獣人騎士団長の愛は、重くて甘い

こむぎダック

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アレクサンドル・クロムウェル

誤解を解くならお早め / アルサク城1・sideレン

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「ウィリアムさん?」
「おにいちゃん」

 これは・・・。 
 絶対お兄ちゃんと呼ぶようにと言われましたが、本気だったんですか?

「・・・お兄ちゃん」
「なあに、レンちゃん」

 満面の笑み・・・。
 お兄ちゃんで決定です。

「・・・アレクさんに内緒にするなんて、やっぱり、良くないです。ちゃんと話し合った方が良いと思います」
「う~ん。僕も、話し合って解決する事は大事と思うよ?」
「だったら」
「でも、今はだめ。手紙も禁止」
「なんでですか?」
「レンちゃん、アレクの事大好きでしょ?」
「・・・・はい」

 そんな直球で聞かれたら、恥ずかしいです。

「ハハ。赤くなっちゃって可愛いね。そんな可愛いレンちゃんは、簡単にアレクに丸め込まれちゃうから、今は会話より行動だね」

「そんな、丸め込まれたりしないですよ?」

「本当?今まで“これは気が進まないなあ”って思っても、気が付いたら、アレクの都合のいいように話が進んじゃった事ない?」

「そんなこと・・・」
「あるよね?」
「あります」

 ありまくりです。

「会話は大事だよ?話すことで、ふたりの妥協点を見つけられるなら良いけど、アレクが大好きで優しいレンちゃんは、結局アレクの言うことを聞いてしまうでしょ?それじゃあ会話の意味がないよね?」

「そんな風に見えますか?」

「うん。見えるね。今はまだ良いけど、そんなことが続いたら、レンちゃんだって疲れちゃう時が来るよ?それが二人の間の蟠りになるかもしれないし、この世界に来た事を後悔するかもしれない。僕はレンちゃんにそんな思いをさせたくないんだ」

 ウィリアムさんが、こんなに真剣に私の事を考えてくれてたなんて、知りませんでした。
 感動です!

「鉄は熱いうちに打てって言うでしょ?アレクに理解させるには、関係性が出来上がる前の、今がチャンスだと僕は思う」
「・・・お兄ちゃん、ありがとう」
 
 お礼を言うと、ウィリアムさんはニコッと笑って、私のあたまをクリクリと撫でてくれました。

「あとね、レンちゃんにも理解してもらわなきゃならない事が一つある」
「なんですか?」
「異界と違って、この世界には性の差がないでしょ?」
「そうですね?」
「獣人のアレクから見たら、既婚者以外の全人類が、レンちゃんを狙う敵なんだ。レンちゃんは、マークの事を弟?イモウト?みたいって言ってたけど、アレクから見たら、マークもただのオスなんだよ?」

 ウィリアムさんに言われて、ハッとしました。
 マークさんは、アレクさんが信頼する部下で、私には妹みたいで乙女だから、お友達になれたら、ヤベちゃんと同じように、女友達と同じ付き合い方をしても問題ない、と勘違いしていました。

「そうでした。こちらに女性は居ないのですよね。マークさんと女友達みたいな接し方をした、私がいけないんです」

 私がしょげかえるとウィリアムさんは慌てて、私の頭をグリグリ撫でて来ました。

 ちょっと首が痛いです。

「そんなにへこまないで!いい?友達を作っちゃダメなんじゃないよ?友達は沢山居た方がいいと思う。ただ、接し方に気を付けてって事」
「はい」

 ウィリアムさんが言う事は正しいです。
 でもそれって、学校の同期や会社の同僚の男の人と同じで、仲良くはなれてもそれだけです。
 ヤベちゃんみたいな親友は、もう出来ないのかもしれません。

「さあ、元気出して。リリーシュ様には先触れを出しておくし、アルサク城まではポータルを使えば、一日で着く。リリーシュ様は、アレクと一緒で見た目は怖いけど、優しくて良い人だから心配しないでね」

「わかりました」

「マーク、ローガン。よろしくね」
「承りました」
「さあレン様、馬車へどうぞ」

 馬車と言っても、繋がれているのは、どう見てもダチョウさんです。
 あちらのダチョウは脳みそが胡桃くらいしか無いから、調教するのが難しいって、聞いたことがありますが、こちらのダチョウさんは、なんとなく賢そうです。

 皇宮にあるポータルを利用した私たちは、途中の宿で一泊して、翌日のお昼にはアルサク城に到着しました。

 お城で出迎えてくれたリリーシュ様は、とてもお綺麗で気さくな方でした。

「私がアレクサンドルの母、リリーシュ・クロムウェルだ。愛し子様にお目に掛かれて光栄だ」

「ご丁寧にありがとうございます。紫藤蓮です。その・・・ご挨拶が遅れて申し訳ありません。この度息子さんのアレクサンドルさんと、婚約を結ばせて頂きました。よろしくお願いいたします」

「ハハハッ!!なんだこの可愛い生き物は!」
「キャ!!」

 リリーシュ様に両脇に手を入れて持ち上げられてしまいました。
 両足がブラブラして、猫になった気分です。

「アレクは大当たりを引いたな!マークもそう思わないか?」
「リリーシュ様お気持ちは分かりますが、レン様がお困りですよ」
「うん?怖かったか?すまん、すまん」
 と下に降ろしてくれるのかと思ったら、流れるような動作で左腕に縦抱きにされてしまいました。

 この安定感には覚えがあります。

「あのリリーシュ様、降ろしていただけませんか?」
「ん?なに遠慮はいらん。こんなにちっちゃいと歩くのも大変だろう。部屋まで私が連れて行ってあげよう」

 この言い方にも覚えがあります。
 さすが親子。
 こんな処が似ているとは。

 これは、お断りできない流れです。

 リリーシュ様は、お名前の響きが女性的なので、私はたおやかな方を想像していました。
 
 でも、実際のリリーシュ様は、お顔立ちは大変お綺麗な方なのですが、スパルタの戦士もかくやと言う、ゴリでマッチョな方でした。

 アレクさんの屈強な体格は、リリーシュ様からの遺伝なのだと納得です。

 ただ、この方がアレクさんを産んだのかと思うと、私の中の母親の概念が崩れ去って行くのが解ります。

「ウィルから話は聞いている、二人とも、うちの愚息が迷惑を掛けて申し訳なかった」

 リリーシュ様は、話しながら歩いているのですが、足の長さの違いか、蜂蜜色の髪が風に靡いて、景色が流れるように通り過ぎていきます。
 
 横を歩くマークさんも、後ろのローガンさんも平気な顔なので、普段皆さんが私に合わせて、ゆっくり歩いてくれているのだと再確認しました。

「私のアレクさんへの配慮が足りなかったのです」

 ウィリアムさんのお話でよく分かりました。アレクさんが優しくしてくれるから、
 優しくされるのが当たり前になって。アレクさんを思い遣る気持ちが足りていなかったのです。

「いやアレクが悪い。あれは体だけは頑丈で、剣も魔法もそこそこだが、恋愛に関してはからっきしだ。自分の想いを相手に押し付ける事と、番への愛とは違うからな」

 山を一つ二つ吹き飛ばせる人を、そこそこと言って良いのいでしょうか?

「さあ、着いたぞ」
「こちらのお部屋は?」
「ハリーの部屋だ。マークとローガンも入っていいぞ」

 ハリーってアレクさん達のお父様で、上皇陛下ですよね?

 やだなあ。
 私また偉い人に、抱っこで会うの?

「ハリー入るぞ。アレクの伴侶を連れてきた」

「やあ。いらっしゃい」

「じっ上皇陛下にはご機嫌麗しく、お目通りが叶い感謝いたします。紫藤蓮と申します。よろしくお願い致します」

 リリーシュ様に抱っこされたままの締まらない挨拶でしたが、なんとか口上を述べることが出来ました。

「こちらにおいで」

 手を差し出され、隣の椅子に下ろしてくれるのかと思ったら・・・。

 何故に上皇陛下のお膝の上なのでしょう?

 助けを求めて、マークさんを見ましたが、申し訳なさそうに、目を逸らされてしまいました。

 身の危険を感じる類ではありませんし、皆さんが居るので、そう言うことでは無いのでしょうが。

 恥ずかしいものは、恥ずかしいのですよ?

「愛らしいな。まるで子リスではないか。このように小さくて、本当に大人なのか?アレクはちゃんと食べさせてくれているか?」
 と言って、頭や頬をウリウリと撫で回されました。

「はっはい。ちゃんと食べてます」

「そうか?私は息子達が小さい時に、全くかまうことが出来なかった。気がついた時には、皆がっしりしていたのだが・・ふにゃふにゃだな。小さな子供を膝に乗せるとは、こんな感じなのだな」

 上皇様のお言葉を聞いて

 ちっちゃくないもん!大人だもん!

 とは、言い返せなくなってしまいました。
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