上 下
113 / 497
アレクサンドル・クロムウェル

閑話休題 /ロロシュ2

しおりを挟む
 皇都の手前で第2騎士団とは別行動になる。

 帝国全土を守護する第二騎士団とオレの様な日影者が、人目の多い所で行動を共にするなど、お勧めできるものでは無いからな。

 断腸の想いで番と離れ、影の任務に戻ったオレは、やりきれない気持ちを鬱々と抱える事になった。

 他人の秘密を暴き弱みを握り、陛下の敵を排除する。

 陛下の御為、その一言で、命を奪うことさえある・・・・嫌な仕事だ。

 子供の頃、養父に影の養成施設に放り込まれたオレは、ギデオンに命ぜられた初任務に失敗し、再教育が必要だと2年近く独房に隔離されたが、幼子を手に掛けるくらいなら、牢の中で死んだ方がマシだと思っていた。

 やがて、クロムウェル卿達の手によって、ギデオンと皇太子は排除され、おれも牢から救い出された。

 オレの投獄理由に興味を持ったウィリアム陛下に声をかけられ、結局影として薄暗い世界を歩む事になった。

 それでも陛下の下す命令は、真っ当な理由のある任務で有るし、ギデオンのように意味もなく子供の命を奪う事がない分ましだろう。

 問題があるとしたら、陛下がウィリアム個人に戻った時の、情緒の不安定さくらいだ。

 愛し子の招来から、神殿の動きを探る任務も増えているが、アイツらは強欲で頭は弱いが、結束だけは硬い。
 
 何かありそうだと、分かっていても思ったように情報を引き出せなくてイライラする。

 短い間だったが、第2騎士団での仕事は楽しかった。

 森の中の探索も宝探しの様だったし、攻撃魔法が得意じゃないオレには、魔獣を追い、追われるのは少々キツかったが、それでも自分が真っ当な人間になれた様な気がした。

 番に焦がれながら、砂を噛むような日々を送っていたある日、養父から呼び出された。

 影の養成施設に放り込まれた日から、20年は会っていなかったと思う。

 どうせアルケリスの一件だろうと、指定された宿に向かった。

 約20年ぶりの養父は、さすがに老けてはいたが、相変わらず押し出しが強く、社交界の王と呼ばれるに相応しい容貌を保っていた。

「どうも。今更オレに何の用です?」

「・・・久しぶりに会った父親に挨拶もまともにできんとは、影の教育は大したことがないようだ」

「何言ってんだか。元々他人も同然で、更に20年も顔を合わせなきゃ、父親とは言えねぇよ」
 
 メリオネス侯爵は、優雅な仕草で顳顬に指を当て溜息まじりに首を振った。

「あんたも知ってるだろ?愛し子様が招来されて、俺たちも大忙しだ。くだらない前置きは抜きにして本題に入ってくれねぇかな」

 オレを見るメリオネス侯爵の眼光は鋭く、頭の中を読み取られるようだ。

「アルケリスの件は知っているな?」

 予想的中だ。

「愛し子と閣下相手に、無礼を働いたってやつか?あれは久しぶりに笑わせてもらった。アルケリスには道化の才能があったみたいだなぁ」

 侯爵は苦々し気に唇を歪めたが、オレに言い返しては来なかった。

「もう一つの方だ」

「・・・さぁ、何のことやら」

「惚けるな。お前の耳に入らぬはずがない」

「入ろうが入るまいが、あんたに話すことは何もねぇよ。影を舐めてんのか?」
 
 愛し子に無礼を働き、閣下に喧嘩を売ったアルケリスは、今第1騎士団と、皇都警備隊の捜査対象だ。

 オレも個人的に調べ上げていた、アルケリスの悪行の証拠を、それとなく第一騎士団に回している。

 汚泥まみれのアルケリスの捕縛は近い。

「オレに目こぼしを頼みたいってんなら、お門違いもいいとこだ」
 メリオネス家に恨みはあっても、恩はない。

「お前に目こぼしを頼みにに来たのではない。アルケリスは放逐する。メリオネス家の後継はお前だ」

 後継だと?なにを寝ぼけたことを。
 あの高慢ちきな、ドルフとその実家のポーツ伯爵がアルケリスの放逐を許すとは思えない。

「あんたボケたのか?アルケリスの放逐までは認められても、オレは忌み子なんだろ?傍系から選べよ」

「その傍系で一番血が濃いのがお前だ。元々私ではなく、お前の母が公爵家を継ぐはずだった。誰にも文句は言わせん」

「お有難くて、涙が出るね。そこまで思ってくれんなら、あの時母さんを助ければよかっただろ?そうすれば、なれない傭兵家業なんかで、魔物に命を吸い取られて死ぬこともなかった」

 肩を落とした侯爵は、社交界の王ではなく、ただの老いた老人に見えた。

「あの頃の私には力が無かった。だが今は違う。お前がドルフとポーツの首を斬れと言うなら、それが出来るだけの力を手に入れた。だから」

だから何だってんだ。
まぁいいさ。
オレも力は欲しい。

「・・・ドルフとアルケリスの放逐だけで良い」

「後継の話を受けてくれるのか?」

「あぁ。条件は三つ、オレの魔法契約の解除。ドルフとアルケリスの放逐。オレの伴侶選びに口を出さない事」

「それだけで良いのか?」
 侯爵はそんな簡単な事で良いのかと言いたそうだが、オレにとっては重要だ。

 契約が解除されれば、オレは伴侶を得る事ができる。

 復讐は自分でやるから意味がある。

 全て、アルケリスが捕縛されてからの話だが、それでも、これはオレに与えられたチャンスだ。

 家格に問題はなくなった。

 母さんを追い出した傍系達を黙らせられれば、オレはマークを迎えることが出来る。

 漸くマークと向き合う事ができる。

 後になって、自分の読みの甘さと
 意固地な性格を後悔することになるが
 それはまた、別の話だ。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

淫らなお姫様とイケメン騎士達のエロスな夜伽物語

瀬能なつ
恋愛
17才になった皇女サーシャは、国のしきたりに従い、6人の騎士たちを従えて、遥か彼方の霊峰へと旅立ちます。 長い道中、姫を警護する騎士たちの体力を回復する方法は、ズバリ、キスとH! 途中、魔物に襲われたり、姫の寵愛を競い合う騎士たちの様々な恋の駆け引きもあったりと、お姫様の旅はなかなか困難なのです?!

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

迷い込んだ先で獣人公爵の愛玩動物になりました(R18)

るーろ
恋愛
気がついたら知らない場所にた早川なつほ。異世界人として捕えられ愛玩動物として売られるところを公爵家のエレナ・メルストに買われた。 エレナは兄であるノアへのプレゼンとして_ 発情/甘々?/若干無理矢理/

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

クソつよ性欲隠して結婚したら草食系旦那が巨根で絶倫だった

山吹花月
恋愛
『穢れを知らぬ清廉な乙女』と『王子系聖人君子』 色欲とは無縁と思われている夫婦は互いに欲望を隠していた。 ◇ムーンライトノベルズ様へも掲載しております。

ドS騎士団長のご奉仕メイドに任命されましたが、私××なんですけど!?

yori
恋愛
*ノーチェブックスさまより書籍化&コミカライズ連載7/5~startしました* コミカライズは最新話無料ですのでぜひ! 読み終わったらいいね♥もよろしくお願いします! ⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆ ふりふりのエプロンをつけたメイドになるのが夢だった男爵令嬢エミリア。 王城のメイド試験に受かったはいいけど、処女なのに、性のお世話をする、ご奉仕メイドになってしまった!?  担当する騎士団長は、ある事情があって、専任のご奉仕メイドがついていないらしい……。 だけど普通のメイドよりも、お給金が倍だったので、貧乏な実家のために、いっぱい稼ぎます!!

最愛の番~300年後の未来は一妻多夫の逆ハーレム!!? イケメン旦那様たちに溺愛されまくる~

ちえり
恋愛
幼い頃から可愛い幼馴染と比較されてきて、自分に自信がない高坂 栞(コウサカシオリ)17歳。 ある日、学校帰りに事故に巻き込まれ目が覚めると300年後の時が経ち、女性だけ死に至る病の流行や、年々女子の出生率の低下で女は2割ほどしか存在しない世界になっていた。 一妻多夫が認められ、女性はフェロモンだして男性を虜にするのだが、栞のフェロモンは世の男性を虜にできるほどの力を持つ『α+』(アルファプラス)に認定されてイケメン達が栞に番を結んでもらおうと近寄ってくる。 目が覚めたばかりなのに、旦那候補が5人もいて初めて会うのに溺愛されまくる。さらに、自分と番になりたい男性がまだまだいっぱいいるの!!? 「恋愛経験0の私にはイケメンに愛されるなんてハードすぎるよ~」

R18、アブナイ異世界ライフ

くるくる
恋愛
 気が付けば異世界。しかもそこはハードな18禁乙女ゲームソックリなのだ。獣人と魔人ばかりの異世界にハーフとして転生した主人公。覚悟を決め、ここで幸せになってやる!と意気込む。そんな彼女の異世界ライフ。  主人公ご都合主義。主人公は誰にでも優しいイイ子ちゃんではありません。前向きだが少々気が強く、ドライな所もある女です。  もう1つの作品にちょいと行き詰まり、気の向くまま書いているのでおかしな箇所があるかと思いますがご容赦ください。  ※複数プレイ、過激な性描写あり、注意されたし。

処理中です...