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ヴァラクという悪魔

クレイオスは、かく語りき2

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 side・レン


 クレイオス様には驚かされっぱなしです。

 まず本体が、おじいちゃんの家と同じくらいの大きさだなんて・・・・。

 ドラゴンが大きいとは聞いていましたが、最早恐竜か怪獣並みの大きさですよ?

 クーちゃんもあんなに、大きくなっちゃうの?
 今くらいで成長が止まってくれたらいいのに・・・。

 それに巨大なクレイオス様が、人化するとは・・・古代ギリシャっぽい、ファンタジー漫画で、いかにも神様が着そうなヒラヒラな衣装を身に纏った、精悍な超絶イケメンと来たら、さすが剣と魔法のファンタジー系BLワールドと納得するしかありません。

  そう、納得は出来ます。
 こちらに来て、多少免疫も出来たし、美形にも目が慣れてきました。
 でも違う系統の美形の登場で、馴れていない目には眩し過ぎて目が潰れそうです。

 そんな煌びやかなクレイオス様が、これまた低音の良い声で “ヴァラクが世界を手に入れたがったのは、アウラを手に入れる為の方便にすぎん。 だが、幾らヴァラクが欲したところで、あれは我の物だからな。想いが叶うことなど無かろう” と爆弾発言をぶっ込んできましたよ?

 マジですか?

 この世界の人々が苦しんでいる原因が、アウラ様への横恋慕・・・・。

 これは、アウラ様も制約で言えないのじゃなくて、言いたく無かっただけなんじゃないかなぁ?

 ”私がモテ過ぎちゃって、みんなには迷惑かけるけど、ごめんね“  キラン!!

 なんて言われたら、思わずぶっとばしたくなりますもんね。

 まぁ、私のイメージが悪過ぎなだけで、アウラ様がそんな言い方しないのは分かってるんですよ?

 でも、つい最近まで、年齢=彼氏いない歴の陰キャの喪女にとって、モテモテ陽キャ女子って、こんなイメージだったりするのですよ。

 職場のあざと女子にこんな感じで "デートなの,よろしくねー" って、よく仕事を押し付けられたな。

 クッ。不毛な残業の日々の記憶が・・・ 
 断れない私がいけないのだけれど
 あれは辛かった。

 アウラ様が、あちらの文化がお好きなのは知っていますけど、何も執着系ドロドロBLを地で行く必要はないと思うのだけど・・。

 アウラ様は執着する側ではなく、される側なので、不可抗力と言うか、アウラ様も被害者なのですけど、神様パワーで、そこはどうにか回避できなかったのかしら?

 クレイオス様だって “幾らヴァラクが欲したところで、あれは我の物だからな” なんて、キャーッ!! なヤベちゃん垂涎の萌え発言をサラッと言うくらいなら、ヴァラクなんてさっさと蹴散らしちゃえば良かったのに。

 そうすれば、みんなが困ることなんて、何もなかったんですよ?

 久遠を揺蕩い悠久を生きる存在だからって、鷹揚と言うか呑気過ぎない?

 確かに、嫋やかなアウラ様と、精悍なクレイオス様はとってもお似合いで、お二人の隣に別の人がいるところなんて想像できないけれど、それとこれとは話しが違いますよね?
 
 “彼奴の執着は、そんな物では語れん。オスの嫉妬とは恐ろしいものよ。お陰で我は千年の永きに渡り、石化された上に、魂まで封印される始末だ”
 って仰るくらいだから、ちょっとは反省しているのかな?

 クレイオス様の爆弾発言のお陰で、眠気も吹き飛んで、後に続く話には集中できそうです。

『創世以来アウラが地上に降りたのは、仲裁の契約の刻の一度きりだ。彼奴はその折にアウラを見初めたのだ。ヴァラクはその場でアウラに求愛しおってな。我がいる前でだぞ?あの時に、彼奴の思い込みと、執着の激しさに気付くべきであった』

「求愛されたアウラ神は、どうされたのです?」

『どうもせんよ。我らにとってヴァラクなど赤子と変わらぬ。彼奴にとっては初恋だったのやも知れぬが、我らからすれば流行病に罹った子供のようなもの。アウラは歯牙にもかけなんだ』

「まぁ、そうでしょうね」

 アレクさんも頷いているけど、ほんとうにね。
 神様に憧れを抱いても、恋をする人って居るのかしら?
 教会のシスターだって、イエス様を男性として愛したりしないでしょうし・・・。
 でもギリシャ神話だと、子供を作ったりするのよね?
 神様と人間の恋愛もアリなのかな?

『我らとて、遊んで暮らしているわけでは無いのだ。我らの使命は、アウラと我で創り出したこの世界を発展させることだ。この星ばかりに関わってもおられん』

「この星?」

 アレクさんが怪訝そうにしています。
 それはそうでしょう。
 未知との遭遇なんて、何万年も先の話かも知れないのだから。

「クレイオス様?ここにはまだ、宇宙の概念は無いみたいですよ?」

『おお、そうであった。今のは忘れてくれ』

 いやいや。忘れるのは無理があるかと。
 
『・・・アウラが創り出した人の世は、此処だけでは無いということだ。それでも此処は我らが最初に創り出した場所なのだ。思い入れも1番強い』

 ほらもう!
 余計なことを言うから、皆んな困った顔に成ってるじゃないですか。

『とにかく我らは、ヴァラクのことなど忘れていたのだ。それが気付けば彼奴は契約を破って地上に舞い戻り、暴虐の限りを尽くしていた。とにかくアウラの気を引きたかったのだろう』

「子供の癇癪か?」

 子供っぽくて、やることがサイコパスなんて、最悪じゃない。

『その通りだ。彼奴は甘やかされた王子であったからな。思い通りにならぬ物など無いと考えていたようだ。契約を重く見ていたアザエルと第一王子には、我が創った武器を渡してヴァラクを打たせたのだ。人の物に図々しくも手を出そうとする子供には、仕置きが必要であろう?』

「まあ、そうだな。だが失敗したのだろう?」

『・・・其方は遠慮がないの』

「あなた方の失敗のおかげで、迷惑を被っていますから」

『ぐうの音も出んな。我とて出来うることはしたのだぞ? だが我が動くほどに、彼奴の嫉妬心が執着を強くするのだ。問答無用で彼奴の魂を消し去ってしまえば良かったのだが、輪廻の輪に戻らねば、魂はいずれ消滅する。アウラも慈悲が必要だと言ってな』

「慈悲というより、後ろめたかったからなのでは?」

 アレクさん、クレイオス様相手に辛口すぎませんか?
 マークさん達も顔が引き攣ったますよ?

『本当に其方は遠慮がないの! だが其方の云う通りだ。あれは優しすぎるのだ。その優しさが弱さでもあるな』

「過ぎたことは、もうどうでもいい。レンに関わりがある事とは何なのだ?」

『我のアウラへの執着を引き継いだとはいえ、番の事となると獣人とはせっかちなものだな』

「御託はいいから、本題に入ってくれ」

 アレクさん、もうちょっと穏便にね?

『まったく・・・・アウラを手に入れられず、復讐心がばかりが増し、他人の体を渡り歩いたヴァラクは、執着の対象がアウラから愛し子へと変わっていったのだ。愛し子は彼奴の企てた厄災の被害を最小限に留める、邪魔な存在だからな』

「邪魔者を排除するために、ヨシタカを欲したと?」

『それが分からんのだ』

「分からない?」

『当時ヴァラクは、この国を手中に収めることが出来る地位に居た。にも関わらず、彼奴は王位を簒奪する事もなく、ヨシタカに危害を加えるどころか、マイオール公家に嫁ぐヨシタカを止めもせなんだ。無駄だと分かっていながら、ヨシタカは我の石化を解く為に、嫁いだ後もここに何度も足を運んでくれてな。ヴァラクの器だった者の事も、良い人だと評していた』

「厄災の元凶をか?」

「あの、ヨシタカ様とヴァラクが仲良しだったって事ですか?」

『とても仲が良かったようだぞ? あの時のヴァラクの器はネサルと言って王弟だった。飢饉に喘ぐ民への助力も惜しまなんだそうだ』

「それって、自作自演的な?ヨシタカ様に近づく口実だったとか?」

『どうであろうな?我に人の心は分からぬ。知っているのはヨシタカの死後ヴァラクがヨシタカの墓を暴き、亡骸も持ち去ったことだけだ』

「お墓を暴いた?」

 驚いてアレクさんを見上げると、アレクさんも思い当たる節がある様で ”あれがヨシタカだったのか“ とボソリと呟いていました。

『ヴァラクの想いが如何であれ、ヨシタカの招来後、我を封印に来るまでは、彼奴も力が弱り始めていたし、目立った動きをせなんだようだ。彼奴が消えば、我の石化も自動で解ける。彼奴がヨシタカを如何したのか分からぬ以上、新たな愛し子へ彼奴が何をするか想像ができん。故に愛し子の招来を控える様、アウラに伝えさせたのだ』

 何と云うか・・・ヴァラクって、もしかしたら、本気でヨシタカ様のことが好きだったんじゃないでしょうか。

 アウラ様への気持ちが流行病だとしても、やってることは怖いけど、亡骸を持ち去るくらい、ヨシタカ様を愛していたのかもしれません。

「くだらん」

 頭の上から、聞いたことがない低い声がひびいてきました。

 もしやアレクさん激オコなのでは?
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