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紫藤 蓮(シトウ レン)
異変1
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ドラゴンの皇宮への攻撃は、結界によって防ぐことができましたが、襲来前の地震による皇都の被害は甚大な物でした。
元々地震の少ない地域で、耐震性を考慮した建築様式になっていなかった事が、被害を大きくしたようです。
内宮は空間を広く取った造りになっていたことが災いして,半壊状態。
柘榴宮がある後宮の方が、被害が少なくてすみました。
皇都内で特に被害の大きかった大神殿は、その敷地の殆どが、陥没した穴の中に崩れ落ち、瓦礫の山となってしまったそうです。
「・・・・クレ・・ドラゴンが大神殿の地下から出てきたのですか?」
「目撃した者の話によると、そのようだな。この地震も、地下でドラゴンが暴れたからではないかと皆が言っているな。大神殿はこの有様だ。一応捜索ははさせているが、中に居た神官と神兵は・・望み薄だな」
肩から前に流した三つ編みにした蜂蜜色の髪を、指先で弄ぶリリーシュ様が気だるげにお話しされています。
「安全を確保できていないから、穴の中もしっかりとは確認できていないが、大神殿の下に大きな横穴が見える。おそらくドラゴンは、その横穴の中に居たのではないかな」
「そうですか・・・」
こんな近くに居たなんて。
どうして気づかなかったんだろう。
婚約式の時に、気付いていたら
こんなことにならなかったのに・・・・。
「その顔は、何故気づけなかったかと、悔やんでいるな?」
「わかりますか?」
「お前は愚息と比べて、すぐに顔に出るから、分かり易い。大神殿の事は気にするなよ?あれだけ深いところに居たら、気づける者など居ないだろう」
「お気遣いありがとうございます。でもリリーシュ様?その愚息って言うのやめてもらえませんか?」
髪から指を離したリリーシュ様の瞳に、揶揄の色が浮かんでいます。
「伴侶を貶されるのは気分が悪いか?」
「そうですね。とても気分が悪いです。アレクは愚かではないので」
「ハハ!そうか、私の息子なのに愚かではないのか?」
「ええ。違いますね・・・何故、アレクにそんな態度を取るのですか?」
「習い性・・・だな」
だから、なんでそんな習慣ができたかって話ですよ?
「ギデオンから守りたかった・・・と言えば聞こえが良いか?」
「私は本心をお聞きしたかったのですが?また、ふざけて誤魔化すのなら、これ以上は聞きません」
守りたかった、で良いのに。
一言多いです。
「これは手厳しい。・・・ぐ・・あれは見た目はああだが、私とて息子が可愛くないわけではないのだよ?」
「そうですか?愚息の次はあれ呼ばわりで?」
親なのに見た目を貶しちゃ駄目でしょ?
あなたの息子は、イケメンなんですよ?
「ふむ。ますます手厳しい」
「リリーシュ様? 内宮のお部屋もタウンハウスも使えないから、柘榴宮に泊めて欲しいって、お話でしたよね?」
「そうだが?」
「でしたら、家の主人に敬意を払うべきなのでは?」
「うむ。それは尤もな意見だな」
「とにかく、お部屋の用意は頼んでおきますので、アレクさんと仲良くして下さいね?」
「わかった、分かった。大人しくするさ」
「そろそろ、皆さんお揃いになると思いますから、行きましょうか」
「この調子だと、ウィリアムも引っ越してくるのではないか?」
・・・それはちょっと、面倒かも・・・
「ははっ!!まぁ、そうだろうな!」
人の顔色読んで話しを進めるの、やめて欲しいです。
それにしても、アレクさんにあれだけ厳しいこと言われてへこんでいたのに、すっかり立ち直って、この元気。
メンタル強すぎじゃ無いですか?
◇◇
「レン。休んでいなくて良かったのか?」
「しっかり休んだから、もう大丈夫。心配かけてごめんね」
クレイオス様の襲来後、パフォスさん達医局の人達と、怪我人の治癒に当たっていた私は、必死になり過ぎて魔力切れを起こしてしまったのです。
そのせいで、2日も寝込むことになって、助けになるどころか、かえって皆さんにご迷惑をかけてしまいました。
次からは、魔力量のチェックを忘れないように気をつけないといけません。
私の顔を心配そうに覗き込むアレクさんですが、ここ数日寝る間を惜しんで、救助活動の指揮を取っている為か、いつもツルツルのお顔に無精髭が生えて、とても疲れて見えます。
今日から、医局のお手伝いに戻ると言うと、また心配されてしまいましたが、今はそれどころでは有りませんよね?
「君が戻ってくれるのは心強いが、今度は無理しないようにな?」
「うん。気を付ける」
この遣り取りがアレクさんのお膝の上で髪に顔を埋められた状態なので、他の人の生暖かい視線に、魔力の前にメンタルがゴリゴリ削られています。
でも、これはもう受け入れるしか無いので、みんなの視線は気付かないフリです。
「あ~。話しを続けていいか?」
甘々モードになり掛けたアレクさんを、引き戻したロロシュさんも、ヨレヨレですが体温調整ベストを着たままです。
この人、ずっと着替えてないのかしら?
「とにかく治癒師の数が全く足りねぇよ。それと、食うもんもねえから、俺らの炊き出しだけじゃ焼け石に水だし、このままじゃ食いもんの奪い合いで暴動になりそうだぜ?」
「炊き出しや、配給についてはウィリアムが算段しているが、うまくいっていないようだな?」
「どうせ、どっかのクソが横流ししてんじゃねぇのか?」
と、かなりご立腹です。
実際に困っている人を見ているだけに、余計腹立たしいのでしょう。
「それは、私の方でなんとかする」
リリーシュ様が、請け負ってくれましたが、ロロシュさんの目は胡乱気です。
「皇都は私の管轄だからな?騎士の手は借りることになるが、お前達はあのドラゴンに集中した方が良いだろう」
そうリリーシュ様が話すと、ロロシュさんも少しは納得した様子です。
「そのドラゴンだが、行方は掴めているか?」
アレクさんの問いに答えたのは、やっぱりヨレヨレのミュラーさんでした。
皇宮を攻撃したドラゴンは、他の街をいくつか攻撃しながら、何処かへ去っていったのだそうです。
攻撃された街は、全滅してしまった所もあって,被害は皇都の比では無く。
此方の救助には第3と第4騎士団が当たっているそうです。
「今何処に居るのかは、分かっておりませんが、南に向かっているのは確かなようです」
「・・」
「ニックスの神殿でしょうか?」
ニックスとアミーの神殿の場所を発見したと言う知らせは、まだなかった筈です。
「・・・ニックスの捜索隊からの連絡はないか?」
「今の所は。急ぎで鳥を飛ばします」
「ロロシュは情報収集、ミュラーは遠征の準備。第1の手伝いはショーンだな」
テキパキと指示を出すアレクさんですが、私の頭に顎を乗っけたままでは、威厳に傷が付きませんか?
みんな気にして居ませんけど、誰かこれ、止めてくれないでしょうか?
「レンは、無理をしない事。俺が居ない時はマークから離れない事。この二つは絶対守るんだぞ?」
「はい・・・あの、出来るだけ早く、大神殿に行きたいのですが・・・」
「・・・・瘴気か?」
「はい。あのドラゴンが神殿の地下に居たのなら、放っておくのは危険だと思います」
数秒の間、私の顔をじっと見ていたアレクさんは、諦めたように溜息を付きました。
「・・・・母上、レンが良いと言うまでは、大穴には誰も入らないようにして下さい」
「手配する」
「レン?大神殿の大穴には、おれが一緒に行く。だがあの大穴は、かなり危険な状態だ。俺がこれ以上は無理だと判断したら、その場で帰るからな?」
「それでも良いので、確認だけはさせて下さい」
穴の底に何が残されているかは、分からないけれど、地下の奥底で、何が行われて居たのか、私はこの目で確かめなくてはいけないのだと思います。
元々地震の少ない地域で、耐震性を考慮した建築様式になっていなかった事が、被害を大きくしたようです。
内宮は空間を広く取った造りになっていたことが災いして,半壊状態。
柘榴宮がある後宮の方が、被害が少なくてすみました。
皇都内で特に被害の大きかった大神殿は、その敷地の殆どが、陥没した穴の中に崩れ落ち、瓦礫の山となってしまったそうです。
「・・・・クレ・・ドラゴンが大神殿の地下から出てきたのですか?」
「目撃した者の話によると、そのようだな。この地震も、地下でドラゴンが暴れたからではないかと皆が言っているな。大神殿はこの有様だ。一応捜索ははさせているが、中に居た神官と神兵は・・望み薄だな」
肩から前に流した三つ編みにした蜂蜜色の髪を、指先で弄ぶリリーシュ様が気だるげにお話しされています。
「安全を確保できていないから、穴の中もしっかりとは確認できていないが、大神殿の下に大きな横穴が見える。おそらくドラゴンは、その横穴の中に居たのではないかな」
「そうですか・・・」
こんな近くに居たなんて。
どうして気づかなかったんだろう。
婚約式の時に、気付いていたら
こんなことにならなかったのに・・・・。
「その顔は、何故気づけなかったかと、悔やんでいるな?」
「わかりますか?」
「お前は愚息と比べて、すぐに顔に出るから、分かり易い。大神殿の事は気にするなよ?あれだけ深いところに居たら、気づける者など居ないだろう」
「お気遣いありがとうございます。でもリリーシュ様?その愚息って言うのやめてもらえませんか?」
髪から指を離したリリーシュ様の瞳に、揶揄の色が浮かんでいます。
「伴侶を貶されるのは気分が悪いか?」
「そうですね。とても気分が悪いです。アレクは愚かではないので」
「ハハ!そうか、私の息子なのに愚かではないのか?」
「ええ。違いますね・・・何故、アレクにそんな態度を取るのですか?」
「習い性・・・だな」
だから、なんでそんな習慣ができたかって話ですよ?
「ギデオンから守りたかった・・・と言えば聞こえが良いか?」
「私は本心をお聞きしたかったのですが?また、ふざけて誤魔化すのなら、これ以上は聞きません」
守りたかった、で良いのに。
一言多いです。
「これは手厳しい。・・・ぐ・・あれは見た目はああだが、私とて息子が可愛くないわけではないのだよ?」
「そうですか?愚息の次はあれ呼ばわりで?」
親なのに見た目を貶しちゃ駄目でしょ?
あなたの息子は、イケメンなんですよ?
「ふむ。ますます手厳しい」
「リリーシュ様? 内宮のお部屋もタウンハウスも使えないから、柘榴宮に泊めて欲しいって、お話でしたよね?」
「そうだが?」
「でしたら、家の主人に敬意を払うべきなのでは?」
「うむ。それは尤もな意見だな」
「とにかく、お部屋の用意は頼んでおきますので、アレクさんと仲良くして下さいね?」
「わかった、分かった。大人しくするさ」
「そろそろ、皆さんお揃いになると思いますから、行きましょうか」
「この調子だと、ウィリアムも引っ越してくるのではないか?」
・・・それはちょっと、面倒かも・・・
「ははっ!!まぁ、そうだろうな!」
人の顔色読んで話しを進めるの、やめて欲しいです。
それにしても、アレクさんにあれだけ厳しいこと言われてへこんでいたのに、すっかり立ち直って、この元気。
メンタル強すぎじゃ無いですか?
◇◇
「レン。休んでいなくて良かったのか?」
「しっかり休んだから、もう大丈夫。心配かけてごめんね」
クレイオス様の襲来後、パフォスさん達医局の人達と、怪我人の治癒に当たっていた私は、必死になり過ぎて魔力切れを起こしてしまったのです。
そのせいで、2日も寝込むことになって、助けになるどころか、かえって皆さんにご迷惑をかけてしまいました。
次からは、魔力量のチェックを忘れないように気をつけないといけません。
私の顔を心配そうに覗き込むアレクさんですが、ここ数日寝る間を惜しんで、救助活動の指揮を取っている為か、いつもツルツルのお顔に無精髭が生えて、とても疲れて見えます。
今日から、医局のお手伝いに戻ると言うと、また心配されてしまいましたが、今はそれどころでは有りませんよね?
「君が戻ってくれるのは心強いが、今度は無理しないようにな?」
「うん。気を付ける」
この遣り取りがアレクさんのお膝の上で髪に顔を埋められた状態なので、他の人の生暖かい視線に、魔力の前にメンタルがゴリゴリ削られています。
でも、これはもう受け入れるしか無いので、みんなの視線は気付かないフリです。
「あ~。話しを続けていいか?」
甘々モードになり掛けたアレクさんを、引き戻したロロシュさんも、ヨレヨレですが体温調整ベストを着たままです。
この人、ずっと着替えてないのかしら?
「とにかく治癒師の数が全く足りねぇよ。それと、食うもんもねえから、俺らの炊き出しだけじゃ焼け石に水だし、このままじゃ食いもんの奪い合いで暴動になりそうだぜ?」
「炊き出しや、配給についてはウィリアムが算段しているが、うまくいっていないようだな?」
「どうせ、どっかのクソが横流ししてんじゃねぇのか?」
と、かなりご立腹です。
実際に困っている人を見ているだけに、余計腹立たしいのでしょう。
「それは、私の方でなんとかする」
リリーシュ様が、請け負ってくれましたが、ロロシュさんの目は胡乱気です。
「皇都は私の管轄だからな?騎士の手は借りることになるが、お前達はあのドラゴンに集中した方が良いだろう」
そうリリーシュ様が話すと、ロロシュさんも少しは納得した様子です。
「そのドラゴンだが、行方は掴めているか?」
アレクさんの問いに答えたのは、やっぱりヨレヨレのミュラーさんでした。
皇宮を攻撃したドラゴンは、他の街をいくつか攻撃しながら、何処かへ去っていったのだそうです。
攻撃された街は、全滅してしまった所もあって,被害は皇都の比では無く。
此方の救助には第3と第4騎士団が当たっているそうです。
「今何処に居るのかは、分かっておりませんが、南に向かっているのは確かなようです」
「・・」
「ニックスの神殿でしょうか?」
ニックスとアミーの神殿の場所を発見したと言う知らせは、まだなかった筈です。
「・・・ニックスの捜索隊からの連絡はないか?」
「今の所は。急ぎで鳥を飛ばします」
「ロロシュは情報収集、ミュラーは遠征の準備。第1の手伝いはショーンだな」
テキパキと指示を出すアレクさんですが、私の頭に顎を乗っけたままでは、威厳に傷が付きませんか?
みんな気にして居ませんけど、誰かこれ、止めてくれないでしょうか?
「レンは、無理をしない事。俺が居ない時はマークから離れない事。この二つは絶対守るんだぞ?」
「はい・・・あの、出来るだけ早く、大神殿に行きたいのですが・・・」
「・・・・瘴気か?」
「はい。あのドラゴンが神殿の地下に居たのなら、放っておくのは危険だと思います」
数秒の間、私の顔をじっと見ていたアレクさんは、諦めたように溜息を付きました。
「・・・・母上、レンが良いと言うまでは、大穴には誰も入らないようにして下さい」
「手配する」
「レン?大神殿の大穴には、おれが一緒に行く。だがあの大穴は、かなり危険な状態だ。俺がこれ以上は無理だと判断したら、その場で帰るからな?」
「それでも良いので、確認だけはさせて下さい」
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