獣人騎士団長の愛は、重くて甘い

こむぎダック

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エンドロールの後も人生は続きます

煩悶と別れ

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 side・レン


 アレクさんの様子がおかしい。

 バイスバルドで、ギルドの話をしていた時は普通だったと思う。

 様子がおかしくなったのは、その後。
 クレイオス様達に、お説教した辺りからでしょうか?

 何かを隠している、という感じでもないし、浮気どうこうと言う訳でもない。

 そもそも、四六時中一緒に居る訳だから、浮気の心配は全くないし、逆に、私を見つめる視線が、いつもより熱が篭っている様な気がします。

 普段から甘々光線飛ばしまくりのアレクさんの視線が、更に激甘になったというか。

 後頭部に、ハートがゴツゴツぶつかってくる様な視線を感じて振り向くと、シロップましまし生クリーム添えパンケーキ+マシュマロてんこ盛りココア、みたいな、とろけそうな瞳と目が合います。

 何事か、と思っていると、気不味そうに ふいっ と目を逸らしたりして。

 デレデレ甘々かと思えば、しつこいくらい一緒に入りたがったお風呂も、この何日かは、服を着たまま私の髪を洗うだけだし。

 お風呂に関しては、アレクさんに悪戯される心配もなく、のんびり出来るのは、嬉しかったりするのですけど。

 当のアレクさんのバスタイムは、妙に長くて。

 でも、何かあったの? と聞いても、なんでもないと言うばかりで・・・。

 一体なんなんでしょうか?

 やっぱり、喪中ということで、自分を律しているのでしょうか?

 ウィリアムさんとリリーシュ様の事を思うと、アレクさんも色々考えることはあるだろうから、その所為なんでしょうか?

 でもそれだと、飴菓子の蜂蜜掛け、みたいな視線の意味が分かりません・・・。

 う~ん。

 団長のお仕事は激務です。
 それが、大厄災の夜から今まで、更にお仕事が増えてしまったから、疲れ過ぎて情緒が、不安定になっているのでしょうか?

 本当はもっと手伝ってあげたいけど、私は簡単な事務作業しかできないしな。

 アレクさんって、どんなに辛くても、絶対辛いって言わないのよね。

 それって、凄くかっこいいけど、たまには弱音を吐いたって良いのに・・・。

 私に出来る事なんて、高が知れているけど、それでも、アレクさんを助けたいって思ってるんだけどなぁ。

 まぁ、なんだかんだ言っても、アレクさんも頑固なとこあるし、彼が話す気になるまで、気長に待つしかないか!

 取り敢えず、アレクさんの好きな物でも作って、差し入れに行くとしますか!

 ◇◇◇

 side・アレク


 拙い。

 非常に拙い。

 バイスバルドで気付いてしまった事で、俺は完全に追い詰められている。

 まさに崖っぷち、堰き止められていた物が、決壊寸前だ。

 仕事をしていても、気付くとレンとの蜜月の夢想に浸り、仕事が全く捗らない。

 内宮の俺の執務室は、ブラックギドラのブレスで抉り取られた為、柘榴宮の書斎を執務室として使っているのだが、レンが近くにいると思うと、書斎を飛び出し、レンを寝室に押し込んで、致すところまでを夢想してしまう始末だ。

 やるべき事が山積みだというのに、耳も隠せないガキじゃあるまいし、欲に振り回されてどうする。

 しっかりしろ、俺!!

 そして大人しくするんだ、俺の俺!

 この状態でレンの肌に触れたら、理性が焼き切れて、抑えが効かない自信がある。

 よって俺という獣から、レンの貞操を守るために、入浴の世話も髪を洗うだけに留めている。

 だが、番の肌に触れられない分、妄想が激しくなる一方だ。

 法に従い、レンに恥をかかせない為に、一年我慢し続けた。

 ロロシュやマークに苦情を言われ、マーキングも我慢した。

 正直、俺はよくやったと思う。
 
 三十路近くになって、初めての恋なのにだ!!
 
 物慣れぬ初心な番を、自分でも卑怯だと思う手を使い絡め取り、囲い込んで、俺の所まで落ちて来させた。

 それでも、一線を越える事なく今日まで来たが、それも、もう限界だ。
 
 喪が明けるまで、後一年も待つなんて冗談じゃない!

 しかし、こんな卑怯な俺にだって、人としての倫理観や常識は有る。

 袂を分ってしまった家族だが、葬儀を明日に控えた状態で、レンをどうこうしようという様な鬼畜ではない。

 国葬が済んだ後でも、優しいレンは、亡くなった者達を想い、その気になれないと言うかも知れない。
 
 レンが待てというなら、待つ努力はしよう。
 しかし、レンがその気になるような努力も、同時にしても構わないよな?


 ◇◇

 秋晴れの空の下、皇帝ウィリアム・ネルソン・クレイオスと幽婚の皇后オルフェウス・アーリントン・クレイオスの国葬は、粛々と執り行われた。

 帝国を動かしてきた大貴族の半数近くが参席できなかったが、式場となった、秋桜宮には多くの弔問客が訪れ、外宮には献花に訪れた国民の長い列が出来ていた。

 未曾有の大厄災は、帝国の中心に居た大貴族にも、多くの犠牲を出した。

 あの日、謁見の間に閉じ込められていた貴族達の救出は、間に合わなかった。

 俺が命を下した、暗部と宵闇の連中は、謁見の間に、ウィリアムが居ない事だけは掴んでいたらしい。

 だが肝心の居場所は判明せず、アーノルド達の救出と、ウィリアムの捜索を優先させた結果、内宮を封鎖していた騎士諸共、ヴァラクの放った瘴気の餌食と成ってしまったのだ。

 宰相のグリーンヒルが、回復薬の配給の指揮を取る為に、外宮に居て難を逃れられたのは、ある意味奇跡だ。

「兄上は皇帝として、これほど慕われていたのに・・・・」

「・・・そうだな」

 葬儀が終わり、皇家の墓所へと向かう車列に、沿道を埋め尽くした人々が祈りを捧げている。

 俺はアーノルドと、柩を運ぶ馬車のすぐ後ろの馬車に乗っている。

 レンは、ロイド様と親父殿と一緒だ。

「僕にとって・・・・兄上達は憧れです。これは一生変わらないと思います。暴君の圧政から国を救い、盾となって国民を護り続ける英雄と、荒廃した帝国を正道へと導き、再び繁栄させた皇帝」

「・・・・・・」

「僕はアルにいの様に強くもない。ウィルにいの様に賢くもない。本当に凡庸な人間です。兄様達の様な武勇も、知略もない凡夫です。それなのに・・・・僕は皇帝としてやって行けるでしょうか?」

 子供の頃の呼び方になっているな。
 心が弱くなっている証拠だ。

「玉座に孤独は付きものだ。だが、グリーンヒルは健在だ、お前にはロイド様も居る。俺は内向きの事は得意ではないが、こんな俺でも、役に立つことは有るだろう。アーノルドお前は一人ではない。これから多くの者が、お前を支えてくれるだろう。それにお前はまだ若い、いくらでも成長出来る」

「そうでしょうか」

「荒れ果てた荒野にも、立ち止まらなければ、道は出来る。道に迷っても、遠回りしても、最後に目的地に着ければそれで良い。お前にはお前の良さがあるんだ。お前はお前の道を行け」

「兄上・・・・ありがとうございます」

「礼は要らんよ。泣き虫アーニー」

「酷いな。もう子供の時みたいに泣いたりしませんよ!」

「ハハハ・・・・」


 ウィリアムとオルフェウスは、無数の花で飾られた、真っ白な霊廟に埋葬された。

 秋晴れの空は何処までも青く、陽の光に照らされた霊廟は現実感とは、真逆の位置にあった。
 
 本当に嘘みたいだ。
 ウィリアムがもう居ないなんて。

 ウィルの最後を見ていなければ、何もかもがいつもの悪い冗談だと思っただろう。

 ウィルが突拍子もない事を思いつくと、俺はいつも振り回された。
 今だって ”ごめんごめん、びっくりした?“ と霊廟の扉を開けて、ウィルが出てくるような気がする。

 もう、あの迷惑だが賑やかな日々は、戻って来ないのだな。

 お前のやった事は許せない。
 だが、憎んだり恨んだりもしないよ。

 これだけ人に迷惑を掛けたんだ。
 今度こそ、オルフェウスと幸せになれよ。

 じゃあな、兄さん。
 さよならだ。
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