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アレクサンドル・クロムウェル
帰還とお引越し / 単騎討伐
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ブルーベルを駆り、ホレポ山の中腹に駆け上がった眼前に、荒涼とした景色が広がっていた。
白骨の様に立ち枯れた木々、下草一本なく、剥き出しの岩肌が風雨に削られ石塊となり、ブルーベルから降りた軍靴の下でジャリジャリと鳴った。
遮る物もなく、巡る風が岩の隙間を通って、笛の様な音を立てている。
命を失った死の世界、そんな言葉が似合う場所だった。
そんな寂寞たる光景と不釣り合いな、青々とした木が、数本点在しているのが見えた。
ドレインツリーだ。
目視できる場所のドレインツリーは6体。
7体目は、火竜が捕食している最中だった。
火竜が牙を立てるたび、ドレインツリーの耳障りな叫びと、幹から漏れ出る魔力が、シュウシュウと音を立て、破れた火竜の翼が再生していく。
時間を掛けなくて正解だった。
ここまで快復されたら、いつ逃げられてもおかしくない。
「閣下!」
「おい!なんのつもりだ?!」
おれを呼ぶ声に振り向くと、ゲオルグとマーク、ミュラー、それと皇都からザンドまで、オレの早駆けについて来れた数名の部下の姿が見えた。
麓から立ち上る砂埃は、出遅れて跡を追ってくる者達だろう。
「セルゲイ。お前の戦い方はぬるい」
「はあ?!」
「今から、単騎での戦い方を見せてやる。やるなら徹底的にだ。よく見ておけよ」
「何言ってんだよ。俺も一緒に」
「ゲオルグ団長!貴方死にたいんですか?!」
「だから!」
「防護結界!!急げっ!!」
俺の腕に集まる魔力を目にしたマークと部下達が、結界を張る波動で背中がヒリヒリする。
「アーチャー!防護結界なら、クロムウェルに張れよ。なんでこっちなんだよ?!」
「いいから。大人しくしてください!!」
そろそろ、良さそうだな。
ゴウッッ!!
俺の右腕から放たれた劫火が、六体のドレインツリー全てを飲み込み、灰燼と化し、灼熱の炎が岩肌を紅く鋳熔かして行く。
同属性の火竜には、痛くも痒くもない攻撃だが、驚いて舞い上がった火竜の翼に、続け様に左腕から雷撃を飛ばした。
バリバリッと耳を劈く雷鳴が轟き。
1匹の翼を撃ち抜いた雷撃が、そのまま隣の山の山頂を吹き飛ばし、宙に舞った山の残骸も、無数の雷に打たれ砂塵となった。
翼を撃ち抜かれた火竜が、バランスを崩し、螺旋を描いて落ちてくる。
「ハアッ!!」
地面に激突した火竜に駆け寄り、腰の剣を引き抜いて気合いを込め、その首を刎ね飛ばした。
火竜の血が、首を落とした断面から吹き出し、灼熱の血を防いだマントが燃え上がったが、その炎は魔力を巡らせ消し去った。
残るはあと1匹。
残りの1匹は、雷撃で羽を撃ち抜かれることは回避した様だが、感電して鋳熔かされ、紅く染まった岩の上でヒクヒクと痙攣している。
ザリッ、ザリッ。
一歩づつ火竜に近づくごとに、軍靴の下で石塊が音を立てる。
火竜まであと十数歩。
その時、火竜の目がギョロリと俺に向けられた。
グルゴアァァーーー!!
叫び声と共に、火竜がブレスを吐いた。
俺は防護結界を張り、火竜の猛火をやり過ごした。
結界に切り裂かれた猛火が、二つの紅蓮の濁流となり、立ち枯れた木々を呑み込んで行く。
ブレスは続けて放つことは出来ない。
俺がまた一歩近づくと、ブレスを吐けない火竜は、今度は次々と火球を飛ばしてきた。
火球一つは、俺が一抱えする程度の大きさだ。
この程度の火球なら、子供の玉遊びと変わらない。
左手に身体強化と結界を張り、飛んで来る火球の全てを拳で弾き飛ばす。
飛び散った火の粉が団服の袖を焦がしたが、体へのダメージは全くない。
後ろの方から
「うわぁ!!」
「ギャアア!!」
という声が聞こえてきた。
どうやら弾き飛ばした火球が、部下達の方へ飛んで行ってしまったらしい。
だが、この程度の火球、うちの団員なら一々騒いだりはしない。騒いでいるのは第4の連中だろう。
火竜も火球を永遠に吐き続けられるものではないが、魔力切れになるのを待つのも面倒だ。
それにドレインツリーら溢れた魔力を取り込まれたら厄介だ。だから、俺が先に溢れた魔力を利用してやる事にした。
辺りに漂う魔力を凝縮し、俺の周りに氷の剣を創り出しす。
俺の周りに無数に浮いた氷の剣は、その切先が全て火竜に向いている。
温度が下がり、急激に冷やされた岩が、ガララと音を立てて崩れた。
火竜の目が怯えを見せたが、情けをかける謂れは無い。
握った剣を横薙ぎに振るうと、氷の剣が一斉に火竜目掛けて飛んでいった。
ザシュ!ザシュ!ザシュ!・・・・・。
グギャウ!!
幸い魔力は幾らでも補充出来る。
苦鳴を上げのたうち回る火竜に、剣の雨を降らせ続けた。
全身を氷の剣で貫かれた火竜は、最後に一度、ブルリと身震いしたのちに息絶えた。
「「「「ウオーーー!!」」」
歓声を上げる部下達の元へ向かう軍靴の下で、カツカツと硬質な音が響くのに気付いて足元を見ると、俺の劫火と火竜のブレスで、熔けた岩がガラス化していた。
「閣下!ご無事ですか?」
「すまんなミュラー、手元を誤った。被害はないか?」
「火球が何発か飛んできましたが、問題ありません」
「閣下、やりすぎです」
マークが苦い顔で笑っている。
「そうか?手加減したつもりなんだが」
「地形を変えたらいけませんよ」
「山頂だけなら問題ないだろ?」
「山頂だけじゃないのですけど?」
渋い顔をするマークの肩を叩き、後始末の指示を出した。
「素材の回収が終わったら、第二騎士団は全員皇都に帰還。後始末は第4に頼んでいいな?」
俺の単騎での戦いを、初めて見たゲオルグは、声が出ないのか、アグアグと口を動かしている。
「セルゲイ。返事!」
「ハッはいッ!!」
「・・・1人で出来る事には限りがある。徹底的に叩き潰せないなら、もっと仲間を頼れ。いいな?」
「はいっ!」
ゲオルグの返事に満足した俺は、マークへ向き直った。
「マーク。一足先に俺は帰る。ブルーベルを頼む」
「はい?エンラ無しでどうやって?」
「こうやってだ」
俺は不思議そうな顔のマークにニヤリと笑い。上着の隠しから取り出した“すくろーる”を引き裂いた。
嗚呼、これでやっとレンに会える。
白骨の様に立ち枯れた木々、下草一本なく、剥き出しの岩肌が風雨に削られ石塊となり、ブルーベルから降りた軍靴の下でジャリジャリと鳴った。
遮る物もなく、巡る風が岩の隙間を通って、笛の様な音を立てている。
命を失った死の世界、そんな言葉が似合う場所だった。
そんな寂寞たる光景と不釣り合いな、青々とした木が、数本点在しているのが見えた。
ドレインツリーだ。
目視できる場所のドレインツリーは6体。
7体目は、火竜が捕食している最中だった。
火竜が牙を立てるたび、ドレインツリーの耳障りな叫びと、幹から漏れ出る魔力が、シュウシュウと音を立て、破れた火竜の翼が再生していく。
時間を掛けなくて正解だった。
ここまで快復されたら、いつ逃げられてもおかしくない。
「閣下!」
「おい!なんのつもりだ?!」
おれを呼ぶ声に振り向くと、ゲオルグとマーク、ミュラー、それと皇都からザンドまで、オレの早駆けについて来れた数名の部下の姿が見えた。
麓から立ち上る砂埃は、出遅れて跡を追ってくる者達だろう。
「セルゲイ。お前の戦い方はぬるい」
「はあ?!」
「今から、単騎での戦い方を見せてやる。やるなら徹底的にだ。よく見ておけよ」
「何言ってんだよ。俺も一緒に」
「ゲオルグ団長!貴方死にたいんですか?!」
「だから!」
「防護結界!!急げっ!!」
俺の腕に集まる魔力を目にしたマークと部下達が、結界を張る波動で背中がヒリヒリする。
「アーチャー!防護結界なら、クロムウェルに張れよ。なんでこっちなんだよ?!」
「いいから。大人しくしてください!!」
そろそろ、良さそうだな。
ゴウッッ!!
俺の右腕から放たれた劫火が、六体のドレインツリー全てを飲み込み、灰燼と化し、灼熱の炎が岩肌を紅く鋳熔かして行く。
同属性の火竜には、痛くも痒くもない攻撃だが、驚いて舞い上がった火竜の翼に、続け様に左腕から雷撃を飛ばした。
バリバリッと耳を劈く雷鳴が轟き。
1匹の翼を撃ち抜いた雷撃が、そのまま隣の山の山頂を吹き飛ばし、宙に舞った山の残骸も、無数の雷に打たれ砂塵となった。
翼を撃ち抜かれた火竜が、バランスを崩し、螺旋を描いて落ちてくる。
「ハアッ!!」
地面に激突した火竜に駆け寄り、腰の剣を引き抜いて気合いを込め、その首を刎ね飛ばした。
火竜の血が、首を落とした断面から吹き出し、灼熱の血を防いだマントが燃え上がったが、その炎は魔力を巡らせ消し去った。
残るはあと1匹。
残りの1匹は、雷撃で羽を撃ち抜かれることは回避した様だが、感電して鋳熔かされ、紅く染まった岩の上でヒクヒクと痙攣している。
ザリッ、ザリッ。
一歩づつ火竜に近づくごとに、軍靴の下で石塊が音を立てる。
火竜まであと十数歩。
その時、火竜の目がギョロリと俺に向けられた。
グルゴアァァーーー!!
叫び声と共に、火竜がブレスを吐いた。
俺は防護結界を張り、火竜の猛火をやり過ごした。
結界に切り裂かれた猛火が、二つの紅蓮の濁流となり、立ち枯れた木々を呑み込んで行く。
ブレスは続けて放つことは出来ない。
俺がまた一歩近づくと、ブレスを吐けない火竜は、今度は次々と火球を飛ばしてきた。
火球一つは、俺が一抱えする程度の大きさだ。
この程度の火球なら、子供の玉遊びと変わらない。
左手に身体強化と結界を張り、飛んで来る火球の全てを拳で弾き飛ばす。
飛び散った火の粉が団服の袖を焦がしたが、体へのダメージは全くない。
後ろの方から
「うわぁ!!」
「ギャアア!!」
という声が聞こえてきた。
どうやら弾き飛ばした火球が、部下達の方へ飛んで行ってしまったらしい。
だが、この程度の火球、うちの団員なら一々騒いだりはしない。騒いでいるのは第4の連中だろう。
火竜も火球を永遠に吐き続けられるものではないが、魔力切れになるのを待つのも面倒だ。
それにドレインツリーら溢れた魔力を取り込まれたら厄介だ。だから、俺が先に溢れた魔力を利用してやる事にした。
辺りに漂う魔力を凝縮し、俺の周りに氷の剣を創り出しす。
俺の周りに無数に浮いた氷の剣は、その切先が全て火竜に向いている。
温度が下がり、急激に冷やされた岩が、ガララと音を立てて崩れた。
火竜の目が怯えを見せたが、情けをかける謂れは無い。
握った剣を横薙ぎに振るうと、氷の剣が一斉に火竜目掛けて飛んでいった。
ザシュ!ザシュ!ザシュ!・・・・・。
グギャウ!!
幸い魔力は幾らでも補充出来る。
苦鳴を上げのたうち回る火竜に、剣の雨を降らせ続けた。
全身を氷の剣で貫かれた火竜は、最後に一度、ブルリと身震いしたのちに息絶えた。
「「「「ウオーーー!!」」」
歓声を上げる部下達の元へ向かう軍靴の下で、カツカツと硬質な音が響くのに気付いて足元を見ると、俺の劫火と火竜のブレスで、熔けた岩がガラス化していた。
「閣下!ご無事ですか?」
「すまんなミュラー、手元を誤った。被害はないか?」
「火球が何発か飛んできましたが、問題ありません」
「閣下、やりすぎです」
マークが苦い顔で笑っている。
「そうか?手加減したつもりなんだが」
「地形を変えたらいけませんよ」
「山頂だけなら問題ないだろ?」
「山頂だけじゃないのですけど?」
渋い顔をするマークの肩を叩き、後始末の指示を出した。
「素材の回収が終わったら、第二騎士団は全員皇都に帰還。後始末は第4に頼んでいいな?」
俺の単騎での戦いを、初めて見たゲオルグは、声が出ないのか、アグアグと口を動かしている。
「セルゲイ。返事!」
「ハッはいッ!!」
「・・・1人で出来る事には限りがある。徹底的に叩き潰せないなら、もっと仲間を頼れ。いいな?」
「はいっ!」
ゲオルグの返事に満足した俺は、マークへ向き直った。
「マーク。一足先に俺は帰る。ブルーベルを頼む」
「はい?エンラ無しでどうやって?」
「こうやってだ」
俺は不思議そうな顔のマークにニヤリと笑い。上着の隠しから取り出した“すくろーる”を引き裂いた。
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