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紫藤 蓮(シトウ レン)

お手伝い

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「レン様こちらの確認をお願いできますか?」
「ちょっと待って下さいね・・・・ミュラーさん大丈夫、合ってます」
「じゃあこっちも、見てくれよ」
「ロロシュさん、頼み方」
「・・・見て下さい」
「はい、どうぞ・・・・・・計算間違ってます。やり直しですね」
「マジかよ」
「・・・・・お前達、いい加減にしろ。レンは文官ではないぞ」
「そうは、言うけどよ~レ・・シトウ様の方が閣下より仕事はえ~からよ」
「むっ?」
「アレク?私の事なら気にしないで?彼方ではこういう事務を仕事にしてたので、割と得意ですから」
「しかし、ケブラーから戻ったばかりで、体調も戻っていないだろう?」
 
 イケメンが心配そうにしてますけど。
 体調が戻らないのは、あなたのせいなのですよ?心配してくれるなら、夜は控えて頂きたいです。

 普段より疲れてるはずの、遠征から戻った後の方が、ねちっこいって。
 ムッツリイケメンめ。

「でも.遠征続きで書類溜まってますよね?手分けした方が早く終わりますよ?」
「それは、そうなんだが・・・」
「ほらほら、手を動かして。ちゃっちゃと終わらせましょう」

 はあ~~。
 こんなに決済書類溜め込んじゃって。
 もう、次の予算会議がもう直ぐだって、言ってたのに。

 副団長がマークさんからロロシュさんに代わって、アレクさんが遠征に出ることも多かったから、書類が溜まるのは仕方が無いとは思います。 

 でもなぁ。
 これ多分、騎士団の文官の方の好みだと思うのですが。
 担当した人によって書式が違うなんて、複式簿記に慣れた私には信じられない。

 書式が滅茶苦茶で、統一されてないなんて
 
 億単位のお金を動かしているのに、家計簿レベルの記入しかされてないのですよ?
 大丈夫なのでしょうか?

 これ国庫の管理もこんな感じだとしたら、ザルもいいとこじゃないですか?
 横領し放題ですよ?
 せめて騎士団内の書式くらい統一すれば良いのに。

 アレクさんが忙しくて大変って聞いたから、お昼を届けに来ただけなのに、こんなことを心配する羽目になるとは。

 でもここは、乗り掛かった舟です。
 最後まできっちり、やり遂げて見せます。

「ん?レンは何を書いているんだ?」

「これですか?複式簿記の基本、出納帳です」

「すいとう?えっ?」

「すいとうちょう。って言います。騎士団のお金の出入りは、お給料や細かい物は現金ですけど、月末にまとめて支払う物や、魔物から取れた素材を売ったお金は、後から纏めて入って来ますよね?」

「そうだな?」

「私は先々月分のお金の出入りの書類を確認してるのですが、3ヶ月前の残金から計算して行くと、お金が合わないんです。それで見やすいように、アレクの承認した日付順に書き出し直してます」

「書き出し直す?一月分をか?」

「はい。原価計算とかはしてないので、ざっくりした物にはなりますが、まず詰所の食費や備品代等と練武場の備品と消耗品等々。遠征費、騎士さん達のお給料など出費をそれぞれ仕訳して、収入も同じ様にします」

「それで?」

「仕訳した金額と、何に使ったのかを出納帳に記入して、一月分の収支を損益計算書に転記すれば、毎月の収入と支出が簡単に確認出来るようになるんですよ?」

 あれ?みんな黙っちゃった。
 私の説明、分からなかったのかな?
 簿記とか言っても伝わらないだろうし。
 
「多分、口で言っても分かり辛いと思うので、取り敢えずやってみますね?」

「あ?あぁ」

「でも、その前にお腹すいてない?お昼ごはん食べませんか?」

 さっきからロロシュさんのお腹が鳴ってるのが聞こえて来て、マークさんが笑いを堪えてたんですよね。

「そうだったな、レンは昼メシを持って来たんだった」

「魔石で保温してありますから、まだ暖かいと思います。たくさん作って来たので、皆さんもどうぞ?」

 うわぁ。ロロシュさんが滅茶苦茶嬉しそう。朝食べてないのかな?

「アレクの分はこっち」
「俺の分だけ別なのか?」
「お肉多めですよ?」

 うれしそ~!
 虎さんだから、お肉大好きですよね。

「では、天気もいい。庭に出よう」

「いいですよ?皆さんも一緒にいかがですか?」

「いえッ!私たちはこちらで食べますので!」
「そうそう!!2人で行って来なって!」

 あれ?ロロシュさんとミュラーさんの顔色が急に悪くなったけど、どうしたのかな?

「ミュラーさん?どうしました?」
「レン、行くぞ」
「えっ?あっはい」

「婚約式やったら落ち着くんじゃねーのかよ」
 とロロシュさんがぼやいていますが、なんのことでしょうか?
 アレクさんもいつも通りですよ?

 内宮の庭園まで、安定の抱っこ移動です。

 はい、お陰様でもう慣れました。
 恥ずかしいのは変わりませんが、リリーシュ様にお会いして、諦めがつきました。
 遺伝子レベルで刷り込まれた行動は、どうにも出来ませんよね?

 内宮の庭園は、あまり背の高い木はなくて、腰くらいまでの生垣や、季節のお花が植えてある、よく管理された美しい庭園です。

 ただ日影があまり無いのが、悩みどころでしょうか。
 私も25を越え、シミそばかすが気になるお年頃です。

 アレクさんが連れて来てくれたのは、庭園の奥にある、大きな池の側に設られたガゼボでした。

 日影があって、本当に良かった。

 アレクさんのお話によると、昔はこの場所で大規模な園遊会や、お茶会が頻繁にが開かれていたようですが、今は年一回の叙勲の際の、パティー会場として利用されるだけだそうです。

「綺麗に手入れしてあるのに、使わないのは勿体無いですね」

「ん?ここを利用するのものは多いぞ。まぁ、大概夜なんだが」

「夜?ライトアップとかするんですか?」

「いや、建物から離れてるから、真っ暗だな。ここは皇宮に部屋を与えられた貴族や、侍従が密会に利用するんだ」

「みっ密会?それは・・・剣呑な方ではなく?」

「色恋の方だな。皇宮勤めの侍従は、許可が無いと皇宮の外には出られんからな、特に人族の侍従は、職場恋愛が多くなる」

「ふんふん」

「しかし、皇宮に勤められる者はそれなりの家格の者達ばかりだろう?獣人で番が見つかればいいが、そうでなければ政略結婚を強いられる者も多い」

「それで道ならぬ恋に落ちた、二人の密会に使われる?」

「正解。なんでも、この池に映った月を二人で見ながら愛を誓うと、その二人は結ばれる、と云う伝説が有るらしくてな?」

「へぇ~。ちょっとロマンチック。本当に願いが叶うのでしょうか?」

「さあな。実際違う者と結ばれたとして、昔の恋人の話をべらべら喋ったりしないからな。確認できん」

「な なるほど」
 
 アレクさん本人は甘々だけれど、こう云う乙女っぽい恋愛話しに興味がないから、情緒が足り無かったりするんですよね。
 
 まぁそこがアレクさんらしいのですけど。

「それより、ご飯食べて?」

「ああ、そうだな・・・今日も豪勢だな」

「ふふ。今日は山盛りナシゴレン風ごはんと骨付き鳥モモ肉のグリル、ポテトサラダです」

 この国のお米は少しパサついていますが、結構美味しいことが分かりました。

 ただ、モークと言う家畜の餌に使われているので、最初は明ら様に警戒されてしまいました。
 でも私が目の前で、バクバク食べているのを見て、アレクさんも警戒を解いてくれました。
 野生動物とお友達になった、気分です。
 
 でも、もう一度たべたいなぁ。
 コシヒカリ、秋田こまち、夢おばこ・・・
 日本のお米農家さんは偉大でした。

「このサラダはマヨネーズが入っているのか?」

「はい。アレクさんもマヨネーズ好きですよね?」

「アレク」
 
 しまった。
 癖で敬称を付けてしまいました。
 さん付けされたくらいで
 イケメンが拗ねるとか。
 凶悪すぎ!!
 心臓撃ち抜かれちゃいました!!

「アレク?お肉食べる?」

 こう云う時は、ご機嫌を取らないと
 後が大変になるから!
 
 お肉であ~んです。
 
 お願い!私の羞恥心!
 今は起きないで!
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