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紫藤 蓮(シトウ レン)

遠征ですか?

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ギデオンは侵略戦争を起こし、領土を広げることに尽力した人です。
そんな人が何故、手に入れた国を守ろうとしなかったのでしょうか。
積み上げた積み木をわざと崩す子供の様に、わざわざ国を壊す真似をしたのは何故?

 ただ暴君だったから。
 その一言で済ませてしまって、良いのでしょうか?

アレクさんは、ハリー様の事を暗愚だと言ったけれど、皇家の人間なら帝王学は学んでいたでしょう。
アレクさんが優秀だったと言うジルベール様と力を合わせれば、偉大な皇帝にはなれなくとも、あの穏やかな性格なら、善政を敷く事は出来たはずなのでは?

それなのに、ギデオンは親子の仲を裂き、ジルベール様を壊し、結果帝国の人々は更なる苦しみを与えられる事になりました。

そもそもジルベール様に薬を与えたのは誰なのか。

ジルベール様が苦しんでいるのを知っていたのなら、マイオールに逃して仕舞えばよかったんです。
それが出来なくても、他にお助けする方法は幾らでも有ったのではないでしょうか。

それをあえて危険な薬を与えて、ジルベール様から自我を奪った。

これらを全て偶然と言ってしまって良いとは、私は思えない。

ヴァラク教の教義は本当に獣人差別だけなのでしょうか?
ヴァラク教は、魔族の王子の妄執を起源とした教義を信仰いている、とアウラ様から聞きました。

獣人を嫌っていたギデオン帝は、ヴァラク教の信徒だったのではないか、信徒でなくとも多大な影響を受けていたのではないか。

そうでなければ、帝国の主が神話の時代、神と交わした契約を反故にして、アウラ様の怒りを買い、国や世界を危険に晒すような真似を、自ら進んで行う理由がわかりません。

ギデオンは、別の神を信仰しているから、アウラ様の教えなど、どうでも良かったのではないでしょうか。

だから、神官が堕落して、民を助けることもなく神殿に富を溜め込んでも。
アウラ様のお声を聞くことが出来なくなっても、放置していた。

 そのほうが都合が良かったから。

神との契約を反故にして、その教えを冒涜し侵略戦争で数多の命を奪い、民を抑圧し圧政を強いたのは、民の怨嗟の声を糧に、瘴気を生み出す為だったのではないか。

魔物の討伐に、あまり興味を示さなかったのは、その被害で、より多くの瘴気を生み出すつもりだったから。

アガスがクレイオス様の鱗を呪具に出来たのも、クレイオス様が居なくなったのも、ヴァラク教が関係して居るのかもしれない。



「・・・・ごめんなさい。自分でも穿ち過ぎだと分かって居るんです」

「・・・・」

「こんな話、不愉快ですよね」

「いや・・・無理に聞き出したのは俺だ。気にするな。それに今の話で腑に落ちた部分も有る」

「・・・何かわかったんですか?」

「分かったと言える程の、確証はまだ無いな」

 私の頭に顎を乗せて嘆息するアレクさんは、とてもお疲れの様です。

「大丈夫ですか?何かありましたか?」

「遠征が決まった。君に浄化を頼みたい」

「神殿が見つかった?」

そっちはまだだ、と答えたアレクさんは、また深いため息を吐いています。

「被害が大きかったんですか?」

「被害事態はそれほどでもない、ただ二箇所とも妙な祭壇があると言って来ていてな?」

「二箇所?いっぺんに連絡が入ったんですか?」

「いや、イマミアが先だ。イマミアは以前から浜にブルークラブが住み着いたと、報告を受けていた。ただこの浜は人が利用することがあまり無くてなぁ。ブルークラブは全滅させる訳にもいかんし、数も多くなかったことから、近くの漁村がギルドに依頼して討伐を行ったり、第5の駐留しているゼクトバが近かいから、定期的な見回りと討伐も行っていた」

「なぜ全滅させられないの?」

「ブルークラブは美味いんだ」

「はい?」

「ブルークラブは高級食材でな。美味いし、殻は素材として利用できて、ほとんど捨てるところがないからな。漁に出られない時の漁村の収入源になっている」

君も食べたことがあるだろう?とロイド様に招待された晩餐の話をされて、私も思い出しました。

「あ~あのカニかぁ。あれは美味しかった」

また食べたいな。なんて考えて居ると、頭の上で、アレクさんが喉を鳴らしてクツクツと笑っています。

 この人、私の考えを読んでいるのでは?

「あ~続けるぞ? 漁師の張った網を破られる被害が続出して、第5が討伐に出たのだが、ブルークラブが予想以上に繁殖していてな?それでも討伐事態は上手くいったらしいのだが、異常繁殖の原因調査を行ったところ、ぬしと言うのか、特に大きな個体が逃げ込んだ洞窟内に、妙な祭壇があったそうでな」

「漁村の人が祀ったのでは?」

「そんな風習はないそうだ。問題はその祭壇の側に、さっきのでかいブルークラブが居たのだが、ブルークラブの傷が治ってしまったそうなんだ」

「ん?甲殻類の傷って治りませんよね?脱皮したんじゃないの?」

「レンは、そんなことも知って居るのか?レンの言う通り、脱皮ではないのに傷が塞がったそうだ」
 
「ふ~ん。なんか怪しいですね」

「そうだな。それで第2うちに調査依頼が来て、イマミアの遠征準備に入ったのだが、今度はブネのギルドからの討伐依頼が第3に入ってな」

「ブネはモーガンさんの管轄区域に有るんですね?」

「ああ。ブネの森にはベニ玉子ダケというキノコが生えるのだが、これを使った薬酒は解熱効果がある。このキノコの採取依頼を受けたギルドの者が森に入って、レッドベアと遭遇した。レッドベアは危険な魔獣だし、このキノコが好物でな、食い尽くされる前に第3に討伐依頼を出したのだな」

「なるほど」
 
 ベニ玉子ダケを食べる、レッドベア?
 ブネの森は真っ赤かなのかしら?

「レッドベアの数は多かったが、こちらも無事に討伐は済んだ。しかし森の中にある池に祭壇があり、タマスの洞窟内にあったのと似た配置で魔晶石が置かれていたそうでな?魔晶石はすでに壊れていて、転移陣が発動する様子は無いが、池の中に魚が全くいない。報告を受けたモーガンが、うちにと言うか、レンに調査を頼みたいと言ってきた」

「わかりました。その二箇所で呪具の確認と浄化ですね?」

 早速遠征に出ることになりましたか。
 魔法局の錬金術師の方に、感圧紙の作製を頼んでおいて良かった。

「すまない。また君に負担をかける」
そう言って、アレクさんは私の頭の上にまたまた溜息を溢しています。

 気にしなくていいのに。

「まだ、呪具があると決まった訳じゃありませんし、普通の浄化だけならそんなに疲れないから、大丈夫ですよ?」

「そうは言ってもな」
 
そう。祭壇があって魔晶石もあるなら、呪具がある確率は高いでしょう。
アレクさんが心配してくれて居るのは、痛いほど分かります。

 でもこれは私にしか出来ないことです。

「私は・・遠征に出ると、一日中アレクと一緒に居られるから、遠征好きですよ?」

「そういう言い方は狡いぞ」
 とアレクさんの腕が、後ろからギュウギュウ抱きしめてきます。

 ほんと
 この人は、白虎なのに甘々なんだから。
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