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アレクサンドル・クロムウェル
閑話休題 /ロロシュ1
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陛下の命で第2騎士団を手伝う事になったオレは、ザンド村で番を見つけた。
オレの番は、誰よりも美しく清廉なオスだった。
マキシマス・アーチャー。
噂には聞いていた。
帝国一の美貌の婿金。
アーチャー家の次子。
帝国第2騎士団、副団長。
希少種の狐の獣人で、腹黒いと言う奴もいるが、それは頭脳が明晰だと言う証拠だろう。
風に靡く白銀の髪、白皙の頬、官能的な赤い唇。
全てが完璧だった。
帝国一の完璧なオスがオレの番。
オレは喜びで有頂天になった。
今直ぐに、森に連れ込んで鳴かせたい。
白銀の髪に指を絡ませ、唇を奪い、身体を暴いて、奥の奥にオレを突き入れたら、どんな甘い声で鳴くんだろう。
オレが気付いたんだ、マークも同じように気付いただろう。
探るような、琥珀の瞳に応える事が出来たなら・・・。
だが駄目だ。
オレは、マークの手を取る事は出来ない。
忌み子のオレには、魔法契約の縛りがある。
伴侶を得ることは許されない。
不安気に揺れる瞳を無視するのは、想像できないくらいの苦行だった。
閣下には "番を前にしたオスなんて、皆んな同じケダモノだ" なんて偉そうな口をきいたが、オレは夜な夜な木陰で一人、番を想って発散させるのが関の山だ。
おまけにマークからは、"おや?ロロシュ殿は独身と伺いましたが、経験がおありで?"
と嫌味まで言われてしまった。
泣きたい気持ちに蓋をして、任務に集中しようと努力した。
それなのに、ゲオルグのアホのせいで森が炎上し、閣下とマークは消火の先頭に立った。
バケモノの閣下はどうでもいいが、紅蓮の炎を背にしたオレの番は美しかった。
巻き上がる熱気に煽られた白銀の髪が揺らめいて、マークが生み出した氷塊が朱色に輝きながら炎を抑え込んでいく。
その姿はまるで戦の天使のようだった。
炎を纏った大木が倒れ、下敷きになり掛けた部下をマークが庇った時には、生きた心地がしなかった。
マークは分厚い氷の盾で大木を回避していたが、もっと自分を大切にして欲しい。
ゲオルグが火竜を追いかけ廻した挙句、仕留めきれなかったせいで、次から次に火の手が上がる。
これじゃあ、いつまで立ってもキリが無い。
結局火竜には逃げられ、閣下が大規模に水を降らせて鎮火に成功したが、ゲオルグへの仕置きが木に吊るすだけなんて、甘過ぎる。
オレの番を危険に晒したんだ。
奴の天幕に忍び込んで、愛用の暗器で喉笛を掻っ捌いてしまおうか。
本気で手順をなぞっていると、疲れ切った番の後ろ姿が見えた。
あれだけ魔法を連発したんだ、疲れないわけがない。
オレは散々迷ったが、番のそばに居たいと思う本能に抗えず、ワイン片手に番の天幕に押しかけた。
マークには、疲れているから帰れと言われたが、煤に汚れた白い頬を見て、抑えが効かなくなった。
無理矢理奪った唇は甘かった。
その甘さにオレは我を忘れて、口蓋を舐め回し、舌を絡め極上の甘露を啜り上げた。
マークの足の間に捩じ込んだ太腿が、熱い兆しを感じ取り、その熱を指でなぞった時には、湧き上がる歓喜でそのまま昇天してしまいそうだった。
だがそこまでだ。
契約で縛られたオレの心臓が悲鳴をあげている。
わざと意地の悪いことを言って、マークを怒らせ傷つけた。
マークはそれからオレを避けるようになった。
当たり前だ。
オレは誇り高い番を、酷い言葉で傷つけ侮辱した。
当然の結果だ。
それが分かっていても、思いを断ち切れないオレは、未練がましくマークの近くを彷徨いた。
オレに向けられる、軽蔑のこもった迷惑そうな顔も愛しくて仕方がない。
皇都に帰還すれば、オレは影に戻る。
日の光の中を歩くマークと
薄暗い道を行くオレ。
もう接点は無いかもしれない。
あと数日、ほんの数日だけで良い。
側に居る事を許してくれないか?
オレの番は、誰よりも美しく清廉なオスだった。
マキシマス・アーチャー。
噂には聞いていた。
帝国一の美貌の婿金。
アーチャー家の次子。
帝国第2騎士団、副団長。
希少種の狐の獣人で、腹黒いと言う奴もいるが、それは頭脳が明晰だと言う証拠だろう。
風に靡く白銀の髪、白皙の頬、官能的な赤い唇。
全てが完璧だった。
帝国一の完璧なオスがオレの番。
オレは喜びで有頂天になった。
今直ぐに、森に連れ込んで鳴かせたい。
白銀の髪に指を絡ませ、唇を奪い、身体を暴いて、奥の奥にオレを突き入れたら、どんな甘い声で鳴くんだろう。
オレが気付いたんだ、マークも同じように気付いただろう。
探るような、琥珀の瞳に応える事が出来たなら・・・。
だが駄目だ。
オレは、マークの手を取る事は出来ない。
忌み子のオレには、魔法契約の縛りがある。
伴侶を得ることは許されない。
不安気に揺れる瞳を無視するのは、想像できないくらいの苦行だった。
閣下には "番を前にしたオスなんて、皆んな同じケダモノだ" なんて偉そうな口をきいたが、オレは夜な夜な木陰で一人、番を想って発散させるのが関の山だ。
おまけにマークからは、"おや?ロロシュ殿は独身と伺いましたが、経験がおありで?"
と嫌味まで言われてしまった。
泣きたい気持ちに蓋をして、任務に集中しようと努力した。
それなのに、ゲオルグのアホのせいで森が炎上し、閣下とマークは消火の先頭に立った。
バケモノの閣下はどうでもいいが、紅蓮の炎を背にしたオレの番は美しかった。
巻き上がる熱気に煽られた白銀の髪が揺らめいて、マークが生み出した氷塊が朱色に輝きながら炎を抑え込んでいく。
その姿はまるで戦の天使のようだった。
炎を纏った大木が倒れ、下敷きになり掛けた部下をマークが庇った時には、生きた心地がしなかった。
マークは分厚い氷の盾で大木を回避していたが、もっと自分を大切にして欲しい。
ゲオルグが火竜を追いかけ廻した挙句、仕留めきれなかったせいで、次から次に火の手が上がる。
これじゃあ、いつまで立ってもキリが無い。
結局火竜には逃げられ、閣下が大規模に水を降らせて鎮火に成功したが、ゲオルグへの仕置きが木に吊るすだけなんて、甘過ぎる。
オレの番を危険に晒したんだ。
奴の天幕に忍び込んで、愛用の暗器で喉笛を掻っ捌いてしまおうか。
本気で手順をなぞっていると、疲れ切った番の後ろ姿が見えた。
あれだけ魔法を連発したんだ、疲れないわけがない。
オレは散々迷ったが、番のそばに居たいと思う本能に抗えず、ワイン片手に番の天幕に押しかけた。
マークには、疲れているから帰れと言われたが、煤に汚れた白い頬を見て、抑えが効かなくなった。
無理矢理奪った唇は甘かった。
その甘さにオレは我を忘れて、口蓋を舐め回し、舌を絡め極上の甘露を啜り上げた。
マークの足の間に捩じ込んだ太腿が、熱い兆しを感じ取り、その熱を指でなぞった時には、湧き上がる歓喜でそのまま昇天してしまいそうだった。
だがそこまでだ。
契約で縛られたオレの心臓が悲鳴をあげている。
わざと意地の悪いことを言って、マークを怒らせ傷つけた。
マークはそれからオレを避けるようになった。
当たり前だ。
オレは誇り高い番を、酷い言葉で傷つけ侮辱した。
当然の結果だ。
それが分かっていても、思いを断ち切れないオレは、未練がましくマークの近くを彷徨いた。
オレに向けられる、軽蔑のこもった迷惑そうな顔も愛しくて仕方がない。
皇都に帰還すれば、オレは影に戻る。
日の光の中を歩くマークと
薄暗い道を行くオレ。
もう接点は無いかもしれない。
あと数日、ほんの数日だけで良い。
側に居る事を許してくれないか?
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