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ヴァラクという悪魔

義孝と蓮1

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 side・レン


「なんで・・・・レン・・・やくそく」
「・・・・が・・のぞむ・・・」
「すきに・・ば・・とり・・・・」


 誰か喧嘩してる?

 アレクさんとクレイオス様?

 さむい・・・。
 アレクさん、どこ・・・・?

「んっ・・・ん~~っ」

 う~~、頭痛い。

 こんなの、お見合いを断られて、ヤベちゃんとやけ酒した次の日みたいです。

 背中もぞくぞくするし、風邪ひいたのかな。

 背中と肩が痛い・・・・・

 そりゃあ、こんなとこで寝てたら、体中痛く・・・な・・る?

「ここどこ?!・・・・あっ、いたたた」

 急に起き上がった所為で、頭がガンガンします。

 低い天井に、手に触れるのは冷たくて硬い床。
 毛布の一枚も無い、こんなところで寝ていたら、体中が痛くても当たり前です。

 それにしても、ここは何処でしょう?

 私が寝ていたのは、多分これ・・・檻の中ですよね?

 天井も低いし、四方が鉄柵で囲まれています。

 ヴァラクの城で、アレクさんを助けようとして・・・逆に捕まっちゃったのは覚えていますが・・・・。

 捕虜の身で、ふかふかベットを要求するほど、図々しくはないけれど、さすがにこれは酷くない?

 牢屋ですらないなんて、私は珍獣ですか?!

「はあ~~~足手まといの珍獣とか・・・へこむわぁ」

 アレクさん大丈夫かなぁ。
 様子も変だったし・・・・。
 きっとクレイオス様が、なんとかしてくれて居るはず!
 無事でいてくれるよね?

 だけど、クレイオス様も、瘴気に捕まっちゃってたし、ヴァラクはアレクさんのことを ”贄”って言ってた。

 あの後みんなはどうなったんだろう。

 魔法、発動しちゃったかな?

 アレクさんに、みんなに何かあったらどうしよう。

 あ~もうヤダ。

 今度こそって、張り切っても、結局みんなの役に立てなくて、おまけに捕まっちゃうなんて。

 ほんと、最悪。
 私、何回捕まってるのよ。
 ただの役立たずじゃない。

 ダメだ。
 思考がネガティブになってます。
 こういう時は、無理にでもポジティブなことを考えなくちゃ。

「大丈夫。みんなは絶対無事だから」

 言霊って大事。
 おばあちゃんも言ってた。
 良い事も悪い事も、言葉にしたらその通りになるって。

 アレクさんが無事なら、絶対助けに来てくれる。

 でも、アレクさんにも、みんなにも迷惑かけるだけで、ただ待っているだけって、どうなのかしら?

 この檻を壊して、自力で脱出とか無理かな?

 バチンッ!!

「いったっ!」

 強度はどんなものかと、鉄柵に指を伸ばしたら、結界に弾かれてしまいました。

 そりゃそうですよね。

 ここは剣と魔法の世界なのだから、敵を捕まえたら、私だって同じことをするでしょう。

 結界に弾かれて、赤くなった指を撫でていると、ふと手首のバングルに目が留まりました。

 そうだっ!
 普段使う事が無いから忘れていたけど、このバングル、リリーシュ様特製の魔道具だった。

 このバングルは、対のバングルを着けている相手が、命の危機に晒されると、強制的に相手の所へ転移する仕組みになっているのよね?

 その仕組みが発動していないってことは、アレクさんが無事だってこと。

 詳しい状態は分からないけれど、少なくとも命に別状はないっ!

「あとは、石に魔力を流せば・・・・」

 このバングルのもう一つの機能は、対のバングルがある場所が分かること。
 手首の上に開いた地図の、黒い点がアレクさんで、赤い点が私・・・・・えっ?

「私、皇都に居る?」

 ちょっと待って。
 深呼吸して一旦落ち着こう。

「す~~ふぁ~~」

 ヨシッ。

 アレクさんが居るのは・・・アミー?
 マイオールじゃないんだ・・神殿に行ったのかな?

 私が居るのが、皇都の真ん中あたり。

 と言う事は、ここは皇宮とか大神殿の近く?

 見える範囲に窓は無いから、目印になる様な物とかも分からない。

 この地図、もっっと拡大出来ないの?

 一見便利そうで、使いにくいなあ。
 
 大体相手が死に掛けたら強制転移って、そうなる前に助けに行けなくちゃ、意味がないのでは?

 ハリー様大好きな、リリーシュ様にしては、迂闊というか・・・・。

 まぁ、現在地が分かっても、檻から出られなければ、どうにも出来ないのよね。

 でもヴァラクは何故、私を皇都に連れて来たんだろう。
 
 皇都はアウラ様の加護が残っているから、魔法陣の魔力は集まり難いはずでしょ?

 マイオールのお城を壊されたから、ってだけじゃないだろうし・・・・。

 発動された魔法の効果を見に来たとか?

 あの人なら、それも有りな感じだけど、普通に考えたら、わざわざこんな遠くまで来るのなら、何かやることが有る、と思うのだけれど・・・。

 ダメだ。頭が痛過ぎて集中できない。

 相変わらず頭痛は酷いけど、硬い床に横になる気にもなれず、狭い檻は立ち上がることも出来ないから、膝を抱えた私は、地図に示めされたアレクさんの印をじっと見つめて居ました。

 外がどうなっているのか、全く分からないけれど、この印が映し出されている間は、アレクさんが無事だって事が分かるから。

 今はアレクさんの無事・・・というか生存確認が出来ただけでも良かった。

 どれくらい時間が経ったのかよく分からないけれど、人の気配を感じた私は、慌ててバングルの地図を消し、素知らぬ顔で近づいてくる人物の方に向き直りました。

「起きたな。ご機嫌いかがかな?」

 ヴァラクとヨシタカ様のフリをした、操り人形の二人。

「・・・・・」

「返事もしないのか?」

 檻が小さいから、ヴァラクも膝を折ってこちらを覗き込んでいますけど、こんなところに閉じ込めた相手と、話したくはありません。

 でも、今はなんでも良いから情報が欲しい。

「・・・・寒くて、頭が痛いんです。こんなとこに閉じ込められて、気分は最悪です」
 
 出来るだけ弱々しく見えるように、床を見つめたまま言葉を返すと、ヴァラクは満足気に喉の奥で笑いました。

「それは気が付かなかった。獣の番なら扱いは獣と同じで良いと思ったんだが、違って居たようだ」

 本当に、嫌味っぽくて嫌な人です。

「そうですか。用がないなら放って置いてください。喋るのもキツいので」
  
「それは困ったな」

 全然困った様には聞こえません。
 むしろ面白がっているじゃない。

「もう少し、愛し子には元気でいてもらわなければ」

 そう言うとヴァラクはヨシタカ様に、毛布と食事を持ってくるように命じました。

 ヨシタカ様の返事は聞こえませんでしたが、気配が去っていったので、何かとりに言ったのでしょう。

「お前の番だが、マイオールで死んだぞ」

「えっ?」

「聞こえなかったのか?お前の番とクレイオスは、魔法陣の贄になった、と言ったのだ」
 
「そんな・・・」

 アレクさんが生きていることに、ヴァラクは気づいていない?
 それとも、私を騙そうとしているのでしょうか?

 頭の中でグルグル考えているのを、ヴァラクは私がショックを受けたと勘違いしたようで、満足そうに、ニタリと笑いました。

「驚いた様だな。お前の助けは来ない。諦めて大人しくしていろ」

 どちらにしても、信じたフリをした方が良さそうです。

 私が抱えた膝に顔を埋めると、ヴァラクは 上機嫌で高笑いを上げながら去っていきました。

 どれだけ拗らせたら、あんなに性格が悪くなるのかしら。

 いい加減、他人のせいにしてないで、モテないのは、その性格のせいだって気付けばいいのに。

 私は霊能者じゃ無いから、怨霊相手に説得なんて出来無いのよね。
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