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エンドロールの後も人生は続きます

甘々と作戦会議

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 幾度も唇を重ね合い、シャラシャラと降り積もる月光に寄り添う体が染まる頃、俺達は、銀色に輝くオーンの海原を後にした。

 街道に戻り、指笛で呼び戻したブルーベルは “遅すぎる” と言いたげに鼻を鳴らしていたが、温かい寝床に戻れるのが嬉しいのか、その足取りは軽かった。

 草原の周りでは、幾人もの雄が俺と同じように、跪き愛を乞う姿が見えた。

 この時期の満月の夜、オーンは一斉に綿毛を飛ばす。
 その美しさと、数えきれない種子を飛ばすオーンの習性は、子孫繁栄の象徴として有名だ。
 特にこの草原は、皇都に近いこともあり、魔物に襲われる心配が少ない場所の為、多くの雄達の求愛や求婚の場として、人気のスポットなのだ。

 求婚の舞台として、この草原をセルジュから提案された時は、ベタ過ぎないか? と思いもした。

「良いですか閣下。ベタだと思うってことは、それだけ人気があるからです。人気があるって事は、それだけ素晴らしい思い出を持つ人が多いって事ですよ?」

 そう言われて、なるほどなぁ。と感心したのだった。

 レンも気に入ってくれていたし、求婚も受け入れてくれた。
 今は俺が贈り、首に掛けられた揃いのネックレスを指で大事そうになぞっている。

 途中野次馬に邪魔はされたが、それでも求愛の贈り物が、蛇のライルだったロロシュに比べれば、完璧な求婚だったのではないだろうか。

 本当にセルジュに相談してよかった。

 ロマンチックな演出を考えるには、汚濁に塗れた大人より、ピュアな子供の方が向いているようだ。

 宮に戻り、出迎えたセルジュに小さく拳を握って見せると、セルジュはローガンの後ろで、声を殺して破顔し、両手を突き上げて喜んでくれた。

 いかにも子供っぽく、可愛らしい仕草だが、その子供らしさに救われたのだ。
 後でレンとも相談して、何か褒美を渡してやらないとな。

 久しぶりに二人でゆっくり風呂に浸かり、夕食もダイニングではなく部屋に運ばせ、二人きりの時間を楽しんだ。

 その時、ロイド様からの課題も話し合った。

「彼方では、個人の身分を証明する戸籍というものがあって、出産、結婚、離婚、死亡などを国民全員が届ける義務があるんです。それで身内で不幸があった時には、戸籍の届けだけを先に提出し、夫婦として暮らし始め、喪が明けた後、改めて式を挙げる人も多いのですよ」

「ほう。国民全員の籍を国が管理しているのか?」

「私の国では、貴族制度が廃止されていますから、所得がある人全員に納税の義務があるんです。その分教育や医療などの保障や権利もあるのですけど、そういう管理をする為にも、戸籍や住民登録が必要になるんですよ?」

「興味深いな」

 こちらでも納税の義務は有るが、主体的に管理をするのが領主の勤めになる。
 国が国民一人々から、直接税を徴収するという考えは面白い。

 籍についても、国が管理しているのは貴族だけだ。
 それも、どの家門同士が繋がりがあり、力関係がどうなっているのか、領地を含む莫大な資産の相続権が誰に有るのか、皇家への脅威となり得るのかを確認する為の、政治的なものだ。

 貴族の、特に人族の貴族の婚姻は打算に塗れ、その分世間体や体面、面子が重視される。

 婚約後、嫁ぎ先に相応しい教育を受けるために同居することはあっても、表面上貞節を重んじる人族の貴族の不文律として、挙式迄は寝室を共にする事は無い。

 婚約と同時に寝室を共に出来るのは、獣人の特権だ。
 獣人は番と切り離されれば、焦がれ死ぬ。
 それに婚約紋と言う、目に見える貞節の証がある故だ。

 そんな事から、この国の貴族の婚姻は、式ありきで考えられる。
 だが貴族制度のないレンの国では、戸籍上で婚姻を認められ無ければ、夫夫とは言えず、逆に戸籍の届けを出すだけで、挙式も披露の宴も開かない夫夫が、大勢いるのだそうだ。

 言われてみれば、その通りなのだが、まさに逆転の発想だった。

 国から婚姻を認めさせれば、式はいつ取り行っても良いとはな。

「目から鱗だな、だが婚約とは違い、婚姻は大々的な式は執り行わなくても、国への届けにアウラ神への誓いと、神官の署名が必要だぞ?」

「ん~。そっかぁ・・・でも普通の司祭さんじゃ駄目なんですよね?」

「そうだなぁ。俺はどこの司祭でも構わんのだが、ロイド様の逆鱗に触れるのはなぁ」

「うふふ。相変わらずアレクは、ロイド様が怖いのね?」

「怖いというか・・・いや、やはり怖いな。ロイド様独特の圧には、いまだに慣れん」

「おかんは最強ですもんね」

 ケラケラと笑うレンに “おかん” とは何かと聞いてみた。

「お母さんって意味です。子供っていつまで経っても、母親に頭が上がらないものでしょう? 私は両親と疎遠だったので、ピンとこないのですが、祖母には一生頭が上がらないと思うので、私にとっては祖母がおかんですね」

 少し寂しげに笑う番に、以前からの疑問をぶつけてみた。

「話したくなかったら良いのだが、何故レンと両親は疎遠になったんだ?」

「ん~。何故とういうか、初めから?」

 そんな重い話しを頬に指を当て小首を傾げた可愛い顔で、事も無気に言って良いのか?

「生まれた時からか?」

「そう。父は出世の為に上司の娘と結婚することにしたそうで、父は、性格はちょっとアレな人なのですが、見た目だけは良かったので、母の方もイケメンと結婚する事には、不満は無かったようですね。それに紫藤家は家柄だけは古かったので、お金があるだろうと思って結婚したようなのですけど、蓋を開ければ、道場を含む土地以外の資産は、それ程でも無くて、かなりガッカリしたみたいです」

「それだけの理由でか?」

「いやあ。それでも仲良くしようとはしてたみたいですよ?実際私も出来ましたし」

「まぁ、そうだな?」

「でも、私が出来た頃に、母方の祖父が派閥争いに負けて左遷されて、父の出世も望み薄になりまして。それを慰めてくれた、他所のお姉さんと、そう言う仲になったそうで、怒った母は私を出産した後、祖父母に私を預けて、実家に帰ってしまったんです」

「父親は、迎えに来なかったのか?」

「仕方ないです。愛人だったお姉さんに子供が出来れば、私は邪魔ですから」

「・・・・」

 貴族の政略結婚であれば、よく聞く話だが、貴族制度の無いレンの国でも、似たようなことがあるとはな。

 あぁ、レンが前に “イケメンは浮気するもの” と言っていたのは、父親の事だったのか。

「俺は絶対、浮気なんかしないからな」

 苦笑を浮かべる番を、ギュウギュウと抱きしめた。

「ちょっ・・・・アレク苦しい」

 二の腕をペシペシとタップされ、慌てて腕の力を緩めた。

「アレクは父と全然違うから、心配なんてしてません。それに顔面偏差値はアレクの方がずっと上です」

 顔の前に指を立て、おどけて見せる番が愛おしくて仕方がない。

 食い付くように貪ったレンの口内は、甘く伝わる熱に生きている実感が湧く。

 そんなレンを顧みなかった、無責任な親でも、レンを産んでくれたことに感謝するべきなのかと、複雑な気分になった。

「ん・・・チュッ・・・もう!大事なお話の途中でしょ?」

「はぁ・・・すまない。つい」

「悪戯ばっかりいてると、お触り禁止にしますよ?」

「ヴッ!・・・・それは・・・何日ほど」

「さぁ、何日でしょうね?」

 ニッコリと笑ったレンに、ロイド様と似た匂いを感じたのは、気のせいだと思いたい。
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