獣人騎士団長の愛は、重くて甘い

こむぎダック

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紫藤 蓮(シトウ レン)

side・ロロシュ

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 やったぞ!!
 ヨルムガンドを手に入れた!!
 これであいつを喜ばせてやれる!!

 まぁ、所有権は第2騎士団になるが、面倒を見るのはオレとマークってことになったから、実質オレ達のものと言っていいんじゃねぇか?

 求愛行動の最初の貢物だ、マークが喜ぶ物を贈ってやらないとな!

 魔法契約の解除は、オレの養母って事になっているドルフの奴が、最後まで契約解除を拒んでいたが、アルケリスの一味が捕縛され、罪の重さから処刑が確実となった途端、手の平を返して来やがった。

 可愛い息子の命を助けてくれ、だとさ。

 馬鹿なんじゃねぇか?
 アルケリスに弄ばれた、子供達がどうなったと思ってんだ。

 オレを孕んだ母さんの事を追い出したのもドルフだ。

 母さんが死んだ後、侯爵家に引き取られたオレは、影に放り込まれるまでの間、忌子だとヤツに散々いじめ抜かれた。

『高貴なメリオネス家』に獣人の、しかも悍ましい蛇の血が混ざるなどあってはならない。伴侶も子も持つことを許さない、と魔法契約を強要したのも、ドルフとドルフの兄のポーツだ。

 クソ野郎の息子が、それ以上のクソだっただけじゃねぇか。
 てめえの行いの責任くらい取らせるべきだろ?

 だがオレは優しいからな、契約解除と引き換えにアルケリスの助命を陛下に願い出てやったさ。

 ドルフの奴は、空々しい感謝の涙を見せていたが、どうせ腹の中ではオレをどう追い落とすかの算段でいっぱいだった事だろうよ。

 まぁ、あの時は黙っていたが、アルケリスは北の鉱山で生涯強制労働させられる。
 処刑を免れても死んだほうがマシな暮らしが待ってんだ。
 アルケリスの奴が、それを感謝するとは思えねぇな。

 侯爵はオレとの約束を守って、ドルフを放逐した。
 身一つで屋敷を追い出される時の、ドルフの顔は実に見ものだった。

 どんなに騒ごうと、大義名分はこっちに有るんだぜ?
 『高貴なメリオネス家』に、犯罪者の血はいらねぇんだよ?

 ドルフの奴は実家に戻ったらしいが、強欲なポーツが大人しく侯爵の言いなりになるとは思えねぇ。

 そのうち何か仕掛けて来るだろうが、仕掛けなら、こっちの準備も万端だ。
 貴族席が一つ空けば、どっかの優秀な奴が叙爵されんだろうから、オレの薄汚い復讐も世直しの一助になるってもんだろ?

 全てが片付いた訳じゃねぇが、忌々しい魔法契約の解除も済んだ。
 マークには、やな思いをさせちまったが、これでやっと大手を振って求愛行動に入れる。

 しかしあのちびっ子、妙に鋭いと言うか。
 いきなり “イチャイチャしないの?” とか、可愛い顔してなんてこと聞いてくんだよ?
 オレが浮かれてるのがバレたのかと、本気でビビったじゃねぇか。

 悪気がないってとこが、余計に悪質だよな。

 でもなぁ、なんだかんだ言っても、マークのことは本気で心配してたし、他の奴らと比べるとオレの扱いが雑な気はするが、体温調節用の魔道具を作ってくれたりしてよ?
 擦れてないって云うか、オレと違って真っ直ぐって云うか、良い子なんだよなぁ。

 オレや閣下みたいなオスには、マークやちびっ子みたいな真っ直ぐな人間てのは、眩しくて仕方がねぇよな。

 まさか泣く子も黙る、天下のクロムウェル閣下が、あそこまでデレるとはよ。

 いっつも良い匂いさせてるし、あれは閣下の好みの香油なのか?
 そういやぁ、閣下が毎日髪の手入れしてるって言ってたなぁ。
 閣下もリリーシュ様に髪結を習ったって言ってたし・・・・。
 オレ、そんなの習った事ねぇぞ?
 いいのか?オレこのままで?

 マークの白銀の髪は柔らかくて、とても綺麗だ。
 確かにマークの髪なら、手入れだけじゃなく、ずっと触っていたくなるな。

 ちびっ子も髪の手入れをしてやれって言ってたな・・・・。
 明日にでもマークの好きそうな香油を買いに行くか?


「ロロシュ?」

「あ? ようマーク」

「こんな所でどうしたのですか?」

「ヨルムガンドを見に行くんだろ?付き合うよ」

「待っていてくれたのですか?」

 なんだよ。良い笑顔すんなよ。
 可愛いじゃねぇか。

「お おう。ちと話したいことも有ってな」

「話し? 良いですよ。ここでは人目がありますから、下に降りてからにしましょうか」

 オレのせいで人目を気にさせるようになっちまったな、こいつには、そんなの似合わねえのに・・・それも今日までだからな。

「じゃあ、行くか?」

「えッ? ちょっとロロシュ?」

 驚いてるな?
 初中閣下がちびっ子を抱き上げてるのを見てて、おれもやってみたかったんだよ。
 サイズ的に縦抱きはできねえけど、横抱きだって結構グッとくるな!

「ハハッ!」

「もう!これじゃあ、昼間の閣下と同じですよ?」

「下に降りたらオレの事、締め落とすか?」

「プッ・・アハハ!・・・あれはレン様にしか出来ませんよ」

「だよなぁ」

 風を切って地の底に降りていく間、顔に当たるマークの髪も、くすぐったいが愛おしいな。

 閣下もこんな気分だったのか?
 
「着きましたよ?降ろしてください」

「もうちょっと、このままで」

「・・・急にどうしたのですか?」

 心配そうに見るなよ。煽ってんのか?

「・・・・契約が解除された。オレは自由だ」

「それって・・・んっんん」

 嗚呼、やっぱり甘いな。
 マークの舌は蜜を舐めてるみたいだ。

 やばい。
 今ここで、押し倒したい。

「ん~・・・はあ・・こんな所では嫌ですよ」

「そうか・・・」

 お前のも兆してんの、分かってんだぞ?

 婚約許可証がもらえるまで、マーキングも駄目だと言われちまった。

 まぁ、そうだよな。
 マークの家は由緒正しい伯爵家だ。
 家格はオレの方が上だが、古さと真っ当さで言ったら、アーチャー家の方が上だ。

 何よりオレの番が正式な手順を望むなら、それに応えてやらねぇとな。

 オレはお前の愛を乞うためなら何度跪いたっていい。

「マキシマス・アーチャー オレの伴侶になってくれるか?」

「ロロシュ・・・ええ。ロロシュ・メリオネスあなたの伴侶に私はなります」

「やった!ありがとう!!」

 嬉しくて、思わず抱き上げたマークとクルクル回っちまった。
 オレは子供かよ。

 魔素湖の光で、マークの髪が輝いて、赤く染まった頬も何もかも綺麗だ。
 こんな幸せな日が来るなんて、思ってもみなかった。
 
 愛し子の招来が無かったら、オレはマークを見つけられなかっただろう。
 アルケリスのアホがちびっ子にちょっかいをかけなかったら、奴の放逐もオレの継承もなかったはずだ。

 全部ちびっ子のお陰だ。
 言い伝えの愛し子の祝福は、本当に有るんだな。
 
「マーク、感謝の気持ちを込めて贈り物だ」

「贈り物?」

 こんな所で何も持って無いから不思議そうだな?「これだ」とヨルムガンドの水槽を掌で叩いても、まだ理解出来ねぇみたいだ。

「このヨルムガンドだ。正式な所有権は第2騎士団に有るが、オレとお前で面倒を見る許可をもらって来た」

「本当ですか?!」

「嘘ついてどうするよ。ただコイツの出し方が分からず、死なせちまったらそこ迄だ。あと、懐かなくても終いだぞ?」

「ええ。勿論です!!ありがとうロロシュ!!」

 こんなもんで、喜んでキスをくれるのか?
 だったら,ミーネの石像を贈ったらどうなるんだろう?

 どうにかして、手に入れられないか?

「ん?・・・マーク誰か来る」

「こんな時間に?中に入る許可は私だけの筈ですが・・・」

「シッ・・・こっちに来い」

 オレ達は水槽と張り出した岩の間に身を潜め、来るはずのない来訪者の様子を伺った。

 “・・・・モルロー?”

 “アイツ何しに来たんだ?“

 マークもモルローが何しに来たのか分からない様子だ。

 モルローはオレ達に気付かず、慣れた様子で奥に向かって足早に通り過ぎていった。

 オレ達は互いの目を見て、後を付けて行く事にした。

 だが、通路は見通しの良い一本道だ。
 オレ達は通路の入り口に張り付いて、モルローが何処に行くのかを盗み見ていた。

 ”あれは、魔獣の実験室ですね“

 ”行くぞ“

 モルローが実験室に入ったのを確認し、足音を忍ばせて後を追った。

 幸いと言うべきか、昼間オレが壊した所為で、実験室の扉は完全には閉められなくなっている。

 扉の隙間から見えるモルローは、卵部屋に向かっていった。

 ”卵を盗むつもりでしょうか?“

 ”どうだか。アイツの魔力値じゃ卵なんで孵せねぇよ“

 卵部屋に入ったモルローは、何かを考えるように顎に手を当てて暫く立ったままだったが、一つ頷くとドラゴンの卵が置かれていた台に近づき、卵が置かれていたクッションを退けて何かを押したようだった。

 すると卵の台が横に動いていくのが見えた。

 あんな目立つとこにスイッチを作んのかよ。 目立ちすぎて逆に盲点だ。

 卵の台が動きを止め、更に下へ降りる通路ができたようだった。

 だがモルローは下へ降りようとはせず、掌に魔力を集め始めた。

 拙い!!

「モルロー!!」

 怒声をあげて、部屋に飛び込むと驚いたモルローの手から、炎の塊がおれに向かって飛んで来た。

 ジュウーーー!!
 マークの放った氷の盾が炎を防ぎ、白銀の影が横を通り過ぎたと認識した直後、モルローはマークの足元に倒れていた。

 ほんと!番の方が強いってのは複雑だな!

 番の手で意識を刈り取られたモルローを放置して、床に開いた通路を覗き込むと、そこは誰かの書斎のようだった。

「・・これ、なんだと思う?」

「さあ。ただの箱・・・ではないですよね。蓋も見当たりませんし」

「・・・・・・」

「この部屋、なんだかすごく居心地が悪くないですか?」

「そうだな・・・取り敢えずコイツを閣下に突き出そうぜ?」

 オレ達は拘束したモルローを魔法で浮かせ、閣下の元へと急いだ。

 一生の思い出になるはずのプロポーズを、台無しにしたこのクソモルローを、オレは生涯許さないだろう。
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