獣人騎士団長の愛は、重くて甘い

こむぎダック

文字の大きさ
上 下
176 / 601
ヴァラクという悪魔

竜の遊び場・クレイオス神殿

しおりを挟む
 翌朝俺達は、4個中隊と共に森へ向かった。

 その内2個中隊は森の内外の警戒に当たらせ、1個中隊は神殿へのポータルの警備、残る1個中隊は、万が一の為に神殿へ同行させる。

 神殿に繋がる岩壁の前で、俺が懐からポータルの鍵を取り出すとロロシュがそれに食いついた。

「いつの間に、鍵なんて手に入れてんだよ?」

「お前もその場に居たろ?」

 ロロシュは覚えていないのか、首を傾げている。

「庭園で見つかった遺体が持っていた、とモルローが報告に来ただろう」

「あ~っ!あの時か!!」

「あの遺体は、当時行方不明になった村の若者だろう。ヴィンター家の捜索にも加わって居たはずだ。森で一家を見つけた時に、遺品から盗んだのだろうな。だが神殿の中には入れたが出る事は出来なかった」

「なるほど・・・つ~か奥の院が開いたのも、それの所為じゃねぇか?血筋じゃなくてよ」

「どっちでも良いだろう?」

「まぁそうだけどよ」

 “ロロシュさん、なんかムキになってませんか?”

 不満気なロロシュをレンが不思議そうに見て、口の端に掌を当ててヒソヒソと聞いて来た。

 “自分が解錠出来なかったから、悔しいのじゃないか?”

 “えぇ~? そんな大人気ない”

「おーい。聞こえてるぞ~」

 レンは悪戯が見つかった子供のように、ペロっと舌を出して肩を竦めて見せた。

 たまに見せる、こう言う子供っぽい仕草に、レンのいた世界が平和だったのだ、と感じられ、招来されたのが殺伐としたこの国だった事が申し訳なく、後ろめたい気分になる。

「・・・ポータルを開くぞ」

 ポータルの機動部に鍵を当て、焚き火に火をおこす程度のわずかな魔力を流すと、カチリと何かが嵌る音と共に、岩壁に魔法陣が浮かび上がり、神殿へ繋がるポータルが開いた。

 どうやら正規の手順を踏むと、ここの主人は来訪者を歓迎してくれるらしい。

 マークやロロシュ、ここを通った経験がある者は皆そう思った事だろう。
 
 無理に道を開いたポータルは、白から群青へ色を変え、深淵に飲み込まれるような感覚を持ったが、今のポータルは、穀物の穂先が陽光で煌めくような黄金色に輝いている。

「さあ、ここを通れば神殿だ」

 差し出した手をとったレンは、物珍し気にポータルを眺めている。

「ふぁぁ。大きなポータルですね。これならクーちゃんも楽に通れますね?」

 そう言ってレンはドラゴンを呼んで、右手で俺、左手でドラゴンの手を取って上機嫌でポータルに足を向けた。

 “あんなデカイのに挟まれると、デコボコすぎて、ちびっ子が余計子供みたく見えるな”

 “やめなさい。またレン様に怒られますよ!”

 後ろの二人の会話はレンにも聞こえたのだろう、小さな舌打ちの音が聞こえて、ボソボソと ”ロロシュさんの鼻毛が3倍速で伸びますように。キスする時マークさんにドン引きされますように“ と地味に酷い願掛けをしていた。

 ふむ・・鼻毛か・・・確かに間抜けだな?
 俺も気をつけよう。

 ポータルを抜けた神殿の庭園は、変わる事なく別世界の穏やかさだった。

 咲き乱れる花々に蝶が舞い、小鳥の囀りが聞こえてくる。
 
 その美しさにレンは瞳を輝かせ、ドラゴンを撫でながら、感嘆の溜息を漏らしている。

「話には聞いて居ましたが、綺麗なところですねぇ」

「気に入ったか?」

「はい! 大神殿も整備された綺麗な建物でしたけど、私はこういうイングリッシュガーデン風に、自然の中に溶け込んだ感じの方が好きです」

「そうか」
 
 では、自領の屋敷の庭も、その様に造り替えさせるとしよう。

 いや面倒事が片付いたら、さっさと引退して、二人で屋敷の庭弄りも良いかもしれん。

 自分たちで整えた庭で、レンとのんびりティータイム。
 なかなか楽しそうじゃないか?

「神殿の前までは、ブルーベルに乗って10ミン程だ」

「歩いたら?」

「レンの足だと4、50ミンくらいか?」

「じゃあ、のんびりお散歩は、次の機会にしましょうね?」

「そうだな。次は二人だけで来よう」

「うふふ。楽しみが出来ました」

 本当に楽しみだ。
 
 なんの憂もなく、レンと散歩を楽しめる日が、一日でも早く来ると良い。


 ◇◇


「ふわあ~~~?」

 クワアアーーーー?

 神殿の前に着くと、レンとドラゴンは揃って口を開け、石化したクレイオスを見上げていた。

「これがクレイオス様?こんなに大きいの? 怪獣みたい」

 かいじゅう?
 レンの世界にも、こんなに大きな生き物がいたのか。

「エンシェント・ドラゴンだからな?」

「クーちゃんも、こんなに大きくなる?」

「どうかな。文献にはドラゴンにも種類があると記されているが、詳しいことは分からん。確実に分かるのは、クーがワイバーンや火竜よりもデカくなる事ぐらいだな」

「それってどのくらい?」

「クレイオスの3分の1から2くらいか?」

「充分、怪獣並みなのね」と、なぜか残念そうだ。

「どうした?」

「そんなに大きくなっちゃったら、宮で飼えないでしょ?」

「あ~。そう言う・・・なら俺の領に連れて行けばいい。あそこなら無駄に土地が余っているからな」
 
「ほんとう? いいの?」

「ああ。問題ない」

 俺の大公領は土地は広いが、山野に畑と葡萄棚しかないど田舎だ。

 ドラゴンの一匹や2匹、住み着いたところでなんの問題もない。

 やはり、さっさと引退して、自領に引っ込んだほうが良さそうだ。

 ウィリアムは、ドラゴンとヨルムガンドを戦力と考えているが、強すぎる力はいつか脅威に変わり、破滅を招く。

 ウィリアムも、グリフォンあたりで満足するべきだ。

 ドラゴンやヨルムガンドは、俺たちよりずっと永い刻を生きる。

 すっかり情が移ってしまったレンやマークに、こんな話はしたくはないが、別れの刻は必ずやって来る。
 その別れの後,クーとライルがどうなるのか・・・。
 あまり想像はしたくないな。

 俺の心情を分かっているのかいないのか、レンとマークは、石化したクレイオスの周りを歩きながら、その姿を観察? 鑑賞している。

 石像を見るマークの目つきが少し・・・いや、かなり怪しい。

 彫刻ではなかったことが、残念で仕方が無いのだと解って居ても、血に刻まれた情熱というものは、側から見ると一種異様だな。

 ロロシュもマークを満足させるのは、骨が折れるだろうな。

 まぁ、メリオネス公爵家の財力なら問題ないか。

「レン?」

 声を掛けると子犬のように、目をキラキラさせて駆け寄って来るとか・・・その可愛さは反則だろ?

「なんですか?」

「いや・・・・すぐに始めるか?」

「いえ。先にアウラ様にご挨拶したいです」

「では、礼拝堂に・・・」

「あの! 出来れば洗礼の間が良いのですが」

 招来した場所が見たいのか?

「分かった・・・マーク洗礼の間に行ってくる。その間クーを頼む」

「了解。クーは・・・石像の足元から離れませんね。問題ないと思いますよ?」

「・・・お前・・・ライルを連れてきたのか?」

 マークの団服の襟元から、蛇が顔を覗かせている。
 服の中に蛇を忍ばせるとは・・・・。
 何か変な趣味に目覚めたのか?

「私とロロシュが、世話を任されて居ますから」

 さも愛しそうに頭を撫でているが、俺には理解できんな。

 ライルがいかに可愛い存在か、とマークが論じ始め、背中に嫌な汗が流れた。
 
 マークは自分の趣味の話を始めると止まらなくなる。
 レンはそれを ”おたく気質“ と呼んでいるが、俺は興味のない物への高説を聞く気は無い。

「後を頼むぞ」
 
 急いでレンを抱き上げ、礼拝殿裏手にある奥の院へ、俺は逃げることにした。

 優れた将というものは、引き時を知っているものだからな。
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】 ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る―― ※他サイトでも投稿中

腹黒宰相との白い結婚

恋愛
大嫌いな腹黒宰相ロイドと結婚する羽目になったランメリアは、条件をつきつけた――これは白い結婚であること。代わりに側妻を娶るも愛人を作るも好きにすればいい。そう決めたはずだったのだが、なぜか、周囲が全力で溝を埋めてくる。

皇帝の番~2度目の人生謳歌します!~

saku
恋愛
竜人族が治める国で、生まれたルミエールは前世の記憶を持っていた。 前世では、一国の姫として生まれた。両親に愛されずに育った。 国が戦で負けた後、敵だった竜人に自分の番だと言われ。遠く離れたこの国へと連れてこられ、婚約したのだ……。 自分に優しく接してくれる婚約者を、直ぐに大好きになった。その婚約者は、竜人族が治めている帝国の皇帝だった。 幸せな日々が続くと思っていたある日、婚約者である皇帝と一人の令嬢との密会を噂で知ってしまい、裏切られた悲しさでどんどんと痩せ細り死んでしまった……。 自分が死んでしまった後、婚約者である皇帝は何十年もの間深い眠りについていると知った。 前世の記憶を持っているルミエールが、皇帝が眠っている王都に足を踏み入れた時、止まっていた歯車が動き出す……。 ※小説家になろう様でも公開しています

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

嫌われ女騎士は塩対応だった堅物騎士様と蜜愛中! 愚者の花道

Canaan
恋愛
旧題:愚者の花道 周囲からの風当たりは強いが、逞しく生きている平民あがりの女騎士ヘザー。ある時、とんでもない痴態を高慢エリート男ヒューイに目撃されてしまう。しかも、新しい配属先には自分の上官としてそのヒューイがいた……。 女子力低い残念ヒロインが、超感じ悪い堅物男の調子をだんだん狂わせていくお話。 ※シリーズ「愚者たちの物語 その2」※

苦手な王太子殿下に脅されて(偽装)婚約しただけなのに

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
王女クローディアの補佐官として働くシェリルは、突然、王太子イライアスに呼び出され、いきなり「俺と結婚をしろ」と命じられる。 二十歳を過ぎたイライアスは、一年以内に自力で結婚相手を見つけなければ、国王が選んだ相手と強制的に結婚させられるらしい。 シェリルとしてはそこに何が問題あるのかさっぱりわからないが、どうやら彼はまだ結婚をしたくない様子。 だからそれを回避するために、手ごろなシェリルを結婚相手として選んだだけにすぎない。 これは国王を欺くための(偽装)婚約となるはずだったのに――。 学生時代から彼女に思いを寄せ続けた結果それをこじらせている王太子と、彼の近くにいるのが苦手で、できることなら仕事上の必要最小限のお付き合いにしたいと思っている女性補佐官のラブコメディ。

転生した世界のイケメンが怖い

祐月
恋愛
わたしの通う学院では、近頃毎日のように喜劇が繰り広げられている。 第二皇子殿下を含む学院で人気の美形子息達がこぞって一人の子爵令嬢に愛を囁き、殿下の婚約者の公爵令嬢が諌めては返り討ちにあうという、わたしにはどこかで見覚えのある光景だ。 わたし以外の皆が口を揃えて言う。彼らはものすごい美形だと。 でもわたしは彼らが怖い。 わたしの目には彼らは同じ人間には見えない。 彼らはどこからどう見ても、女児向けアニメキャラクターショーの着ぐるみだった。 2024/10/06 IF追加 小説を読もう!にも掲載しています。

婚約者の本性を暴こうとメイドになったら溺愛されました!

柿崎まつる
恋愛
世継ぎの王女アリスには完璧な婚約者がいる。侯爵家次男のグラシアンだ。容姿端麗・文武両道。名声を求めず、穏やかで他人に優しい。アリスにも紳士的に対応する。だが、完璧すぎる婚約者にかえって不信を覚えたアリスは、彼の本性を探るため侯爵家にメイドとして潜入する。2022eロマンスロイヤル大賞、コミック原作賞を受賞しました。

処理中です...