上 下
83 / 497
アレクサンドル・クロムウェル

帰還とお引越し / 閑話・マキシマス・アーチャー1

しおりを挟む
「閣下、ロロシュ殿が報告に参りました」
「通せ」
「よう!邪魔するぞ~」
 ロロシュはいつまで経っても態度が悪い。
 
 コイツは、閣下の元に陛下が直接送り込んだ人間だ。横柄な態度も私やミュラーに対してなら、許すことも出来る。

 しかし、閣下はその地位だけでなく、救国の英雄だ。軽々しい態度で接して良いお方ではない。

 ご自分を卑下しがちだが、閣下は帝国一、いや、この世で閣下より強い者など居ない。と断言してもいい実力をお持ちだ。
 見た目こそ恐ろし気で、態度も素っ気ないが、実は繊細な心配りが出来る、優しい方なのだ。
 それを知っているから、第2騎士団の団員は、皆閣下を尊敬し慕っている。

 ミーネの神殿でモルローは、閣下に対して失礼な態度を取った。移動になったばかりとは言え、あの態度は看過して良いものではない。
 今奴は、雑用として、性根を叩き直している最中だ。

 そんな苦々しい思いでロロシュを睨んだが、気付いているのか、いないのか。いつものヘラヘラした態度を改める気は無い様だ。

「成功したか?」
「何とかな、こいつの補助があったから何とかなった」
 そう言ってシッチンの背中をたたいた。
 
 最近この2人は、よく行動を共にしている。
 シッチンの探知能力を買っている様だが、ロロシュから、悪い遊びを教えられないか、心配になる。

 神託を受け、招来された愛し子は、閣下の番であられた。
 しかし、愛し子は、その小さな身体に深傷を負っておられ、それに気付いた閣下の絶望し狼狽えたご様子は、見ているこちらまで、胸が張り裂けてしまいそうだった。
 
 幸い、ロロシュの治癒と回復薬で事なきを得、愛し子はご快復された。
 短い間ではあるが、愛し子と会話をされた閣下が、 “レン” とその名を呼ぶ、甘く溶けた表情は、番を得るとはこう云う事か、と納得させられるほど甘やかだった。

 その後閣下は、小さな愛し子を抱え、慌ただしく皇都へお戻りになったが、あれは一刻も早く、外堀を埋めてしまいたいと云う、オスの本能に抗えなかったのだろう。

 閣下は激しい戦闘の後でも、昂りを鎮めるために、若い騎士を呼ばれた事が一度も無く、娼館通いでさえ聞いたことが無い。
 それ程純粋でお優しい方だ。

 そんな閣下の純粋な愛を、レン様は一身で受け止める事になる。
 しかし、レン様はまだ子供だ。
 閣下は、幼子に手を出される様な方では無いが、あのように小さなお体で、屈強な閣下を受け止められるほど、強く大きくご成長されるだろうか?
 心配だ。

 魔獣と第4の不手際のせいで、心苦しくも閣下を呼び戻すことになったが、戻られた閣下から、レン様は実は25歳の成人された方で、すでに婚約もお済みと聞いて、私は胸を撫で下ろした。

 皇都出発のおり、閣下を見送るレン様を見たもの達は、皆口を揃えて小さく可憐な方だったと話す。
 目を疑う程お美しい方だったと。
 何より、お二人が大変仲睦まじかったとも。

 私達、最初の遠征組は、そのお顔をまともに見る事すら叶わなかったが、ご婚約を経て、人前に連れ出せる程度には、閣下も落ち着かれた、と言う事なのだろう。
 私も早く、お目通りが叶うといいのだが。

 だが、たったの数日で、人族であるレン様を、口説き落とした閣下の情熱と執着に、空恐ろしいものも感じる。
 
 一年後には、あの小さなお体で、閣下の全てを受け止める事になるのだが、そんなレン様が、不憫に思えてしまうのは、余計なお世話だろうか?


 しかし、この森は狩っても狩っても、魔獣が湧いてくる。しかも興奮した状態の、攻撃的な魔物となれば、部下達の指揮にも影響するし、疲労も積み重なっていく。
 第4の連中は、大喜びで魔獣を狩っているが、あいつら本当に、頭がおかしいのでは無いか?

 その筆頭だったゲオルグ団長は、閣下の仕置きで多少大人しくなった。
 しかし、いつまで続くかは疑問だ。

 閣下は到着から3日の間、淡々と討伐を熟されていたが、魔獣の発生に法則性がある事、その原因が、森の南西部にある事に気付かれた。
 経験の差と言って仕舞えばそれ迄だが、その洞察力は、私やゲオルグ団長には無いものだ。
 やはり私は、この方には遠く及ばない。
 尊敬に値する方に仕えられる私は、幸せ者だ。

 それはレン様も同様だった。
 ロロシュや、魔法局の者達が解明できなかった魔法陣の正体を、レン様はいとも簡単に解明された上、その対応策まで授けてくださった。

 その事を話す、閣下の少し照れたような、それでいて誇らし気な表情を見て、私と、ミュラーは一日でも早く、閣下をレン様の元へ、帰らせて差し上げようと誓い合ったものだ。

 この第4騎士団を喜ばせるだけの、迷惑な魔獣騒動は、人為的なものと判明した。犯人探しは重要だが、そんなものは管轄担当の第4がやれば良い。
 戦闘狂とて、たまには頭も使わねば馬鹿になる一方だ。

 召喚陣への対応策として閣下は、自ら陣の周囲に結界を張り、魔獣が召喚されてもそこから出られない様にされた上で。
 魔力の供給と媒介物の捜索を命じられた。

 また、召喚陣の消滅まで、今召喚されているライカンは、新たな魔獣の召喚を防ぐため、森から出ようとするか、此方を攻撃してこない限り、手出し無用と指示された。

 ところが、閣下の指示に大人しく従っていれば良いものを、ライカンの警戒を任されたゲオルグ団長が、とんでも無いことを仕出かした。
 
 餌を求めて森を、出る動きを見せたライカンの群れを、囲い込めば良いものを、逆に狩り尽くした上に、新たに召喚された火竜まで逃がしてしまったのだ。

 火竜のブレスで炎上する森を、部下を守りながら必死で消火したが、こうなる、とゲオルグ団長への恨みは募るばかりだ。

「面目無い!!言い訳はしない。好きなように処分してくれ!」
 と頭を下げるゲオルグ団長に、閣下も言いたいことは沢山あっただろう。
 それを木に吊るすだけで許して差し上げるとは、閣下の心の広さに頭が下がる思いだ。

「はぁ・・・つかれた」
 疲れ果て、思考の波を揺蕩いこのまま眠ってしまいたい。

 「副団長お疲れさん」
 唐突に現実に引き戻された。

 バサリと垂れ幕を捲り、天幕に入ってきたのは、今、一番会いたくない相手、ロロシュだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

淫らなお姫様とイケメン騎士達のエロスな夜伽物語

瀬能なつ
恋愛
17才になった皇女サーシャは、国のしきたりに従い、6人の騎士たちを従えて、遥か彼方の霊峰へと旅立ちます。 長い道中、姫を警護する騎士たちの体力を回復する方法は、ズバリ、キスとH! 途中、魔物に襲われたり、姫の寵愛を競い合う騎士たちの様々な恋の駆け引きもあったりと、お姫様の旅はなかなか困難なのです?!

迷い込んだ先で獣人公爵の愛玩動物になりました(R18)

るーろ
恋愛
気がついたら知らない場所にた早川なつほ。異世界人として捕えられ愛玩動物として売られるところを公爵家のエレナ・メルストに買われた。 エレナは兄であるノアへのプレゼンとして_ 発情/甘々?/若干無理矢理/

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

クソつよ性欲隠して結婚したら草食系旦那が巨根で絶倫だった

山吹花月
恋愛
『穢れを知らぬ清廉な乙女』と『王子系聖人君子』 色欲とは無縁と思われている夫婦は互いに欲望を隠していた。 ◇ムーンライトノベルズ様へも掲載しております。

ドS騎士団長のご奉仕メイドに任命されましたが、私××なんですけど!?

yori
恋愛
*ノーチェブックスさまより書籍化&コミカライズ連載7/5~startしました* コミカライズは最新話無料ですのでぜひ! 読み終わったらいいね♥もよろしくお願いします! ⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆ ふりふりのエプロンをつけたメイドになるのが夢だった男爵令嬢エミリア。 王城のメイド試験に受かったはいいけど、処女なのに、性のお世話をする、ご奉仕メイドになってしまった!?  担当する騎士団長は、ある事情があって、専任のご奉仕メイドがついていないらしい……。 だけど普通のメイドよりも、お給金が倍だったので、貧乏な実家のために、いっぱい稼ぎます!!

【R-18】喪女ですが、魔王の息子×2の花嫁になるため異世界に召喚されました

indi子/金色魚々子
恋愛
――優しげな王子と強引な王子、世継ぎを残すために、今宵も二人の王子に淫らに愛されます。 逢坂美咲(おうさか みさき)は、恋愛経験が一切ないもてない女=喪女。 一人で過ごす事が決定しているクリスマスの夜、バイト先の本屋で万引き犯を追いかけている時に階段で足を滑らせて落ちていってしまう。 しかし、気が付いた時……美咲がいたのは、なんと異世界の魔王城!? そこで、魔王の息子である二人の王子の『花嫁』として召喚されたと告げられて……? 元の世界に帰るためには、その二人の王子、ミハイルとアレクセイどちらかの子どもを産むことが交換条件に! もてない女ミサキの、甘くとろける淫らな魔王城ライフ、無事?開幕! 

5人の旦那様と365日の蜜日【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
気が付いたら、前と後に入ってる! そんな夢を見た日、それが現実になってしまった、メリッサ。 ゲーデル国の田舎町の商人の娘として育てられたメリッサは12歳になった。しかし、ゲーデル国の軍人により、メリッサは夢を見た日連れ去られてしまった。連れて来られて入った部屋には、自分そっくりな少女の肖像画。そして、その肖像画の大人になった女性は、ゲーデル国の女王、メリベルその人だった。 対面して初めて気付くメリッサ。「この人は母だ」と………。 ※♡が付く話はHシーンです

処理中です...