獣人騎士団長の愛は、重くて甘い

こむぎダック

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アレクサンドル・クロムウェル

告解 / 告解2

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「ジルベールや母から、手紙の返事が来なくなっても、政務に追われて大変なんだろうと、俺達は思っていた」

 だが、それが間違いだった。
 あの時、無理にでもジルベールと話していれば、兄に何が起こったのか、知る事が出来たかもしれないし、助けられたかもしれない。

 今となっては、唯の繰り言だ
 だが、それでも・・・・・。

「12年前マイオールで魔物が大量発生した。元々北部は、魔物の被害が多い土地だったが、あれは異常だった。倒しても、倒しても魔物が湧いて。今思えば、あれが”すたんぴーど“と言うやつだったのかもしれない」

「俺の母は、マイオールのシルベスター侯爵家の出でな。マシュー様の従兄弟に当たるのだが、そのシルベスター候から直接、救援の依頼が届いた。皇帝が救援依頼に応えてくれない。助けて欲しいと。マイオールでの討伐命令は無かったが、その縁もあって、俺とウィリアムは、マイオールに向かったんだ」

「だがマイオールは、食糧事情の悪い土地だ。魔物の数も多すぎる。中央の助けが必要だった」

「増援と物資の補充を願う嘆願書を、何度も出した。しかし何故か送った使者は、全て帰って来ない。最初は食う物も無く、魔物と戦うのが嫌で逃げたと思った。だから信用出来る部下を送ったが、同じだった」
「捜索は?」
レンの言葉に、俺は首を振るしかない。

「使者の行方や、皇都の様子を調べさせるには、人手が足りなかった。増援も無く、負傷者は増える一方で、魔物の相手で手一杯だ。後手後手に回っているうちに、増援の知らせの代わりに、全ての物資が止められた」
「そんな!? どうして?」
「増援が来なかったのは、上皇のせいだ。あの男は、マイオールからマシュー様を奪っただけでは、気が済まなかったんだ」
「ひどい・・・・」

 そうだな、酷かった
 本当にひどい状態だった。

「頼みの綱だった行商の商人にも、これが最後だと言われた」
「なぜ?」
「売れるものが無いと言われた。仕入れ値が上がりすぎて、護衛を雇ったら利益が出ないと。それに領境に関が置かれて、通行料も取られるようになった、これ以上は無理だと言われた」
「・・・」
「あちこちの領で、生まれ育った土地を捨て、逃げ出す者が大勢いる。皇帝は何をしているのか。とも言われた」
「辺境以外も、被害が出ていたから?」
「それもあるが、税が上がったからだ。元々高かった税が、更に引き上げられ、民の多くが飢えて死ぬか、逃げ出すかを選ぶしかなかったんだ。寝耳に水だった。皇帝は暗愚だが、ジルベールがいれば、大丈夫だと思っていたから」

「嘆いても、魔物が居なくなる訳じゃ無い。俺とウィリアム、シルベスター侯は力を合わせて戦った。この時、飢えに耐えかねた騎士の1人が、魔物の肉を食ってな。それで、魔物も食糧になると、初めて分かった。俺達は魔物の肉を食って飢えを凌ぎ、なんとか討伐を成功させた」

「よかった・・・・」

 ふるりと震えた体を、両腕で抱え込んだ。

 この温もりが、勇気をくれる。
 この先の地獄を、耐えることができる。

「だが、皇宮に送った、討伐成功の知らせにも、ジルベールや皇帝からの返事は無かった」

 今でこそ、ウィリアムの尽力で、ダンプティーや魔晶石を利用した、魔通信の精度は格段に上がったが、当時は、辺境と皇宮との連絡手段は、馬を使った早駆け頼りで、皇宮の情報など皆無に等しかった。

「もう、放って置けないと思った。俺達に帰還命令は出なかったが、皇都に戻ることにした。これにシルベスター侯も同行を申し出てくれてな。彼も思うところが有ったんだろうな」

「皇都に向かう街道沿いの街や村は、何処も活気がなくて、俺達は大人数だったから、宿どころか、街中に入れて貰えない事も、度々あった」
「どうして?」
「余所者に食わせる物がない。野盗かもしれない。信用出来ない。何処もそんな感じだ」

「領境に、本当に関が作られていて、金を要求されたよ。これにシルベスター侯がキレて、街道に関がある度に、ぶち壊してたな」

 3年振りの、皇都の有り様は酷い物だった。
 
 魔物から逃れてきた避難民や、食い詰めて皇都に出てきたは良いが、仕事にあぶれた者で溢れかえっていた。

 皇宮からの支援もなく、神殿は彼等を締め出していた。

「賑やかだった大通りでさえ、人影はまばらで、食い詰めて痩せ細った者ばかりが、幽鬼の様に彷徨っていて。・・・どこの戦場か、此処は地獄か?と思ったよ」

「税が上げられたなら、物資はある筈だろ?それが送られて来ないのは、上皇の嫌がらせだと考えていた。だが、ようやく理解した。マイオールへの物資は止められたのではなく、本当に送れるものが無かったのだと」

「そんな・・・」
「上皇と、その取り巻きが富を独占していた。皇帝の名で、魔物の討伐物資として、各領から食料を召し上げ、上皇に追従する貴族が、自領の税を勝手に上げた。それは国庫に入る事なく、上皇達の懐に入れられていた」

「独裁者・・・?」
「その通りだ」

 レンの指が、どんどん冷えていく
 これから、もっと酷い話になるのに

 ここで止めてしまいたい
 何も話さずに
 唯、2人で楽しく過ごしていたい

「ウィリアムには、婚約者が居た。伯爵家の嫡男で、俺達と同い年の鹿の獣人だ。パッチリした目の、可憐な人だった」
「だった?」
「オルフェウスは死んだ。・・・皇都に戻った俺達は、その酷い有り様を見て、流石に皇宮に入るのは、まずいと考えた。だからオルフェウスを頼って、アーリントン伯爵の領地に行った。そこで・・・・・・・」

 当時を思い出して、俺は言葉を継げなくなった。

 黙り込む俺を、レンは急かす事もなく、ただ黙って俺の手を握ってくれた。

「・・・お・・れ達を迎えてくれたのは、オルフェウスの笑顔じゃ無かった。オルフェウスの葬式だった」
「ッ!!」

「皇都に・・皇都に向かう途中、何度か帰還の知らせを、皇宮に送った。それが仇になった」

「俺たちが、帰還することを知った上皇は、オルフェウスを皇宮に呼んだ。”ウィリアムが帰還する、皇宮で出迎えよ“と・・・・そこでオルフェウスは、上皇とジルベールから辱めを受けた」

 レンは固く瞼を閉じ、引き結んだ唇が白くなっている。

 ごめんな。
 こんな話を聞かせて。
 本当に・・・ごめん。
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