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エンドロールの後も人生は続きます

温室は別世界

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「ふわぁ~。あったか~い」

「ここは、一年中同じ温度で保たれているからな」

「やっぱり。魔法ですか?」

「そうだ。地水火風。それぞれの属性が付与された魔晶石が置かれていて、水やりの必要もない」

「凄いですね。魔晶石の管理も医局の方がされているのですか?」

「いや。今は魔法局が管理している。だから、たまに恐ろしく変な植物が植えてあったりするから気をつけろよ?」

「変な植物って・・・」

 興味と困惑が半々の微妙な顔だな?

「最近だと、走り回るきのこだとか、ものすごい勢いでタネを飛ばす花。拙い成分の香りを放つ花、というのもあったな」

「走るきのこは、ちょっと見てみたかったかも。それで拙い成分の香りってどのような?」

「催淫効果があった。なんでも、南国の娼館で使われる、香水の原料だったらしい」

「うわぁ。何と言うか。色々生々しいですね」

「魔法局の研究員で、興味を持った植物や、研究材料を取り敢えず、ここに植える奴等がいるのだ。その殆どが問題ないのだが、偶に変なものが混じっている」

「それって、大問題じゃないの?」

「ん~。今の所は話題性重視だな。ここの入場料は、温室の維持費だけでなく、魔法局の収入になる。話題が集まり、見物人が増えれば、研究費用が増えるからな」

「この釈然としない気分は、何なんでしょう」

「そう言うことだから、気に入った花があっても、不用意に触れない様にな」

 念押しする俺に、番は首を傾げて見せた。

「ここって、本当に一般公開しても大丈夫なのでしょうか」

 う~ん。余計なことを言って、レンを不安にさせてしまったか?

 せっかくセルジュと頭を捻りまくった、デートコースなのだが・・・・。
 
「魔法局の管理者が、常駐しているから問題ない」

 レンのコートを脱がせながら、受付の魔法師に目を向けると、その魔法師は愛想のいい笑顔をレンに見せた。

「ここの植物は、我々が研究用に集めた植物が殆どを占めます。魔素を含んだ植物ですので、稀に悪戯をする事はありますが、どれも美しい花を咲かせる物ばかり。愛し子様も、お気に召すと思いますよ」

 魔法師の説明に納得したのか、レンは微笑みを浮かべて頷いた。

 受付の魔法師が気を利かせ、温室の入り口の扉を開くと、温室の中から暖かい空気が流れてくる。

 魔法師に礼を言って中に入ると、そこは南国。晩秋の皇都とは別世界だった。

 瑞々しい緑の葉の大樹と中低木が、南部の森を形造り、木々の梢からは、ここで飼育されている鳥の囀りが聞こえて来る。

「ほぇ~~。すご~い。ジャングルだぁ!」

 大きく見開いた瞳はキラキラと輝いて、どうやらレンも気に入ってくれたらしい。

 手を繋いでゆっくり散策路を辿り、やがて樹木エリヤから、草花のエリヤに移った。

 色とりどりの花で覆われたアーチ。古木や岩に植栽された、芳しい香りの花々、蔓性の植物で作られた花のカーテン等々。

 どれもレンの眼鏡に適ったらしく、俺の番は足取りも軽く、花から花へと蝶が舞うように移り行っている。

「わぁ!綺麗! これカトレアっぽい。こっちは胡蝶蘭、オンシジュームに似てるのもある。 こっちでも南国の花は蘭に似た花が多いんだぁ。あっこれ、レッドジンジャーに似てる」

「気に入ったか?」

「はい! すごく綺麗で、いい香りがします!」

「そうか。気に入ってくれてよかった」

 ニコニコと嬉しそうな番の頭を撫でると、レンは俺の手を取って、さらに奥へと進んでいった。

 途中の休憩コーナーには、小さな噴水の周りにテーブルや椅子が配置されていた。

 持ってきたバスケットから、料理長力作のサンドイッチやパテ、レン直伝のスコーンとタルト、チーズと大公領産のワインと紅茶。それらを次々と取り出し、テーブルに並べていく。

「めちゃくちゃ豪華ですね」

「俺達が出掛けると聞いて、料理長が張り切っていた、とセルジュが言っていたな」

 料理長の頑張りに感謝しつつ、俺は番への給餌を楽しんだ。

 通りかかった客が、そんな俺達を見て ギョッとした様子を見せたが、膝に乗せた子供に給餌する大男の正体が、俺とレンだと気付くと、皆一様に生暖かい視線を送りつつ、気を利かせて離れていった。

「ふう~。もうお腹いっぱいです」

 ポンポンと子供の様に、両手で腹を叩いて見せる番が可愛い。

「あれ? なんか居る」

 レンの視線を辿った先、散策路の真ん中で花が揺れていた。

「あれは?」

「お花が・・・歩いてるの?」

 丸みを帯びた葉でバランスを取りながら、根っこの足を動かし、クリーム色のプラーメに似た花が、一列になって俺たちに向かって歩いてくる。

「えっ? やだ。 なにこれ、可愛い」

 止める間も無く、レンは俺の膝から飛び降りて、歩く花の前にしゃがみ込んだ。

「レン、その花から離れろ」

 細腰に腕を回し引き寄せたが、レンを取り囲んだ花が伸ばした葉に、レンの手が触れてしまった。

 直後、レンの手に触れた葉が、淡く光った。

「あらら。魔力を吸われちゃった」

「大丈夫か?」

「特に問題はないみたい。魔力もそんなに吸われてないし」

「コイツら何なんだ?」

 魔物にしては攻撃的ではないし、魔力を吸った後は、淡い光を放つクリーム色の花弁を、サワサワと揺らしているだけだ。

 見た事のない魔物だが、成長する前に燃やしてしまった方が良いだろうか?

「あっ!! いたっ!!お前達勝手に歩き回るなよ!!」

 声の主に振り向くと、麦わら色のボサボサ髪をした、魔法師が走って来る所だった。

「すみません!大丈夫ですか?・・・って閣下?」
 
 俺に気付いた魔法師は、慌てて頭を下げた。
 この魔法師とは面識は無かったが、相手は俺のことを知っていたようだ。

「レンが魔力を吸われたが、大した事はない」

「あ~。愛し子様、本当にすみません!散歩に連れて来たら、ちょっと目を離した隙に逃げちゃって」

「お散歩ですか?」

 首を傾げるレンに、魔法師はボサボサな髪をガシガシと掻きながら頷いた。

「普段は研究室に居るんですが、偶に散歩してやらないと、元気がなくなっちゃうんですよ」

 レンを囲んでいた花達は、根っこの足を器用に動かして、魔法師の元に戻って行き、葉っぱの手を、抱っこをせがむ子供の様に魔法師に伸ばした。

「うふふ。ワンコみたい」

「それで、これは何なんだ?」

「え~と。内緒にしてもらえます?」

「違法でなければな」

 もじもじと上目遣いをする魔法師を、上から睨む。

「違法じゃないです! 先の皇帝陛下から研究の認可を受けてます!」

「ウィリアムの?」

「はい! コイツらはトレントの亜種なんですが、これが成体なんです。それで、魔力を与えると、特殊な薬を作ってくれるんです」

「特殊な薬だと?」

 まさか、魔薬的なものか?

「違いますよ?! やばい薬じゃないです!」

 俺の疑念を解こうと、魔法師は必死だ。

「ああ。丁度薬が出来たみたいです」

 歩く花が魔法師に伸ばした葉の先に、薄桃色の、結晶が乗っていた。

 花から結晶を受け取った魔法師は、俺に “お耳を拝借” と近づいた。

「この結晶は、強壮薬です。しかもこれを服用すると、持続時間だけでなく、核を創る確率も上がると言う優れ物です」

 と囁き、「これは閣下に差し上げます」とニッコリして見せ、抱っこをせがむ花たちを抱き上げると、そそくさと離れて行った。

 いや。
 持続時間の不安は無いのだが?
 
 そんなに、早そうに見えるのか?
 ショックだ・・・・。

 掌に乗せられた結晶を眺め、溜息が漏れる。
 
 俺には必要ないな。
 誰か、子が出来ないと悩んでいる奴に、やれば良いか。
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