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エンドロールの後も人生は続きます

決意と提案

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 日記に記されていたことが、頭の中を巡り続け、浅い眠りと覚醒を繰り返す、長い夜に嫌気がさした俺は、日の出とともにベットを抜け出した。

 ベットの中のレンは、子供のようにスヤスヤと寝息を立てて眠っている。

 頬にかかった髪を撫で付け、額に口付けを落とすと、むにゃむにゃと動く唇が、なんとも平和で愛しさで胸がいっぱいだ。

 剣を片手に、レンを起こさないようにそっと部屋を出た俺は、中庭に出て、軽く体をほぐし、剣を振った。

 あの日記に書かれていた事の全てが事実とは限らない、嫉妬に狂った雄の狂気と妄想の産物の可能性だって有り得る。

 母はウィリアムを懐妊したマシュー様を裏切り者と罵っていたが、皇太子妃として、親父殿に嫁いだ時点で、二人は当然、褥を共にしていただろう。

 肌を合わせることは許せても、子を成す事は許せない、と言う気持ちを、俺は理解できない。

 一番理解出来ないのは、マシュー様が亡くなった後、憎いはずの恋敵の側に、愛妾として留まり続けた事だ。

 剰え、憎い敵国の守護者として、第一騎士団の団長の座まで受け入れている。

 やることに整合性がなく、まるでヴァラクのようだ。

 数えきれない人間の体を乗っ取り、その数の他人の記憶に触れ、混じり合い、己と他人の境界が曖昧になりながらも、人と世界への怨みだけで存えた、魔族の王子。

 自己の根幹の曖昧さに気付いたヴァラクは、自我を保てなくなり、自戒して果てた。

 母のやった事は、狡猾でありながら、杜撰さが見えるヴァラクと似ている。

 ここまで考えて、ああ、そうか。と全てのことが腑に落ちた。

 母とヴァラクが接触したのは、ここ最近の話では無かったのだ。

 ギデオンが生きていた頃の皇宮には、ヴァラクの僕が、大勢入り込んでいただろう。
 恐らくヴァラク本人もだ。

 愛する番を守る為なら、母は何でもしただろうし。そこにヴァラクが付け込むのは簡単だった筈だ。

 マシュー様が身罷られた後も、ジルベールの為だと言われれば、ヴァラクの言いなりにも成っただろう。

 そして地下牢獄に囚われた母が、俺がジルの首を刎ねたと聞かされた時、幼過ぎて憎むことが出来ずに悩まされた相手おれを、存分に憎める様になった。

 そして、死者の甦りを持ち出されたら、一も二もなく、ヴァラクの指示に従っただろう。

 そう考えれば、全ての事の辻褄が合う。

 母の今際の際の言葉にも納得だ。

 母にとって俺は、大切な者を奪い、己の願いを邪魔する、憎い相手だったと言うことだ。
 母の愛を求め、幼い頃に流した涙は、なんの意味もなかった。

「虚しいな」

 朝日を受け、光芒を放つ剣先が歪んで見える。

「アレク? お稽古終わった?」

 背中から掛けられた声に、振り向くことが出来ない。

 今の俺は、きっと酷い顔をしている筈だから。

「すごい汗。 早く着替えないと風邪ひいちゃいますよ?」

 トテトテと近づく足音と、背中に触れる温かい掌に、子供の様に声をあげて泣きたくなった。

「あぁ、そうだな」

 袖で乱暴に拭った顔を、レンが訝しげに見上げてきた。

「目に汗が入っちゃったのね? 早く顔も洗わなきゃ。 朝ご飯の前に背中流してあげるね?」

 剣だこだらけの無骨な手を引いて、前を歩く小さな番に、俺は何度救われるのだろうか。

 母はマシュー様の手を一度離した。
 
 一度離した手を取り戻す事は出来ないと、何故気付かなかったんだ?
 
 母上、貴方は俺を悪魔と呼び、恨むと言った。 産まなければよかったと・・・。
 
 だが、貴方は間違っている。

 貴方が憎むべきは、番の手を離した自分自身だ。
 だから、貴方の手には何も残らなかった。

 俺はこの手を離さない。

 レンに嫌だと振り解かれないように、全てを掛けて愛して行く。

 それに俺は貴方を怨まない。

 貴方の見当違いな憎しみなど、俺の番への愛に比べたら、取るに足らない物だからだ。

 貴方が輪廻の理の中に戻れるかは、アウラ次第だろう。

 もし、貴方が輪廻の輪に戻れたのなら、今度は番の手を離さず、幸せに暮らす事を俺は願うよ。


 ◇◇◇


「この泉も問題なさそうですね」

「先に魔晶石を入れてくれてて助かりました」

「この分なら、この森の魔物はかなり減るんじゃないっすか?」

「だといいんですけど・・・」

「何か気になるのか?」

 番の眉間によった皺を指でほぐすと、レンは気持ち良さそうに目を閉じて、されるがままだ。

「前に浄化したのに、ゴブリンの体が消えなかったことが有ったでしょう?」

「あぁ、あったな」

「そのことをクレイオス様と話したことが有るのですが、どうも世代を重ねた魔物は、この世界の生き物として、根付き始めているのではないかと仰ってて」

「根付く? 魔物が出続けるってことか?」

「クレイオス様は、魔族と同じで、アウラ様が意図して創った生き物ではないので、どうこう出来ないだろう、と仰って居て。私としても生き物って、そう言う物だと思うのです」

  そんな可愛く、首を傾げながら話されてもな・・・。

「言いたいことは、分かるが・・・」

「それで、私も色々考えてみたのですが、今魔物の素材って、生活に根付いて居ますよね?」

「まぁ、そうだな」

「ブルークラブは高級食材ですし、モサンやメイジアクネの糸も必要でしょう? 何が残って、淘汰される魔物が何かは分かりませんが、全部いなくなっちゃうのは、逆に困るんじゃないかと思うんです」

「たしかに」

「それでレン様は、何か良いお考えが有るのですか?」

 マークの質問に、レンの瞳がキラリと輝いた。

「ここからは、商売の話なんですけど」

 とレンは口の横に手を当てて、声を顰めた。

 自然、一同がよく聴こうとレンの方に身を寄せる形になる。

「一定数の魔物が残るのなら、ギルドを立ち上げてはどうかと」

「ギルド? 傭兵のか?」

「それなら今でもありますよ?」

「いえ、傭兵さんのいるギルドとは別のギルドです。今の傭兵さん達は、身元は確かだけれど騎士になれなかった方とか、騎士を引退した方が中心ですよね?」

「ええ。そうです」

「私が考えているのは、もっと一般に門戸を開いたギルドでして。街の近くで薬草採取したり、もちろん魔物の討伐もなんですけど、 街の清掃とか、お年寄りのお買い物の手伝いとか、・・・要は何でも屋です」

「何でも屋?」

「はい。今より魔物が減れば、安全にも成りますし、大規模な討伐や、傭兵さんの護衛任務とかも減ってきますよね?」

「恐らく」

「そこで、仕事に溢れたけど、腕も身元もしっかりしている傭兵さんを、取り込めないかなぁって」

「それ、儲かりますか?」

 首を傾げるシッチンに、レンはニッコリ笑顔を返した。

「ここで仮にギルド名を白虎ギルド、仕事を請け負ってくれる方を、冒険者と呼ぶことにします」

 白虎・・・俺か?

「白虎ギルドは、子供からお年寄りまで出来る、清掃や草刈り子守りなどの簡単な依頼と、専門知識の必要な薬草などの素材採取、魔物の討伐まで、どんな依頼も受けることにします」

「ふむ」

「例えばですけど、ホーンラビットやコネリが畑を荒らしたとして、騎士団や傭兵ギルドには頼みにくいですよね?」

「まぁ、そうですね」

「そこで、農家の方は、“そうだ!白虎ギルドならなんでも引き受けてくれるし、受付のお兄さんも綺麗で優しい。白虎ギルドに頼んでみよう!!” って成りませんか?」

「なるんですか?」

「なると思いますよ?」

「はあ」

「じゃあ、薬師の方が、“街の近くで撮れる薬草が欲しい。でも採りに行く時間は無いし、出来れば、定期的に採って来てくれる人が居ればなぁ。よし!白虎ギルドに通年で依頼を出すことにしよう!” 暫くして、おや困ったぞ、熱病に効く薬草がなくなりそうだ、今から注文していたら間に合わないかもしれない、でも自分で森に採りに行くのは怖いな。白虎ギルドなら、採ってきてくれるんじゃないか?ダメもとで頼んでみよう”  とか?」

 いや、レンの想像力が豊かなのは分かる。
 分かるが・・・・。

「商売的に、どうなんですかね?」

「今の魔物関連のお仕事は、クレイオス様の予想通りなら、規模は小さく成りますが、なくなることは無いと思います。その分、手に入れ難くなった素材を、どう確保するかが鍵になってくると思うのですよ」

「あ~。そう言うことですか」

「そこで、依頼内容と登録する冒険者の間口を広げたギルドが必要に成ると思うんですよね」
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