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アレクサンドル・クロムウェル

帰還とお引越し /戦闘狂

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「閣下、ロロシュ殿が報告に参りました」
「通せ」
「よう!邪魔するぞ~」

 相変わらずの口の利き方だな。

 シッチンを伴い、垂れ布を捲って天幕に入って来たロロシュに、マークは苦い顔だ。

「成功したか?」
「何とかな、こいつの補助があったから何とかなった」と背中を叩かれたシッチンは恐縮したように縮こまって居る。

 一月前、ザンド村に到着直後、ゲオルグを大人しくさせた俺は、第2の団員を中心に森での討伐を開始した。懸案のガルーダも、対空戦用のバリスタと投石機、何よりうちの連携力が有れば、さして手間の掛かる相手では無かった。が、やはりミーネの森の様子はおかしかった。

 狩っても狩っても、魔獣が湧いてくる。
 それは北の辺境でも経験した事だが、あの時とはどうも勝手が違う、その原因は、生息域が異なる魔獣が湧いてくる事だ。
 しかもそのどれもが、興奮した状態で、攻撃的になっている。

 魔獣といえど、本能的な部分は動物と変わらない、満腹で有れば大人しくなるし、此方が刺激しなければ、攻撃してくることも少ない。
 それが攻撃する事を目的としているかの様に、襲いかかってくるのだから、堪ったものではない。

 3日程観察して気がついたのだが、魔獣が現れるのは、森の南西部、神殿とは逆の位置が中心のようだ。また一種の魔獣を討伐すると、5時間程で別の種の魔獣が現れると言う、妙な法則性があった。

 森の南西部に何かある。
 これは確信に近い。

 そこで俺は、団員を森での討伐と、調査の二手に分けて事に当たらせる事にした。

 調査開始2日目、予想通り森の南西部で発動し続ける魔法陣が発見された。
 その報告を受け、ロロシュに調べさせてみたが「魔獣がこの陣から出て来るのは、確認済みだが、どういう原理になっているのかは判らない」との答えが返ってきた。

 ロロシュに陣を書き写させ、魔法局で調べさせる為、皇宮へ送ったのだが、時間がかかった割に、魔法局の人間も陣の正体は判らなかったらしい。

 そこでウィリアムは、駄目元で陣をレンに見せたそうだ。
 レンは暫く考え込んだ後。
「これ、召喚陣らしいです。陣に込めた魔力が尽きる迄、魔獣を他所から召喚し続けた上に、召喚するたびに、もっと獰猛な魔獣を、召喚する仕様になって居るみたいなので、早く消したほうが良いですよ?」とあっさり判明したそうだ。

 また、陣を無効化する方法についても
「長い期間、召喚魔法を発動させ続けるのは難しいそうです。近くに魔力を供給する物と、供給を媒介する物が有るらしいので、それを破壊すれば良いそうです」
 と教えられたのだそうだ。

 ウィリアムから陣に関する情報と共に
 「レンちゃんって、本当にすごいね!」
 と言う褒め言葉が送られてきた。

 知ってはいたが
 やはり俺の番は素晴らしい。
 
 この魔獣の騒動は、人為的なものだった。
 誰がこんな馬鹿げた事をしでかしたのかは、今はまだ不明だ。犯人を調べ捕らえる必要もある。

 だが今は、陣を消しさり、魔獣を屠れば
 俺はレンの元に帰れる。

 と喜んだのも束の間、ゲオルグがとんでもないことを遣らかしてくれた。

 陣の周囲に結界を張り、魔獣が召喚されても陣の側から出られない様にした上で、魔力の供給と媒介物の捜索に、俺の部下達を当たらせた。

 すでに召喚された魔獣については、新たな魔獣が召喚されるのを防ぐため、森から出ようとするか、攻撃してこない限り、召喚陣を消すまでは、手出し無用と言い渡した。

 本人の希望もあって、今いる魔獣の警戒は、ゲオルグに任せた。
 好物魔獣を前に、“待て”を覚える良い機会だと考えたからだ。
 しかし、それが間違いだった。

 元々いた森の魔獣は、コネリなどの小型の魔獣以外狩り尽くされている。そのせいで召喚されたライカンの群れが、腹を満たすことが出来ず、餌を求めて森を出る動きを見せた。
 それを見たゲオルグは、ライカンの群れを森に封じ込めるのではなく、嬉々として20頭以上の群れを狩りまくった。

 まぁ、そこまでは良いとしよう。
 しかし・・・。

 同じ団長職に就く者として、情報の共有は必要だ。
 当然ゲオルグにも召喚陣の詳細を話してある。
 ライカンを狩り尽くしたゲオルグは、新しい魔獣が出て来るのが見たいと、陣から少し離れた場所で待機していたらしい。

 問題は此処からだ。
 運の悪い事に、この時現れたのは、2匹の火竜だった。
 戦闘狂のゲオルグは、興奮して結界に近寄り、結界の持続時間と、強度を上げるために配置した魔晶石を壊してしまったのだ。

 俺の張る結界は、それなりに強力な物だと自負しているが、離れた場所で長時間持続させることは出来ない。
 その為レンの部屋にも、二つ程魔晶石を置いてある。

 魔晶石を見たレンは「パワーストーンみたいで綺麗ですね」と微笑っていたな。
  
 クソッ。
 レンの愛らしい顔を思い出してしまった。

 本気で帰りたい。

 帰ったら駄目だろうか?
 ・・・・駄目だよな。 
 クッ、辛すぎる。

 魔晶石は簡単に壊せる物では無いのだが、火竜の召喚を目の当たりにして、興奮したゲオルグが魔力制御を誤った。

 ゲオルグの無駄に強い魔力が魔晶石を壊し、結界が弱まったことに気付いた火竜が、大暴れして結界を破壊してしまった。

 結界から出た火竜は、当然目の前に居るゲオルグを攻撃した。
 そこでゲオルグが、火竜を仕留めていれば、面倒事も少なくて済んだのだ。

 だが、結局ゲオルグはその場で2匹を仕留めることが出来ず、散々追いかけ回した挙句、危険極まりない火竜を取り逃がす、と言う失態を犯した。

 火竜の吐くブレスで森は炎上、その消火作業に追われている間に、火竜は移動に2日程も掛かるホレポ山という岩山に逃げ込んでしまった。

 しかも、その地域には、小さな村が散在し、火竜の被害を考慮して、村人達ををアレナ砦まで避難させる必要がある。

「面目無い!!言い訳はしない。好きなように処分してくれ!」
 と流石のゲオルグも、自分の失態に萎れていたが、帰還を先延ばしにされた俺は、腹の虫が治らず、本人が希望する通り、躾けと称し、再度ゲオルグを木に吊るしてやる事にした。

 近隣の村人達を避難させている間に、火竜が別の場所に移動されても困る。
 岩山に見張りをたて、避難と魔法陣を消す作業を優先した結果、現在に至るという訳だ。

「御苦労だった」
 恐縮して縮こまるシッチンから、ロロシュへ視線を戻す。

「魔力の媒介は、この魔晶石だ」
 ロロシュがゴトリと卓に置いたのは、どす黒く禍々しい色に変色した魔晶石だった。

「なんだこの色は」
「邪法を使ったらしい。うまく隠していたが死体があった。魔力の供給源だ」
「1人か?」
「いや。5人だ」

 5人も?

「ザンド村の者か?」
「いや、避難の際に人数の確認はしてある。村のもんじゃぁね~な」

 この人数はどこかで聞いたことがある。
 どこで聞いた?

「アガスの護衛も5人でしたね」
 ミュラーの呟きに全員がハッとなった。
「アガスは、いつ村を離れた?」
 それが・・・。とマークとミュラーがバツの悪そうな顔をした。
「魔獣騒ぎで、気がついた時には、村を離れた後でした」
 申し訳ありません。とマークは頭を下げたが、次々と大型の魔獣が湧けば、それどころでは無かっただろう。

「召喚魔法を設置した犯人の捜査は、ゲオルグの管轄だが、第2でも探りを入れた方がいいだろう。アガスの安否確認からだな。その前に火竜を討伐する」
「そうですね。閣下も早く帰りたいでしょうし」
「分かっているなら話しは早い、ホレポ山の様子はどうだ?」

 今俺の周りに居るのは全員が獣人だ、求愛行動中のオスの危険性を十分承知している。
 そして、日に日に俺の機嫌が悪くなっていることも。
 それが分かっているから、マーク達も余計なことは言わず、苦笑を浮かべただけだった。
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