獣人騎士団長の愛は、重くて甘い

こむぎダック

文字の大きさ
上 下
239 / 605
エンドロールの後も人生は続きます

求婚2

しおりを挟む
 その後、セルジュ以外の全員からからボロクソに言われ、心が折れる寸前まで俺は追い込まれた。

「お前ら・・・10年は待つ覚悟でいたら、今すぐ手に入れられる歳だと分かったのだぞ? それにあの可愛らしさだ! 箍も外れるわ!!」

「うわー。開き直ったよ」

「レン様が、可愛らしいことには同意しますが、最低ですね」

「さいて~っス」

「うるさい! 婚約紋を刻んだだけで、最後までしなかったんだ。その忍耐を褒めろよ!!」

「閣下。当然のことを自慢げに仰るのは、如何なものかと」

 ローガンは最近かけ始めた、銀縁の眼鏡を指先で押し上げ、俺に冷たい視線を寄越している。

 伊達メガネのくせに。
 レンから似合いそうだって、貰ったからって、自慢しやがって。

「まあまあ、過程が如何あれ、当のレン様が受け入れて、お二人は仲睦まじくしているのですから、これ以上とやかく言う必要はないでしょう」

 と、見かねたミュラーが助け舟を出してくれなければ、その後の相談どころではなかっただろう。

「まっ恋愛経験が少なそうな閣下が、番を見つけて浮かれるのも分かるしな」

「それは、自分はだ、という、 ですか?」

「へっ? やだなぁ一般論だぞ? 閣下みたいな堅物はそう居ないだろ? 三十路にもなって何もないって方が、おか・・しい・・」

「へえー。そうなんですね。ふーん」

 棒読みのマークの周りで、気温が下がり始めた。
 
 人のことをボロクソに言っていたが、お前はいい加減、その一言多い癖をなんとかしないと、いつかマークに全身氷漬けにされるぞ?

「兎に角だ、レンが喜んでくれる方法を考えたい。何かいい案はないだろうか?」

「そうですねぇ」

「う~ん」

 全員が、首を捻って考え込んでいるが、レンが特別に好む物を、誰も知らなかった。

「ちびっ子って、あれだよな。いっつも楽しそうにしてるから、特別何かを好きだとか、わかんねぇな」

「そうですねぇ。嫌いな物ならすぐに出てくるのですが」

 それなら、俺にも分かる。

「閣下の事が大好きなのは、見ててよ~~くわかるっス」

「そっそうか?」

 嬉しいことを言ってくれる。

「だから、閣下の首にリボンを着けて、プレゼントって言えば、めちゃくちゃ喜ぶんじゃないっスか?」

 シッチンは、正直者で素直な良い奴だが、バカだった。

「ギャハハ!! 閣下にリボン!! いいなそれ! 閣下それ採用で!!」

 ゴスッ!!

「あたっ!! 痛って~なぁ。冗談も通じねぇのかよ」

 まだ言うか!

 目の前に握った拳を突き出すと、ロロシュは渋々口を閉じた。

「レンは・・・レンは喪中でも、俺が最初の予定通り式を挙げたい、と言えば受け入れてくれるだろう。それは分かっているのだ。だが婚約紋を刻む時、お前達が言う様に、俺はことを急ぎすぎた。だから、今回はレンの思い出に残る様な、その・・・ロマンチックな求婚をし直したかったのだ・・・恥を忍んでお前達に相談したのだが、こう言うことは自分で考えるべきだったな、俺が馬鹿だったよ」
 
 いきなりトーンダウンした俺の言葉に、書斎に居る面子が黙り込んだ。

「時間を取らせてすまなかった。仕事に戻っていいぞ」

 椅子に座り直し、書類に手を伸ばす俺に、
 全員が神妙な顔で視線を交わし合っている。

 そこで、今まで黙っていたセルジュが、おずおずと手を挙げた。

「あの。僕は人族なので、獣人の婚約とかの決まりは詳しくないのですが、閣下の何が問題なのですか?」

 セルジュはこの一年で、身長だけは大人並みに大きくなったが、まだ子供の域を出ない年齢だったな。

「あ~。獣人と人族の婚姻は、色々細かい決まりが有るからなぁ」

「そうですね、セルジュが知らなくても当然でしたね」

「あっいえ。言い方が悪かったですね。獣人と人族の婚姻は、決められた段階を踏まなきゃいけない事は知ってます。でも人族同士とか、獣人同士だったら、其処までうるさく言われないですよね?婚前交渉とかも普通に有りますし、でも閣下は我慢なさったのでしょう?」

「こっ婚前交渉?! まさか貴方!?」

 子供だと思っていた相手が、一気に大人の階段を登った発言をして、ローガンが動揺している。

「やっ! 僕はまだそんな相手はいませんよ!? でも人族同士だと、そっちの相性が悪いと後で困るから、先に確かめた方が良いって、よく聞くし、婚約紋を刻む前に、そういう関係になる獣人も多いって、聞いていたから」

「子供になんてことを! 誰に聞いたのですか?!」

 それは色々、とセルジュは苦笑を浮かべ、誤魔化している。
 
 侍従は、幅広い年齢の者が従事する仕事だ。耳年増になるのも無理はない。

 それにしても、セルジュの話しに、ロロシュとマークが居心地悪そうに、目を逸らしたな。

 コイツら・・・マーキングなしで、如何やって我慢しているのかと思ったら、そう言うことか。

 それで良く、俺のことをボロクソに言ってくれたな!
 
 マークとロロシュを当分に睨むと、二人は背を向けて小さくなった。

「それで、何が言いたいのだ?」

 ロロシュ達に対する怒りを飲み込み、話を振ると、セルジュは真剣な顔で俺と向き合った。

「閣下とレン様は、お互いの事をとても大事にされています。それなのに、あんなふうに閣下を揶揄うのは良くないと思って・・・」

「なるほど」

 家の侍従に天使がいたぞ。
 シッチン以上にピュアじゃないか。
 これは、レンが可愛がるわけだ。

「それで、僕・・・私なりにレン様が喜びそうな事を考えてみたのですが」

「そうか、ぜひ詳しく聞かせてくれ」

 俺を揶揄った、汚れた大人達を書斎から追い出し、セルジュの話しに耳を傾けた。

 ◇◇

「・・・それで、レン様はこちらの料理が、あまりお好きではないので、レストランを利用するのは、お勧めできません。でも宮の料理長は、レン様からレシピを教わっていますし、手解きも受けているので、宮の料理を持って行った方が良いと思います」

「ふむ。セルジュの言う通りだな。あと、何か記念になる様な物を、レンに贈りたいのだが」

「それも、あまり気にしなくて良いのではないでしょうか」

「何故だ?」

「レン様は、閣下がくれた物なら、なんでも喜ぶからです」

「む? う~ん」

 考え込む俺に、セルジュは慌てて付け足した。

「関心が無いとか、そう言うことでは有りません。閣下がレン様の為に、考えて選んでくれたという、閣下のその気持ちが嬉しい、と考える方だからです」

「そうだな。レンはそういう人だ」

 頷く俺に、セルジュも嬉しそうにニコニコしている。
 
「しかし、何を選ぶか迷うな」

「そうですねぇ。レン様はセンスがとても宜しいので、其処は悩みどころですが、貴族の方々が好むようなケバケバしいものは避け、シンプルな物を選ばれた方が良いと思います」

「なるほど? 他には?」

「ん~・・・どうせお出掛けされるなら、お揃いの物を一緒に選んで購入する、という手も有りますね」

 そうだな、レンは母上に貰ったバングルを、今も大事にしてくれている。
 揃いの物というのは、良さそうだ。

「よく分かった。今の話しを参考にさせて貰う。助かったよ、ありがとう」

 礼を言う俺に、セルジュは自分の胸をキュッと握り締めた。

「閣下。僕・・・私は侍従仲間から、色々な貴族の方の話を耳にします。他所では、侍従に辛く当たる貴族が少なく有りません。でもレン様や閣下は、僕達にもありがとう、と言ってくださり、大事にしてくださいます」

 人として、当たり前の事をしているだけなのだが?

 まぁ確かに、権威主義の高慢な貴族なら、侍従に礼など言わんだろうし、鞭で打たれる係が居る家も有るらしいからな。

「閣下、僕を雇ってくれて、レン様の侍従にしてくださって、本当に感謝しています」

「いや。俺の方こそレンに良く仕えてくれて感謝している。これからもレンを支えてやってくれ」

 深々と頭を下げたセルジュが書斎を出ていき、俺は書類を片手に、今後の計画を立てて行く。

 しかし、うちには二人も天使が居たのだな。
 レンが熾天使なら、セルジュはただの天使くらいの差はあるが、ロロシュの様な汚れた大人とは大違いだ。
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

腹黒宰相との白い結婚

恋愛
大嫌いな腹黒宰相ロイドと結婚する羽目になったランメリアは、条件をつきつけた――これは白い結婚であること。代わりに側妻を娶るも愛人を作るも好きにすればいい。そう決めたはずだったのだが、なぜか、周囲が全力で溝を埋めてくる。

嫌われ女騎士は塩対応だった堅物騎士様と蜜愛中! 愚者の花道

Canaan
恋愛
旧題:愚者の花道 周囲からの風当たりは強いが、逞しく生きている平民あがりの女騎士ヘザー。ある時、とんでもない痴態を高慢エリート男ヒューイに目撃されてしまう。しかも、新しい配属先には自分の上官としてそのヒューイがいた……。 女子力低い残念ヒロインが、超感じ悪い堅物男の調子をだんだん狂わせていくお話。 ※シリーズ「愚者たちの物語 その2」※

婚約者の本性を暴こうとメイドになったら溺愛されました!

柿崎まつる
恋愛
世継ぎの王女アリスには完璧な婚約者がいる。侯爵家次男のグラシアンだ。容姿端麗・文武両道。名声を求めず、穏やかで他人に優しい。アリスにも紳士的に対応する。だが、完璧すぎる婚約者にかえって不信を覚えたアリスは、彼の本性を探るため侯爵家にメイドとして潜入する。2022eロマンスロイヤル大賞、コミック原作賞を受賞しました。

悪役令嬢ですが、ヒロインが大好きなので助けてあげてたら、その兄に溺愛されてます!?

柊 来飛
恋愛
 ある日現実世界で車に撥ねられ死んでしまった主人公。    しかし、目が覚めるとそこは好きなゲームの世界で!?  しかもその悪役令嬢になっちゃった!?    困惑する主人公だが、大好きなヒロインのために頑張っていたら、なぜかヒロインの兄に溺愛されちゃって!?    不定期です。趣味で描いてます。  あくまでも創作として、なんでも許せる方のみ、ご覧ください。

誰でもイイけど、お前は無いわw

猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。 同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。 見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、 「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」 と言われてしまう。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

次期騎士団長の秘密を知ってしまったら、迫られ捕まってしまいました

Karamimi
恋愛
侯爵令嬢で貴族学院2年のルミナスは、元騎士団長だった父親を8歳の時に魔物討伐で亡くした。一家の大黒柱だった父を亡くしたことで、次期騎士団長と期待されていた兄は騎士団を辞め、12歳という若さで侯爵を継いだ。 そんな兄を支えていたルミナスは、ある日貴族学院3年、公爵令息カルロスの意外な姿を見てしまった。学院卒院後は騎士団長になる事も決まっているうえ、容姿端麗で勉学、武術も優れているまさに完璧公爵令息の彼とはあまりにも違う姿に、笑いが止まらない。 お兄様の夢だった騎士団長の座を奪ったと、一方的にカルロスを嫌っていたルミナスだが、さすがにこの秘密は墓場まで持って行こう。そう決めていたのだが、翌日カルロスに捕まり、鼻息荒く迫って来る姿にドン引きのルミナス。 挙句の果てに“ルミタン”だなんて呼ぶ始末。もうあの男に関わるのはやめよう、そう思っていたのに… 意地っ張りで素直になれない令嬢、ルミナスと、ちょっと気持ち悪いがルミナスを誰よりも愛している次期騎士団長、カルロスが幸せになるまでのお話しです。 よろしくお願いしますm(__)m

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて

アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。 二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

処理中です...