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アレクサンドル・クロムウェル
討伐とお留守番/ 萌え
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「レンちゃんもさ、嫌なことは嫌って、言って良いんだよ?アレクに気を使う事ないからね?」と納得いかないウィリアムは、まだ文句を言っている。
「しつこい」
「ほんと、獣人って、心が狭いんだから」
とグチグチ言いながら、ウィリアムは、足元に置いた箱を取り上げた。
「はい。レンちゃんにプレゼント~!」
「プレゼント?」
俺より先に、プレゼントだと?
俺のこめかみに浮かぶ青筋を、ウィリアムはニヤニヤしながら眺めている。
「さあ、さあ、開けてみて?」
「良いんですか?」
ニヤニヤ笑いを浮かべた、ウィリアムが、どうぞどうぞ、と両手を空で持ち上げている。
「あッ!私のお着物!」
箱の中身は、レンが招来の時に来ていた衣だった。
この野郎。揶揄いやがって。
「綺麗に縫い直してくれてます。あっ、繕ったところは、刺繍で分からないようにしてくれてる!」
丈の長い衣を肩に掛け、クルクルと回りながら、花が綻ぶように微笑う番か・・・。
あ~尊いなあ。
この笑顔を、絵にして残したい。
「喜んでくれて、良かったよ。型も作れたからって、先にこれだけ届いたんだ。一日二日で、あと一揃いできるそうだよ、残りは出来た順に届けるって」
「そんなに早く?」
とレンが驚いている。
「なんかさぁ、ルナコルテが張り切ってるみたいでね~」
「そうなんですね?ルナコルテさんには、無理しないで下さいって。お伝えください」
「それを聞いたら、余計張り切りそうだけどなぁ~」
たしかに、あのテーラーならそうだろうな。
ホクホク顔のレンを膝に抱え直し、改めて討伐で留守にすることを謝った。
「食事の手配も済ませてある、あと本をいくつか見繕って来たんだが、他に必要な物があったら、なんでも言ってくれ」
レンは、本の題名をざっくり確認して、何かを考えているようだ。
「本よりも、この世界のお話しをしてくれる方が居ないでしょうか。あと文字の練習がしたいのですけど」
「字の練習?君は文字は読めるだろう?」
「そうなんですけど・・書くのは無理そうなので」
話す事、読む事は出来ても、文字は書けないのか・・・。
アウラ神の加護も、万能ではないようだ。
「だったら、教材を一通り揃えてあげるよ。あと話し相手は、パフォスが良いだろうね」
「パフォスさんですか?お忙しいのでは?」
遠慮を見せるレンに、ウィリアムは「大丈夫だよ」と笑っている。
「パフォスは、僕付きの治癒師だけど、僕、健康だから。パフォスはいつも暇してるよ?それに無駄に知識が多いから、話し相手には丁度いいと思う」
「そうなんですね?では、お願いしたいです」
「お兄ちゃんに、任せなさい!!」
胸を叩くウィリアムに、レンは“ハハハ”と乾いた笑いで、若干引き気味だ。
「じゃあ、僕帰るね」
と言ってウィリアムが向かったのは、廊下へ続く扉ではなく、壁に掛けられたタペストリーだった。
「お前、秘密通路で来たのか?」
「当然でしょ?」
堂々と言ってのけるウィリアムに、頭が痛くなってきた。
「俺がいない間 “絶対に” この通路を使うなよ。いや、今から使うな」
「え~。なんでぇ?」
なんでぇ、じゃない!
壁の向こうから、覗かれてるかもしれないなんて、落ち着いてイチャイチャできるか!?
ブチブチ文句を言うウィリアムを通路に押し込んで、結界も五重に張ってやった。
これで安心だ。
安堵の息を吐く背中に、遠慮がちなレンの声が聞こえた。
「アレクさん。そのままこっちを向いてくれますか?」
「ん?」
「ストップ!そこで止まってください」
振り向いて、レンの元へ行こうとしたら、レンに止められてしまった。
「どうした?」
まさか、ウィリアムに冷たくしたから、怒ったのか?
「・・・・かっこいい・・・」
頬に手を当て、薄らと頬を染めたレンが、なぜかうっとりと俺を見つめ「ほう~」と長い溜息を吐いている。
「レン?」
「・・・・ハッ!すっすみません。思わず見惚れてしまいました」
見惚れた?
俺に?
「その・・・アレクさんの騎士服姿を、初めてちゃんと見たので・・・アレクさんは、普段もかっこいいけど、騎士服を着てると、それが三割り増しと言うか・・・・」
話しているうちに、どんどんレンの顔が赤くなって、最後は両手で顔を隠してしまった。
「ごめんなさい。騎士服に萌えるとか、気持ち悪いですよね」
“もえる” が何なのかは分からないが、レンが今の俺をかっこいいと、思ってくれているのは分かるし、気持ち悪いわけがない。
レンの元へ歩み寄り、傍に跪いて、顔を覗き込んだ。
「顔をみせて?」
「すみません・・・今はちょっとはずかしいので」
「レン?」
「・・・・」
ソロソロと手を下ろしたレンは、俺と目が合うと「ゔっ!」っと息を詰まらせ、目を逸らしてしまった。
「レンは、この姿が好きか?」
コクコクと頷くレンは、耳まで赤くなっている。
「そうか。嬉しいよ」
恥ずかしがる、番の頭を撫でながら、俺は考えた。
こんなに喜んでくれるなら、2人きりの旅は捨てがたいが、辞表を出すのは、もう少し我慢する事にしよう。
それにしても、今着ているのは謁見の為の礼服で、普段はこんなにゴテゴテと飾り立ててはいないのだがな。
地味な騎士服を見たら、がっかりされないだろうか?
「しつこい」
「ほんと、獣人って、心が狭いんだから」
とグチグチ言いながら、ウィリアムは、足元に置いた箱を取り上げた。
「はい。レンちゃんにプレゼント~!」
「プレゼント?」
俺より先に、プレゼントだと?
俺のこめかみに浮かぶ青筋を、ウィリアムはニヤニヤしながら眺めている。
「さあ、さあ、開けてみて?」
「良いんですか?」
ニヤニヤ笑いを浮かべた、ウィリアムが、どうぞどうぞ、と両手を空で持ち上げている。
「あッ!私のお着物!」
箱の中身は、レンが招来の時に来ていた衣だった。
この野郎。揶揄いやがって。
「綺麗に縫い直してくれてます。あっ、繕ったところは、刺繍で分からないようにしてくれてる!」
丈の長い衣を肩に掛け、クルクルと回りながら、花が綻ぶように微笑う番か・・・。
あ~尊いなあ。
この笑顔を、絵にして残したい。
「喜んでくれて、良かったよ。型も作れたからって、先にこれだけ届いたんだ。一日二日で、あと一揃いできるそうだよ、残りは出来た順に届けるって」
「そんなに早く?」
とレンが驚いている。
「なんかさぁ、ルナコルテが張り切ってるみたいでね~」
「そうなんですね?ルナコルテさんには、無理しないで下さいって。お伝えください」
「それを聞いたら、余計張り切りそうだけどなぁ~」
たしかに、あのテーラーならそうだろうな。
ホクホク顔のレンを膝に抱え直し、改めて討伐で留守にすることを謝った。
「食事の手配も済ませてある、あと本をいくつか見繕って来たんだが、他に必要な物があったら、なんでも言ってくれ」
レンは、本の題名をざっくり確認して、何かを考えているようだ。
「本よりも、この世界のお話しをしてくれる方が居ないでしょうか。あと文字の練習がしたいのですけど」
「字の練習?君は文字は読めるだろう?」
「そうなんですけど・・書くのは無理そうなので」
話す事、読む事は出来ても、文字は書けないのか・・・。
アウラ神の加護も、万能ではないようだ。
「だったら、教材を一通り揃えてあげるよ。あと話し相手は、パフォスが良いだろうね」
「パフォスさんですか?お忙しいのでは?」
遠慮を見せるレンに、ウィリアムは「大丈夫だよ」と笑っている。
「パフォスは、僕付きの治癒師だけど、僕、健康だから。パフォスはいつも暇してるよ?それに無駄に知識が多いから、話し相手には丁度いいと思う」
「そうなんですね?では、お願いしたいです」
「お兄ちゃんに、任せなさい!!」
胸を叩くウィリアムに、レンは“ハハハ”と乾いた笑いで、若干引き気味だ。
「じゃあ、僕帰るね」
と言ってウィリアムが向かったのは、廊下へ続く扉ではなく、壁に掛けられたタペストリーだった。
「お前、秘密通路で来たのか?」
「当然でしょ?」
堂々と言ってのけるウィリアムに、頭が痛くなってきた。
「俺がいない間 “絶対に” この通路を使うなよ。いや、今から使うな」
「え~。なんでぇ?」
なんでぇ、じゃない!
壁の向こうから、覗かれてるかもしれないなんて、落ち着いてイチャイチャできるか!?
ブチブチ文句を言うウィリアムを通路に押し込んで、結界も五重に張ってやった。
これで安心だ。
安堵の息を吐く背中に、遠慮がちなレンの声が聞こえた。
「アレクさん。そのままこっちを向いてくれますか?」
「ん?」
「ストップ!そこで止まってください」
振り向いて、レンの元へ行こうとしたら、レンに止められてしまった。
「どうした?」
まさか、ウィリアムに冷たくしたから、怒ったのか?
「・・・・かっこいい・・・」
頬に手を当て、薄らと頬を染めたレンが、なぜかうっとりと俺を見つめ「ほう~」と長い溜息を吐いている。
「レン?」
「・・・・ハッ!すっすみません。思わず見惚れてしまいました」
見惚れた?
俺に?
「その・・・アレクさんの騎士服姿を、初めてちゃんと見たので・・・アレクさんは、普段もかっこいいけど、騎士服を着てると、それが三割り増しと言うか・・・・」
話しているうちに、どんどんレンの顔が赤くなって、最後は両手で顔を隠してしまった。
「ごめんなさい。騎士服に萌えるとか、気持ち悪いですよね」
“もえる” が何なのかは分からないが、レンが今の俺をかっこいいと、思ってくれているのは分かるし、気持ち悪いわけがない。
レンの元へ歩み寄り、傍に跪いて、顔を覗き込んだ。
「顔をみせて?」
「すみません・・・今はちょっとはずかしいので」
「レン?」
「・・・・」
ソロソロと手を下ろしたレンは、俺と目が合うと「ゔっ!」っと息を詰まらせ、目を逸らしてしまった。
「レンは、この姿が好きか?」
コクコクと頷くレンは、耳まで赤くなっている。
「そうか。嬉しいよ」
恥ずかしがる、番の頭を撫でながら、俺は考えた。
こんなに喜んでくれるなら、2人きりの旅は捨てがたいが、辞表を出すのは、もう少し我慢する事にしよう。
それにしても、今着ているのは謁見の為の礼服で、普段はこんなにゴテゴテと飾り立ててはいないのだがな。
地味な騎士服を見たら、がっかりされないだろうか?
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