獣人騎士団長の愛は、重くて甘い

こむぎダック

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ヴァラクという悪魔

ヴァラクの世界3

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「幻惑魔法?」

 幻を見せられてるってこと?

「感覚を狂わせて、空間認識を阻害しているのだろう」

「なるほど・・・じゃあ、ずっと同じところをグルグル回ってたりするのかな?」

「無いとは言えんな」

 堪えきれずに、フッサフサの指の毛を指先で撫でると、くすぐったいのかアレクさんの手がグーパーしていて。

 思わずフフってなります。

『どれ、我も愛し子の前で良いところをみせるか。其方達、耳を塞いでおれ』

 言うや否や、ブオーッ と勢いよく空気を吸い込んだクレイオス様が、一拍置いて 「グガオーーーーーッ!!」と雄叫びをあげました。

 クレイオス様の魔力を乗せた咆哮は、ビリビリと空気を震わせ、耳を塞ぐのが遅れていたら鼓膜が破けていたかも。

 そしてクレイオス様の魔力に私の胸の中の魔力核が振動し、体中が熱く燃え上がる様です。
 
 これは私の体が、アウラ様の手で創られた物だから、体の中のアウラ様の力の残滓が反応して居るのでしょうか。

 クレイオス様が発した咆哮の残響が、空気の中に溶けて消えると、多分直径で1kmくらいだと思うのですが、クレイオス様を中心に、地上で蠢いていた魔物達が円形に消し飛ばされていました。

 それはもう本当に綺麗さっぱり、一片の欠片も無くです。

 まるで魔物と言う麦畑に突如現れたミスリーサークルみたい。

 地上の魔物が全ていなくなったわけでは無いけれど、それでも凄い威力です。

 フェニックスは居ないけど、バハムートはここに居たんですね。

 さすが神の眷属、創世のドラゴンと感心していると、クレイオス様も満足げに ブフォ と鼻を鳴らしています。

『どうだ、レンよ。少しは我を見直したか?』

 完全にご満悦のご様子ですね?

 でも、これほど強い方が、何故ヴァラクに後れを取ったのでしょう。
 それほどヴァラクの力は強かったのでしょうか?

『ほれ。我が幻惑魔法を消した故、あそこにヴァラクの城が見える』

 たしかに、今まで何も魔物以外何も見えなかったところに、真っ黒なお城が見えます。

「あそこに、ヴァラクが?」

『居るだろうな。我の力もなかなかの物であろう?』

 なんでしょう。
 これは、褒めて欲しいって事でしょうか?
 やれば出来る子、的な?

「ハハ。流石エンシェント・ドラゴン。凄いですね」

『そうであろう? であれば、これからは我の事は “父様” と呼ぶが良い』

「はぁ」

 天幕でも同じ様なこと言ってたけど、アウラ様と子供作れば良いのに。

「おい!巫山戯るのも大概にしろよ。あんたレンの父親じゃ無いだろう!」

『アウラの愛し子なら、我の子でもよかろう?それに人も養子をとるであろうが!』
 
 “あんたは巫山戯すぎなんだ!”
 “其方が陰気過ぎるのだ!”
 “レンは俺の番だぞ!!あんたの子じゃない!!” 
 “我が気に入ったのだ。子にしてもよかろう?!”
 
 とかなんとか、何故か二人が喧嘩を始めてしまいました。

 マークさん達も、呆気に取られて口開けっ放しですよ?
 
 なんで、喧嘩してるの?!
 喧嘩する要素が何処にあるのか、全然分かりません。
 
 クレイオス様は人の姿の時は、スンってしてたのに、元の姿に戻ったら、子供みたいじゃないですか。

 普段アレクさんだって、そんなに感情的になる人じゃ無いのに、こんなつまらないことでムキになって・・・・。

 これは、あれですか?
 喧嘩するほど仲がいい、とか?

 でも、これから最終決戦ですよね?
 このダルダルな感じは、頂けないと言うか、緊張感って大事だと思うのですけど?

「あのっ! 今ってそれどころじゃ無いですよね?! 喧嘩する前に、やる事ありますよね?!」

『おぉ!そうであったな。 其方の父が露払いをしてやる故、良く見ておくのだぞ?』

「まだ言うか?!」

「アレク、めっ!! 喧嘩しないの!」

 人型のクレイオス様は感情が全く読めなかったけれど、今はアレクさんが私に止められて、ホクホクして居るのが伝わってきます。

 神様の考える事って、私たちとずれて居るのは分かるのですが、今も外では騎士さん達が戦ってるんです。なんでも良いから早くして頂きたいです。

 私は、ジリジリと焦って居るのですが、クレイオス様は、アレクさんとの口喧嘩でさえ楽しんでいるというか・・・。
 
 思う所は多々ありますが、先に進むことの方が大事です。

 露払いをしてくれると言うなら、それに越したことはないので、ガルガルと喉を鳴らすアレクさんを、どうどう と宥めて、クレイオス様がすることを黙って見守ることにします。

 咆哮を放った時と同じように、クレイオス様の胸がグッっと膨らみ、首が後ろに反らされたのを見て、私は両手で耳をを塞ぎました。

 ですが、轟音と共にクレイオス様が放ったのは、咆哮ではなく・・・・。

「・・・ブレス・・・」

「・・・これが?」

 ドラゴンブレスの攻撃力が凄まじいとは聞いていましたが、これはその範疇を超えるというか・・・・・。

 クレイオス様の口から放たれたブレスは、さっきの咆哮で出来た、ミステリーサークルの端から一直線に、ヴァラクの黒いお城に向かって行きました。

 ブレスに晒された魔物達は、一瞬で焼き尽くされ、残された灰が塵のように風に吹き上げられて何処かに飛んで行ってしまいました。
 
 そしてブレスの直撃を受けた黒城は、かけられた結界ごと、城の上部と立ち並んだ尖塔が吹き飛ばされ、その瓦礫さえ蒸発してしまいました。

 アレクさんは山を吹き飛ばしたって聞いたけど、本気で喧嘩したら、どっちが強いのかしら?

 興味はあるけど、喧嘩はダメですよね?
 
「なあ。これ中にいた奴、生きてっか?」

 ロロシュさん、それ。
 私も思いました。

『なに。陣は地下であろう? 正面から突っ込んでも、魔物に囲まれるだけだ。それにこの方が、我も降りやすいのでな?』

 そう言う基準なんですか?
 いやいや。
 上から降りて行っても、魔物は居ると思いますよ?

「なんでもいい。さっさと行くぞ」

『其方、運んでもらっている認識は有るか?』

「誰に尻拭いをさせて居るか、認識は有るのか?」

『ふん。言いたい放題だの?本当に可愛く無い奴だ』

「お互い様だ」

「はい!喧嘩しない!」

 なんで、こんなに仲が悪いの?

「クレイオス様。あそこの広間にみたいな所に連れて行って下さい」

『愛し子の言う通りにしような』

 何これ。
 デレてる?
 なんだか、クレイオス様の様子がおかしい気がする。

 クレイオス様の言動に疑問は残りますが、取り敢えずお願いした、お城の広間だったらしき場所まで連れて来て貰えました。

 アレクさんは、クレイオス様が着地する前に、私を抱えて背中から飛び降りて、髭をヒクヒクさせて辺りを警戒しています。

 クレイオス様の足が広間の床に着くと、ロロシュさん達も背中から次々に飛び降りて、クレイオス様も人型に戻っています。

「お巫山戯はここまでだ。行くぞ」

 う~ん。
 この先、戦闘必須なのに、やっぱり降ろしてもらえないのね?
 刀を二振り佩いて居るから、結構重いし、邪魔だと思うんだけどな・・・・。

 なんて、心配をした時も有りました。

 私の心配なんてどこ吹く風。
 唯でさえ強いのに、獣化したみんなの強さは、尋常ではありませんでした。

 魔力も力も、反射速度も、普段の倍以上じゃないでしょうか? 

 だって、全然目で追えません。

 “千切っては投げ” って言葉がピッタリな人達を、初めて見ました。

 気付いたら、累々たる屍の山ですよ?

 そんなこんなで、あっという間に目当ての地下に到達してしまいました。

 地下の最奥。
 魔法陣が有ると思しき部屋の、巨大な鉄の扉が眼前に立ち塞がって、中から漂ってくるのは、瘴気と生き物の腐敗する臭い。

 この中に、ヴァラクが、怨敵が居る。
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