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アレクサンドル・クロムウェル

誤解を解くならお早め / sideレン

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 お着替えを済ませて、寝室の隣のリビングに落ち着いたところで、アレクさんには、ローガンさんとセルジュさんを呼んでもらいました。
 きっと二人は、ものすごく心配しているはずです。

 窓の外はとっくに日が暮れて、夜になっています。
 いったい何時間、私は喘がされていたのでしょうか?

 アレクさんだって、何回も出していたはずなのに、体の方はなんともなさそうです。
 いくら騎士様で体を鍛えているとは言っても、体力有りすぎじゃありませんか?
 もしやこれが噂に聞く、絶倫というものでしょうか?
 絶倫であのサイズ・・・・。
 なんか色々無理な気がして来ました。

 アレクさんに呼ばれて、部屋に入ってきたローガンさんとセルジュさんは二人とも、顔色が悪くて、凄く心配してくれていたみたいです。

「レン様、どこかお加減の悪いところはありませんか?」

 聞きたいことが沢山ある筈なのに、穏やかに気遣ってくれるローガンさんは、ベテラン侍従って感じで、さすがだと思います。

「私は大丈夫です。驚かせてしまってごめんなさい。練武場で私が怪我をしてしまって、アレクさんが過剰に反応しただけなので、他の皆さんにも、心配いらないと伝えてくださいね」

 みえすいた苦しい言い訳だけれども、勤務初日から、使用人の方達を怖がらせちゃダメですよね?

「承りました」
 ローガンさんも、分かっているのか、余計なことは言わずに、頭を下げてくれました。

 そんなローガンさんの後ろで、俯いているセルジュさんをチョイチョイと手で呼ぶと、アレクさんに手で払われたほっぺが痣になっていました。
 服に隠れて見えないけれど、壁にぶつかったところも怪我をしていると思います。

「ごめんね。びっくりしたよね」
「僕は・・・・大丈夫です」
 と、また俯いてしまった足元に、ポタポタと落ちる水滴は涙でしょうか。

 体は大きいけれど、セルジュさんは16歳、まだ子供です。
 怒り狂ったアレクさんの前に立ちはだかるのは、とっても勇気が必要だった筈です。

「心配してくれてありがとう」

 拳を握った、セルジュさんの手を取って、治癒魔法を掛けました。
 スベスベほっぺのセルジュさんに戻って一安心です。

 こんなやりとりの間、アレクさんは居心地悪そうに、一人ソファーで項垂れています。

 私は二人にお茶と軽食を頼んで、マークさんへのお見舞いと“動ける様だったら、明日柘榴宮に来てください”と言うメッセージもお願いしました。

「アレクさん、少し食べてください」
「・・・今はいい」
「ダメです。人間お腹が空いていると、考えが悪い方向へ偏ってしまいます。お話しする前に食べてください」

 果物を取って、ムシャムシャ食べて手本を見せると、アレクさんも渋々と言った感じで、ピカタっぽい肉を挟んだパンをもすもすと食べています。

 アレクさんが食べ終わったのを確認して、私は話を切り出しました。

「アレクさんが、何か誤解している様なので、最初に言っておきますが、私とマークさんの間に、疾しい事なんて何も有りません。私にとって、彼は妹・・弟みたいな存在です。それにマークさんには番が居ます。それは私ではありませんよ?」
「・・番?・・・・えっ?!」
「マークさんはその方との事でとても悩んでいて、私はその相談にのっていただけです」
「だが、俺のことが羨ましいって」
「もう!どこから聞いてたんですか?」
「すまん・・・」

 すっかりしょげかえっていますけど、簡単には許しませんよ?

「あれは、番を純粋に愛せる、アレクさんが羨ましいって話です」
「そう・・・なのか?」
「私はマークさんと、その方の事を誰にも話さないと約束したんです。だからマークさん本人が話すか、彼の許可がなければ、これ以上のお話は出来ません」

 アレクさんは大柄なので、どんなにしょげて小さくなっても、隠れることはできませんが、このまま行ったら、床に額が突いてしまいそうな程項垂れています。

「すまなかった・・・俺は最低だ」
「本当に最低です。どんなに怒っていたとしても、話も聞かずにマークさんを殴ったり、私にあんなことをするのは、立派なDVです、事案ですよ?」
「DV?」
「恋人や、夫婦、家族間で行われる暴力の事です。私はDVをする人は嫌いです」
「暴力・・・・そうだよな、嫌われて当然だ」と両手に顔を埋めてしまいました。

 ちょっと言い過ぎたでしょうか?
 
 でも、この世界は剣と魔法の世界で、アレクさんは騎士様だから、命のやり取りとか暴力的なことに慣れてしまって居るのかも知れないけれど、私は違います。
 
 いくら武道を叩き込まれても、それはあくまでも“道”であって、暴力ではないのです。

 それにここは、アウラ様が創った世界です。ヤベちゃんが言うところの、 18禁BLゲームみたいな展開があるかもしれません。
 
 そんなの、私の手には追えません。
 監禁エンド回避の為にも、言うべき事は言わなければ。

「ただヤキモチを妬いたからって、アレクさんがあんなに怒るとは思えないんです。他にも理由があるんですか?」
 
 アレクさんはノロノロと手を下ろして、私の様子を伺いながら、話し始めました。

「君に婚約と婚姻に関わる法の話しをしたのを覚えてるか?」
「はい。もちろん覚えてます」
「獣人族と人族の婚姻には・・・君に話していない特例がある」
「その特例とは?」
「獣人と人の婚姻では、複数婚が認められている。・・・人族1に対して、獣人及び人族が多数だ」
「でも・・番は・・・・」
「そう基本、番は一人だけだ。だが既に伴侶を得た人族を後から獣人が番と認識したり、稀に、複数の獣人が、一人の人族を番と認識することがある」

「知らなかった」
「教えてないからな。君は俺が何かを教えると、あの加護を使って調べ直す様子がなかった。だから黙ってたんだ」
“君は俺を信用し過ぎだ”とアレクさんは自嘲を浮かべました。

「この国は、基本的に伴侶は一人と定められている。だが人族と獣人族の婚姻だけは、複数婚が認められている。獣人は番と結ばれなければ焦がれ死ぬ。獣人の番に対する想いは本能から湧き出す愛だが、人の愛は心と情だ。これは人と獣人が相容れない部分でもある。だから人族に獣人が求愛した場合、その相容れない部分を理解してもらう為に、求愛紋を刻んでから婚姻まで一年以上、間を開ける決まりがあるんだ」

「求愛紋?でも、私たちは・・・」
「・・・俺が・・・我慢できなかった」

 なんてこった!!

 これは、アレクさんの言うとおり、ステータス画面なんて便利な物を貰いながら、興味の無いことを全く調べなかった、私の落ち度です。
 
「一年以上期間を空けるのは、番でないもの同士の婚姻で、本当の番が現れる可能性を考えての猶予期間でもある。昔、一夫一夫制で、離婚も認められなかった時代、後から番が見つかって、番を想って焦がれ死ぬ獣人や、獣人に捨てられて、生活が困窮したり、嫉妬で刃傷沙汰を起こす人族が絶えなかった。複数婚なら、番を見つけられない獣人も子を儲けることが出来るし、誰かに番が見つかった場合でも、後の対処がし易い」

 人の心に寄り添った法律と言って良いのでしょうか?合理的と考えるべきでしょうか?

「それで、マークさんが私の番だと?」
「・・・そうだ」
「複数婚が認められているのに、許せなかった?」
「その通りだ」
「かりにも団長職についている貴方が、事実を確認もしないで、法を無視して、感情に任せて大暴れして良いものでしょうか?」
「・・・」

 ダンマリですか・・・。
 こういう処が、子供っぽいというか。

「すまなかった。俺が狭量すぎた」
「・・・・分かりました」
「許してくれるか?」

 クハッ。上目遣いのイケメン・・・!!
 破壊力に負けるな私。
 心を強く持って。
 ここで、キッチリ躾けないと。
 監禁エンドが・・・。

「今は無理です。アレクさんに信じてもらえなくて、私は凄く悲しかったんです。だから今夜は寝室を分けて下さい。あと、マークさんやウィリアムさん達にも謝って下さいね」

「そうだよな」
 アレクさんはガックリと肩を落としてしまいました。
 可哀想だと思うけれど、怖いと思ってしまう自分も居て・・・。

 少し時間が欲しいと思うのは、我儘なのででしょうか。
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