで、とは?」

「いや。ちびっ子は、誘拐体質って言うか、二度もヴァラクに捕まっただろ?あん時スクロールを持ってたら、すぐに帰っって来れたんじゃねぇか?」

 それは、確かにそうだ。
 俺にも緊急避難用に一枚くれているし。

「で、オレは思うわけよ。ちびっ子は他人の世話ばっかで、自分のこと忘れてんじゃねぇかってな?」

「ロロシュの・・・言う通りだ」

「これから討伐や浄化は、落ち着いて来るだろうけどよ。それでも危ねぇことには違いねだろ? オレは説教するような柄でもねぇし、そこんとこ閣下から言って聞かせるか、閣下が気ぃ使った方が良いんじゃねぇの?」

 ロロシュの言う通り、レンはいつでも自分の事は後回しだ。

 それは、レンの優しさだけでなく、アウラとクレイオスの強力な加護があるからかもしれない。

 それは俺も同じだ。
 自分の力を過信しすぎた。

 これは、俺たちが注意するべき点だ。

 しかしそれを、こんな草臥れたおっさんに気付かされるとは・・・。

 不覚だ。

 のんびりとホールに入ってくる、パフォス夫夫を見ながら、自分の不甲斐無さに、落ち込んでしまう俺なのだった。
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