獣人騎士団長の愛は、重くて甘い

こむぎダック

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紫藤 蓮(シトウ レン)

ベビードラゴン

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「何処に逃げても同じなら、無駄に不安を煽る必要は無いのではないでしょうか」

 顎を摘んだ姿勢で口を開いたのマークさんですが、思案顔の立ち姿もお美しい。
 一週間見ない間に、益々美しさに磨きが掛かっていませんか?
 内側から光り輝いている様に見えます。
 
 これはあれですね。
 ロロシュさんと、上手く行っている証拠ですね?
 でも只でさえ美人さんなのに、こんなに綺麗になってしまったら、他の団員の皆さん達の、目の毒なのでは?

 なんとも罪作りなお人です。

 3人が真剣に今後の方針について話し合っている間、騎士団の采配になんの権限のない私は、薬湯を飲みながらイケメン3人を眺めて目の保養です。

 もちろん一番かっこいいのは、アレクさんですけどね?

 そこへドラゴンの赤ちゃんが、ふよふよと私の膝の上に飛んできました。

 この子は寝室からずっと私の後を追って来て、さっきまで日当たりの良い窓辺から外を眺めたり、コロコロと床を転がって遊んだりと、やる事がまるで羽の生えた猫ちゃんみたいです。

 遊び疲れたのか、器用に尻尾を抱えて丸くなった背中を撫でてあげたら、ぐるぐるとのどを鳴らしたりして、やっぱり猫ちゃんなんじゃないでしょうか?

 この子の中にクレイオス様の魂が入っているなんて、ちょっと想像できないです。

“今のクレイオスは、魂が眠っている状態だから、目を覚ますまでは普通のドラゴンの子供と同じだと思ってね” と、アウラ様は仰ってましたが、その普通のドラゴンがどんな物なのか知らないのですけど、大丈夫なのでしょうか。

 猫ちゃんみたいに顎を撫でちゃったりしてますが、私の所為でクレイオス様の性格が変わっちゃたりしませんか?

 覚醒した時に、黒歴史だって身悶えしたりしませんか?

”ドラゴンは吸収した魔力をエネルギーにするから食事は要らない、レンの魔力を分けてあげて“ とアウラ様は仰ってましたが、本当に何も食べないのかしら?

 試しにテーブルに用意されていたクッキーを、一枚とって鼻先に持って行ったら、パクッと一口で食べてしまいました。

「えっ! 食べるんだ?」
 
 しかも、おかわりを要求しています。
 これ、あげてもいいの?

「虫歯になっちゃうから、これで終わりですよ?」

 そんな、ウルウルした目で、キューン とか鳴いても駄目です。人間の食べ物は動物の体には害になるのです。

 めちゃくちゃ可愛くて胸が痛いです。
 でも、心を鬼にしなければ・・・。

「チッ!」

 アレクさん。今舌打ちした?

 嘘でしょ?

 この子ドラゴンですよ?
 アウラ様のドラゴンにまで嫉妬するの?

「ちびっ子。随分懐かれたなぁ」

「孵化して最初に見たのがレンだからな、親だと思っているのだろう」

 知らないうちに、刷り込み済み?
 でも、この子。
 中身はクレイオス様なんですよ?

 って言うか、親だと思ってるなら嫉妬の対象じゃないでしょ?
 その不機嫌な顔をやめなさい。
 
「うちのライルと遊ばせてみたい」

 うちのライル?
 と不思議に思っていると「ライルは地下の水槽にいた蛇の事なんですよ」とマークさんが説明してくれました。

 その蛇って、ヨルムガンドの事ですよね?
 ドラゴンと幻獣を遊ばせるの?
 子供の内ならファンタジーっぽくていいけど、大きくなったら怪獣大戦争じゃないですか?

 ホントに良いのかなぁ?

 まぁ、ウィリアムさんの許可も貰って、第2騎士団に下げ渡された形になっているそうなので、多分良いのでしょう。

 30m超えたら・・・・。
 怖いので、考えるのはやめておきます。


 皇都の人々を避難させるかどうかは、帝国内で逃げ場がない以上、混乱を招くだけだと保留になりました。

「魔法の発動を阻止すれば済む話だ」

 アレクさんの一言が決め手でした。

 国と人々を守り抜く、という気概に満ちた言葉です。

 私の番は、どうしてこんなに格好いいのでしょう。

 正に “漢”!!

 見た目も内面もイケメンなんて、私には勿体なさすぎです。

 そんなアレクさんから、このドラゴンが実はクレイオス様だと言う事と、魔法陣の事は、他の人には黙っている様にと言われました。

 理由は、第2騎士団の騎士さんの中に、ヴァラク教の信徒がいたからだそうです。
 その人は、地下の施設を燃やそうとした所を捕らえられて、すでに処分も下されたそうです。

 ですが他にもヴァラク教と通じている人が居ないとは言い切れない状態なので、情報漏れを防ぐためと、何よりクレイオス様の覚醒まで、赤ちゃんドラゴンを守る為に、今日集まった4人だけの秘密にするそうです。

 遠征に行く予定だった街へは、私が準備していた浄化の魔晶石を持たせて、現在経過観察中だそうです。

 今直ぐにでも、現地に浄化をしに行きたい気持ちでいっぱいです。
 でも、今はヴァラクの打倒が最優先事項。
 我慢しなくちゃいけません。

 今後の手筈を整える為に、アレクさんとロロシュさんは詰所に戻って行きました。

 マークさんと二人になって、ロロシュさんとどうなっているのかを、恥ずかしがるマークさんから、根掘り葉掘り聞いてしまいました。

 無理矢理聞き出したんじゃありませんよ?

 マークさんも誰かに話したくてウズウズしていたから、それはもう甘々熱々な話を聞かせて頂きましたとも。

 完全なガールズトークです。

 男性とするとは思っていませんでしたが、マークさんは美人なので、ガールズ枠でOkなのです。


 私とマークさんが、キャッキャ、うふふ とガールズトークに花を咲かせている間、アレクさんは大忙しだったようです。

 帰宅も日付が変わるほんの少し前でしたし、私にくっついて離れようとしないので、相当お疲れなのだと思います。

「もう目を覚さないのじゃないかと思った」

「心配かけてごめんね」

「君の所為じゃないだろう?」

「・・・アレクは、こんな問題ばかり起こす女なんて、嫌になったりしないの?」

 嫌って言われたらショックで立ち直れないくせに、聞かずにはいられませんでした。

「嫌になったりするものか。愛している。レンは俺だけの女だ」

 この世界で一人だけだもんね。

「ありがとう。私もアレクが大好き」

「・・・キスしていいか?」

「キスして?・・・・んんっ」

 久しぶりのキスは、熱くて甘くて、食べられちゃうみたいで、頭の芯が痺れてきます。
 体を弄る手も熱くて・・・・。

「ちょっ、ちょっと、待って?」

「どうして? 嫌なのか?」

「嫌じゃないんだけど・・・・気になって」

 私の視線を追って、アレクさんもベットの足元で寝息を立てるドラゴンに目を遣りました。

「気にするな・・・只の子供のドラゴンだ、何もわからんさ」

 いやいやいや。
 只のドラゴンじゃないよね?
 中身クレイオス様ですよ?

「気にしないなんて、無理です」

「はあ~~~~。コイツの部屋を用意させないと・・・・」

 額に手を当てて、ウンザリした様に言ってるけど。

 エンシェントドラゴンなんですよ?
 もう少し、丁寧に扱っても良いのでは?
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