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アレクサンドル・クロムウェル
帰還とお引越し / 閑話・マキシマス・アーチャー1
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「閣下、ロロシュ殿が報告に参りました」
「通せ」
「よう!邪魔するぞ~」
ロロシュはいつまで経っても態度が悪い。
コイツは、閣下の元に陛下が直接送り込んだ人間だ。横柄な態度も私やミュラーに対してなら、許すことも出来る。
しかし、閣下はその地位だけでなく、救国の英雄だ。軽々しい態度で接して良いお方ではない。
ご自分を卑下しがちだが、閣下は帝国一、いや、この世で閣下より強い者など居ない。と断言してもいい実力をお持ちだ。
見た目こそ恐ろし気で、態度も素っ気ないが、実は繊細な心配りが出来る、優しい方なのだ。
それを知っているから、第2騎士団の団員は、皆閣下を尊敬し慕っている。
ミーネの神殿でモルローは、閣下に対して失礼な態度を取った。移動になったばかりとは言え、あの態度は看過して良いものではない。
今奴は、雑用として、性根を叩き直している最中だ。
そんな苦々しい思いでロロシュを睨んだが、気付いているのか、いないのか。いつものヘラヘラした態度を改める気は無い様だ。
「成功したか?」
「何とかな、こいつの補助があったから何とかなった」
そう言ってシッチンの背中をたたいた。
最近この2人は、よく行動を共にしている。
シッチンの探知能力を買っている様だが、ロロシュから、悪い遊びを教えられないか、心配になる。
神託を受け、招来された愛し子は、閣下の番であられた。
しかし、愛し子は、その小さな身体に深傷を負っておられ、それに気付いた閣下の絶望し狼狽えたご様子は、見ているこちらまで、胸が張り裂けてしまいそうだった。
幸い、ロロシュの治癒と回復薬で事なきを得、愛し子はご快復された。
短い間ではあるが、愛し子と会話をされた閣下が、 “レン” とその名を呼ぶ、甘く溶けた表情は、番を得るとはこう云う事か、と納得させられるほど甘やかだった。
その後閣下は、小さな愛し子を抱え、慌ただしく皇都へお戻りになったが、あれは一刻も早く、外堀を埋めてしまいたいと云う、オスの本能に抗えなかったのだろう。
閣下は激しい戦闘の後でも、昂りを鎮めるために、若い騎士を呼ばれた事が一度も無く、娼館通いでさえ聞いたことが無い。
それ程純粋でお優しい方だ。
そんな閣下の純粋な愛を、レン様は一身で受け止める事になる。
しかし、レン様はまだ子供だ。
閣下は、幼子に手を出される様な方では無いが、あのように小さなお体で、屈強な閣下を受け止められるほど、強く大きくご成長されるだろうか?
心配だ。
魔獣と第4の不手際のせいで、心苦しくも閣下を呼び戻すことになったが、戻られた閣下から、レン様は実は25歳の成人された方で、すでに婚約もお済みと聞いて、私は胸を撫で下ろした。
皇都出発のおり、閣下を見送るレン様を見たもの達は、皆口を揃えて小さく可憐な方だったと話す。
目を疑う程お美しい方だったと。
何より、お二人が大変仲睦まじかったとも。
私達、最初の遠征組は、そのお顔をまともに見る事すら叶わなかったが、ご婚約を経て、人前に連れ出せる程度には、閣下も落ち着かれた、と言う事なのだろう。
私も早く、お目通りが叶うといいのだが。
だが、たったの数日で、人族であるレン様を、口説き落とした閣下の情熱と執着に、空恐ろしいものも感じる。
一年後には、あの小さなお体で、閣下の全てを受け止める事になるのだが、そんなレン様が、不憫に思えてしまうのは、余計なお世話だろうか?
しかし、この森は狩っても狩っても、魔獣が湧いてくる。しかも興奮した状態の、攻撃的な魔物となれば、部下達の指揮にも影響するし、疲労も積み重なっていく。
第4の連中は、大喜びで魔獣を狩っているが、あいつら本当に、頭がおかしいのでは無いか?
その筆頭だったゲオルグ団長は、閣下の仕置きで多少大人しくなった。
しかし、いつまで続くかは疑問だ。
閣下は到着から3日の間、淡々と討伐を熟されていたが、魔獣の発生に法則性がある事、その原因が、森の南西部にある事に気付かれた。
経験の差と言って仕舞えばそれ迄だが、その洞察力は、私やゲオルグ団長には無いものだ。
やはり私は、この方には遠く及ばない。
尊敬に値する方に仕えられる私は、幸せ者だ。
それはレン様も同様だった。
ロロシュや、魔法局の者達が解明できなかった魔法陣の正体を、レン様はいとも簡単に解明された上、その対応策まで授けてくださった。
その事を話す、閣下の少し照れたような、それでいて誇らし気な表情を見て、私と、ミュラーは一日でも早く、閣下をレン様の元へ、帰らせて差し上げようと誓い合ったものだ。
この第4騎士団を喜ばせるだけの、迷惑な魔獣騒動は、人為的なものと判明した。犯人探しは重要だが、そんなものは管轄担当の第4がやれば良い。
戦闘狂とて、たまには頭も使わねば馬鹿になる一方だ。
召喚陣への対応策として閣下は、自ら陣の周囲に結界を張り、魔獣が召喚されてもそこから出られない様にされた上で。
魔力の供給と媒介物の捜索を命じられた。
また、召喚陣の消滅まで、今召喚されているライカンは、新たな魔獣の召喚を防ぐため、森から出ようとするか、此方を攻撃してこない限り、手出し無用と指示された。
ところが、閣下の指示に大人しく従っていれば良いものを、ライカンの警戒を任されたゲオルグ団長が、とんでも無いことを仕出かした。
餌を求めて森を、出る動きを見せたライカンの群れを、囲い込めば良いものを、逆に狩り尽くした上に、新たに召喚された火竜まで逃がしてしまったのだ。
火竜のブレスで炎上する森を、部下を守りながら必死で消火したが、こうなる、とゲオルグ団長への恨みは募るばかりだ。
「面目無い!!言い訳はしない。好きなように処分してくれ!」
と頭を下げるゲオルグ団長に、閣下も言いたいことは沢山あっただろう。
それを木に吊るすだけで許して差し上げるとは、閣下の心の広さに頭が下がる思いだ。
「はぁ・・・つかれた」
疲れ果て、思考の波を揺蕩いこのまま眠ってしまいたい。
「副団長お疲れさん」
唐突に現実に引き戻された。
バサリと垂れ幕を捲り、天幕に入ってきたのは、今、一番会いたくない相手、ロロシュだった。
「通せ」
「よう!邪魔するぞ~」
ロロシュはいつまで経っても態度が悪い。
コイツは、閣下の元に陛下が直接送り込んだ人間だ。横柄な態度も私やミュラーに対してなら、許すことも出来る。
しかし、閣下はその地位だけでなく、救国の英雄だ。軽々しい態度で接して良いお方ではない。
ご自分を卑下しがちだが、閣下は帝国一、いや、この世で閣下より強い者など居ない。と断言してもいい実力をお持ちだ。
見た目こそ恐ろし気で、態度も素っ気ないが、実は繊細な心配りが出来る、優しい方なのだ。
それを知っているから、第2騎士団の団員は、皆閣下を尊敬し慕っている。
ミーネの神殿でモルローは、閣下に対して失礼な態度を取った。移動になったばかりとは言え、あの態度は看過して良いものではない。
今奴は、雑用として、性根を叩き直している最中だ。
そんな苦々しい思いでロロシュを睨んだが、気付いているのか、いないのか。いつものヘラヘラした態度を改める気は無い様だ。
「成功したか?」
「何とかな、こいつの補助があったから何とかなった」
そう言ってシッチンの背中をたたいた。
最近この2人は、よく行動を共にしている。
シッチンの探知能力を買っている様だが、ロロシュから、悪い遊びを教えられないか、心配になる。
神託を受け、招来された愛し子は、閣下の番であられた。
しかし、愛し子は、その小さな身体に深傷を負っておられ、それに気付いた閣下の絶望し狼狽えたご様子は、見ているこちらまで、胸が張り裂けてしまいそうだった。
幸い、ロロシュの治癒と回復薬で事なきを得、愛し子はご快復された。
短い間ではあるが、愛し子と会話をされた閣下が、 “レン” とその名を呼ぶ、甘く溶けた表情は、番を得るとはこう云う事か、と納得させられるほど甘やかだった。
その後閣下は、小さな愛し子を抱え、慌ただしく皇都へお戻りになったが、あれは一刻も早く、外堀を埋めてしまいたいと云う、オスの本能に抗えなかったのだろう。
閣下は激しい戦闘の後でも、昂りを鎮めるために、若い騎士を呼ばれた事が一度も無く、娼館通いでさえ聞いたことが無い。
それ程純粋でお優しい方だ。
そんな閣下の純粋な愛を、レン様は一身で受け止める事になる。
しかし、レン様はまだ子供だ。
閣下は、幼子に手を出される様な方では無いが、あのように小さなお体で、屈強な閣下を受け止められるほど、強く大きくご成長されるだろうか?
心配だ。
魔獣と第4の不手際のせいで、心苦しくも閣下を呼び戻すことになったが、戻られた閣下から、レン様は実は25歳の成人された方で、すでに婚約もお済みと聞いて、私は胸を撫で下ろした。
皇都出発のおり、閣下を見送るレン様を見たもの達は、皆口を揃えて小さく可憐な方だったと話す。
目を疑う程お美しい方だったと。
何より、お二人が大変仲睦まじかったとも。
私達、最初の遠征組は、そのお顔をまともに見る事すら叶わなかったが、ご婚約を経て、人前に連れ出せる程度には、閣下も落ち着かれた、と言う事なのだろう。
私も早く、お目通りが叶うといいのだが。
だが、たったの数日で、人族であるレン様を、口説き落とした閣下の情熱と執着に、空恐ろしいものも感じる。
一年後には、あの小さなお体で、閣下の全てを受け止める事になるのだが、そんなレン様が、不憫に思えてしまうのは、余計なお世話だろうか?
しかし、この森は狩っても狩っても、魔獣が湧いてくる。しかも興奮した状態の、攻撃的な魔物となれば、部下達の指揮にも影響するし、疲労も積み重なっていく。
第4の連中は、大喜びで魔獣を狩っているが、あいつら本当に、頭がおかしいのでは無いか?
その筆頭だったゲオルグ団長は、閣下の仕置きで多少大人しくなった。
しかし、いつまで続くかは疑問だ。
閣下は到着から3日の間、淡々と討伐を熟されていたが、魔獣の発生に法則性がある事、その原因が、森の南西部にある事に気付かれた。
経験の差と言って仕舞えばそれ迄だが、その洞察力は、私やゲオルグ団長には無いものだ。
やはり私は、この方には遠く及ばない。
尊敬に値する方に仕えられる私は、幸せ者だ。
それはレン様も同様だった。
ロロシュや、魔法局の者達が解明できなかった魔法陣の正体を、レン様はいとも簡単に解明された上、その対応策まで授けてくださった。
その事を話す、閣下の少し照れたような、それでいて誇らし気な表情を見て、私と、ミュラーは一日でも早く、閣下をレン様の元へ、帰らせて差し上げようと誓い合ったものだ。
この第4騎士団を喜ばせるだけの、迷惑な魔獣騒動は、人為的なものと判明した。犯人探しは重要だが、そんなものは管轄担当の第4がやれば良い。
戦闘狂とて、たまには頭も使わねば馬鹿になる一方だ。
召喚陣への対応策として閣下は、自ら陣の周囲に結界を張り、魔獣が召喚されてもそこから出られない様にされた上で。
魔力の供給と媒介物の捜索を命じられた。
また、召喚陣の消滅まで、今召喚されているライカンは、新たな魔獣の召喚を防ぐため、森から出ようとするか、此方を攻撃してこない限り、手出し無用と指示された。
ところが、閣下の指示に大人しく従っていれば良いものを、ライカンの警戒を任されたゲオルグ団長が、とんでも無いことを仕出かした。
餌を求めて森を、出る動きを見せたライカンの群れを、囲い込めば良いものを、逆に狩り尽くした上に、新たに召喚された火竜まで逃がしてしまったのだ。
火竜のブレスで炎上する森を、部下を守りながら必死で消火したが、こうなる、とゲオルグ団長への恨みは募るばかりだ。
「面目無い!!言い訳はしない。好きなように処分してくれ!」
と頭を下げるゲオルグ団長に、閣下も言いたいことは沢山あっただろう。
それを木に吊るすだけで許して差し上げるとは、閣下の心の広さに頭が下がる思いだ。
「はぁ・・・つかれた」
疲れ果て、思考の波を揺蕩いこのまま眠ってしまいたい。
「副団長お疲れさん」
唐突に現実に引き戻された。
バサリと垂れ幕を捲り、天幕に入ってきたのは、今、一番会いたくない相手、ロロシュだった。
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