獣人騎士団長の愛は、重くて甘い

こむぎダック

文字の大きさ
上 下
241 / 605
エンドロールの後も人生は続きます

温室は別世界

しおりを挟む
「ふわぁ~。あったか~い」

「ここは、一年中同じ温度で保たれているからな」

「やっぱり。魔法ですか?」

「そうだ。地水火風。それぞれの属性が付与された魔晶石が置かれていて、水やりの必要もない」

「凄いですね。魔晶石の管理も医局の方がされているのですか?」

「いや。今は魔法局が管理している。だから、たまに恐ろしく変な植物が植えてあったりするから気をつけろよ?」

「変な植物って・・・」

 興味と困惑が半々の微妙な顔だな?

「最近だと、走り回るきのこだとか、ものすごい勢いでタネを飛ばす花。拙い成分の香りを放つ花、というのもあったな」

「走るきのこは、ちょっと見てみたかったかも。それで拙い成分の香りってどのような?」

「催淫効果があった。なんでも、南国の娼館で使われる、香水の原料だったらしい」

「うわぁ。何と言うか。色々生々しいですね」

「魔法局の研究員で、興味を持った植物や、研究材料を取り敢えず、ここに植える奴等がいるのだ。その殆どが問題ないのだが、偶に変なものが混じっている」

「それって、大問題じゃないの?」

「ん~。今の所は話題性重視だな。ここの入場料は、温室の維持費だけでなく、魔法局の収入になる。話題が集まり、見物人が増えれば、研究費用が増えるからな」

「この釈然としない気分は、何なんでしょう」

「そう言うことだから、気に入った花があっても、不用意に触れない様にな」

 念押しする俺に、番は首を傾げて見せた。

「ここって、本当に一般公開しても大丈夫なのでしょうか」

 う~ん。余計なことを言って、レンを不安にさせてしまったか?

 せっかくセルジュと頭を捻りまくった、デートコースなのだが・・・・。
 
「魔法局の管理者が、常駐しているから問題ない」

 レンのコートを脱がせながら、受付の魔法師に目を向けると、その魔法師は愛想のいい笑顔をレンに見せた。

「ここの植物は、我々が研究用に集めた植物が殆どを占めます。魔素を含んだ植物ですので、稀に悪戯をする事はありますが、どれも美しい花を咲かせる物ばかり。愛し子様も、お気に召すと思いますよ」

 魔法師の説明に納得したのか、レンは微笑みを浮かべて頷いた。

 受付の魔法師が気を利かせ、温室の入り口の扉を開くと、温室の中から暖かい空気が流れてくる。

 魔法師に礼を言って中に入ると、そこは南国。晩秋の皇都とは別世界だった。

 瑞々しい緑の葉の大樹と中低木が、南部の森を形造り、木々の梢からは、ここで飼育されている鳥の囀りが聞こえて来る。

「ほぇ~~。すご~い。ジャングルだぁ!」

 大きく見開いた瞳はキラキラと輝いて、どうやらレンも気に入ってくれたらしい。

 手を繋いでゆっくり散策路を辿り、やがて樹木エリヤから、草花のエリヤに移った。

 色とりどりの花で覆われたアーチ。古木や岩に植栽された、芳しい香りの花々、蔓性の植物で作られた花のカーテン等々。

 どれもレンの眼鏡に適ったらしく、俺の番は足取りも軽く、花から花へと蝶が舞うように移り行っている。

「わぁ!綺麗! これカトレアっぽい。こっちは胡蝶蘭、オンシジュームに似てるのもある。 こっちでも南国の花は蘭に似た花が多いんだぁ。あっこれ、レッドジンジャーに似てる」

「気に入ったか?」

「はい! すごく綺麗で、いい香りがします!」

「そうか。気に入ってくれてよかった」

 ニコニコと嬉しそうな番の頭を撫でると、レンは俺の手を取って、さらに奥へと進んでいった。

 途中の休憩コーナーには、小さな噴水の周りにテーブルや椅子が配置されていた。

 持ってきたバスケットから、料理長力作のサンドイッチやパテ、レン直伝のスコーンとタルト、チーズと大公領産のワインと紅茶。それらを次々と取り出し、テーブルに並べていく。

「めちゃくちゃ豪華ですね」

「俺達が出掛けると聞いて、料理長が張り切っていた、とセルジュが言っていたな」

 料理長の頑張りに感謝しつつ、俺は番への給餌を楽しんだ。

 通りかかった客が、そんな俺達を見て ギョッとした様子を見せたが、膝に乗せた子供に給餌する大男の正体が、俺とレンだと気付くと、皆一様に生暖かい視線を送りつつ、気を利かせて離れていった。

「ふう~。もうお腹いっぱいです」

 ポンポンと子供の様に、両手で腹を叩いて見せる番が可愛い。

「あれ? なんか居る」

 レンの視線を辿った先、散策路の真ん中で花が揺れていた。

「あれは?」

「お花が・・・歩いてるの?」

 丸みを帯びた葉でバランスを取りながら、根っこの足を動かし、クリーム色のプラーメに似た花が、一列になって俺たちに向かって歩いてくる。

「えっ? やだ。 なにこれ、可愛い」

 止める間も無く、レンは俺の膝から飛び降りて、歩く花の前にしゃがみ込んだ。

「レン、その花から離れろ」

 細腰に腕を回し引き寄せたが、レンを取り囲んだ花が伸ばした葉に、レンの手が触れてしまった。

 直後、レンの手に触れた葉が、淡く光った。

「あらら。魔力を吸われちゃった」

「大丈夫か?」

「特に問題はないみたい。魔力もそんなに吸われてないし」

「コイツら何なんだ?」

 魔物にしては攻撃的ではないし、魔力を吸った後は、淡い光を放つクリーム色の花弁を、サワサワと揺らしているだけだ。

 見た事のない魔物だが、成長する前に燃やしてしまった方が良いだろうか?

「あっ!! いたっ!!お前達勝手に歩き回るなよ!!」

 声の主に振り向くと、麦わら色のボサボサ髪をした、魔法師が走って来る所だった。

「すみません!大丈夫ですか?・・・って閣下?」
 
 俺に気付いた魔法師は、慌てて頭を下げた。
 この魔法師とは面識は無かったが、相手は俺のことを知っていたようだ。

「レンが魔力を吸われたが、大した事はない」

「あ~。愛し子様、本当にすみません!散歩に連れて来たら、ちょっと目を離した隙に逃げちゃって」

「お散歩ですか?」

 首を傾げるレンに、魔法師はボサボサな髪をガシガシと掻きながら頷いた。

「普段は研究室に居るんですが、偶に散歩してやらないと、元気がなくなっちゃうんですよ」

 レンを囲んでいた花達は、根っこの足を器用に動かして、魔法師の元に戻って行き、葉っぱの手を、抱っこをせがむ子供の様に魔法師に伸ばした。

「うふふ。ワンコみたい」

「それで、これは何なんだ?」

「え~と。内緒にしてもらえます?」

「違法でなければな」

 もじもじと上目遣いをする魔法師を、上から睨む。

「違法じゃないです! 先の皇帝陛下から研究の認可を受けてます!」

「ウィリアムの?」

「はい! コイツらはトレントの亜種なんですが、これが成体なんです。それで、魔力を与えると、特殊な薬を作ってくれるんです」

「特殊な薬だと?」

 まさか、魔薬的なものか?

「違いますよ?! やばい薬じゃないです!」

 俺の疑念を解こうと、魔法師は必死だ。

「ああ。丁度薬が出来たみたいです」

 歩く花が魔法師に伸ばした葉の先に、薄桃色の、結晶が乗っていた。

 花から結晶を受け取った魔法師は、俺に “お耳を拝借” と近づいた。

「この結晶は、強壮薬です。しかもこれを服用すると、持続時間だけでなく、核を創る確率も上がると言う優れ物です」

 と囁き、「これは閣下に差し上げます」とニッコリして見せ、抱っこをせがむ花たちを抱き上げると、そそくさと離れて行った。

 いや。
 持続時間の不安は無いのだが?
 
 そんなに、早そうに見えるのか?
 ショックだ・・・・。

 掌に乗せられた結晶を眺め、溜息が漏れる。
 
 俺には必要ないな。
 誰か、子が出来ないと悩んでいる奴に、やれば良いか。
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

腹黒宰相との白い結婚

恋愛
大嫌いな腹黒宰相ロイドと結婚する羽目になったランメリアは、条件をつきつけた――これは白い結婚であること。代わりに側妻を娶るも愛人を作るも好きにすればいい。そう決めたはずだったのだが、なぜか、周囲が全力で溝を埋めてくる。

嫌われ女騎士は塩対応だった堅物騎士様と蜜愛中! 愚者の花道

Canaan
恋愛
旧題:愚者の花道 周囲からの風当たりは強いが、逞しく生きている平民あがりの女騎士ヘザー。ある時、とんでもない痴態を高慢エリート男ヒューイに目撃されてしまう。しかも、新しい配属先には自分の上官としてそのヒューイがいた……。 女子力低い残念ヒロインが、超感じ悪い堅物男の調子をだんだん狂わせていくお話。 ※シリーズ「愚者たちの物語 その2」※

婚約者の本性を暴こうとメイドになったら溺愛されました!

柿崎まつる
恋愛
世継ぎの王女アリスには完璧な婚約者がいる。侯爵家次男のグラシアンだ。容姿端麗・文武両道。名声を求めず、穏やかで他人に優しい。アリスにも紳士的に対応する。だが、完璧すぎる婚約者にかえって不信を覚えたアリスは、彼の本性を探るため侯爵家にメイドとして潜入する。2022eロマンスロイヤル大賞、コミック原作賞を受賞しました。

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて

アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。 二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

悪役令嬢ですが、ヒロインが大好きなので助けてあげてたら、その兄に溺愛されてます!?

柊 来飛
恋愛
 ある日現実世界で車に撥ねられ死んでしまった主人公。    しかし、目が覚めるとそこは好きなゲームの世界で!?  しかもその悪役令嬢になっちゃった!?    困惑する主人公だが、大好きなヒロインのために頑張っていたら、なぜかヒロインの兄に溺愛されちゃって!?    不定期です。趣味で描いてます。  あくまでも創作として、なんでも許せる方のみ、ご覧ください。

次期騎士団長の秘密を知ってしまったら、迫られ捕まってしまいました

Karamimi
恋愛
侯爵令嬢で貴族学院2年のルミナスは、元騎士団長だった父親を8歳の時に魔物討伐で亡くした。一家の大黒柱だった父を亡くしたことで、次期騎士団長と期待されていた兄は騎士団を辞め、12歳という若さで侯爵を継いだ。 そんな兄を支えていたルミナスは、ある日貴族学院3年、公爵令息カルロスの意外な姿を見てしまった。学院卒院後は騎士団長になる事も決まっているうえ、容姿端麗で勉学、武術も優れているまさに完璧公爵令息の彼とはあまりにも違う姿に、笑いが止まらない。 お兄様の夢だった騎士団長の座を奪ったと、一方的にカルロスを嫌っていたルミナスだが、さすがにこの秘密は墓場まで持って行こう。そう決めていたのだが、翌日カルロスに捕まり、鼻息荒く迫って来る姿にドン引きのルミナス。 挙句の果てに“ルミタン”だなんて呼ぶ始末。もうあの男に関わるのはやめよう、そう思っていたのに… 意地っ張りで素直になれない令嬢、ルミナスと、ちょっと気持ち悪いがルミナスを誰よりも愛している次期騎士団長、カルロスが幸せになるまでのお話しです。 よろしくお願いしますm(__)m

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

処理中です...