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紫藤 蓮(シトウ レン)

大穴1 side・アレク

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 side・アレク

 最近のレンは、憂いを帯びた表情で何処か遠くを見ていることが多い。

 与えられた使命の重さを思えば、当然の事では有るのだが。
 なんの屈託もない、はじける様な笑顔を一日でも早く取り戻したいものだ。

 しかし、なぜこうもヴァラク教や、神殿関係の情報が入ってこないのだろうか。

 人が集えば大小関係無く必ず派閥ができるものだ。

 権力者に取って不都合な情報は、大概派閥争いに負けた者から齎されるものだが、こと大神殿の内情を知ろうとしても、口を破るものがいないと言うのは有る意味異常だ。

 影やロロシュに任せた暗部ですら、表面的な情報を集めるのがやっとなのだからな。

 出世争いに負け、皇都から地方に飛ばされた神官ですら、知らぬ存ぜぬとアガスやゼノンの話しをしようとはしない。

 あれだけ民を蔑ろにして来た神官達が、身内を売るのは御免だと、口を閉ざしてしまうのだから、完全に清廉さの発揮処を間違えている。

 これではまるで、何かの制約に縛られている様ではないか?

 ・・・・・制約か・・・これはロロシュに調べさせた方が良さそうだな。

「さあ。できたぞ?」

「ありがとう。今日の髪型も可愛いです」

「そうか?気に入ってくれて良かったよ」

「こう言う編み込みって、自分でやるとすぐゆるゆるになっちゃって、なかなか出来なかったんです。アレクは器用ね」

 そうやって何事もないかのように、微笑んでいるが、今日は、あの大穴に入るんだぞ?
 この嫋やかな体に、傷でもついたらどうするんだ?

 レンの今日の出立は、俺の騎士服に似せた服を着ている。
 全く同じにしてしまうと、レンの体型の違いが、他の者にも分かってしまう為、胸元はきっちりと締め、腰のラインが隠れるように、上着の裾丈が長く作られている。

 これはレンがいつも身につけている異界風の衣だと、動き難い事もあるからと、レンがデザインし、ルナコルテに薄くて軽い生地で作らせた物だ。

 あまり薄いと耐久性問題が有るのでは?と心配したが、魔力を帯びやすい生地を選び、レンが自分で色々な魔法を付与したから問題ないのだそうだ。

 レンはこちらの服を着ると、子供の様に見えてしまうことが多いが、レンがなんちゃって騎士服と呼ぶこの服を着ると、妖艶さが増して見えるとは・・・またレンを邪な目で見る者が増えてしまう。

 この妖艶さは、うちの独り者には目の毒だろう。

「この格好変ですか?」

 いかん、レンの艶姿に見惚れて居ただけなのだが、不届者をどう牽制するかを考えていて,目付きが険しくなっていたか?

「やっぱり、アレクみたいに脚が長くないと、似合わないですよね」

 困った。
 しょんぼりしてしまったぞ?
 
「とてもよく似合っている。似合い過ぎて、変な虫が寄って来そうだ、と考えて居たところだ」

 俺の感想に大袈裟すぎると、笑っているが、誰にも見られないように、宝石の様に箱にしまって、大事に仕舞っておきたいくらいなんだぞ?

 それなのに、今日もあの穴の底の調査に向かえば、また君を傷付ける物ばかりが見つかるかもしれない。

 レンにはこの世界の綺麗なところだけを見せ、真綿で包む様に大事にしてあげたかったのに。

「じゃあ、行きましょうか。皆さんをお待たせしちゃいます」

「ああ。そうだな」

 本心を言えば、行きたくない。
 レンを危険なところに連れていきたくないし、色を含んだ目で見る奴らの前に出したくない。

 何より、イマミア遠征からこっち、俺はずっと我慢しているのだ。

 今すぐにでもベットに直行したいのを我慢しているのに気付いてくれないか?

「今日は、マークさんの他は誰が来るの?」

「ん? ロロシュとシッチン・・・あとはロロシュに任せてあるから、ハッキリは分からんが、2、3人はついてくる予定だ」

「このメンバーって、定番になって来てますよね?」

「不満か?」

「いえ?メインパティーって感じだなと思っただけですよ?」

 メインパーティーとは? レンは異界の遊戯について話していたが、要約すると冒険に挑む主力チームという事らしい。

 詰所の前で、他のメンバーと合流し、大神殿があった場所へ向かった。

「・・・すごい・・・なんにもない・・・」

 驚きの声を上げたレンが、おっかなびっくり、穴を覗き込んだ。

「大神殿の敷地全てが、陥没してあの穴の中だ」

「神殿の下にこんな大きな穴があくなんて・・」

「神殿の下は、古い時代の地下墓地が掘られていたからな。墓地の下層が崩れた事で、一気に陥没したのだろう」

「カタコンベが有ったんだ・・・それって広さはどれくらいだったんですか?」

 広さと言われても俺にはさっぱり分からん。

 どう答えたものかと首を捻っていると、マークが助け舟を出してくれた。

「二千年以上前から利用されてきた墓地なのですが、手狭になるとに掘り広げるのを、繰り返してきたで、墓地の全容を知っている者はいないのではないでしょうか。」

「なんの計画も無しに?」

「その様ですよ?確か5,600年程昔に、皇都の一画が陥没したことで、地下墓地の利用が禁じられたと聞いております」

 あ~、たしか座学で聞いた覚えがあるような・・・。

「それって、すごく危険よね?」

「レン様のおっしゃる通りです。神殿直下のこの穴は、埋め戻すことになるでしょうが、墓地が何処まで広がっているのか、調査は必要でしょう」

 ウィリアムが自ら手を下したのでは無いが、労せずして神殿を叩き潰すことが出来たのだ。今まで神殿が有して居た威光を、全て奪う気なら、ウィリアムは地下墓地を埋め戻させるのではないか?
 皇都民の安全という大義名分もあるしな。

「レン、少し良いか?」

 マークの話を真剣に聞いて居たレンは、俺が声を掛けると、振り返ってニッコリしてくれた。

「下に降りる前に、少し説明しておく。一度下まで降りて確認したのだが、南から西側は、途中で水が流れ出しているから、かなり危険だ。ここから見える横穴の中で何も見つからなくても、他を回って見ることは出来ないぞ?」

「分かりました。あの横穴の辺りは崩落の危険はないんですね?」

「不思議だろ? おそらくドラゴンが通る時に、ブレスで周りを溶かした様でな?あの周りだけ綺麗なもんだ」

「ああ。そう言う事」

「では、降りるぞ」

 何故か、レンが俺を不思議そうに見ている。

「どうした?」

「あの、どうやって降りるの?私を抱えてたら、手が使えなくて危ないですよね?」

「なんだ、そんな事か」

「そんな事って・・・・」

 レンは移動の時にこんな風に、困った顔をしてマークや他の者を見る事がある。
 それが、他の奴らに助けを求めている様に見えて大変不満だが、ここで悋気玉を解放して、狭量だとは思われたくない。

 見栄を張るのも一苦労だ。

「魔法を使って下に降りるからな?」

「それって・・・まさか」

「なに。心配しなくて良い。 おい。降りるぞ」

 マーク以下、全員の魔力が溜まったのを確認し、穴の縁から何もない空間へ脚を踏み出した。

「うそっ?! イヤアァ~~~~!!」

 この程度の高低差の移動はよくある事だ。魔物の心配が無ければ、この降り方が一番安全で早いのだぞ?
 しっかり抱き抱えているし、危険なことは何もないのだがな。

 そいえばブネの崖下りの時も悲鳴をあげて居たな?

 叫びながら、俺の首にしがみ付いてくるなんて、可愛いな。

 なんか楽しくなってきたぞ!

「ハッ・・ハハハ・・・・ッ!!!」

「キャアアーーッ!! アレクのバカァーーーーーー!!!」

 おかしいな。 レンには刺激が強過ぎたのか?
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