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紫藤 蓮(シトウ レン)

ドラゴンの卵

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 アレクさんが急な呼び出しで詰所に向かってから、ずいぶん時間が経ちました。

 お仕事で帰りが遅くなることはあっても、今日みたいに夜遅くに呼び出されたのは初めてです。

 何が有ったのでしょうか?

「レン様?ご心配なのは分かりますが、夜も更けました。先にお休みになられては如何ですか?」

「私はもう少し待っているから、ローガンさんは休んでくださいね?」

「では、お茶の用意だけしておきましょう」

「ありがとう・・・ローガンさん?」

「はい、なんでしょうか」

「あれから体の具合が悪いとか、気分がすぐれないとかは有りませんか?」

「お気遣いありがとうございます。お陰様でいたって健康に過ごしております」

「それなら良かった。 もし何処か具合の悪いところがあったら、すぐに言ってくださいね?」

 穏やかな笑みを浮かべたローガンさんは、お茶の支度をしに、部屋を出て行きました。

 アガスから瘴気の攻撃を受けて、何日も意識のない状態だったローガンさんは、瘴気のが発する声を聞いていたと思います。

 それでも以前と変わりなく、穏やかに日々のお仕事をされている姿を見ると、彼の心の強さに頭が下がります。

 セルジュさんも皇宮の貴賓室で初めて会った時よりも、グッと大人びて来ました。

 遠征から帰る度に背が伸びていて、もう頭を撫でようとすると、セルジュさんに屈んでもらわないと、彼の頭に手が届かないのです。

 成長期の男の子って、筍みたいにニョキニョキ背が伸びちゃって、びっくりしてしまいます。

 迂闊に子供扱いしたら、怒られそうなんですよ?

 柘榴宮に来てから、ローガンさんは私の専属侍従としてだけではなく、家令のお仕事もしているので、とても多忙です。

 ですが、我が家でブラックな働き方は認められません。

 この柘榴宮で働いてくれている人達には,他の貴族家で働く人達よりも、お休みを多くしています。

 皇宮の決まりで、あまり外に遊びには行けませんが、休みが有るのと無いのとでは、仕事への意欲が変わって来ますからね!

 昔読んだ小説で『忠誠を得るのは簡単だ。公正な評価と、公平な報奨を与えるだけでいい』と云うセリフが有りましたが、私はそれに、働きに見合う休暇も、付け加えたいと思っています。
 
 こちらの世界では、便利な魔法や魔道具は有りますが、基本的には何をするのも人力頼みな上に、宮のお仕事は拘束時間が長くなるので、休暇くらいはしっかり取って頂きたい。

「おや? アレクはまだ戻らないのか?」

「リリーシュ様こんばんは。こんな時間にどうしたのですか?」

「ハリーに手紙を書いていてな。喉が渇いたから茶でも入れようかと思ってな?」

「リリーシュ様がご自分でお茶を淹れるの?」

「こう見えても私も騎士なんでな?若い時には上の者にこき使われたからな、自分の事は自分で出来るのだぞ?」

 へえ~、ちょっと意外。
 リリーシュ様なら、戦地にも侍従を連れて行ってそうだけど・・・。

 そこにお茶の支度を終えたローガンさんがやって来て、リリーシュ様は丁度良かったと言って、お茶を持ってご自分のお部屋に戻って行きました。

 さっきまでは一人でいてもなんとも思わなかったのですが、一度人と話してしまうと、急に手持ち無沙汰になってしまい、読んでいた本も文字の上を目が横滑りするだけで、全然頭に入って来ません。

 呼び出されたアレクさんのことが気になって眠る気にもなれず、ステータス画面を開いても、ボイチャにアウラ様の返答もなく。
 一人でボーッとしていると昼間のことが思い出されて、落ち着かない気分になってしまいます。

 地下に囚われ実験の犠牲になった人達、弱りきって鳴き声を上げることもできなくなった魔獣達。

 浄化と治癒のために地下に降りたくせに、結局何も出来ないまま、帰って来てしまいました。

 私は口だけの役立たずです。

 最初の威勢だけが良くて、実際に人の悪意に触れると、二の足を踏んで何も出来ない。
 過保護は嫌だと言いながら、結局アレクさんに守られて安心してしまう。

 そんな情けない人間だから、モルローさんにも冷たい目で見られてしまうのです。

 はあ~~。
 ラノベやウェブ小説のの聖女様達は、もっと果敢に使命に立ち向かって、ピカーッ!シュワーッ!!キラキラーー!!って、悪に立ち向かったり、人々を祝福したりしていたのに、私はこうやってグジグジ考えてばかりです。

 私もヒロインの強さが欲しい。
 本当、憧れちゃいます。

 ウィリアムさんにドラゴンの卵を預けられましたが、あの卵を孵化させても良いのかも、判断できません。

 ドラゴンやヨルムガンドは、瘴気で生まれた魔獣とは違います。

 この世界に元から居た生き物なのです。

 戦力になるからと云う理由で、伝説となった生き物を、人の勝手で使役してもいいのでしょうか?

 ダンプティーの様な、平和利用なら良かったのに・・・。

 アレクさんによると、ドラゴンとヨルムガンドの卵は地底の魔族から、手に入れた可能性が高いそうです。

 ヴァラクのことも合わせて、ドラゴンや他の卵の件について問い合わせの信書を、ウィリアムさんから魔族の王様に送るそうです。

 でも魔族の人達も、大昔に逃げ出した王子の蛮行を、今更とやかく言われてもいい迷惑なのでは無いでしょうか?

 まぁ、アウラ様と結んだ不可侵の契約を破っている訳ですから、こちらとしては文句の一つも言いたい処ではありますよね?

「う~・・・なんか落ち着かない」

 次の遠征の準備でもしておこうかな?

 お茶を持って応接間を出た私は、作業部屋に向かうことにしました。
 
 遠征の準備と言っても、身の回りの物はセルジュさんが用意してくれるので、私がやるのはアミュレット用の魔晶石を用意するのと、大きめの魔晶石に浄化を付与する事なんですよね。

 イマミアで学んだことですが、病の元の水源を浄化し続けるには、浄化の魔晶石は必須だし、瘴気溜まりと呪具の両方を浄化すると、体への負担が大きくてアレクさんや、周りの人達に心配をかけてしまいます。

 だったら、余裕のある時に浄化の魔晶石を作っておけば、水源の継続的な浄化にも使えるし、呪具や瘴気溜まりの浄化に利用すれば、体の負担も減らせます。

 要は乾電池と浄水器みたいな感じ・・・
 浄水器・・・浄水器の活性炭の代わりに魔晶石のクズ石を使ったら、今より安価で浄化できないかな?

 これは、また魔法局の方達と相談したほうがいいかも・・・。

 ブネの池の様な濃い瘴気と対峙するには、今までのアミュレットでは不十分なので、 魔法局の錬金術師さんたちに相談して、あれこれ試した結果、改良版の試作に漕ぎ着けることができました。

 これでブネの時みたいに、アレクさんのアミュレットの魔晶石を、半分近くまで壊される事は無いと思います。

 本当に魔法局の錬金術師の皆さんには、お世話になりっぱなしなので、近いうちにお礼を兼ねて、差し入れを持っていこうと思います。
 
 でも、こう云うのって、いくらやってもキリがないというか、いくら便利な道具を作っても、心配が減ることってないのよね。

「ヨシッ!付与完了!」

 アレクさんはまだ帰ってないみたい。
 やる事なくなっちゃったな・・・。

 遠征も有るし、ステータスの確認でもしておこうかな・・・・。

 HP 1800/1850
 MP  450/999
 GP 3500/12000 
 攻撃力:36  神聖力:140
 魔 力:81  精神力:80
 リミッター解除 経験値不足
 恋愛熟練度 中級者+15


 取得スキル1
 浄 化 +7   四大元素魔法 +3 
 祝 福 +6   錬金術    +5
 魔法付与 +8  絶 唱    +5
 治 癒  +5  弔 舞    +4


 取得スキル2
 歌 い 手+6:歌唱力UP。絶唱発動
       に必須。 
 ダ ン ス+6:世界中の踊りが踊れます。
       弔舞発動に必須
 コ ピ ー+7:自分の体より小さい物な
        ら何でもコピー出来ます。
 料理研究家+4:料理の腕がUP。
 全身脱毛 :お肌スベスベVIOも安心!
 デオドラント+3:もう汗も怖くない!
         ダマスクローズの香り。
         魅了効果。

 おお~。全体的に上がってる。

 やっぱり浄化と魔法付与は使用頻度が高いから数値が高めですね・・・。

 ・・・恋愛熟練度が初心者から中級に上がってるけど・・これ本当に必要なのかなぁ?
 
 ん?・・・デオドラントに魅了効果??
 
 ・・・誰を何の為に魅了しろと??

 うぅ・・・アウラ様~~。

 歌とか踊りとか、スキルに意味が有るのは分かりましたが、魅了ってなんなの?!

 イケメンばっかのBL世界で
 私にどうしろと?!

 ・・・・なんか、疲れちゃった。
 お部屋に帰ろう・・・。

「あれ?」

 何だろう、変な感じがする。

 ・・あそこは、アウラ様の神像を祀った部屋だけど・・・。

 卵もあの部屋に置いてある・・・。

 ドラゴンの卵に何かあったのかも?!

 異変を感じた私は、アウラ様を祀った部屋に飛び込みました。

「えっ?何も変わった処は無い?・・・みたいだけど・・・ドラゴンの卵も無事ね?」

 月明かりで、卵のオパールの輝きがさらに青みがかって見えます。

「驚いた。何かあったかと思ったじゃない」

 ホッとして卵を撫でようと殻に手が触れた瞬間。私の中から グンッ っと魔力が吸い取られる感覚に眩暈をお覚えました。

 卵に魔力を吸われてる?

 どうしよう・・立って・・ら・・れな・・

 目の前がチカチカして、耳鳴りがザーザーと聞こえて煩いです。

 チカチカと点滅する、視界が真っ白に塗り変わり、私はそのまま意識を手放したのでした。
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