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ヴァラクという悪魔
血戦・復活と慟哭
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「クレイオス!!貴様あー!!」
ヴァラクの怒号と共に、瘴気がブワッと音がする勢いで湧き出し、俺たちに襲いかかってくる。
手足に絡みつく瘴気を引き千切り、左手に破邪の刀、右手に愛剣を抜き放ち、襲いかかる瘴気を切り飛ばしていく。
破邪の刀を持たないマークは、防護結界を張り、瘴気の勢いを抑え込むのに必死だ。
しかし、それも永くは続かなかった。
床に描かれ芒と光っていた魔法陣が明滅し、やがて ブウーン と低く唸った後、完全に消滅した。
それと同時に爆発が起こり、ヴァラクが祭壇の前から吹き飛ばされた。
『ふむ。上手くいった』
クレイオスは満足そうだが、楽しみしろと言った割に、地味な爆発だったな。
頭の片隅で、そんなことを考えながら、祭壇の上に横たわるレンの元へ走った。
爆発と共に結界も消え、漸く俺の腕に番を取り戻すことが出来た。
抱き上げた体に力は無く、ダラリと下がった手首が赤黒く焼けこげ、真っ白だった肌が捲れ上がっていた。
「あぁ!!」
俺の所為だ!!
俺がもっと早く来ていれば。
マイオールで、瘴気に囚われたりしなければ!!
辛い思いをさせずに済んだのに!!
震える指で、胸の隠しから取り出した回復薬を、手首に振りかけた。
しかし、レンの手首の傷は、ジュウジュウと煙を上げるだけで、一向に治る気配がない。
どうしたら良いんだ!?
無力感に打ちひしがれ、小さな体をきつく抱きしめると、薄い肩がピクリと動いた。
「レン? 気がついたのか?」
長い睫毛が震え、ゆっくりと瞼が上がっていく。
しかし、焦がれ渇望した瞳に、銀の虹彩が無い。
「・・・・レン?」
違う、これはレンじゃない。
本能で分かる。
レンの姿をしているが、これは別人だ。
「侯?・・・・久しいな」
「・・・・ヨシタカ」
「あぁ。よく似ているが、我が君ではないな。レンの伴侶だな?」
「そうだ。レンは・・・レンはどこだ?」
ヨシタカは優雅に胸に手を当てると、瞼を閉じた。
「レンはここに居る。すまぬが少しの間だけ体を借りるぞ」
「何をする気だ?」
ヨシタカの唇が弧を描き、潤んだ瞳が細められた。
「ネサルと話がしたい」
ネサル?
ヴァラクに乗っ取られた、大公か?
「ヨシタカ!!」
声の主はヴァラクだった。
「ヨシタカ!!貴方を呼び戻したのは私だ!!私と共に来い!!」
爆発で吹き飛ばされたヴァラクの顔は、右半分の皮が剥がれ、中に詰め込まれた瘴気が蠢いている。
足を引き摺り、ぎこちなく近付いてくるヴァラクは、顔だけではなく、体中の至る所から瘴気が漏れ出ていた。
「ヨシタカ!!聞いているのか?!貴方は私の物だ!!」
激昂するヴァラクを、ヨシタカは静かに見つめている。
見つめ合うヴァラクとヨシタカの間に沈黙が流れた。
その沈黙を破ったのは、2人とは違う歓喜の声だった。
「オルフィー!!」
「ああ!! マシュー!!」
マークとロロシュの、息を呑む音が聞こえる。
聞きたくなかった。
お願いだ。
やめてくれ!!
このまま何も言わず、亡骸を抱え静かに消えてくれたら、見逃すことも出来たのに!!
呼吸が浅くなり、カタカタと震える腕に、ヨシタカが優しく触れた。
「下ろしてたもれ」
静かだが、断固とした響きに俺は黙って従った。
「ネサル?」
「違う!!ヴァラクだ!!」
「ネサル聞こえるか?」
「違うと言っているだろう!!」
唾を飛ばし、激昂するヴァラクに構う事なく、ヨシタカは静かに語りかけた。
「ネサル。私が教えた極楽浄土の話を覚えているか?」
「うるさい!!やめろ!!」
ヴァラクは髪を掻き毟り、ヨシタカへなのか、内に抱えたネサルへなのか、黙れと叫び続けている。
その後ろから聞こえる啜り泣きを、ヨシタカに集中する事で頭から閉め出した。
「私と共に極楽へ行かないか?」
ヴァラクの髪を絡ませた指が、ピタリと止まった。
「ご・・・くら・・・・く?」
「そう。極楽浄土は無理でも、共にやり直せば良いだろう?」
「やり・・・な・・おす」
「のう。共に行こう其方と話したい事が沢山あるのだ」
「ヨ・・・シタカ・・・共に」
「ネサルよ。さぁ此方に来よ」
ヨシタカの腕が伸ばされると、ヴァラクの胸が芒と光り、弱々しく明滅する魂がヨシタカの手の中に飛んでいった。
ヨシタカは手の中の光を、愛おしそうに胸に押し当て、クレイオスに向き直った。
「クレイオス殿、お久しゅう」
『迎えが遅くなり、すまなんだ』
「いえ。こうしてネサルと相見えることが出来ました。これも仏のお導きかと」
『アウラの前では言うなよ?』
ヨシタカは指先を唇に当て、ふふ と嫋やかに笑った。
「それでは、アウラ殿の庭にて、お待ち申し上げます」
そう言うとレンの胸から、黄金色に輝く光が現れ、ネサルの魂を導くように登って行った。
その光は、岩の天井をすり抜け、空へと帰っていくのだろう。
クタリと力を無くした、レンの体を支え、腕の中に閉じ込めた。
もう二度と離すものか。
「ヨシタカ!!行くなっ!!」
ヴァラクがヨシタカの魂を追って、空を掴んだ。
残った左目から、真っ黒な涙が流れ、頬を染めている。
俺の腕にはレンが残り、ヴァラクには何も残らない。
「クソッ!!全てお前の所為だ!!お前さえ居なければ、ヨシタカは私の物だった!!」
怒りに任せヴァラクは、俺に向け炎を放った。
しかしその炎は弱々しく、子供の放つ火球程度の威力しかなかった。
『もうやめよ』
火球を払ったのはクレイオスだった。
「クレイオス。お前が・・・お前が居なければ、アウラは!!この世界は!全てが!」
私の・俺の・僕の物だ!!
『もうよさんか!! それは其方の望みか?其方はいったい誰なのだ?!』
「僕は・・・私は・・・俺は」
“誰なんだ?!“
「あ・・・あぁ・・そんな・・・馬鹿な」
両手で頭を掴み、頽れて膝をつくヴァラクは、クレイオスによって存在の核を乱された。
存在の根幹を揺るがされたヴァラクは、個としての形を保てなくなりつつあるのか、体から瘴気がバラバラに解け、漏れ出して居る。
「イタタ・・・」
「レン?!」
「・・・アレク? 良かった無事ね?」
銀の虹彩が輝く黒い瞳が俺をみつめ、俺の頬を優しく撫でてくれた。
「レン・・・手首が」
「あぁ、これね。 もう酷いよねぇ。今治すから、ちょっとこのままでお願いします」
緊張感の無い顔でヘラりと笑ったレンは、自分の体に治癒を掛けた。
回復薬では煙を上げるだけだったレンの傷は、淡く光りながら、あっという間に治ってしまった。
「よかった」
ホッとする俺に、レンは「心配かけてごめんね」と謝った。
「俺の方こそ、守れずにすまなかった」
「じゃあ、おあいこって事で、この話は終わりにしましょうね?」と言い、番が俺の唇にキスをくれた。
「会いたかった」
「俺もだ」
額を合わせ、微笑み合う俺たちに、割って入ったのはロロシュだ。
「なぁ。毎回邪魔すんのもアレなんだけどよ。まだ終わってないだろ?」
ロロシュは個としての存在が崩れていくヴァラクと、愛しい人の亡骸だったモノを抱きしめ、蹲る2人に視線を向けた。
「アレクおろして?」
「いや。でも体が・・」
「約束したの。お願い」
やっと取り戻した番を、手放したくはなかったが、レンの声音に従わなければならない、何かを感じた。
床に降り立ったレンは、ゆっくりとヴァラクに近づいて行く。
その足下の影が揺れ、後ろに付き従った俺は、レンの体を引き戻した。
「アレク。大丈夫だから」
「しかし・・・・」
レンは俺の腕を軽く叩き、影から現れた者に歩み寄った。
「待たせてごめんね」
「いとしご これを」
影から現れたのは、ヨシタカの器、ヴァラクの傀儡だった。
傀儡は、レンの破邪の刀を恭しく捧げ持ち、レンに差し出した。
「どっちを先にするの?」
「ごしゅじんから ぼくは 私達は 従者だ。主人の最後を看取る責任がある」
「そう・・・・」
刀を受け取ったレンは、悲しそうに肩を振るわせた。
ヴァラクの怒号と共に、瘴気がブワッと音がする勢いで湧き出し、俺たちに襲いかかってくる。
手足に絡みつく瘴気を引き千切り、左手に破邪の刀、右手に愛剣を抜き放ち、襲いかかる瘴気を切り飛ばしていく。
破邪の刀を持たないマークは、防護結界を張り、瘴気の勢いを抑え込むのに必死だ。
しかし、それも永くは続かなかった。
床に描かれ芒と光っていた魔法陣が明滅し、やがて ブウーン と低く唸った後、完全に消滅した。
それと同時に爆発が起こり、ヴァラクが祭壇の前から吹き飛ばされた。
『ふむ。上手くいった』
クレイオスは満足そうだが、楽しみしろと言った割に、地味な爆発だったな。
頭の片隅で、そんなことを考えながら、祭壇の上に横たわるレンの元へ走った。
爆発と共に結界も消え、漸く俺の腕に番を取り戻すことが出来た。
抱き上げた体に力は無く、ダラリと下がった手首が赤黒く焼けこげ、真っ白だった肌が捲れ上がっていた。
「あぁ!!」
俺の所為だ!!
俺がもっと早く来ていれば。
マイオールで、瘴気に囚われたりしなければ!!
辛い思いをさせずに済んだのに!!
震える指で、胸の隠しから取り出した回復薬を、手首に振りかけた。
しかし、レンの手首の傷は、ジュウジュウと煙を上げるだけで、一向に治る気配がない。
どうしたら良いんだ!?
無力感に打ちひしがれ、小さな体をきつく抱きしめると、薄い肩がピクリと動いた。
「レン? 気がついたのか?」
長い睫毛が震え、ゆっくりと瞼が上がっていく。
しかし、焦がれ渇望した瞳に、銀の虹彩が無い。
「・・・・レン?」
違う、これはレンじゃない。
本能で分かる。
レンの姿をしているが、これは別人だ。
「侯?・・・・久しいな」
「・・・・ヨシタカ」
「あぁ。よく似ているが、我が君ではないな。レンの伴侶だな?」
「そうだ。レンは・・・レンはどこだ?」
ヨシタカは優雅に胸に手を当てると、瞼を閉じた。
「レンはここに居る。すまぬが少しの間だけ体を借りるぞ」
「何をする気だ?」
ヨシタカの唇が弧を描き、潤んだ瞳が細められた。
「ネサルと話がしたい」
ネサル?
ヴァラクに乗っ取られた、大公か?
「ヨシタカ!!」
声の主はヴァラクだった。
「ヨシタカ!!貴方を呼び戻したのは私だ!!私と共に来い!!」
爆発で吹き飛ばされたヴァラクの顔は、右半分の皮が剥がれ、中に詰め込まれた瘴気が蠢いている。
足を引き摺り、ぎこちなく近付いてくるヴァラクは、顔だけではなく、体中の至る所から瘴気が漏れ出ていた。
「ヨシタカ!!聞いているのか?!貴方は私の物だ!!」
激昂するヴァラクを、ヨシタカは静かに見つめている。
見つめ合うヴァラクとヨシタカの間に沈黙が流れた。
その沈黙を破ったのは、2人とは違う歓喜の声だった。
「オルフィー!!」
「ああ!! マシュー!!」
マークとロロシュの、息を呑む音が聞こえる。
聞きたくなかった。
お願いだ。
やめてくれ!!
このまま何も言わず、亡骸を抱え静かに消えてくれたら、見逃すことも出来たのに!!
呼吸が浅くなり、カタカタと震える腕に、ヨシタカが優しく触れた。
「下ろしてたもれ」
静かだが、断固とした響きに俺は黙って従った。
「ネサル?」
「違う!!ヴァラクだ!!」
「ネサル聞こえるか?」
「違うと言っているだろう!!」
唾を飛ばし、激昂するヴァラクに構う事なく、ヨシタカは静かに語りかけた。
「ネサル。私が教えた極楽浄土の話を覚えているか?」
「うるさい!!やめろ!!」
ヴァラクは髪を掻き毟り、ヨシタカへなのか、内に抱えたネサルへなのか、黙れと叫び続けている。
その後ろから聞こえる啜り泣きを、ヨシタカに集中する事で頭から閉め出した。
「私と共に極楽へ行かないか?」
ヴァラクの髪を絡ませた指が、ピタリと止まった。
「ご・・・くら・・・・く?」
「そう。極楽浄土は無理でも、共にやり直せば良いだろう?」
「やり・・・な・・おす」
「のう。共に行こう其方と話したい事が沢山あるのだ」
「ヨ・・・シタカ・・・共に」
「ネサルよ。さぁ此方に来よ」
ヨシタカの腕が伸ばされると、ヴァラクの胸が芒と光り、弱々しく明滅する魂がヨシタカの手の中に飛んでいった。
ヨシタカは手の中の光を、愛おしそうに胸に押し当て、クレイオスに向き直った。
「クレイオス殿、お久しゅう」
『迎えが遅くなり、すまなんだ』
「いえ。こうしてネサルと相見えることが出来ました。これも仏のお導きかと」
『アウラの前では言うなよ?』
ヨシタカは指先を唇に当て、ふふ と嫋やかに笑った。
「それでは、アウラ殿の庭にて、お待ち申し上げます」
そう言うとレンの胸から、黄金色に輝く光が現れ、ネサルの魂を導くように登って行った。
その光は、岩の天井をすり抜け、空へと帰っていくのだろう。
クタリと力を無くした、レンの体を支え、腕の中に閉じ込めた。
もう二度と離すものか。
「ヨシタカ!!行くなっ!!」
ヴァラクがヨシタカの魂を追って、空を掴んだ。
残った左目から、真っ黒な涙が流れ、頬を染めている。
俺の腕にはレンが残り、ヴァラクには何も残らない。
「クソッ!!全てお前の所為だ!!お前さえ居なければ、ヨシタカは私の物だった!!」
怒りに任せヴァラクは、俺に向け炎を放った。
しかしその炎は弱々しく、子供の放つ火球程度の威力しかなかった。
『もうやめよ』
火球を払ったのはクレイオスだった。
「クレイオス。お前が・・・お前が居なければ、アウラは!!この世界は!全てが!」
私の・俺の・僕の物だ!!
『もうよさんか!! それは其方の望みか?其方はいったい誰なのだ?!』
「僕は・・・私は・・・俺は」
“誰なんだ?!“
「あ・・・あぁ・・そんな・・・馬鹿な」
両手で頭を掴み、頽れて膝をつくヴァラクは、クレイオスによって存在の核を乱された。
存在の根幹を揺るがされたヴァラクは、個としての形を保てなくなりつつあるのか、体から瘴気がバラバラに解け、漏れ出して居る。
「イタタ・・・」
「レン?!」
「・・・アレク? 良かった無事ね?」
銀の虹彩が輝く黒い瞳が俺をみつめ、俺の頬を優しく撫でてくれた。
「レン・・・手首が」
「あぁ、これね。 もう酷いよねぇ。今治すから、ちょっとこのままでお願いします」
緊張感の無い顔でヘラりと笑ったレンは、自分の体に治癒を掛けた。
回復薬では煙を上げるだけだったレンの傷は、淡く光りながら、あっという間に治ってしまった。
「よかった」
ホッとする俺に、レンは「心配かけてごめんね」と謝った。
「俺の方こそ、守れずにすまなかった」
「じゃあ、おあいこって事で、この話は終わりにしましょうね?」と言い、番が俺の唇にキスをくれた。
「会いたかった」
「俺もだ」
額を合わせ、微笑み合う俺たちに、割って入ったのはロロシュだ。
「なぁ。毎回邪魔すんのもアレなんだけどよ。まだ終わってないだろ?」
ロロシュは個としての存在が崩れていくヴァラクと、愛しい人の亡骸だったモノを抱きしめ、蹲る2人に視線を向けた。
「アレクおろして?」
「いや。でも体が・・」
「約束したの。お願い」
やっと取り戻した番を、手放したくはなかったが、レンの声音に従わなければならない、何かを感じた。
床に降り立ったレンは、ゆっくりとヴァラクに近づいて行く。
その足下の影が揺れ、後ろに付き従った俺は、レンの体を引き戻した。
「アレク。大丈夫だから」
「しかし・・・・」
レンは俺の腕を軽く叩き、影から現れた者に歩み寄った。
「待たせてごめんね」
「いとしご これを」
影から現れたのは、ヨシタカの器、ヴァラクの傀儡だった。
傀儡は、レンの破邪の刀を恭しく捧げ持ち、レンに差し出した。
「どっちを先にするの?」
「ごしゅじんから ぼくは 私達は 従者だ。主人の最後を看取る責任がある」
「そう・・・・」
刀を受け取ったレンは、悲しそうに肩を振るわせた。
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