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紫藤 蓮(シトウ レン)
ドラゴンの卵 side・アレク*
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「隠し部屋の存在を知っていた事からも、モルローはヴァラク教、もしくは神殿と繋がりがある物と思われます」
「だろうな」
「それと、この箱は隠し部屋にあったのですが、開き方が分からないのです」
「当然中身も分からんのだろう?」
「はい。あの隠し部屋はとても嫌な気配がして、長居できる気がしませんでした。そこで取り敢えず一番目立っていたこの箱を持ち帰った次第です」
「そうか」
銀製で大きさは俺の掌と同じくらいか。
彫刻は見事だが、ふむ 繋ぎ目がないな。
マークが開け方が分からんと云うのも頷ける。
「ロロシュも見たのか?」
「ああ。からくり箱だと思うが、開けるのには時間かかかるぞ?」
「そうか」
「閣下、もう一つご報告が」
「なんだ?」
「レン様からお聞きするまで、私は気が付かなかったのですが、モルローがレン様に敵意を向けていたようで」
「それは・・・俺も気づかなかったな」
「オレも、こいつがちびっ子の前でニコニコしてるのしか見てねぇよ。あの場の誰も気付かなかったんじゃねぇか?ちびっ子は妙に勘がいいから、気付いたのは、ちびっ子だけなんじゃねぇか?」
「ふむ・・・ではコイツは愛し子、俺の番に危害を加えようとしていた。と云う認識でいいか?」
「まぁ、いいんじゃねぇか? どの道口は割らせなきゃなんねぇんだ。手加減の必要はねぇだろ?」
手加減?そんなこと考えていなかったな。
この詰所の地下牢は遮音性が高く、便利な道具も山ほどある。
拷問は趣味ではないが、誰に喧嘩を売ったのか、じっくり教えてやらんとな。
コイツはどのくらい耐えられるかな。
「起こせ」
ドガッ!!
ロロシュの蹴りがモルローの腹に減り込んだ。
「グハッ!!」
「昼ぶりだな、モルロー?」
「クッ クロムウェル・・・・」
「お前、第3から移動になったのだったか?モーガンはクソがつく程、真面目で礼儀正しい奴だが、お前の教育は間違った様だな?」
「・・・・」
ダンマリか。
まぁ、そうだろうな。
ベラベラ喋られても、楽しみが減る。
精々頑張れ。
「地下の施設に随分と詳しいそうじゃないか。あの施設のことを知っていたなら、俺がいる時に、案内をしてくれても良かったのだぞ? 隠し部屋を燃やす程、知られたくないことでも有ったのか?」
「・・・・・」
「ふむ・・・では質問を変えよう。何故愛し子に敵意を向けた? 何が狙いだ?」
「・・・・何が愛し子だ。淫売が」
ガスッ!! 「不敬だぞ!!」
マークのいい蹴りが入ったな。
俺がやると、口を割る前に彼岸に送りそうだから、今は我慢だ。
「俺の番に向かって随分な口を利くじゃないか。俺の質問が分からなかったのか?もう一度聞く。何が狙いだ?」
モルローが折れた歯と血の混じった唾を吐き、足を組んで椅子に座る俺の足元に歯が飛んできた。
「お前ら穢らわしいケダモノとバケモノに、私たちの崇高な教えが理解できるものか!」
モルローは唾を飛ばして喚き散らした。
ロロシュに指で合図を送ると、ロロシュは取り出した暗器で、モルローの足の甲を貫いた。
「グアア!!」
「では、その崇高な教えとやらを、お前に説いたのは神官か?ヴァラク教か?」
「グウゥ・・・バケモノが!!」
「ロロシュ、モルローには教育が必要な様だ。俺は隠し部屋を確認して来る。戻る迄に、少しは素直になっているといいのだがな」
「あんた、あんなこと言われて、自分で教育しなくて良いのかよ」
「俺の教育だと、心を入れ替える前に、壊れるからな。お前に任せる」
「真顔で言うなよ、おっかねぇな」
「一人で教育するのは大変だろう?他の奴を呼んでもいいぞ」
「そりゃ助かる。だが俺より教育の上手い奴は、そう居ねぇんだよな」
あれだけの人数を、影から引き抜いて来たのだ、第2の騎士としては不十分でも、影としては一流だろうからな。
もしかしたら、ロロシュは影の次期頭目候補だったのかもしれん。
「第3に人を回して、コイツのことを調べさせておけ」
「そっちは手配済みだ」
流石に手回しがいい。
詰所を出る俺の後ろに付いて来たマークに、レンの警護を頼む事にした。
但し、レンに気付かれない様にと云う条件付きだ。
無駄に不安がらせたくは無いからな。
ブルーベルに跨り、夜の皇都を疾走した俺は、大穴に飛び降り、地下施設の隠し部屋に向かった。
卵部屋に入ると、卵が幾つか割れていて、マーク達が争った形跡が見て取れた。
ロロシュに教えられた通り、ドラゴンの卵が載っていた台の中央に、隠し扉を開くスイッチがあった。
スイッチを押すと、台がスルスルと横に滑り、隠し部屋へ降りる階段が現れた。
「念の入った事だ」
マーク達は書斎の様だと言っていたが、俺の目にはよく整理された、個人の私室の様に見える。
壁に設られた本棚ビッシリと並べられた本の中から一冊抜き取り目を通すと、それは日記の様だった。
但し日付は、650年程前になっている。
内容は個人的な思い出ではなく、その日一日を淡々と記録してあるだけだ。
「ヨシタカ? 愛し子の?」
記録にはヨシタカについての記述が多い。
いや、多過ぎる。
執拗と言ってもいい内容ばかりだ。
これは、まるでヨシタカを恋慕っている様ではないか?
ブネで、アガスは愛し子がいつも獣を選ぶと言っていなかったか?
だが、ヨシタカは同性の恋愛に嫌悪感を抱いていた。
誰も選ばなかったはずだが・・・。
まぁいい。
しかし、この壁にビッシリ並べられている本は、全て日記か?
最近の日記は何処だ?
目当ての物は、机の二重底になっている引き出しに隠されていた。
コイツは仕掛けが好きらしい。
頁をパラパラとめくり、斜め読みして行ったが、ある頁に目当ての文字を見つけて手を止めた。
「・・・・これは・・・戻らなくては!」
アガスはドラゴンと南に消えた。
この瞬間に襲って来ることはないだろうが、あの箱を確保しなくては。
風魔法で大穴を一気に飛び出した俺は、ブルーベルに身体強化魔法を掛け、瓦礫が残る皇都の道を全速力で皇宮へと駆け戻った。
◇◇
「よう。おかえり」
呑気な挨拶をしているが
お前酷い有様だな。
まぁ、モルロー程ではないがな?
「教育はどうだ?」
「誰かの指示で、あそこを燃やそうとしたんじゃねぇみてぇだな。他の事はこれからだ」
「教育はここ迄だ。コイツの証言は必要なくなった」
「あ? なんか良いもん見つけたか?」
「ああ」
予想以上の大収穫だ。
隠し部屋で見つけた日記を振って見せるとロロシュは片眉を器用に上げて見せた。
「ケダモノが彼の方の物に触れるなど、神が許さんぞ!!」
がなり立てたモルローだが、実際は歯が何本も折れ、顔が腫れ上がった状態では、息の漏れた ハヒュハヒュとした物言いで、多分こう言いたかったのだろう、と云う予想でしか無い。
「お前の神はアウラ神か?ヴァラクか?」
「アウラなど、愛し子と同じ淫売だ!!私の神はヴァラク様のみ!!」
「そうか。お前の証言はいらないと言ったのを覚えているか? 耳障りだ、もう黙れ」
血を流し腫れ上がった顔を鷲掴みにした俺は、そのまま指に力を加えていった。
モルローの骨がメリメリと鳴るのが聞こえてくる。
「ごの・・・ゔぁっぎ・・・が・・」
「その、悪鬼にお前は喧嘩を売ったんだ。どうなるか予想できなかったのか?」
バキッ!! モルローの下顎が砕け、開いたままの口から、血が滴り落ちた。
「おい。証言がいらないからって、顎を砕くなよ」
俺の番を、二度と侮辱出来ないようにしてやっただけだが?
「コイツはここに閉じ込めておけ、上に戻るぞ」
「へいへい」
「マークに見られる前に、着替えておけよ?」
「閣下はどうすんだよ」
「俺・・は?・・・・・レン?」
宮で休んでいる筈の番が、扉の前に立っていた。
『樹海の王か?』
レンの様子がおかしい。
なんだ? 何があった?
「ちびっ子? ドラゴンの卵持って何やってんだ? マークはどうした?」
『その箱を貰おうか』
レンの声じゃない。
瞳の色も変だ。
銀色になってるぞ?
「貴様、一体誰だ!! レンに何をした?!」
『樹海の王、その箱を渡すんだ』
樹海の王だと?
『これ以上は待てない』
レンが手を横に払い、衣の袖がふわりと舞った。
レンの中の誰かが、起こした風で俺とロロシュは、部屋の反対側まで吹き飛ばされ、その反動で、転がり落ちた銀のからくり箱をレンの細い指が拾いあげた。
「ガァッ!」
『頑丈だな・・・心配するな。大事な愛し子に危害は加えんよ』
立ち上がろうと足に力を込めたが、上から何かの魔法で押さえつけられて、体がびくとも動かない。
「クソがッ!!」
『王よ、口の悪いオスは嫌われるぞ?』
レンの瞳が皮肉っぽく弧を描き、指が箱の上を滑った。
すると箱はカシャカシャと音をたて、折り畳まれて開いて行く。
すると中から白銀に輝く宝珠が現れた。
まるで開いた花の上に宝珠が載っている様だ。
『あとは、愛し子が如何するべきか、分かっている。愛し子の力を少々借りたから、暫くは目覚めぬかもしれんが、心配はいらんぞ』
レンの中の者がそう云うと、宝珠が卵に吸い込まれ、虹色だった卵の輝きが、白銀へと変わった時、卵を抱えたレンがその場に崩れ落ちた。
「レンッ!!」
体を押さえつけていた魔法が解かれ、飛びつくように抱き上げた番は、穏やかな寝息を立てて眠っていた。
「だろうな」
「それと、この箱は隠し部屋にあったのですが、開き方が分からないのです」
「当然中身も分からんのだろう?」
「はい。あの隠し部屋はとても嫌な気配がして、長居できる気がしませんでした。そこで取り敢えず一番目立っていたこの箱を持ち帰った次第です」
「そうか」
銀製で大きさは俺の掌と同じくらいか。
彫刻は見事だが、ふむ 繋ぎ目がないな。
マークが開け方が分からんと云うのも頷ける。
「ロロシュも見たのか?」
「ああ。からくり箱だと思うが、開けるのには時間かかかるぞ?」
「そうか」
「閣下、もう一つご報告が」
「なんだ?」
「レン様からお聞きするまで、私は気が付かなかったのですが、モルローがレン様に敵意を向けていたようで」
「それは・・・俺も気づかなかったな」
「オレも、こいつがちびっ子の前でニコニコしてるのしか見てねぇよ。あの場の誰も気付かなかったんじゃねぇか?ちびっ子は妙に勘がいいから、気付いたのは、ちびっ子だけなんじゃねぇか?」
「ふむ・・・ではコイツは愛し子、俺の番に危害を加えようとしていた。と云う認識でいいか?」
「まぁ、いいんじゃねぇか? どの道口は割らせなきゃなんねぇんだ。手加減の必要はねぇだろ?」
手加減?そんなこと考えていなかったな。
この詰所の地下牢は遮音性が高く、便利な道具も山ほどある。
拷問は趣味ではないが、誰に喧嘩を売ったのか、じっくり教えてやらんとな。
コイツはどのくらい耐えられるかな。
「起こせ」
ドガッ!!
ロロシュの蹴りがモルローの腹に減り込んだ。
「グハッ!!」
「昼ぶりだな、モルロー?」
「クッ クロムウェル・・・・」
「お前、第3から移動になったのだったか?モーガンはクソがつく程、真面目で礼儀正しい奴だが、お前の教育は間違った様だな?」
「・・・・」
ダンマリか。
まぁ、そうだろうな。
ベラベラ喋られても、楽しみが減る。
精々頑張れ。
「地下の施設に随分と詳しいそうじゃないか。あの施設のことを知っていたなら、俺がいる時に、案内をしてくれても良かったのだぞ? 隠し部屋を燃やす程、知られたくないことでも有ったのか?」
「・・・・・」
「ふむ・・・では質問を変えよう。何故愛し子に敵意を向けた? 何が狙いだ?」
「・・・・何が愛し子だ。淫売が」
ガスッ!! 「不敬だぞ!!」
マークのいい蹴りが入ったな。
俺がやると、口を割る前に彼岸に送りそうだから、今は我慢だ。
「俺の番に向かって随分な口を利くじゃないか。俺の質問が分からなかったのか?もう一度聞く。何が狙いだ?」
モルローが折れた歯と血の混じった唾を吐き、足を組んで椅子に座る俺の足元に歯が飛んできた。
「お前ら穢らわしいケダモノとバケモノに、私たちの崇高な教えが理解できるものか!」
モルローは唾を飛ばして喚き散らした。
ロロシュに指で合図を送ると、ロロシュは取り出した暗器で、モルローの足の甲を貫いた。
「グアア!!」
「では、その崇高な教えとやらを、お前に説いたのは神官か?ヴァラク教か?」
「グウゥ・・・バケモノが!!」
「ロロシュ、モルローには教育が必要な様だ。俺は隠し部屋を確認して来る。戻る迄に、少しは素直になっているといいのだがな」
「あんた、あんなこと言われて、自分で教育しなくて良いのかよ」
「俺の教育だと、心を入れ替える前に、壊れるからな。お前に任せる」
「真顔で言うなよ、おっかねぇな」
「一人で教育するのは大変だろう?他の奴を呼んでもいいぞ」
「そりゃ助かる。だが俺より教育の上手い奴は、そう居ねぇんだよな」
あれだけの人数を、影から引き抜いて来たのだ、第2の騎士としては不十分でも、影としては一流だろうからな。
もしかしたら、ロロシュは影の次期頭目候補だったのかもしれん。
「第3に人を回して、コイツのことを調べさせておけ」
「そっちは手配済みだ」
流石に手回しがいい。
詰所を出る俺の後ろに付いて来たマークに、レンの警護を頼む事にした。
但し、レンに気付かれない様にと云う条件付きだ。
無駄に不安がらせたくは無いからな。
ブルーベルに跨り、夜の皇都を疾走した俺は、大穴に飛び降り、地下施設の隠し部屋に向かった。
卵部屋に入ると、卵が幾つか割れていて、マーク達が争った形跡が見て取れた。
ロロシュに教えられた通り、ドラゴンの卵が載っていた台の中央に、隠し扉を開くスイッチがあった。
スイッチを押すと、台がスルスルと横に滑り、隠し部屋へ降りる階段が現れた。
「念の入った事だ」
マーク達は書斎の様だと言っていたが、俺の目にはよく整理された、個人の私室の様に見える。
壁に設られた本棚ビッシリと並べられた本の中から一冊抜き取り目を通すと、それは日記の様だった。
但し日付は、650年程前になっている。
内容は個人的な思い出ではなく、その日一日を淡々と記録してあるだけだ。
「ヨシタカ? 愛し子の?」
記録にはヨシタカについての記述が多い。
いや、多過ぎる。
執拗と言ってもいい内容ばかりだ。
これは、まるでヨシタカを恋慕っている様ではないか?
ブネで、アガスは愛し子がいつも獣を選ぶと言っていなかったか?
だが、ヨシタカは同性の恋愛に嫌悪感を抱いていた。
誰も選ばなかったはずだが・・・。
まぁいい。
しかし、この壁にビッシリ並べられている本は、全て日記か?
最近の日記は何処だ?
目当ての物は、机の二重底になっている引き出しに隠されていた。
コイツは仕掛けが好きらしい。
頁をパラパラとめくり、斜め読みして行ったが、ある頁に目当ての文字を見つけて手を止めた。
「・・・・これは・・・戻らなくては!」
アガスはドラゴンと南に消えた。
この瞬間に襲って来ることはないだろうが、あの箱を確保しなくては。
風魔法で大穴を一気に飛び出した俺は、ブルーベルに身体強化魔法を掛け、瓦礫が残る皇都の道を全速力で皇宮へと駆け戻った。
◇◇
「よう。おかえり」
呑気な挨拶をしているが
お前酷い有様だな。
まぁ、モルロー程ではないがな?
「教育はどうだ?」
「誰かの指示で、あそこを燃やそうとしたんじゃねぇみてぇだな。他の事はこれからだ」
「教育はここ迄だ。コイツの証言は必要なくなった」
「あ? なんか良いもん見つけたか?」
「ああ」
予想以上の大収穫だ。
隠し部屋で見つけた日記を振って見せるとロロシュは片眉を器用に上げて見せた。
「ケダモノが彼の方の物に触れるなど、神が許さんぞ!!」
がなり立てたモルローだが、実際は歯が何本も折れ、顔が腫れ上がった状態では、息の漏れた ハヒュハヒュとした物言いで、多分こう言いたかったのだろう、と云う予想でしか無い。
「お前の神はアウラ神か?ヴァラクか?」
「アウラなど、愛し子と同じ淫売だ!!私の神はヴァラク様のみ!!」
「そうか。お前の証言はいらないと言ったのを覚えているか? 耳障りだ、もう黙れ」
血を流し腫れ上がった顔を鷲掴みにした俺は、そのまま指に力を加えていった。
モルローの骨がメリメリと鳴るのが聞こえてくる。
「ごの・・・ゔぁっぎ・・・が・・」
「その、悪鬼にお前は喧嘩を売ったんだ。どうなるか予想できなかったのか?」
バキッ!! モルローの下顎が砕け、開いたままの口から、血が滴り落ちた。
「おい。証言がいらないからって、顎を砕くなよ」
俺の番を、二度と侮辱出来ないようにしてやっただけだが?
「コイツはここに閉じ込めておけ、上に戻るぞ」
「へいへい」
「マークに見られる前に、着替えておけよ?」
「閣下はどうすんだよ」
「俺・・は?・・・・・レン?」
宮で休んでいる筈の番が、扉の前に立っていた。
『樹海の王か?』
レンの様子がおかしい。
なんだ? 何があった?
「ちびっ子? ドラゴンの卵持って何やってんだ? マークはどうした?」
『その箱を貰おうか』
レンの声じゃない。
瞳の色も変だ。
銀色になってるぞ?
「貴様、一体誰だ!! レンに何をした?!」
『樹海の王、その箱を渡すんだ』
樹海の王だと?
『これ以上は待てない』
レンが手を横に払い、衣の袖がふわりと舞った。
レンの中の誰かが、起こした風で俺とロロシュは、部屋の反対側まで吹き飛ばされ、その反動で、転がり落ちた銀のからくり箱をレンの細い指が拾いあげた。
「ガァッ!」
『頑丈だな・・・心配するな。大事な愛し子に危害は加えんよ』
立ち上がろうと足に力を込めたが、上から何かの魔法で押さえつけられて、体がびくとも動かない。
「クソがッ!!」
『王よ、口の悪いオスは嫌われるぞ?』
レンの瞳が皮肉っぽく弧を描き、指が箱の上を滑った。
すると箱はカシャカシャと音をたて、折り畳まれて開いて行く。
すると中から白銀に輝く宝珠が現れた。
まるで開いた花の上に宝珠が載っている様だ。
『あとは、愛し子が如何するべきか、分かっている。愛し子の力を少々借りたから、暫くは目覚めぬかもしれんが、心配はいらんぞ』
レンの中の者がそう云うと、宝珠が卵に吸い込まれ、虹色だった卵の輝きが、白銀へと変わった時、卵を抱えたレンがその場に崩れ落ちた。
「レンッ!!」
体を押さえつけていた魔法が解かれ、飛びつくように抱き上げた番は、穏やかな寝息を立てて眠っていた。
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