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アレクサンドル・クロムウェル

タマス平原/ 奪還3

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 後ろ髪を引かれる思いで天幕を出ると、深刻な顔をしたマークが立っていた。

「どうした?」
「閣下にお願いがあります」
「願い?」
「・・・私を副団長の職から解任して頂きたいのです」
「レンを拉致されたことの責任を取るためだったら、レンの奪還に成功したことでチャラだ」

 それを聞いてマークは目元を緩ませたが、そうではない、と顔を引き締めた。

「大変身勝手なお願いだと承知しております。ですが、私をレン様の専属護衛にして頂きたいのです」
「レンの専属護衛?」
「はい。レン様は今日、私たちに屠られる魔物にも涙を流されていました。それに以前ご自身でも“魔物であっても命を奪うことは出来ない”と仰られていた。ならば私がレン様の剣となりたい。レン様にとって閣下以上の守護者はいないでしょう。けれど、レン様のお人柄に触れ、私が剣を捧げるのはこの方以外に居ないと確信したのです」
「・・・・そうか」
「お許し頂けますか?」
「即答はできん。ミュラーとも相談せねばな」
「承知いたしました」
「今日はお前も休んでいいぞ」
「いえ私は」
「グリフォンから受けた傷が完治していないだろう?」
「分かってらしたんですか?」
「あの程度の相手に、お前の槍が弾かれるわけが無いからな」

 とにかく休めと、マークを天幕に戻した。

 レンの専属護衛か・・・。
 どの道、護衛は必要だ。
 しかしマークが志願するとはな。

 誰にも心を許さなかった、冷徹な奴が
 随分懐いたものだ。
 いや、最初からか。
 俺が大人気なく嫉妬したりしなければ、マークも、もっと早く護衛の件を願い出て居たかも知れない。

 マークはロロシュという番を得て、威嚇の対象から外れたし、どう見ても番犬だしな
 護衛として最適だな。
 

 第3の幕舎を訪れ、いざ報告となると、モーガンに俺から話せる事はさほど多くはなかった。

 纏めて仕舞えば最深部でレンを奪還し、アガスには逃げられたが、拉致犯4名を拘束。
 瘴気溜まりの浄化にも成功した。
 その帰り道にレンが魔物を浄化してくれたお陰で、すたんぴーどの危険がなくなり、レイスも討伐する事が出来た。と簡単に纏める事が出来る。

 全体を通して、俺たちは大した事はしていない。
 全てレンが居てくれて初めて為す事が出来た事ばかりだ。

 しかし神から授かった力である為、レンの能力に関わる出来事は、誰と何処まで共有して良いか迷うことも多い。
 必然的にモーガンへ話す内容も薄くなり、纏めて "浄化した" と言う以外ない。

 レンの能力については、俺自身知らない事ばかりだと改めて思い知らされたが、本人もよく分って居ないことには驚いた。

 レンは自分が持つ能力を把握はしているが、使い所が分からない能力も有るらしい。
 
 あとは何が分からないのかと聞くと、弔舞と言う能力が有るのだそうだ。

 異界では、死者の魂を鎮め慰める為の舞らしいが、レンは異界でも祭りの時に大勢の人と踊った事があるだけで、普段から踊る習慣は無かったそうだ。

「今使えるスキルを組み合わせたら、汎用性が上がると思うので、絶賛実験中です。結果を楽しみにしてて下さいね?あと、“弔舞” は、今回の “絶唱”   の時みたいに、必要になったら、ステータス画面にお知らせが出ると思うので、気にしなくても良いかなぁって思ってるんですけど・・・ダメかな?」

 俺の番は真面目だが、こう言う呑気な処も多くて、少し心配になる。

 そこが可愛かったりもするのだが・・・
 もしかしたら、マークもその辺を心配したから、専属護衛に立候補したのかも知れないな。

 
「では、拉致犯の身柄はクロムウェル殿が皇都に連行されるのですね?」
「あぁ、司教のアガスが関わっている以上、神殿が相手になるからな。第2の牢で締め上げる」
「分かりました。それで洞窟内の魔物は一掃されたと考えて宜しいか?」
「いや、暫くは警戒した方がいいだろう。取りこぼしが無いとは言い切れん。それにレンが言うには、あの洞窟はクレイオスの神殿らしい」
「クレイオスと言うと、アウラ神の眷族のドラゴンの?」
「アガス達は、放棄されたクレイオスの神殿を穢す事を目的の一つとしている様でな?レンもあの場で生贄にされる処だった」
「生贄?!愛し子様を?」
 
 モーガンも驚いているな?
 俺も最初に聞いた時は、その場で連行して来た奴らを膾斬りにする処だった。

「腹の立つ話だろう?俺も移動の間に簡単に聞いただけで、詳しい話をレンから聞けていなくてな」
「ふざけた連中だ」
「俺も聞いた時は、膾にしてやろうと思ったのだが、レンに止められてな?」
「ハハハ・・。それはそうでしょうな」

 モーガン顔が引き攣ってるぞ?
 解せんな。
 お前だって、伴侶が同じ目にあったら同じ様に思うだろう?
 
「連中は神殿の泉を瘴気で穢し、瘴気溜まりを作るために呪具まで使う念の入りようだ。それに湧いた魔物は何処かに転移させていた。監視の目が無くなったら、また同じ事をするかもしれん」
仰る通りだ。他に警戒するべき事は有りますか?」
「そうだな・・レンが拉致された時、ヴァラク教の信徒がアルサク城下を彷徨いて居たらしい」
「聖地巡礼ですか。国中を渡り歩くには格好の隠れ蓑になりますね」
「神殿との繋がりも噂されている。信徒の全てが関わって居るとは思わんが、警戒は必要だろう」

 モーガンとは、今後も密に連絡を取り合う事を約して幕舎を辞した。

 足取りも軽くレンの待つ天幕に帰り、結界と遮音魔法をかけた上で、たっぷりと番を堪能した事は言うまでも無い。

 ◇◇◇

「どうした?疲れたか?」
「ううん。大丈夫です」

 俺を見上げてニッコリしているが、少し前から急に大人しくなってしまった。

 初めてエンラに乗るレンは、大興奮でブルーベルの頭を撫でたり、移動の速さに大喜びしたり大忙しだったから、興奮しすぎで疲れたのかと思ったのだが、どうしたのだろう。

 それとも、昨夜鳴かせ過ぎたのがいけなかっのたか?
 だが俺は健康なオスで、何日も愛しい人の肌に触れることが出来なかったんだぞ?
 最後までいたせなくとも、甘く香る肌を堪能して何が悪い。
 二度と俺から離れぬよう鎖で繋いでしまいたい。そんな汚い欲望を抑え込めた自分を、俺だけは褒めてやりたい。

「私、考えて居たのですが、アレクさん達に瘴気が見えないのって、凄く危険だと思うんです」
「ん? あぁ、そうだな」

 そうか、レンは真剣にこれからの事を考えてくれて居たのだな。

 レンが真面目に俺達の事を考えてくれていたのにも関わらず、俺は昨夜のレンを思い出して、けしからん事ばかり考えていた。

 反省せねばいかんな。
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