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アレクサンドル・クロムウェル

タマス平原/ 捜索

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「聞こえ無かったのか?レンの居場所は分かっている」

「それはどういう・・・」

「どうもこうもない。この私がハリーのお気に入りを何の手立ても講じず、城の外に出す訳がなかろう。それに無事の確認が出来なければ、のんびりマークを送って来たりはせん」

 カラン 済んだ音をたて母上の手が転がしたのは、中央に黒い魔晶石が嵌め込まれた銀のバングルだった。

「これは・・・」

「私がハリーに贈ったものと同じ魔道具だ」
 と手首をあげて金のバングルを見せた。

「これは一対になっていて、真ん中の魔晶石に魔力を流せば互いの居場所が分かるようになって居る。更に、ハリーが命の危険に晒された時、このバングルが私をハリーの元へ強制転移させる仕組みだ」

「それをレンが身につけていると?」

「城下に降りる前、レンに着けさせた。お前と揃いの御守りだと言ったら、喜んでいたな。仕組みが作動していないから、命に別状は無いと言うことだ」

 どうだ と母上は胸を張っているが。

「どうして早く言わない!!その前に居場所がわかるなら、奪還に行けただろう!!」
 
 こっちは胃に穴が開く思いをして居ると言うのに!命の危険がなくとも、恐ろしい目に遭っている可能性は有るんだぞ!?

 嗚呼、そのにやけ面を殴ってやりたい!

「そりゃ。狼狽えたお前を見るのは、面白いからな」

 いい加減にしてくれ。

 息子の俺が言うのも何だが、なぜウィリアムは、こんな性格破綻者を団長の座に座らせておくんだ?

「冗談はこのくらいにして、騎士は派遣してある。今頃はレンを取り戻しているはずだ」

 マークからアガスがいた事は聞いたが、生き残った騎士の証言で、術師の人数が5・6名だったことから、一味の人数も多くて30人程だろうと見積もった。それでも城で動ける100人弱の騎士を全て投入したそうだ。

「母もやる時はやるのだよ」

 結果も出さない内に自慢気に胸を張るとは、この人は親父殿と一緒に居過ぎて、考えが幼児化してしまったらしい。

「さあ、早くつけて見ろ。皇都に向かうレンが見れるぞ?」

 言いたいことは腐るほどあるが、今は言われた通りバングルを嵌めてみる事にした。

 俺の腕には少し小さかったが、手首に当てると両端がちょうど良い大きさまでスルスルと伸び、カチリと音を立てて手首にはまった。

 これに魔力を流せば良いのか?

 母上に早くやれ、と顎で催促され、ロロシュも興味津々で近寄ってきた。

 中央に嵌め込まれた魔晶石に魔力を流すと、一筋の光が魔晶石から発せられ、次に光が30チル程の扇型に開いた。

 其処に地図が展開し、黒と赤の印が、点滅している。

「へぇ~便利なもんだ。おたけぇんだろうなぁ」

「それなりだ。付与する魔法によって魔晶石が変わるからな。これだと一対で城二つ分だな」

「城?全部で城四つ分かよ?!」
 ロロシュが驚愕するのも無理はない。
 俺も頭痛と眩暈がするくらいだからな。

「因みにこれは一度嵌めると、死ぬまで外れないから大事にしろよ?」

 何だよ、その執着の塊みたいな仕様は。

「この黒い点がお前。皇都にあるだろ?こっちの赤い点がレンだ。・・・おかしい」
 これまで余裕だった母上の顔が曇った。

「母上?」

「最初はもっとアルサクに近い場所だった。そこに騎士を送ったのだが、全く違う場所に居る・・・なぜだ」

 それはこっちが聞きたいくらいだ。
 何故そんな短慮な事が出来たのだ?

「奪還に失敗したからでしょう」
「・・・騎士100名で失敗するなど、あり得ん」
「ミーネで魔獣を召喚した者が居ると、書面を回したが、読んでいないのか?」
「読んだが・・・」
「マーク達を襲ったグリフォンは召喚されたのだろう。でなければ城の近くでグリフォンなど説明がつかん。同じ手を使われたのなら、騎士の人数などあてにならん」
「そんな・・・」
 母上は両手に顔を埋めてしまった。

 老いたな。

 以前は任務に私情を挟む様な人ではなかったし、身勝手ではあっても、他人の迷惑になるような行動をとった事はなかった。

 この数年、親父殿への執着も異常なほど増している。
 なれば、さっさと身を引いて、親父殿と共にあれば良いものを。

 本当にどうしてしまったんだ? 
 
 いや、今は感傷に浸って居る時ではない。
 母上の責任を問う事と、ウィリアムの仕置きは後でいい。

 この小さな印の下にレンがいる。

 地図上の赤い印は、ゆっくり移動したかと思うと、地図から印が消え、全く違う場所に現れる事から、転移を繰り返していることが窺える。

 そのせいで、レンの居場所をなかなか特定できなかったのだが、このタマス平原で落ち着いた事から、ここが最終目的地だろうと推察できた。

 印の示す場所は、タマス平原。

 神託により “すたんぴーど”  が予言された場所だ。

 アイオス砦の、モーガンに会わなくては。

 ◇◇◇◇

 魔道具の地図に浮かんだ赤い印は、神託の洞窟の入口から、やや西寄りを示していた。

 洞窟内へは “すたんぴーど”  を防ぐため、第3やギルドの人間が魔物の間引きに入り、その出入り口に見張りも立てているが、所属不明者の出入りは確認されていない。

 全く別の洞窟なのか、発見されていない入り口があるのか、転移で直接洞窟内に移動したのであれば、外に繋がる道がない可能性もある。

 そのような不確かな情報では、普通ならレンを見つけるのに、時間がかかっただろう。

 だが、幸か不幸か、俺は母上に渡された魔道具を持っている。

 この魔道具で映し出される地図は、対となる相手に近づくほど、地図が詳細に映し出される仕様になっていた。

 説明を聞いた時には、母上の親父殿への執着の強さに呆れただけだった。

 だがタマスに来て、魔道具の映し出す洞窟内の地図と、騎士たちのマッピングとが、ほぼ一致すると確認した時には、母上の執着心の強さに呆れを通り越して、鳥肌がたった。

「中はどうなっている?」

「間引きをしてはいますが、直ぐに元に戻ってしまう。おかげで奥の方は未確認です。おそらく、辛うじて溢れ出すのを抑えて居る状態かと」

 俺とモーガンは洞窟近くの丘の上から、その入口を見下ろしている。

 洞窟の入口前には壕が複数掘られ、壕の底には木の杭が立てられている。
 掘り出された土は積み上げられ、木の柵と合わせて足止め用の壁を作っているが、俺が昔、北の辺境で経験したのが、 “すたんぴーど”   なら、押し寄せる魔物を前に、この程度の罠は気休めにしかならないだろう。

「魔物の共食いが始まったら、溢れてくるぞ」

「それも時間の問題でしょうね」

「魔物の種類は?」

「確認できて居るのは、スライム、オーク、ストーンリザード、メイジアクネとアラクネは巣が見つかっただけで本体は未確認です」

「蜘蛛系は子供の数が多い。スライムは弱いが増えると厄介だ。面倒だな」

 それにレンは蜘蛛が嫌いだ。

 命の危険に晒されては居ないようだが、嫌いな蜘蛛に囲まれていたら、生きた心地がしないだろう。

 可哀想に。
 直ぐに迎えに行くからな。

「気になるのは、この辺りでオークの被害が出ていなかった事です」
「・・・・洞窟内で餌の確保が出来ていたのではないか?」
「それは・・・考えていなかった」
「これ以上の間引きは、食物連鎖を壊し逆効果になるかも知れん。一気に殲滅した方が良いだろう」
「ご忠告感謝します。すぐに準備をさせましょう」
「中の状況を見て、削れるだけ削っておく」
「それは心強い」

 感謝を伝えてくるモーガンの真面目さは相変わらずだった。

 
 
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