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アレクサンドル・クロムウェル

討伐とお留守番 / 違和感

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 ダンプティーに、優しく話しかけるレンの姿に、ほのぼのした気分で、手紙に目を通した。

 手紙は、やはりマークからの物で、帰還の連絡かと思ったら、逆に帰還が遅れるとある。

 その理由は、ミーネの森で魔獣が暴れているから、らしい。
 そういえば、とレンを連れて森を出るときに出会でくわした、ライノとジャイアントボアの事を思い出した。

 しつこかったジャイアントボアは、粉々にしてやったし、ライノも3頭丸焦げにしてやった。
 残りのライノだけなら、マークがいて梃子摺る相手では無いはずだが・・・。

「ムースと・・・バーブ?」

 ミーネの森近辺なら、目撃情報があったムースが出るのは分かる。だが、バーブはもっと南に生息する魔獣の筈だ・・・・何かおかしい。

 “すたんぴーど”の影響か?

 第4のアレナ砦にも、連絡はして有るそうだが・・・・。
 モーガンとも話した方が、良いかもしれんな。

 そう考えながら、レンを見ると、気持ちよさそうに羽を膨らませた、ダンプティーの首を指で掻いてやっている。

 鳥の扱いが上手いな。
 鳥・・・・・・

 はと胸モーガン・・・。

「クックク」
 昨日の事を思い出して、喉が鳴ってしまった。

「?・どうしました?」
コホッ・・・いや、何でも無い。朝食の後、モーガンと会って来ようと思うのだが、良いだろうか?」
「それは全然構いませんけど、何かありました?」
「今遠征に出ているマークが、気になることを言ってきた」
「気になること?」
「魔獣の動きがおかしいらしくてな?神託の件も有るから、話をしておこうかと」
「魔獣の動き?」
 とレンは小首を傾げている。

「もっと南に居るはずの、バーブと言う魔獣が出たらしくてな?」
「渡りとかじゃなくて?」
「違うな」
「ふーん」
 と言つつレンは、顔の前で手を振った。
 あの加護で、確認しているようだ。

「バーブ・・・狒狒?」
「なんと書いてある?」
「えっと。バーブは帝国南部に主に棲息する、狒狒の魔獣。群れを持ち、雑食。縄張り意識が強く、求愛行動は糞を渡すこと?!」

「そっそうか」
「・・・この情報いります?」
 と半眼で空を睨んでいる。

「いらんな」
「ですよね~」
 とレンはテーブルに突っ伏した。

 そのレンの髪を、ツンツンと嘴で啄くダンプティーを、鷲掴みにして窓から放り出した。

 レンの髪に触れて良いのは
 俺だけだ!

「あの・・・いいんですか?」
 とレンは窓の外を指さしている。

「問題ない。団の鳩舎に戻って、餌を貰うはずだ」
「そうなんだ・・・ダンプティー・・鳥型の魔獣。卵から世話をすると人に懐きやすく。通信鳥として使役出来る。雑食。好物はタラント?」
「タラントは、このくらいの蜘蛛だな」
 大きさを示して見せると、レンの顔が引き攣った。

「そんな・・・大きな蜘蛛が居るんですね?」
「タラントは小さい方だぞ?メイジアクネは俺よりデカいからな」
「ヒッ!」
 目を見開いたレンが、両手で自分の口を隠した。

「だッ大丈夫か?」
「・・・・大丈夫です、お気遣いなく・・・お風呂入ってきます」

 どうやらレンは、蜘蛛が苦手なようだ。
 表情が抜けて、ヨロヨロしているが、本当に大丈夫だろうか?

 ダンプティーの蜘蛛の食い方は・・・・
 教えない方が良いな。


 侍従を通じて、モーガンに面会を求めると、今日の午前中は執務室にいるとの事だった。
 そこで朝食後、頃合いを見てモーガンの執務室を訪ねた。

「何故バーブが・・・」
「さあな。だが、あの森の魔獣は、どこかおかしい」
「おかしいとは?」
 その問いに、森での様子を話して聞かせた。

「ジャイアントボアが、そこまで執拗に?」
「あぁ。神殿を探して歩き回った三日間は、ウロシュとコネリしか見なかった。それが神殿を出た途端、大型魔獣に続けて出会す、と言うのもな」
「たしかに、違和感があるな」
 とモーガンも顎を摘んで考え込んでいる。

「何かある、と断言は出来んが、タマスの事もある、注意は必要かと思ってな」
「分かった」
「何か別の情報が入ったら、また連絡する」

 ではこれで。と腰を上げようとして、モーガンに引き止められた。

「まだ何か?」
「・・・・昨日は、愛し子様の前で、声を荒げてしまい、大人気ないことをした。申し訳ない」と頭を下げてきた。
    
本当に真面目な奴だ。

「いや。お陰でレンとジルベールの話が出来た。手間を掛けたな」
 それを聞いたモーガンが、気遣わし気な顔になった。

「愛し子様は、なんと?」
「特になにも・・・・」

 俺の顔を見て、レンが受け入れてくれたと、分かったのだろう。モーガンの目元が微かに緩んだ。

「そうか・・・・思う所は有るだろうが、私からすれば、貴方は国を救ってくれた英雄だ。感謝している。それを忘れないで欲しい」
 と頭を下げた。

「やめてくれ」
「・・・・クロムウェル殿、貴方は強い、強すぎるのだ。貴方の強さは災害級だ。だから弱い者達は、貴方を恐れ、忌避する。だが、それも彼の方と共に有れば、変わっていくだろう」

 お節介だったな。と苦笑するモーガンにその通りだ、と返して部屋を出た。

 はと胸モーガンは、良い奴だった。
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