獣人騎士団長の愛は、重くて甘い

こむぎダック

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紫藤 蓮(シトウ レン)

森の中

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「・・・消えちゃった」
「土魔法か何かだろう。レン、アガスの事は後だ」

 そうでした!
 今は召喚された魔物に集中しないと。

 池を取り囲む森の彼方此方から、騎士達の怒号と魔物の雄叫び。
 放たれた魔法が弾ける音が聞こえています。

 池の周囲を見張ってくれていた第2騎士団のみんなやマークさん達も、既に魔物との戦いに向かっている様です。

 言いたい放題言うだけ言って、消えてしまったアガス(ヴァラクと呼んだ方がいいのでしょうか?)が準備は整った。と言っていました。

 なんの準備なのか、もの凄く気になります。
 彼がヴァラク教を利用して、何をしようとしているのか、いく通りか考えて来ましたが、今回はその答えを得ることは出来ませんでした。

 けれど彼の口振りや、未だにアウラ様とのボイチャが繋がらない状態なのを加味すると、考えていた最悪のケースを覚悟する必要があるかもしれません。

 でも、確証のない憶測を、それも国の世界の存亡に関わる話しを、憶測だけでみんなに話して良いものでしょうか? 
  
 懊悩し掛けた私は、騎士達を守り魔物と戦うアレクさんの横顔を見て、彼が言ってくれた言葉を思い出しました。

 ”君が思うのと同じ様に、俺も、俺たちも君を守り、助けたいと思っている" 

 私は一人じゃない。

 親に嫌われて、一人ぼっちだと思って心を閉ざしていた時も、祖父母が側に居てくれた。

 その恩を返すことも出来ず、私にとって祖父母がどれだけ大切な存在だったか、伝える事も出来ないまま、この世界に来てしまったけれど、同じ後悔はしたく無い。

 これからは思っていること、考えていることを、言葉にしてアレクさんに伝えよう。

 アレクさんは、ずっとこの国を守ってきた人です。

 私一人で答えの出ない事も、彼は一緒に考えてくれる。

 彼ならきっと、私の物の考え方や人の見方を、気味悪がったりしないで、ちゃんと聞いてくれるはずだから。

 ◇◇

 アガスが森に召喚した魔物は、キマイラ1体とコカトリスの群れでした。

 どちらも攻撃力が高いだけでなく、毒や石化などの状態異常を引き起こす攻撃を仕掛けて来る厄介な相手です。
 
 ステータス画面で確認できた内容だと、私が見知ったゲームのモンスターと変わりはない様です。

 キマイラは、ライオンの頭、山羊の胴体、蛇の尻尾。口から火を吐き尻尾の蛇が毒を持つと言う、私も知っている、ギリシャ神話に出てくる姿に似ていました。

 ただコカトリスが・・・・。
 体高は私と同じくらいだから、160㎝前後でしょうか?口から石化のブレスを吐くとこまでは納得出来ます。

 顔が鳥なのも、コカトリスは鶏の頭に蛇の体を持つとされているし、ゲームでも鶏っぽい姿だったからまあ良いでしょう。

 でもなんでポーリッシュなの?
 頭ふさふさで、めちゃくちゃ可愛いんですけど?!

 幼稚園の飼育小屋に、いっぱい居たのを思い出すなぁ・・・・。

 幼少の頃を思い出して、複雑な気分です。

 しかし魔物の殲滅を頼んで来たアウラ様が、わざわざ魔物の特性を細かく考えたりするものでしょうか?

 以前ミーネに湧いたガルーダの時も思いましたが、設定的には結構いい加減な気がするので、アウラ様が意図せず生まれてきたものに関しては、アウラ様の知識が反映されているだけなのかもしれません。

 そうだとしても、影響受け過ぎなのは変わらないのですけどね?

 森に召喚された魔物を確認したアレクさんは、いつもの様に一網打尽にする事はなく、魔物の弱点や戦い方の指示を出し、危険な状態に陥った騎士さん達を守ることを優先している様でした。

「いつもみたいに、魔法でドッカーンってやっつけないの?」
「ん? そのほうが簡単だが、教育にはならんだろう?」
「なるほど?」
「君も浄化を済ませたばかりだ。今回は手出ししない様にな?」
「分かりました。けど本当に大丈夫?」
「キマイラやコカトリスは珍しい魔物だ。皆のいい経験になるだろう」

 何事も経験するのが大事。
 可愛い子には旅をさせろって事ですね?

 みんな、もの凄く大変そうですけどね?

「コカトリスの石化の治療はどうやるの?治癒で治る?」
「能力の高さにもよる。まぁレンの治癒なら治せるだろうが、そうそう腕のいい治癒師はいないだろう?だから星の雫と云う、川などの水中に咲く花から作った薬を使うのが一般的だな」

「へぇ~。あっ!あそこ危なくないですか?」
「あれは,うちの奴らだな。帰ったら鍛錬を倍にするか?」

 それは、ちょっと可哀想なのでは?
 う~ん。でも少しでも強くなった方が、身を守れる訳だし・・・。

「三割り増しくらいで勘弁してあげて?」
「・・・四割だな」

 私頑張って交渉したよ!みんなも頑張れ!

 窮地に陥った見知った騎士さんの前に、防護結界を張り、コカトリスの攻撃を防いだアレクさんは、次にフサフサな頭を氷漬けにして、騎士さん達がとどめを刺せるようにしています。

 コカトリスから採れる素材は、騎士団の収入源になるので、その解体も教育の一貫なのだとか。 
 組織の運営って、色々考える事が多くてアレクさんも大変です。

「この辺りは問題なさそうだな」

 今回はロロシュさんが、転移の魔法陣を直ぐに解除してくれたので、前回の様に異常な数の魔物に悩まされる事はありませんでした。

 やっぱりイマミアでは、ロロシュさんが海に入りたがらなかったせいで、魔法陣を消すのが遅れたのだと思います。

 ロロシュさんの体温調節対策は、今後の課題ですね。

「キマイラはマークがいるから問題ないだろうが、一応確認に行くぞ?」
「は~い」

 私の軽い返事に、アレクさんが不思議そうな顔をしています。
 でも、私の想像通りなら、これから辛いことが沢山ありそうなので、空元気でも今は明るくしていたい。

「いつも思うのだが、君は疲れていても大丈夫と言うだろう?辛かったら辛いと言っても良いのだぞ?」
「辛いのは普通に辛いですよ?今も腕をあげるのも億劫だし。でもアレクさんとくっ付いてると、ポカポカして気持ちいいから大丈夫なんです」

 私からしたら、魔王降臨で魔法をバカスカ出しまくったあなたが、平然としている方が驚きですよ?
 今は、お耳が若干赤くなっていますけどね?

「君は・・・・そう云うところだぞ?」

 なんのことでしょうか?

「アレクさんも疲れたって言わないでしょ?」
「・・・さん?」
「あっ、はい」
「・・・・俺は体だけは頑丈だからな」
「ハハハ・・・・」

 はあ~。今のでどっと疲れが・・・。

「どうやら、マークが仕留めた様だぞ」
「キマイラですか? あッほんとだ」

 私達が到着したのは、マークさんがキマイラにとどめを刺した直後だったようです。

 倒れたキマイラから剣を引き抜くマークさんは、貴公子と言うより鞭が似合う女王様って感じです。

 身体の周りに浮かぶ氷の粒が、木漏れ陽を受けキラキラ光って。美麗なお顔に表情はなく、冷たい視線を足元のキマイラに向けている姿は、まさに氷の女王。

 周囲を囲む騎士さん達が、溶けるような熱い眼差しを送るのも無理はありません。

 完璧に心酔しきってますよね?
 副団長になったロロシュさんの立場がないのでは?
 それ以前に、番がモテモテって・・・。

「あれ。ほっといて良いんですか?」
「ん? あぁ、いつもの事だ。あの位なら、何人か眠れなくなる程度だろう。今回は大したことないな」
 
 大した事がある時って、どんな状態?
 逆に怖いけど、良いのかな?

「ロロシュさん大変だ」
「まぁ、本人の努力次第だな」

 ロロシュ頑張れ!!
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