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アレクサンドル・クロムウェル

繁忙期

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 レンを取り戻してからの日々は、とにかく
 “忙しい” の一言に尽きた。

 魔物の討伐依頼を部下に振り分け、内容によっては俺とレンも討伐に参加し、浄化を行い、他の騎士団と連絡を取り合いながら、アガスとヴァラク教の情報を集めた。

 レンがアウラ神から示された、クレイオスの神殿の位置を特定し、特定された神殿には探索と監視を指示してその報告を受ける。

 マークは正式に副団長の任を辞し、レンの専属護衛となった。
 しかし、後任が不慣れな上に、かつてないほどの忙しさだ、マークには引き継ぎも兼ね、後任の仕事も手伝ってもらっている。

 マークの後任は、ロロシュだ。
 これは、俺の意思ではなく皇帝からの辞令だった。
 養子で次子だったロロシュに箔をつけたいメリオネス侯爵が、再び捩じ込んできた人事だ。

 おかげで、余計な仕事が増えてしまった。
 武官の人事に貴族が口を挟むと、碌なことがない。

 ロロシュが嫌いだと言う訳ではないが、奴は騎士としての実績も実力も足りていない。
 マークと同等の強さを求めるのは酷な話だが、このままでは、マークの実力と美貌に心酔している部下達からの反発が起こる事は、火を見るより明らかだ。

 そこで俺はロロシュの副団長就任に条件を出した。
 影だったロロシュの部下全員の引き抜きだ。

 マークは見た目とは違い、情報戦や根回し、裏で手を回して邪魔者を排除する、などの腹黒い仕事を得意としていた。
 アガスの蛮行が明らかになった今、神殿の解体も視野に入れた駆け引きには、マーク以上の情報収集能力が必要になる。
 更にレンの安全を考えると、影の情報を貰うために、一々ウィリアムを通す手間も惜しい。
 第二騎士団にロロシュを中心とした暗部を作ってしまえば、これら全ての問題に対処が出来る。

 俺の出した条件に、皇帝は渋い顔をしたが、影との情報共有を前提として納得させることが出来た。

 その間レンは、能力を付与する為の実験を繰り返し、レンの祝福の付与と一番相性が良い素材は、クリスタルだと突き止めていた。
 連日の実験でテンションがおかしくなっていたのか「やっぱり、魔法にはクリスタルがピッタリ」と謎の思い込みを披露していたが、レンがやる事ならなんでも可愛いから、敢えて "魔石の方が相性は良いんだぞ?" という訂正はしないでおいた。

 次にレンは、アミュレットのデザインに取り掛かり、装飾よりも付与した石を取り付ける留め具作りに注力していたようだ。
 この留め具や台座となるアミュレットは、銀のインゴットを前にしたレンが、錬金術を使い、作っては壊しを繰り返した渾身の作だ。
 出来上がったアミュレットは、団服の刺繍に似せた蔦と鳥の羽を合わせた形をしていた。
 銀の台座の中央に、祝福を付与したクリスタルを置き、その両サイドに魔法防御、物理防御を付与した魔晶石と、浄化を付与したクリスタル、その隣に身代わり石を配していた。
 この魔法を付与された石は、アミュレットの裏の留め具を押すと、取り外すことができるようになっていて、石の効果が切れたり破損した場合、簡単に石だけを交換できるように作られていた。
 身代わり石以外のクリスタルと魔晶石はレンが自分で魔法を付与している分、多少は値段を抑えられているが、素材自体がかなり高額になり、量産向きではなかった。

 そのことを指摘すると、レンの瞳はいたずらっぽく キラン と輝き「ふふん。見ててくださいね」と不敵に笑って見せた。

 まぁ、不敵と言ってもレンがやることだから、本人が不敵に見せたいと言うだけで、俺はレンの可愛らしさに、こっそり悶絶しただけだ。

 現在進行形で俺を悶絶させていることに気付いていないレンは、作業机の上にアミュレットの台座と付与済みの石を並べ、クリスタルの上に両手をかざした。
 レンの両手が淡く輝くと、一つだったクリスタルが二つになり、次に四つになりと倍々に増加させ、半刻もかからぬうちに100個以上のクリスタルを作り出していた。

「実験済みなので、効果は変わらないと保証できます。この要領で全部のパーツを作ったら、お金は掛からないですよね?」

 どうだと言わんばかりに胸を張っているレンだが、錬金術は等価交換が基本じゃなかったか?
 素材なしでクリスタルを増やすなど、不可能ではないのか?

「すまない。俺は今、何を見せられたんだ?」
「何って、クリスタルをコピーして増やしたんですよ?」
「こぴー?君の能力か?今まで見たことがないが」
「あの・・・・・私の下着もこれで増やしてます」

 したぎ?
 下着とはレンがいつも身につけている
 あの?
 異界風の高級なレースがふんだんに使われた、清楚かつ官能的で、俺の中心をダイレクトに攻撃してくるあれか?

 一体誰に作らせているのかと、ずっと気にはなっていた。
 そんなことにまで嫉妬するのか、と言われたくなくて、聞くことができずに悶々としていたが、レンは自分で増やしていたのか。
 
「アレクさん?やっぱり、こういうズルはダメ?」
「いッいや!問題ないぞ」
 
 しっかりしろ俺!!
 レンは一生懸命、皆の役に立ちたいと頑張っているのに、けしからんことばかり考えていてどうする!!

「次の討伐で、みんなに配っても良いですか?」
「ああ、勿論だ」
「じゃあ。これはアレクさんに」
 小箱を渡され蓋を開けると、中には交差させた剣の上に虎の横顔を模したアミュレットが入っていた。
「これを俺に?」
「攻撃力と防御力UPもプラスしました」

 最初に見せて貰ったアミュレットは付与済みの石は四つだけだったが、俺用のアミュレットは四つの石の他に、形の整えられた白と黒の小さな魔晶石がびっしりと埋められ、虎の顔の模様が描かれていた。

「すごいな、作るの大変だったろう?」
「気に入ってくれましたか?」
「ああ。ありがとう」

 感動に震えながら、レンの髪に口付けたのだが、レンの特別性のアミュレットは、マークの分も作られていた。
 
 俺だけの特別感は半減したが、マークの安全は、レンの安全に直結するのだから、此処は納得するしかない。

 マークに贈られるアミュレットは、狐を模していたが、何故か尾の数が9本もあった。

「尾が九本もあるぞ?」
「それですか?実は異界には妖狐の伝説がありまして、この妖狐は妖術、こちらの魔法に似た力に長けていて、美女に化けたそうなんです。マークさんのイメージに合うかなって思って」
「美女ね・・・」
 最近のマークは狐より、大型犬にしか見えんがな?

 アミュレットの効果の確認も兼ね、皇都から一番近いサンフェーンの森で見つかったクレイオスの神殿の浄化に向かうと、そこもタマスと同じように、神殿の周辺で魔物が増加していた。
 ここの魔物は、レイスやグール等人型の魔物が多く、精神攻撃やエナジードレイン等面倒で危険な攻撃をして来る魔物ばかりだった。
 長期戦を覚悟したのだが、此処で使い処が不明だったレンの能力の ”弔舞“  が発動した。

 ”弔舞“は剣舞だった。
 浄化の光に輝く抜身の剣を振り、その残像からは蝶の鱗粉が舞い上がるようで、レンの踊る姿に討伐に参加した者全てが魅了された。
 俺はそれを当然だと思いながらも、レンに熱い眼差しを送る部下達に、威嚇がダダ漏れになってしまった。

 ただでさえ人気者だったレンだが、アミュレットを作った事で、団員達も瘴気を見ることが出来る様になり、能力値も上がった。
 それを喜んだ団員達の好感度も爆上がりだ。

 俺の威嚇がダダ漏れても、致し方無いのではないか?

 レンはそんなことには全く気付いて居なかったらしく、人前で歌ったり踊ったりするのは恥ずかしいとだけ後で話していた。

 神殿の奥の院では、やはり呪具によって泉が穢され瘴気溜まりになっていた。
 アガスの姿は無かったが、ローブ姿の者達と戦闘になり、3名を生きたまま捕縛することができた。

 今度こそ有益な情報を引き出すことができると良いのだが。
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