獣人騎士団長の愛は、重くて甘い

エンドロールの後も人生は続きます

気付かなければ・・・

「たしかに」

「今の傭兵ギルドにも、ランク付けは有ると思うのですが、それをさらに細分化して、子供からお年寄りまで、ランクにあった依頼を冒険者に受注してもらう。依頼料から手数料を引いた金額を、冒険者の取り分にして。魔物の討伐依頼については、すぐに人が集まるかわからないので、傭兵ギルドと両方登録出来ることにすれば、人も集め易いかなって」

「う～ん？」

「冒険者には、ギルドへの登録手数料も払ってもらい。ギルドは冒険者が必要な情報を提供しますが、秘匿性が高いものについては有料として。地図や、魔道具の販売もギルド内で行います。ついでに、宿泊や飲食もできるスペースが有ると良いですね」

「なるほど？」

「冒険者のランクアップは、依頼の達成状況に合わせるのと、ギルド側の試験の合格者に限定します。勿論、試験料やランクに合わせた講習料、ランクの変更手数料も頂きます」

「うんうん」

「魔物を討伐した場合、成功報酬とは別に、魔物の解体をギルドに頼んだ時は、解体手数料を貰うことにして、採れた素材を適正価格でギルドが買取ります。解体手数料さえ払ってくれれば、素材は持ち帰っても良いのですが。逆に素材のみの持ち込みもOKにして、買い取った素材は商会などに売って利益を得る。と言う感じなんですが」

　どうでしょう。と俺たちを見上げるレンの顔には、囲んだ俺たちの影ができている。

「詳細を詰めれば、悪くないと思いますが」

「そうだな。だが何故、何でも屋なんだ？」

「それはですね。子供や荒事に不向きな人も働けるからです」

「あっ！なるほど！」

「不作や災害があると、子供を売る親も居ると聞いています。読み書きもできず、売られた子供は奴隷と変わらない扱いを受けたりするとも。でもそんな子達も、働き手として認められれば、売られる事もないですよね？それにこの世界は、身分制度がハッキリしているので、身分の所為で教育が受けられなくて、埋もれてしまっている天才が、沢山いると思うんです。」
　
「・・・・」

「皇都には、今もスラムが有ります。スラム出身というだけで、年齢関係なくまともな仕事にも就けません。でも、ギルドが身元を保証出来れば、身を立てるきっかけを掴んで、スラムから抜け出したり、才能を発揮できる人が増えると思いませんか？」

　レンの説明は筋が通っているし、手直しは必要だが計画もよく練られている。

　だが・・・。

「それは、国家の支援事業になるのではないか？」

　言うと思った。と言う顔でレンは頷いた。

「商売でなくとも良いのです。国営のギルドだって構いません。職業斡旋所だって良いのです。ただ、貴族の方達をあまり関わらせたくないので」

　そうか、国家事業になると貴族連中が利権を求めて口を出してくる。
　そうなれば、レンが支援したい貧しいものは切り捨てられる。

「分かった。こんな所で立ち話もなんだから、取り合えず馬車まで戻って、飯でも食いながら話そうか」

「そうですね。お腹も空いてきましたし。ロロシュさんもいい加減、酔いも冷めてるだろうし・・・」

　ロロシュの名が出て、マークの柳眉が跳ね上がった。

「ロロシュは放って置けばいいんです。副団長が遠征先で二日酔いなんて、聞いたことがありません！」

「まぁ。誘うクレイオスも悪いのだが・・・」

「誘われても、断ればいいだけの話しでしょう？　私たちは仕事で来ているのであって、物見遊山ではありません！」

　全面的にマークが正しい。
　俺とレンは互いの顔を見交わし、溜息を吐いた。

「クレイオスは、俺の言うことはきかん。レン頼めるか？」

「いいですよ。　マークさん、一度ロロシュさんもシメた方がいいですよね？」

「レン様、本当に申し訳ありません。お願いできますか？」

「マークさんが謝ることで無いですよ？どこまで効果があるかわかりませんが、やるだけやってみます」

　森の入り口に停めた馬車に戻ると、酒で浮腫んだ顔のロロシュが、馬車のそばに座り込んでいた。

「ロロシュさん、クレイオス様は中ですか？」

「あ？　あぁ、旦那は中で呑んでるぜ」

「分かりました。ロロシュさんご飯食べれます？」

「メシ？　ウップ・・・むり」

「・・・・・」

　レンは何も言わなかったが、きゅっと引き結んだ唇や、キラリと光る瞳から、相当怒っていると推察できる。
　
　マークに至っては何をか言わんやだ。

　俺とシッチンは、とばっちりを受けない様、プリプリしているレンとマークに気を配りながら、黙って火を熾し、昼食用の食器を並べた。

　レンが出してくれた昼食は、鶏肉のグリルと、温野菜のサラダ、クリーム状に野菜を煮溶かしたレンがポタージュと呼ぶスープだった。

　遠征先で暖かいものが食えるだけでも、贅沢だ。それが美味いとなれば、至福と言ってもいいだろう。

　俺とシッチンが、レンの手料理を褒めると、幾分機嫌が治ったようだが、ここで気を抜くと後悔することになりそうだった。

　レンとマークはロロシュを無視すると決めたようで、だらしなく座り込むロロシュに、一瞥も加えない徹底ぶりだ。

　匂いに釣られ、馬車から出てきたクレイオスは、酔っ払いに食べさせる食事はない、とレンに馬車へと追い返された。

　その冷たさに、俺がレンにあんな態度を取られたら、と想像するだけで、あまりの恐ろしさに、考える事を放棄した。

　食事の最中は、ギルドの話で盛り上がり、実現はまだ先になるだろうが、面白い組織ができると感じた。

　◇◇

　数年後、俺たちは、それぞれの自領でギルドを開き、それを統括する協会も設立した。

　ギルドの運営は大成功。
　レンの慧眼には、恐れ入るばかりだった。

　それを真似、ギルドを開いた者も多く出たが、貴族が興したギルドで成功したものは無く、俺たちに教えを乞うてきた者達には、協会の加入と会費を徴収する事を条件に、ノウハウと情報の共有。依頼と冒険者の紹介や斡旋を行なった。

　後に伝説級の冒険者がいく人も生まれ、冒険者は子供のなりたい職業、第一位を獲得したのだった。

　◇◇

　昼食後、レンはロロシュとクレイオスを呼び「ちょっとここに正座して」と膝を曲げた窮屈な姿勢で二人を地面に座らせると、一刻ばかり、説教をしていた。

　説教を終え、立ち上がった二人がヨロヨロしていたのは、足が痺れたからだけでは無いようだ。

「二人に何を言ったんだ？」

「特別なことは何も」

　それであのダメージか？

「ロロシュさんには、お酒が引き起こす弊害を説明して、このままだと病気になって、マークさんに捨てられるけど良いのか？と忠告はしましたよ？」

　だから、マークに取り縋って、謝り倒しているのだな？

「そっそうか・・・クレイオスにはなんと言った？」

「私は酒飲みは好きじゃない。特に他人に迷惑を掛ける酔っ払いは大嫌いだ、と。あと、このまま他人に迷惑を掛け続けるなら、私たちの婚姻式には、招待しないと言いました」

　そうか、レンは酒飲みが本当に嫌いなのだな？

　・・・・ん？
　今頭の隅に何か引っかかったような・・・
　なんだ？

「・・・・それでクレイオスは？」

「私のそばに居る時は、私の許可なく二度と呑まない、と誓ってました」

　めちゃくちゃ良い笑顔だな？
　これはレンの一人勝ちだな。

　それにしても、クレイオスは、婚姻式までこっちに居座るつもりなのか？

　アウラをほったらかしにして、良いのだろうか？

　それはそれとして、レンの口から婚姻式の話しが出るとは、レンも楽しみにしてくれていると考えて良いのか？

　ん？　婚姻式？
　婚姻式と言えば・・・・・？！

　婚約してから一年経ったじゃないか！！

　いつでも式を挙げられ・・・・ないぞ。
　今は喪中だ、嘘だろ・・・・。

　気付かなければよかった。
　これ以上、耐える自信もない。

　あと一年も？
　・・・・地獄だ。