獣人騎士団長の愛は、重くて甘い

こむぎダック

文字の大きさ
上 下
87 / 605
アレクサンドル・クロムウェル

帰還とお引越し / sideセルジュ1

しおりを挟む
 強引に風呂に押し込められはしたが、身体を清め浴槽に浸かると、久しぶりの熱い湯に、凝り固まった筋肉がほぐれていくのが分かる。
 しかし風呂の手伝いなど、俺には必要ないし、実際大公領でも手伝わせた事はない。
 ローガンもそれは分かっているはずだ。

「それで?」
「はい、陛下には報告と対処済みです。でもレン様はお気付きではないので、出来れば、このままお耳に入れない方が良いと思います」
「何があった」
「実は、私達の到着前に、レン様のお世話をしていたラドクリフが、レン様に嫌がらせをしていたんです」
「なんだとっ!!」

 声を張り上げた俺に、声を落とせとセルジュが慌てた。

「閣下、お気持ちは分かりますが、レン様に聞こえてしまいます」
「・・・そうだった。・・・・続けろ」
「はい。到着後直ぐに、レン様のお世話を私達が出来ればよかったのですが、何分皇宮内の事情がわからないので、教えてもらわなくちゃいけないことが沢山有ります。そこで、ラドクリフに皇宮の事を教えて貰いながら、レン様のお世話をする事になったのですが・・・」

 ・・・・・・side/セルジュ・・・・・・

「ローガンさん、今度お仕えするレン様は大公閣下のご婚約者なのですよね?」
「そうだ。しかし、レン様は閣下のご婚約者であるだけではなく、愛し子でもあられる、大変高貴な方です、失礼のないように、しっかりお世話するのですよ?」
「はい」
「ですが、レン様が愛し子であられることは、まだ正式には発表されていない、との事です。この事は他言無用ですよ」
「分かりました」

 あの大公閣下のご婚約者で
 愛し子様かぁ。
 どんな方なんだろう。
 楽しみだなあ。

 なんて、呑気に考えていたけど。
 始めて足を踏み入れた皇宮は、巨大で、豪華。あまりの煌びやかさに、目がチカチカしてきた。

 案内された貴賓室で、始めてお会いしたレン様は、それはそれは、小さくてお美しい方だった。
 最初は、あんまりちっちゃいから、子供なんだと思ったら、僕よりずっとお姉さんだった。

 びっくりだ。
 
 それに、美しいと言っても、そんじょそこらの美しさじゃない。
 儚げで、でも笑顔が優しくて、黒い瞳に銀色の虹彩が輝く瞳は、凄く深く澄んでいて・・・どう言葉にしたら良いんだろう?
 ・・・天使?・・・そう天使が居たらきっとこんな人だ。

 でも・・・こんな小さくて儚げな人が、閣下と結ばれる?

 大丈夫なの?
 壊れちゃうんじゃないの?

 心配になってローガンさんに話すと「心配しなくとも、番はちゃんと、お互いを受け入れられるように出来ている、と言いますよ?私達は、お二人が、つつがなく、お健やかに過ごせるように、お手伝いする事が大事なのです」
 と諭されました。

 やっぱりベテランの侍従は、言うことに含蓄があるなぁ。
 僕もいつかローガンさんみたいに、落ち着いた、かっこいい侍従になれるかなぁ?

 皇宮の上級侍従のラドクリフとは大違いだ。

 僕はこの、ラドクリフという人が嫌いだ。
 お父上が皇宮の侍従長補佐だからって、偉そうだし、優しいレン様にもなんか冷たいし。
 レン様に冷たく出来るなんて、信じられないよ。

 ローガンさんは、皇宮のルールとか、基本的なことを覚えるまでの我慢だって言うけど。
 これじゃレン様が可哀想だ。

 レン様のお世話の内容だって、僕達が閣下から受けていた指示と全然違う。
 これにはローガンさんも、ピリピリしてるみたいだし。
 僕も、レン様のために目を光らせなくちゃ。

 レン様のお世話をするようになって、僕は始めて皇帝陛下にお目に掛かったけど、皇帝陛下もレン様を大切にされて居るようで、たまにお茶の時間を、レン様のお部屋で過ごされる事もある。

 人払いはされて居るけど、勿論部屋の扉は開けたままだ、閣下に対してやましいことなんて何もないし、陛下は僕達にも、愛し子によく仕えるように。って声を掛けて下さった。
 この国で一番偉い方だけど、優しそうな人で良かったなって思う。

 レン様は、ご入浴もお着替えも1人でなさるから、僕達は配膳と掃除と洗濯物の管理くらいしかやることが無い。
 綺麗な黒髪のお手入れは、閣下が嫌がるからって理由で出来ないし・・・。
 でも僕達が何かして差し上げると、レン様は、優しく“ありがとう”って言ってくださるんだ。

 異界からいらしたレン様は、文字を読むことは出来るけど、書くことは出来なくて。
 それでも一生懸命書く練習をされて居る。
 こちらの世界に慣れようと、努力されているんだ。

 それなのに、ラドクリフは、掃除や洗濯は、下級侍従か下男のやることだって言って、やろうともしない。
 ほんと。いる意味あるの?って言ってやりたいよ。

 閣下の指示でもあったけど、レン様は本当に少食で、不安になるくらいだ。
 だから、午後のお茶の時間には、果物を一緒にお出しするように、閣下から言われているのに、僕達が気付かないと、ラドクリフはお茶しか出さない。
 
 それに皇宮の決まり事だって、教えたくないのか、何なのか知らないけど、まともに答えてくれないから、他の人に教えてもらってるんだけど。
 
 この人本当に上級侍従なのかな?
 仕事も覚えられない、馬鹿なのかな?

 そうこうして居る内に、レン様がお食事を摂ることが出来なくなってしまった。
 ご本人は「多分ストレスだと思うから、気にしないで」って言うけど、気にしないなんて無理だ、心配だよ。

 ストレスって言うのが何なのか分からなくて、レン様に聞いたら、精神的に疲れた時に、体に不調が出ることだって、教えてくれた。

 ローガンさんと、レン様は異界から招来されたばかりだし、番の閣下が居なくて寂しいのかな?って話したけど、やっぱりそれだけじゃ無いと思う。

 それは、ローガンさんも同じだったみたいで、毎日レン様とお話に来る、治癒師のパフォス様とローガンさんが、ラドクリフの目を盗んで相談していたけど、2人とも眉間に皺が寄った険しい顔をしていた。

 パフォス様も、レン様が食べられなくなっていることを、始めて知ったみたいで、なんの報告もしないラドクリフに、大変お怒りのご様子だった。

 その翌日、僕はラドクリフが、レン様に何をしたのか知ることになった。

 ローガンさんに言われて、僕は他に用事があるフリをして、レン様のお食事の配膳を、ラドクリフにやらせるように仕向けた。
 まぁ、普段から配膳だけは自分でやりたがってたから、疑われたりしなかったけどね。

 そしてお食事を下げる時に、こっそりパフォス様に、レン様が残したお食事を届けたんだ。
 パフォス様は一皿々を順に調べて、僕に食べてみろと仰った。

「グッウエェ」
 恐る恐る口にしたそれは、とても人が食べられるようなものじゃ無かった。
 僕は口の中の物を慌てて吐き出して、何度も水で口を濯いだけれど、それでも唇がしおしおするぐらいしょっぱかった。

 他の皿も確認してみたけど、甘すぎたり、
酸っぱかったり、それは酷い物だった。

「こんな物を、今までレン様にお出ししていたなんて」

 僕は侍従失格だ、お仕えする方の為に、毒味をちゃんとするべきだったんだ。


しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

腹黒宰相との白い結婚

恋愛
大嫌いな腹黒宰相ロイドと結婚する羽目になったランメリアは、条件をつきつけた――これは白い結婚であること。代わりに側妻を娶るも愛人を作るも好きにすればいい。そう決めたはずだったのだが、なぜか、周囲が全力で溝を埋めてくる。

嫌われ女騎士は塩対応だった堅物騎士様と蜜愛中! 愚者の花道

Canaan
恋愛
旧題:愚者の花道 周囲からの風当たりは強いが、逞しく生きている平民あがりの女騎士ヘザー。ある時、とんでもない痴態を高慢エリート男ヒューイに目撃されてしまう。しかも、新しい配属先には自分の上官としてそのヒューイがいた……。 女子力低い残念ヒロインが、超感じ悪い堅物男の調子をだんだん狂わせていくお話。 ※シリーズ「愚者たちの物語 その2」※

婚約者の本性を暴こうとメイドになったら溺愛されました!

柿崎まつる
恋愛
世継ぎの王女アリスには完璧な婚約者がいる。侯爵家次男のグラシアンだ。容姿端麗・文武両道。名声を求めず、穏やかで他人に優しい。アリスにも紳士的に対応する。だが、完璧すぎる婚約者にかえって不信を覚えたアリスは、彼の本性を探るため侯爵家にメイドとして潜入する。2022eロマンスロイヤル大賞、コミック原作賞を受賞しました。

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて

アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。 二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

悪役令嬢ですが、ヒロインが大好きなので助けてあげてたら、その兄に溺愛されてます!?

柊 来飛
恋愛
 ある日現実世界で車に撥ねられ死んでしまった主人公。    しかし、目が覚めるとそこは好きなゲームの世界で!?  しかもその悪役令嬢になっちゃった!?    困惑する主人公だが、大好きなヒロインのために頑張っていたら、なぜかヒロインの兄に溺愛されちゃって!?    不定期です。趣味で描いてます。  あくまでも創作として、なんでも許せる方のみ、ご覧ください。

次期騎士団長の秘密を知ってしまったら、迫られ捕まってしまいました

Karamimi
恋愛
侯爵令嬢で貴族学院2年のルミナスは、元騎士団長だった父親を8歳の時に魔物討伐で亡くした。一家の大黒柱だった父を亡くしたことで、次期騎士団長と期待されていた兄は騎士団を辞め、12歳という若さで侯爵を継いだ。 そんな兄を支えていたルミナスは、ある日貴族学院3年、公爵令息カルロスの意外な姿を見てしまった。学院卒院後は騎士団長になる事も決まっているうえ、容姿端麗で勉学、武術も優れているまさに完璧公爵令息の彼とはあまりにも違う姿に、笑いが止まらない。 お兄様の夢だった騎士団長の座を奪ったと、一方的にカルロスを嫌っていたルミナスだが、さすがにこの秘密は墓場まで持って行こう。そう決めていたのだが、翌日カルロスに捕まり、鼻息荒く迫って来る姿にドン引きのルミナス。 挙句の果てに“ルミタン”だなんて呼ぶ始末。もうあの男に関わるのはやめよう、そう思っていたのに… 意地っ張りで素直になれない令嬢、ルミナスと、ちょっと気持ち悪いがルミナスを誰よりも愛している次期騎士団長、カルロスが幸せになるまでのお話しです。 よろしくお願いしますm(__)m

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

処理中です...