上 下
137 / 497
紫藤 蓮(シトウ レン)

巡る思考

しおりを挟む
 必ず約束は守る、と誓っては居ますが、今の所手掛かりらしい物は、クレイオス様の鱗だけ。

 タマスの泉を浄化している時、 “クレイオスが近くに居る!!”  と頭の中にアウラ様の声が直接響いて、あの鱗を見つけることが出来ました。

 ただ、クレイオス様の像の口の中から鱗を引っ張り出した時、アウラ様の悲痛な叫びが聞こえました。

 あんな絶望に満ちた悲しい声を、私は他に聞いたことが有りません。
 あれから何度も、ボイチャでアウラ様を呼んでいますが、いまだ応答は無く・・・・。

 人である私が、神であるアウラ様を心配するなど、烏滸がましいとは思います。
 でも、あんなに悲しい叫びをあげたアウラ様を、心配せずにいられるでしょうか。

 どんなに辛いことがあっても、私にはアレクさんが居てくれます。
 アレクさんが側に居てくれる。
 ただそれだけで、どれ程励まされ慰められているか、言葉で言い表すことが出来ない程です。

 それに第2騎士団の人達、皇家の方々、柘榴宮の人達。本当に多くの人達に私は支えられているのです。

 でもアウラ様は?
 一番側に居てほしいクレイオス様を奪われたアウラ様を誰が励まし、お慰めするのでしょう。

 アウラ様のお庭で、遠くの方に天使が飛んでいるのが見えました。
 あの天使様達が、アウラ様のことを慰めてくれていると良いのですが・・・。

 こんな事考えるなんて、其れこそ烏滸がましく出過ぎた真似かもしれませんね。

 浄化ができた4枚の鱗は、柘榴宮の一室でアウラ様の像と共に祀って有ります。
 僅かでも良い、アウラ様とクレイオス様の慰めになって居るでしょうか。

「レン?」
「あっアレク。お帰りなさい」

 アレクさんは私を抱き上げると、額にキスをくれました。
 あんなに恥ずかしかったのに、今はアレクさんのキスでホッとしている自分に驚きです。

「こんな所でどうしたんだ?体が冷えてしまうぞ」

「アウラ様とクレイオス様の事を考えていて」

「それで、あんな悲しげな歌を歌ってたのか?」

「聞いてたんですか?」

「君の声はよく通る。それに俺は耳が良いからな」

 そんな大声で歌ってたのでしょうか。
 次からは、バルコニーじゃなくて、部屋の中で一人カラオケにしないと。

「恥ずかしがることはない、異界の言葉は分からないが、胸に沁みるような歌だった。どんな意味の歌なんだ?」

「恋歌なんです。遠く離れた愛しい人を想って、川の流れに自分の心を届けてくれるように願う歌詞なんですよ?」

「・・・俺はレンのそばを離れないから」
「じゃあ私はアレクにずっとくっ付いてますね?」
「そうしてくれ」

 アレクさんの腕の中はあったかくて、すごく安心できる。
 こうやって、アレクさんが甘やかしてくれるから、故郷を離れた寂しさも、浄化の辛さも我慢できる。

 討伐される、魔物の多くは瘴気の所為で、魔物に変えられてしまった生き物達。

 魔物達から、瘴気に穢され苦しんで助けを求める声が聞こえる。
 なんて言ったら、アレクさん困るだろうな。

 彼らは元は生きた動物だから、浄化すれば元の姿に戻れる子達も居る。

 だけど、瘴気に心まで蝕まれた子達は、元の姿に戻ることは出来ない。
 怒り、悲しみ、怨みそんな負の感情に支配され、本当の魔物になってしまうから。

 だから、そんな子達は浄化しても、心と魂を解放してあげることしか、私には出来ない。

 人型の魔物や瘴気溜まりから産まれた魔物は、死んだ者達の思念の塊。
 痛い怖い死にたくない、なんで自分が死なないといけないんだ。 

 そんな人の思念が集まって、瘴気が内包する怨念と言えるほどの負の感情と、世界に満ちた魔力が寄り合わさって生まれてくる魔物達。

 祟り神と似てると思う。
 だから私は、歌と踊りを奉納して、怒りを鎮め弔って魂を解放する。

 何も知らなかった時は、歌と踊りなんて巫山戯たスキルだと思ったけど、ちゃんと意味はありました。

 騎士団の皆んなは、命懸けで魔物と戦っています。そんな人達に可哀想だから、魔物を傷つけないで。なんて言う事なんて出来ません。
 魔物がどんなに哀れな存在だとしても、人々を苦しめる限り、互いが相容れる事はないのだから。

 これらの事は、討伐に参加して魔物と関わり、実際に瘴気に触れて知ったことばかりです。

 瘴気は元から、この世界にあった物です。
 人だとか動物だとかは関係なく、生きて居る限り、負の感情は生まれます。
 植物も葉っぱを食べられたら痛みを感じるし、相手を恨むかもしれない。
 動物も捕食されたら恐怖を感じるでしょう。
 それが積もれば、瘴気になる。

 それは自然の摂理だから、以前は自然の中に帰って行けた。
 でも今は違う。
 人が持つ強い感情が瘴気をより強く濃くして、世界に留まらせてしまって居るのだと思う。

 “瘴気はね。負の感情が凝った物。その負の感情を最も多く生み出すのは人だ。誰かを蔑んで貶めるのも人。争いを好み戦を起こして多くの命を奪うのも人だ。そのせいで瘴気が絶える事もない。人が脆弱なのは体だけじゃない、精神も脆弱だ。愛よりも負の感情を懐きやすい” そうアウラ様は仰った。

 だとしたら、ギデオン帝はやり過ぎた。
 侵略戦争で多くの命を奪い、圧政を強いて人々を苦しめ、今もまだギデオンの残した傷の多くは癒えていない。

 ギデオンは怖くなかったのかな、戦争で怨みを買い、守るべき民を虐げ、自分の身内をも傷つけ壊して、わざわざ怨みを買うようなことばかりして。
 人としての感情が無いみたいに・・・・。

 わざわざ?
 人の感情がない?
 
 まさかね・・・いくら何でも考え過ぎ。
 でも・・・

「俺の番は、可愛らしい頭で何をそんなに考え込んでるんだ?」

「えっ?・・・あっごめんなさい」

 考え過ぎて、アレクさんを放置してしまいました。
 世界最強のイケメンが拗ねてます。
 それを可愛いとか思っちゃう私も、大概ですよね?
 
「謝らなくていい。ただ君が一人で悩んでいるようで心配になっただけだ」

「ちょっと、嫌なことを思いついちゃって」

「嫌なこと?俺に話したくない?」

「そんなことは無いけど、考えが飛躍し過ぎて突拍子もないというか、単なる想像なので」

「・・・・俺以外の何が、番の心を独占して居るのか聞きたいな」

 ひぃーー!
 怖い怖い怖い!!
 手指の一本一本に、キスしてくるなんて甘々な事してるくせに、目がマジです。
 瞳孔開いてますよ?
 思考にまで嫉妬するんですか?
 このイケメンはッ!?

「・・・大した話しじゃ無いけどいいの?」

「君の事ならなんでも知りたい」

 クゥーーッ。
 この人絶対分かってやってる
 瞳孔は開いてるけど。
 私が、その甘えたな顔に弱いの知っててやってるでしょ!
 
 結局、イケメンの破壊力に負けた私は、ギデオン帝の行いについて、思いついたことを話すことにしました。

 ギデオン帝は、アレクさんにとって辛い思い出なので、あまり話したくはなかったのですが、言葉に詰まると、急かすでもなく穏やかに先を促され、気付けば想像したことを洗いざらい話していたのです。

 単に思いついただけの話しを、アレクさんは一笑に付したっていいはずなのに、とても真剣に聞いてくれたのでした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

淫らなお姫様とイケメン騎士達のエロスな夜伽物語

瀬能なつ
恋愛
17才になった皇女サーシャは、国のしきたりに従い、6人の騎士たちを従えて、遥か彼方の霊峰へと旅立ちます。 長い道中、姫を警護する騎士たちの体力を回復する方法は、ズバリ、キスとH! 途中、魔物に襲われたり、姫の寵愛を競い合う騎士たちの様々な恋の駆け引きもあったりと、お姫様の旅はなかなか困難なのです?!

5人の旦那様と365日の蜜日【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
気が付いたら、前と後に入ってる! そんな夢を見た日、それが現実になってしまった、メリッサ。 ゲーデル国の田舎町の商人の娘として育てられたメリッサは12歳になった。しかし、ゲーデル国の軍人により、メリッサは夢を見た日連れ去られてしまった。連れて来られて入った部屋には、自分そっくりな少女の肖像画。そして、その肖像画の大人になった女性は、ゲーデル国の女王、メリベルその人だった。 対面して初めて気付くメリッサ。「この人は母だ」と………。 ※♡が付く話はHシーンです

迷い込んだ先で獣人公爵の愛玩動物になりました(R18)

るーろ
恋愛
気がついたら知らない場所にた早川なつほ。異世界人として捕えられ愛玩動物として売られるところを公爵家のエレナ・メルストに買われた。 エレナは兄であるノアへのプレゼンとして_ 発情/甘々?/若干無理矢理/

クソつよ性欲隠して結婚したら草食系旦那が巨根で絶倫だった

山吹花月
恋愛
『穢れを知らぬ清廉な乙女』と『王子系聖人君子』 色欲とは無縁と思われている夫婦は互いに欲望を隠していた。 ◇ムーンライトノベルズ様へも掲載しております。

大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました

扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!? *こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。 ―― ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。 そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。 その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。 結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。 が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。 彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。 しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。 どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。 そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。 ――もしかして、これは嫌がらせ? メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。 「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」 どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……? *WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。

異世界召喚されたけどヤバい国だったので逃げ出したら、イケメン騎士様に溺愛されました

平山和人
恋愛
平凡なOLの清水恭子は異世界に集団召喚されたが、見るからに怪しい匂いがプンプンしていた。 騎士団長のカイトの出引きで国を脱出することになったが、追っ手に追われる逃亡生活が始まった。 そうした生活を続けていくうちに二人は相思相愛の関係となり、やがて結婚を誓い合うのであった。

【R-18】喪女ですが、魔王の息子×2の花嫁になるため異世界に召喚されました

indi子/金色魚々子
恋愛
――優しげな王子と強引な王子、世継ぎを残すために、今宵も二人の王子に淫らに愛されます。 逢坂美咲(おうさか みさき)は、恋愛経験が一切ないもてない女=喪女。 一人で過ごす事が決定しているクリスマスの夜、バイト先の本屋で万引き犯を追いかけている時に階段で足を滑らせて落ちていってしまう。 しかし、気が付いた時……美咲がいたのは、なんと異世界の魔王城!? そこで、魔王の息子である二人の王子の『花嫁』として召喚されたと告げられて……? 元の世界に帰るためには、その二人の王子、ミハイルとアレクセイどちらかの子どもを産むことが交換条件に! もてない女ミサキの、甘くとろける淫らな魔王城ライフ、無事?開幕! 

処理中です...