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アレクサンドル・クロムウェル

討伐とお留守番 / 試してみました

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 レンは俺の過去の話を聞いても、何も言わなかったし、何も聞かなかった。ジルベールとの思い出話しを、楽しそうに聞いてくれただけだ。

 唯それだけで、許され
 救われた気がする。

 人の心とは、不思議な物だな。

 レンは、今も何も無かったように、俺に寄り掛かり、加護を使って何かを調べている。

 俺の様な人間が、こんな穏やかな時間を持つことが出来るなんて、夢のようだ。

 こうやって、2人でのんびりと過ごせることは、とても嬉しい。しかし。安静を言い渡されているとはいえ、本人はいたって元気に見える。これでは、噂が落ち着くまで、部屋に閉じこもっているのは、退屈だろう。

 何か気晴らしになる事がないだろうか?

 そこで  “ピカッ!"  と閃いた。

 レンは婚約申請書を見せた時、文字が読めると言っていたな。

 文殿に、レンの好みそうな本が無いか見てこよう。レンは純情だから、恋愛小説の2、3冊も混ぜておけば、少しは勉強になる・・のか?

 レンから見れば、こちらの恋愛小説は、男同士の恋愛になる訳で・・・・。

 本当に参考になるのだろうか?

 試しに一冊だけにしておくか。

「あっ出来た!」
 レンの声で、意識を現実に引き戻された。

「どうした?」
 何気なくレンを見ると、レンの指先に水の玉が浮いている。

 水魔法?!

「アレクさん。見てみて!」
 レンは嬉しそうだが、これはまずいぞ。

 魔法の覚えたては、魔力が暴走しやすい。
 況してや、レンは魔力経路が細過ぎる。暴走を起こしたら、経路を傷つけてしまう。

「・・・上手に出来たな?今度はその水を消せるか?ダメなら無理をせず、このコップに入れるといい」

 驚かせないように、言ったつもりだが、大丈夫だろうか。

「消す?・・・水を消す・・・・・」
 レンの指先が淡く光って、水の玉がゆらりと揺れ、霧になり空気に溶けて消えた。

「出来ました!!」
「そうだな。上手だ」

 喜ぶレンに、水を差すのは気が引けるが
 大事な事は伝えないと。

 魔法の覚えたては、暴走を引き起こし易い事。暴走を起こすと魔力経路を傷つけて、回復に時間がかかる事、を伝えるとレンはシュン、としてしまった。

 その姿は、可哀想だし、かわいいが。
 ここは心を鬼にしなければ。

「魔法の練習は、パフォスの許可が出てからだ。あと練習するのは、屋外か練習所を使うこと。いいな?」
「暴走を起こすと、危ないから?」
「そうだぞ。レンも部屋を丸焦げにしたり、水浸しにするのは嫌だろう?」
「分かりました」
 と笑顔で頷いてくれた。

 よかった、納得してくれた様だ。

「なぜ急に、魔法を使おうと思ったんだ?」
「使うつもりは無かったんですけど。色々見てたら、使い方を見つけて。ちょっと試してみたら、出来ちゃったんです」

 レンはニコニコと笑っているが、魔法は、ちょっと試して出来る程、簡単な物では無いのだがな・・・。

 それも、無詠唱で魔法を発現できる者は少ない。俺も辺境を巡っていた時に、命懸けて覚えた様なものだ。

 魔法の無詠唱での発現は、団長になるには必須条件だ・・・とすると。既にレンは、騎士団長クラスに匹敵するって事か?

 ウィリアムはレンの事を“規格外な感がする”と言っていたが、奴の予想は当たっていたようだ。


 翌朝、風呂上がりのレンの髪を手入れした後。何本か細く編んだ髪を後で巻いて、ハーフアップに結ってみた。

 なかなかの自信作だ。

 レンも「上手!かわいい!すごい!」
 と喜んでくれた。

 子供の頃は、母の厳しい指導が嫌でたまらなかったが、今は感謝しかないな。

 髪結で気をよくした俺だが、今朝もレンはあまり食べてくれなかった。流石に体を壊してしまうのでは?と心配になる。

「もう少し、食べた方がよくないか?」
 するとレンは、困った様な、申し訳なさそうな顔になった。

「責めている訳じゃないぞ!君の体が心配でな?」

 するとレンは、言い難くそうに話し始めた。

「実は・・・こちらのお食事は、不味くはないのですが、私にはちょっと・・・」
「口に合わなかったのか?」
 皇宮の料理長は腕がよく、美味い事で有名なのだが。

「本当に、不味くないんですよ。ただ油っぽくて、胸焼けしちゃって」

 と申し訳なさそうに、肩を丸めるレンの話しによると。

 異界の食事は、もっと味付けが薄く、その代わりに“だし”とう言う旨味の詰まったスープを使うらしい。特にレンの民族は素材の味を楽しむ為、他の民族よりも薄味を好むのだそうだ。
 肉も獣臭が強くて食べにくいらしい。

「パンも固くて、顎と歯が痛くなっちゃって、それに量も多過ぎて・・・」

 番が何を好むか、知ろうともせず。
 もっと食べろと、無理強いをして
 給餌が楽しいと喜ぶなんて・・・・。

 俺は番失格だ!




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