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アレクサンドル・クロムウェル

タマス平原/ sideレン

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 “リーーン“  澄んだ鈴の音が聞こえました。
 
 あれ?ここって・・・・。

「やぁレン。久しぶり」
「アウラ様?」

 見覚えのある場所だと思ったら、アウラ様のお庭じゃないですか?

 私・・・また死にました?
 
 アウラ様は苦笑を浮かべて、こっちにおいで、と手招きしています。
 うっかりついて行って彼岸に渡ったりしないでしょうか?

 でも断る訳にはいきませんよね?

「心配しなくても生きているから」
 
 アウラ様が保証してくれてホッとしました。

「私はどうしてここに?」
「緊急避難だよ」
「緊急?」
「そう、覚えてない?君は瘴気で穢されたんだよ?」

 そう言えば。
 腕にアガスさんの体から出てきた瘴気が巻き付いて、具合が悪くなったんでした。

「私が加護を与えた君なら、瘴気に侵されても身体だけなら、自力で浄化できるけれど、精神こころは違う。だからこちらに呼んだんだよ」

 そう言えば、目の前が真っ暗になった後、頭の中で誰かがずっと叫んでいた気がします。

 誰かを呪うような、でも誰かを求めているような。
 恐ろしいけれど、悲しい声でした。

「アウラ様、人から瘴気が湧いていました」

 アウラ様のお顔は、とても悲しそうです。

「・・・あれはもう人ではない」
「でも」
「見た目はね、人だけれど、中身は違う」
「・・・人でないなら、彼はなんなのですか?」

「さぁ、なんになるのだろうね。妄執に囚われた、人の抜け殻とよべばいいのかな・・・少なくとも、あの体の持ち主の心は、別のものに取り込まれてしまった。でなければ、身の内に瘴気など取り込めない」

「アウラ様は全て知っているのですよね?それを教えてはくれないのですか?」

「前にも言ったけれど、私は人の世に介入したくはないのだよ」

 アウラ様は人形を育てる気はない、と仰ってましたね。

「でも・・・あちらの神様は、予言やお告げで、人を導いてくださいましたよ?」

 その全てが、正しく理解されたとは限りませんが。

「・・・私は彼の方のように寛容ではないからね、歯止めが効かなくなるかもしれない」

 アウラ様に一体何があったのでしょう。
 神話で語られていない出来事があったのでしょうか。

「あちらの神様も、それほど寛容では無いと思いますよ?」

 不思議そうにアウラ様が私を見ました。

「自然現象だったのかもしれませんけど、隕石が降って来て文明が滅んだとか、神様同士の争いで広大な森が砂漠化したとか、街を塩に変えたり、人の行いに嫌気がさして大洪水を起こしたり、弟神の暴れっぷりに怒った神様が、岩戸の中に隠れてしまったとか、生きたまま、大鷲に肝臓を食べさせる罰を与えた神様もいて、世界中の神話に神の怒りが記されていますよ?」

「たしかに」
「アウラ様は、こちらの世界の魂は未熟だと仰ったじゃ無いですか。なら小さな子供と一緒でしょ?躾けは大事ですよ?」
「嗚呼・・・その通りだ」
「あっ!でも大洪水とか、隕石降らせたりとかは無しでお願いします」
「ふふふ・・。神の私が、人の子に諭されてしまった」
「ただの人ではありませんよ?私はアウラ様の愛し子です」
 精一杯虚勢を張る私を、アウラ様は優しく見守ってくれています。

「では、私も頑張らないといけないね。少し昔話をしよう。レンこちらにおいで」

 白百合に囲まれた、座り心地が良さそうなソファーとテーブルの処へ案内されました。

「ここでは立っていても疲れないけれど、こういうのは気分と雰囲気が大事だからね」
 そう言ってお茶と何故かお煎餅を出してくれました。

 真剣なお話をするのに、お煎餅はちょっとどうかと思います。
 すごく美味しそうだけど、話の最中に
 ボリボリ バリバリ 出来ないですよね?

 私が眉根を寄せて考え込んでいると、それに気づいたアウラ様は「お煎餅はきらい?じゃあこれを食べて」と高級そうなチョコレートを出してくれました。

 もう食べられないと思っていたチョコ!!
 感激です!!

 でも・・・この箱は・・・。

「GODIVA?・・・まさかアウラ様観光してました?」
 アウラ様の瞳が、あからさまに逸らされました。

 この神様、あんな深刻そうな顔をしてたのに、自分の世界ほったらかして、また彼方で遊んでたんですかね?

「これは~。かっ彼の神にご挨拶した時に、お供物をお裾分け頂いたんだよ?別に遊んでた訳じゃない。後で君にもお土産で持たせてあげるから」

 あやしい。怪しすぎる・・・。
 アウラ様の目が、キョドリまくりです。

「そうなんですね?あちらは変わりないですか?私こちらに来る前、廻戦0を見逃しちゃって、あれは心残りでした」

「あ~。りかちゃんが強くてびっくり・・」
「ふ~ん。そうなんだ。へぇ~~~~」

 アウラ様?
 頬が引き攣って、唇痙攣してますよ?

「まぁ。チョコ大好きなので、良いですけど」
「コホッ・・・食べながらで良いから聞いてね?話せる範囲のことは教えるからね」
「はい、どうぞ」

 ご機嫌取りなのか、アウラ様が追加で出してくれたお菓子は伊勢名物の赤福でした。
 たしかにお供物っぽいですが、どうせなら珈琲館のパフェがよかったな。

 それはそれとして、アウラ様が語ってくれたお話しは、創世神話の裏話と言うか続きでした。

 創世神話では、魔族は地底に退きましたが、魔族全員が納得した訳ではなかったそうです。その中でも魔族の王子様は強硬で、王様と大喧嘩の末、地上に逃げてしまったのだそうです。

 でも魔族の人達には、アウラ様のとの契約で縛りがある為、以前の様な力を出すことは出来ず、好き勝手には出来ませんでした。

 そこでこの王子は、人族と獣人族の間に不和の種を蒔く事にしたのだそう。
 獣人族は強く、純真で愛情深い種族だった為、王子達の話には耳を貸しませんでした。
 ですが、人は弱く、己を守る為に計算高く狡賢くなっていき、王子の口車に乗ってしまった。それがヴァラク教の始まりになったそうです。

 その頃から、獣人を見下す人族が増え始め、大陸中にあったドラゴンのクレイオス様を祀る神殿が、次第に捨てられて行ったのだそうです。

 私が招来されたミーネの神殿が、唯一まともな形で残されたドラゴンの神殿だったそうです。
 
「クレイオスは、自分は神では無いから、神殿が捨てられていくことは気にしない。そう言っていたのに、ある日彼は姿を消してしまった」

 その時から、クレイオス様はアウラ様の元に一度も戻っていないそうです。
 
「最初は、何処かで拗ねているのだと思った。私たちにとって、時間は無限だ。100年200年拗ねて閉じこもったからって、気にすることでも無いからね、そのうち戻ってくると思っていた」

「けれど、クレイオス様は戻られなかったんですね?居場所はわからないのですか?」

「私たちは魂が結ばれて居るから、生きていることは分かるけれど・・・」

「本当に、どこかで拗ねているのかもしれませんよ?」

「流石に一千年は永いだろう?他の世界に渡ったなら私の耳に入る筈だ。あれ程強く輝いていた彼の気配が全く感じられない。誰かがクレイオスを、私の目から完全に隠してしまった、としか考えられない」
 
「どうしてそんな事に」

 アウラ様は、神様だから千年も一人ボッチか・・・。
 そんなの寂しくてやだな。

 それなら遊びに行って、気晴らしもしたくなりますよね?
 
「クレイオスはいなくなり、瘴気と魔物は増えて行く。だからレンが瘴気を消して廻ってくれたら、クレイオスも見つかるのでは無いかと期待したのだけれど、これ程酷いことになって居るとは思わなかった」

「酷いこと?」

「君は今、ヴァラク教の信者とアガスだったものに拐われて、ドラゴンの神殿を穢す道具にされようとして居るんだよ?」

 誘拐?!
 なんですかそれ?
 一大事じゃ無いですか?! 呑気に赤福食べてる場合じゃ無いですよね?!

「そう言うことは、最初に言ってくれないとっ!!」

「大丈夫だよ?此処は時間の流れが違うし。君の身体に手出しできないようにしてあるからね。彼らも慌てて居るよ?」

「そう言う問題ではなくてですね」

 私の抗議をアウラ様は鷹揚に聞き流していますが、早く戻らないと。

「最初に言ったでしょ?瘴気が深く入り込んでいるから浄化までもう少し時間が掛かる。ほら、お煎餅もお食べ」

 私は、アウラ様に押し付けられたお煎餅を苛立ち紛れに奥歯で バリバリ 噛み砕きました。
 
 このかた焼き煎餅。
 すごく美味しくて、逆に腹が立つのは気のせいでしょうか?
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