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紫藤 蓮(シトウ レン)

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 先日帝国第二騎士団副団長の地位を退きレン様の専属護衛となった。

 レン様は、他の貴族とは違い我儘を言うこともなく、自分に課せられた日課やお仕事を楽しげに熟される、全く手の掛からない護衛対象だ。

 しかし、たまに何かアイデアを思い付かれたと、作業部屋に篭られたり、閣下のお食事を作りに厨房に立たれたり、普通の貴族ではあまりしない事をなさる時がある。

 錬金に失敗して素材を爆発させてしまうことも有るが、レン様は閣下には内緒にしてほしいと仰られ、新たな実験に取り組む凝り性な一面をお持ちだ。

 厨房に立たれる際も、この凝り性なところを発揮され、こちらの食材を使い、異界の食べ物を再現されている。
 私もご相伴に預かった事があるが、レン様の作る食事は、大変美味なものばかりだ。

 閣下のお気に入りは、ビーフシチューとトン汁言う肉と野菜を煮込んだ料理と魚の煮付けだ。
 かくゆう私も、これらは大好物だ。

 このトン汁には、アルサク城下で購入したミソが使われている。
 このミソはなかなか優れた調味料で、トン汁以外の料理にも利用されている。

 お忙しい閣下のお身体を心配されたレン様は、体に良いからとミソ汁と言うスープを閣下の為によく作られている。
 
 ミソと一緒に購入したショーウも、好んで使用され、閣下の好物の魚の煮付けにも使われているそうだ。

 その他にも、マヨネーズと言うソースを作られたのだが、これが絶品でこれ迄マヨネーズ無しで生きて来た自分が信じられない。
 そんな私をレン様は「これでマークさんもマヨラーの仲間入りですね」と笑っておられた。

 タマスから戻られてから、閣下だけでなく、レン様も大変お忙しく、何日も作業部屋に篭られていた。
 何を作っておられるか聞いてみたが、期待を裏切りたくないからと、完成する迄教えては下さらなかった。

 しかし完成したアミュレットは素晴らしいものだった。

 これ迄レン様以外、見ることの出来なかった瘴気が見えるようになり、多少の瘴気ならこのアミュレットを付けていれば、体に影響が出なくなるそうだ。
 更に、防御力も向上し致命的な一撃から身を守る、身代わり玉迄付けられていた。

 閣下には特別なアミュレットを贈られて、自慢げに閣下が見せてくださったのは、交差した剣と虎の横顔が模されたアミュレットで、団員に配る物と同じ効果の石の他、小さな魔晶石で白虎の白黒の模様が描かれていた、これにより、化け物じみた閣下の攻撃力が更に向上されるとの事だ。

 内心、本物の化け物に更に近付いたのかと、遠くを見つめたくなった事は、私だけの秘密だ。

 自分が贈られたアミュレットを散々自慢した閣下が、「お前も楽しみにしておけ」と意味深なことを仰った。

 配布を待てとの意味かと思っていたら、レン様は私の為にも特別なアミュレットを用意して下さっていた。

 私用の白狐を模したアミュレットは、尾が九本もあった。
 これはレン様の故郷の伝説にある、魔法に長けた狐の尾が、九本あったからだと教えていただいた。

 私のアミュレットも閣下と同様の効果が付与されていたが、尾の先の少し色の違う魔晶石を指さして「防護結界の強化と、氷魔法の強化を重ねておきました。でもアレクさんが拗ねちゃうから内緒ですよ?」とにっこりされていた。

 試作や閣下のアミュレットを作るだけでも大変な作業であったろうに、私などの為に、このようにお心を砕いてくださるとは、レン様こそが天使に違いない。

 レン様の護衛任務は文句の付け所ない任務だが、一つだけ不満を挙げるとすれば、それは閣下だ。

 レン様が、たまに具合の悪い様子をされることが有る。
 そう言う時は決まって、閣下のマーキングの匂いが強く感じられるのだ。

 婚約紋が消えていないから、最後まではされていないのは分かっているが、最後までしていないにも関わらず、只でさえお疲れのレン様が、膝が震えて立っていられない程、可愛がられるのは如何なものかと思う。
 
 それにあまりマーキングを強くされてしまうと、団員達が怯えて鍛錬や任務にも差し障りが出てしまう。
 草食系の獣人なら尚更だ。

 婚約式が済めば閣下も、もう少し落ち着くだろうか?

 その婚約式の直前、アガスが現れたとの報が入り、急遽レン様もガルスタ山に向かう事となった。
 幸いガルスタ山周辺では、目立った魔物の被害はなく、レン様は喜んでおられたが、問題は山の中で発見された神殿の方にあった。

 泉を穢す呪具が二つもあったのだ。
 私はこれ迄二度、レン様が泉と呪具を浄化されるお姿見てきたが、レン様の負担は大きく、疲弊するお姿は痛々しくて見ていられないほどだ。

 特に呪具の浄化は、より多くのお力を消耗されるようだ。

 浄化を終えられ、青褪め震えるお姿に、何もお助けすることが出来ない、自分の不甲斐なさに嫌気がさす。

 私でさえこうなのだ、閣下の心中は察するにあまり有る。

 浄化を終えられたレン様を、宝物のように腕に抱え天幕に急ぐ閣下は、いつも以上に厳しい顔をされ、鬼気迫るものがある。

 それでもレン様が何か話しかけると、優しい目を向けられるのだから、お二人の絆の強さを感じずには居られない。

 レン様のアミュレットにより、瘴気を見られるようになった団員達も、レン様のお力をより強く感じ、その辛さを改めて理解したようだった。

 レン様の負担を減らそうと、呪具の一つを持ち帰るなり、神殿内に保管するなりしたかったのだが、閣下と私の結界を重ね掛けしても、瘴気が漏れ出てしまうようでは、危険過ぎてその場で浄化するより他なかった。

 レン様の負担を考え、時間を空けて一つづつ浄化することにはしたが、レン様が辛い思いをするのは同じだ。

 それでも、弱音を吐かず不平不満を漏らす事もなく、ただ穏やかにレン様は笑っておられる。

 この方をお護りしたい。
 これは閣下や私だけでなく、第2騎士団全員の願いとなった。
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