獣人騎士団長の愛は、重くて甘い

こむぎダック

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アレクサンドル・クロムウェル

タマス平原/ お仕置き

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 柘榴宮へ引っ越し後、初めての二人のまともな晩餐は楽しかった。
 このまま二人で風呂にでも入って、旅の疲れをのんびり癒そうかと言う時に、ウィリアムと母上がやって来た。

 はっきり言って邪魔だ。
 一刻も早く詫びを入れ、俺の怒りを解きたいのかも知れないが、どう考えてもこれは逆効果だ。

 ウィリアムは兎も角、獣人の母上なら、そこの処の機微は分かるだろうに。
 今も昔も変わらずに勝手な人だ。
 
 レンは「心配して来てくれたのに、追い返しちゃ可哀想です。話だけでも聞いてあげましょう?」と気遣いをみせたが、この二人を気遣う必要なんて欠片も無いと俺は思う。

 二人はレンに自分達の謀と過ちを謝罪したが、俺は簡単に許すつもりはない。
 今後俺の気が済むまで、二人は馬車馬よりもこき使ってやろうと考えてはいるが、そんな簡単な事で済むと思ったら、大間違いだ。

 レンの救出に向かったアルサク城の騎士は、召喚されたダイアウルフの大群に襲われ、アルサクに帰城出来たのは4割弱だった。

 自分のせいだと、母上は項垂れているが、自業自得だ。自分が見栄を張らなければ、皇都から回ってきた報告を頭に落とし込んでいたら、と悔やんだところで、失った命は帰ってこない。

 謝りたいなら、帰城出来なかった騎士達の家族全員に謝りに行けばいいのだ。
 
 結局ダイアウルフの討伐に第4の力を借りたと言うのだから、この人が騎士の指揮を取り続けるのであれば、今後害悪になり兼ねないだろう。
 今も皇都や皇宮を守る荒事の少ない第1騎士団だからこそ、部下に仕事を押し付け、親父殿とサボっていられるだけなのだからな。

「母上。今回の事でハッキリしただろう。そろそろ後進に道を譲るべきじゃ無いのか?」
「ッ!!お前親に向かってなんて」
「親だからこそだ。ウィリアムは過去の負目から、あんたには強く出られない。正式な側妃ではないが上皇の愛妾であるあんたに、道理を説ける者がどれだけ居ると思う?」
「・・・・」
「アレクさん、そんな言い方しなくても」
「レン。俺はこの人が君を宮から引っ張り出したから言ってる訳じゃないぞ?騎士は民が納めた税で飯を食い、民を守る為に命を張る。飯の対価が命だからな、その分文官よりいい暮らしをさせてもらえる。母上はレンが拐われた時、君の救出に自分も出るべきだったんだ。この人程の力が有れば、死なずに済んだ騎士はもっと多かったはずだ。違いますか?母上」
「・・いや。・・・お前の言う通りだ」
「いいか、レン。君にも理解して欲しいのだが、騎士は盤上の駒と同じだ、やれと言われればそれに従うのが仕事だ。だからこそ多くの命を預かる団長職にある者は、全ての騎士と同じ盤上に立たなければならない。高みの見物で駒を動かすのは、政治家のやり方だ。母上は職務に見合う働きをしなかった。出来なかったじゃないぞ、自分の意思でしなかったんだ」
 
 俺の話を聞いたレンは、複雑な顔をしていたる。聡い人だから情だけでどうにかなる話ではないと理解したようだ。その上で自分はどうすべきかを悩んでいるのだろう。

「俺が母上に言いたいのはこれだけだ、あとはどうしようと勝手だが、やるべき仕事くらいは片付けてくれ」
「お前の言いたいことは分かった」

 そう言って立ち上がった母上は、レンの前で片膝を突いて首を垂れた。

「本当にすまなかった。義母となる者の体たらくに呆れただろうが、許してほしい。許してくれなくても、私たちが贈った婚約祝いは受け取ってくれると嬉しい」
 そう言い残して母上は重い足取りで帰って行った。

 残るウィリアムは、いつもの通りの平謝りだった。
 ロロシュから、俺のキレっぷりを聞いていたレンは、ウィリアムに対してもどう対応するのが正解なのか判らないようだ。

「お詫びに、レンちゃんのお願いならなんでも聞くから」
 と手を合わせて拝んで見せるウィリアムに、レンは少し考えて、宝石商を呼んで欲しいと答えた。

 宝石なら俺が幾らでも買ってやるし、他のオスから贈られた宝石を身につけるなんて、絶対許さない。

「レンは宝石が好きなのか?」
「いいえ、全然興味ないです」
 レンの返事に、暴れる寸前の俺の悋気玉が行き場を失ってしまった。

「なら何故?」
「宝石と言うか、魔法が付与されたアクセサリーがどんな感じなのか見てみたいし、素材の相談もしたいので」

 そうか、レンは能力の付与の事を考えてくれていたのか。
 また早とちりで悋気玉を解放するところだった。

「なになに?面白そうな話しだね?すごく気になる」
「うるさい。お前は金だけ出せ。自分の仕事をしろ。そして今すぐ帰れ」
「つれないこと言うなよ~。僕も仲間に入れてよ~」
「いい加減にしろ。お前の仕置きはまだこれからだぞ?」
「そんなぁ、確かに今回はやり過ぎだったよ?でもちゃんと反省してるんだ。こんなに謝ってるのに。レンちゃんもアレクになんか言ってやってよ」
「ウィリアムさん?それ本気で言ってます?私は兎も角、アレクさんにはもうちょっと真面目に謝った方がいいと思いますよ?」
「うそ!レンちゃんまで冷たい。お兄ちゃんショック!」
「しつこい!何がショックだ。レンは疲れてるんだ。用が済んだらさっさと帰れ!」
 俺の剣幕にウィリアムも漸く重い腰を上げ、何度も後ろを振り返りながら渋々帰っていった。

「ちょっと可哀想だったでしょうか?」
「あいつにはあれぐらいで丁度いい。気にするな」

 ウィリアムの事なんか放っておいて、今度こそ俺に集中して欲しい。
 レンの抱え上げて、前髪にキスを落とし、透き通った黒い瞳を覗き込んだ。

「疲れただろ?今日はもう風呂に入って休もう」
「お風呂?・・えッ?あの!アレクさんも疲れてますよね?私は後でいいので、先にゆっくり入って来てください」

 そんなに赤くなって、ジタバタしてもダメだぞ?隅から隅まで、俺が磨き上げてやるからな?

「俺はレンがいなくて寂しかったんだが、レンは違うのか?」

 我ながら狡い言い方だとは思う。だが嘘では無いからな?それにそんな困った顔をしても、俺を煽るだけだと気付いていないな?

「わッ私も寂しかったですよ?でも昨日もその・・・」
「昨日も?」

 ふふ、羞恥に悶える姿がほんと可愛いな。
 でも俺から離れようとしたのは君なんだ。
 仕置きは必要だよな?

「・・・かっ髪を洗うのを手伝うだけですよ?」
「髪だけ?」
 
 涙目でコクコク頷いているが、断るなら、全部断らないとダメなんだぞ?

「わかった」

 君はホッとしているが、俺が狡いオスだと忘れたのか?

 鎖で繋ぐのも、閉じ込めるのも我慢する。
 だから婚姻の日に君のその可愛らしい唇が、俺を欲しいと言うように、君の心と体をぐちゃぐちゃに溶かして、俺なしでは居られなくなるように、俺の証しを刻んでもいいだろう?

 許してくれるよな?
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