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アレクサンドル・クロムウェル

討伐とお留守番 / 下知

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 謁見前の控室。
 呼び出しを待つ者達が、声を抑え、茶を飲みながら談笑している。

 俺を見て、会釈をする者、視線を逸らす者、反応は異なれど、皆一様に緊張したように見える。

「クロムウェル殿!ちょっと此方へ」
「モーガン?」
 血相を変え、走り寄ってきたモーガンに、部屋の隅に引っ張って行かれた。

「どうされた?その様な恐ろしい顔をして」
「顔?」
 失礼なやつだな。と思ったがそこでハッと気が付いた。にやけそうになるのを必死で堪え、真面目な顔を作ろうとしたのが、恐ろし気に見えたようだ。

「愛し子様に、何かあったのか?」

 気遣ってくれるモーガンに、本当のことを言う事もできず、俺は黙ってマークからの増援要請を差し出した。

 受け取ったモーガンは、文字を追うごとに表情が険しくなっていく。

「これは、違和感どころの話じゃ無いな」
「ゲオルグには、アーチャーから連絡済みだが、アーチャーが俺宛に、増援要請を出したと言う事は、第4だけでは、捌ききれないと判断したからだろう」

 そこへゲオルグの副官のピッドが入室したのが見えた。
 ピッドも俺たちに気付き、足早に近寄ってきた。
「クロムウェル閣下、モーガン団長。ご無沙汰しております」
「久しいなピッド。ミーネの件は聞いているか?」
「はい。なんでもバーブが出たとか」
 やはり、砦経由では情報が遅れているらしい。

「最新情報だ」
 とマークからの知らせを渡すと、それに目を通すピッドの顔は固く、顔色も悪くなっていった。

「対空戦の準備は?」
「いえ。ワイバーンの渡り前なので」
 と精彩を欠いた返事が返ってきた。

「ゲオルグは出ているな?」
「はい。ライノと聞いて、じっとしていられる方では無いですから」
 とピッドは苦笑を浮かべている。

 好戦的なのは、相変わらずか・・・・
 俺が自分から、討伐に介入したとなったら、確実に文句を言われるな。いや、あいつの事だから、文句だけでは済まんだろう。

「アーチャーからは、俺宛に要請が来たが、生憎、俺は今休暇中でな?判断は陛下にお任せするつもりだ」

 ゲオルグの性格を熟知しているピッドは、俺の言にホッとしつつも、困惑の表情を見せた。

 こいつも噂を知っているな。

 モーガンもそれを察知したらしく、周囲に聞こえるように、わざらしく大きな声を出した。

「ピッド。クロムウェル殿は、最近番と出逢われてな。近くご婚約を発表されるのだ。お相手の方には、私もお会いしたが、“25歳”の 大変聡明なお方だ」
 と火消し役を全うして見せた。

 やはり。
 はと胸モーガンは、いい奴だ。

 噂を信じていたかどうかはさて置き、モーガンの話を聞いたピッドは、後ろめたそうな顔を見せたが、直ぐに気を取り直し「それは、おめでとうございます」と和かに祝辞を述べた。

 それを受けて、俺が鷹揚に頷き返したところで、謁見の呼び出しが掛かった。

 謁見でミーネの状況説明を聞き、マークからの要請を確認した皇帝は、俺と第2騎士団を増援として送る、と下知が下された。

 よって、今の俺は機嫌が悪い。

 マークからの要請があった段階で、こうなる事は予想していたし、覚悟もしていたつもりだが、何日かかるかも判らない遠征の間、愛しい番に会えないかと思うと・・。

 しかも、マークもミュラーもいない今、討伐の準備を俺1人でやらなければならない。その分レンとの時間が削られる。

 もう、本気で辞表を出したい。

 それも此れも、ミーネに湧いた魔獣どもと、戦闘狂バトルジャンキーゲオルグのせいだ。

 奴は実力もあり、団員達からの人望もあるが、戦闘に入ると夢中になり過ぎて、冷静な判断が出来なくなる。

 なまじ奴が強い為、今までは団員達に目立った被害もなく、討伐を熟して来たが、今のままでは頭打ちだ。

 マークが俺を呼んだ理由もそこだろう。
 ライノの群れで大喜びした奴が、ガルーダを前にして、どれ程無茶をするのか、想像するだけで頭が痛くなる。

 いや、ガルーダだけなら、ゲオルグに任せても良い。異なる魔獣、魔物を個別になら問題ない。
 だが、複数種を同時にとなると・・・・。

 皇帝から、指揮の見本を見せろと言われたが、なぜ俺が、バトルジャンキーの面倒を見なければならないのか。

 嗚呼、嫌だ。
 むさい団員を引き連れて
 バトルジャンキーのお守りなんて。

 毎日、レンの花のような香りを嗅いでいたいのに。





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