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アレクサンドル・クロムウェル
告解 /告解1
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「君はこの国の事を、どこまで知っている?」
レンは「そうですねぇ」と首を傾げた。
「ステータス画面で、検索できたのは、この国が創世神話の舞台で、獣人を創ったのがドラゴンで、人を創ったのが、アウラ様。
後は、先帝が病で退位されて、ウィリアムさんが即位された事と、アレクさんの下に、弟のアーノルド殿下が居るって、簡単な内容でしたね」
「・・・そうか」
アウラ神は、レンに先入観を持たせないように、敢えて表向きの簡単な内容しか、教えないのかもしれない。
「今から俺が話すことは、君を不快にさせる様な話しだ、それでも聞いてくれるか?」
「大丈夫。最後までちゃんと聞きます」
「まず、この国はアウラ神だけを崇める、一神教なんだが、創世神話にドラゴンが出て来るのに、ドラゴンを祀る神殿は、今のこの国には無い」
「不思議ですね?」
「そして、人族の中には、獣人を獣と同じだと、魔物と同じだと蔑む、差別主義者がいる」
レンは口を開かなかったが、銀の虹彩の光が強くなったから、怒っているのだと思う。
「俺の祖父、先々代の皇帝はギデオンと言う、この人は暴君だったが、戦上手でな、ギデオン帝の手で、地上から消された王国は、大小合わせて10を超えた」
「凄い。ローマの皇帝みたい」
「ろーま?・・・クレイオス王国が、帝国となり得たのは、彼の功績の巨大さによるものだ」
「でも、そんなに急に国土が広がったら、管理が大変そう」
あぁ。やっぱりレンは聡い人だ。
「その通りだ。北のマイオール公国を落としたのを最後に、ギデオン帝は侵略を止め、国内に目を向けたんだが、一方的な侵略と略奪で国を奪われた者達は、当然反発するだろ?」
「そうですね。あちらでも、よその国で同じようなことがありました」
「では、ギデオン帝はどうしたと思う?」
「歴史の授業ですね」
と言ってレンは考え込んだ。
「4、5百年前に、私の国で“農民は生かさず殺さず”って考え方の、死なない程度に農民は困窮させて、大人しくさせるって、酷い政策が有ったんですけど、それでしょうか?」
本当にレンと話していると
驚くことばかりだ。
「正解だ。短期的に見れば、非道だが効率はいいからな」
日々の糧に困れば、騎士も剣を鍬に持ち換えるしかなくなる。ギデオンは搾取によって、民を押さえつけた。
正に、生かさず殺さず、上手いことを言う。
「だが、愚策だった。誰かが止めるべきだったんだ。・・・ギデオン帝は、最初は国政に勤めたが、5年もすると関心を無くして、遊興にふけるようになった」
「無責任ですね」
「暴君だからな」
そんな折、北のマイオールに魔物が湧いた。
ただでさえ、農耕に適さない、痩せた大地のマイオール領の財政は、あっという間にひっ迫し、魔物の討伐の助力と、税の免除を願い出ることになった。
「魔物の被害が、急激に増え始めたのは、この頃だな」
元々好戦的なギデオンは、魔物の討伐には前向きだったが、税の免除には難色を示した。
しかし、使者として訪れた、前マイオール公の嫡男、マシューを一目見て、その美貌を気に入り、税の免除を約束した。
ギデオン帝は、好色でも有名で有った為、マシューの後宮入りが噂されたが、意外なことに、マシューと皇太子の婚姻が発表された。
この婚姻については、マイオール公家は人族と言われているが、実は獣人族で、婚姻こそしていなかったが、マシューには番が居たのではないか。
戦に敗れたとは言え、ギデオン帝に、なかなか膝を折らなかった、マイオールに対し、番からマシューを奪うことで、意趣返しをしたのではないかと、実しやかに囁かれた。
「このマシュー様が、ウィリアムの母君だ」
「マシュー様には、本当に番がいらしたのですか?」
「さあ、ご本人からは、何も聞いたことが無いからな。ただ人族である事は、間違い無かったし、儚げで、別腹の俺にも分け隔てなく接してくれる、優しいお方だった」
「・・・過去形って事は、お亡くなりになったんですか?」
「ウィリアムを産んだ後、体調を崩されて、次第に弱っていかれた。俺達が物心着く頃には、部屋で過ごされるか、ベットにいることが多かったな」
「そうなんだ・・・」
「先は長い、話しを戻していいか?」
「じゃあ、先にお茶を入れ替えましょうね?」
「茶なら俺が」
腰を浮かせる俺を
そっとレンの手が止めた。
「私が入れてあげたいんです。私の楽しみは取っちゃダメですよ?」
レン、君は優しい
だが、この先の話しを聞いても
君は、変わらずに居てくれるだろうか。
レンの入れてくれた茶で、喉を湿して、また語り出した。
「マシュー様の輿入れを機に、ギデオン帝は退位し、皇太子ハリー、俺達の親父殿が帝位に着いた。ギデオン帝は暴君だったが、親父殿は暗愚でな。大臣や上皇になったギデオンの言いなりだった」
ギデオンは政務に飽きていたが、一度手放した権力に、再び執着し始めた。
飽きたと、人にやった玩具が惜しくなる。
そんな、子供じみた性格の男だったからだ。
「輿入れから程なく、マシュー様が懐妊されて、産まれたのがジルベール。俺たちの長兄だ。ジルベールは多少乱暴で、悪戯好きなところはあったが、闊達で、いつも俺たちに、面白い遊びを教えてくれてな?剣の腕もよく、俺たちにとって頼れる兄だった」
「マシュー様が亡くなられた後、隣国との友好の証として、ロイド様が輿入れし、王配と成られた。この方がアーノルドの母君だ」
「アーノルドが生まれた頃から、ジルベールの様子がおかしくなった。政務に携わるようになっていたジルベールは、よく上皇に呼び出される様になってな・・・・」
「あの頃は、今よりももっと、魔物との戦い方が確立されていなくてな。俺だけじゃなくウィリアムも討伐に駆り出された、と言うより、ジルベールに、皇都から追い出された。俺達は辺境に向わされてな。遠征に次ぐ遠征、移動だけで1、2ヶ月かかる場所ばかりだ。国中を転々としていて、皇都にも皇宮にも戻れなかった」
「まだ10代とかですよね?」
「そうだな。だがあの頃は、そんな事で文句を言う余裕は無かったな」
「そうなんですね・・・・」
しょんぼりするレンの髪を撫で、俺は語り続けた。
レンは「そうですねぇ」と首を傾げた。
「ステータス画面で、検索できたのは、この国が創世神話の舞台で、獣人を創ったのがドラゴンで、人を創ったのが、アウラ様。
後は、先帝が病で退位されて、ウィリアムさんが即位された事と、アレクさんの下に、弟のアーノルド殿下が居るって、簡単な内容でしたね」
「・・・そうか」
アウラ神は、レンに先入観を持たせないように、敢えて表向きの簡単な内容しか、教えないのかもしれない。
「今から俺が話すことは、君を不快にさせる様な話しだ、それでも聞いてくれるか?」
「大丈夫。最後までちゃんと聞きます」
「まず、この国はアウラ神だけを崇める、一神教なんだが、創世神話にドラゴンが出て来るのに、ドラゴンを祀る神殿は、今のこの国には無い」
「不思議ですね?」
「そして、人族の中には、獣人を獣と同じだと、魔物と同じだと蔑む、差別主義者がいる」
レンは口を開かなかったが、銀の虹彩の光が強くなったから、怒っているのだと思う。
「俺の祖父、先々代の皇帝はギデオンと言う、この人は暴君だったが、戦上手でな、ギデオン帝の手で、地上から消された王国は、大小合わせて10を超えた」
「凄い。ローマの皇帝みたい」
「ろーま?・・・クレイオス王国が、帝国となり得たのは、彼の功績の巨大さによるものだ」
「でも、そんなに急に国土が広がったら、管理が大変そう」
あぁ。やっぱりレンは聡い人だ。
「その通りだ。北のマイオール公国を落としたのを最後に、ギデオン帝は侵略を止め、国内に目を向けたんだが、一方的な侵略と略奪で国を奪われた者達は、当然反発するだろ?」
「そうですね。あちらでも、よその国で同じようなことがありました」
「では、ギデオン帝はどうしたと思う?」
「歴史の授業ですね」
と言ってレンは考え込んだ。
「4、5百年前に、私の国で“農民は生かさず殺さず”って考え方の、死なない程度に農民は困窮させて、大人しくさせるって、酷い政策が有ったんですけど、それでしょうか?」
本当にレンと話していると
驚くことばかりだ。
「正解だ。短期的に見れば、非道だが効率はいいからな」
日々の糧に困れば、騎士も剣を鍬に持ち換えるしかなくなる。ギデオンは搾取によって、民を押さえつけた。
正に、生かさず殺さず、上手いことを言う。
「だが、愚策だった。誰かが止めるべきだったんだ。・・・ギデオン帝は、最初は国政に勤めたが、5年もすると関心を無くして、遊興にふけるようになった」
「無責任ですね」
「暴君だからな」
そんな折、北のマイオールに魔物が湧いた。
ただでさえ、農耕に適さない、痩せた大地のマイオール領の財政は、あっという間にひっ迫し、魔物の討伐の助力と、税の免除を願い出ることになった。
「魔物の被害が、急激に増え始めたのは、この頃だな」
元々好戦的なギデオンは、魔物の討伐には前向きだったが、税の免除には難色を示した。
しかし、使者として訪れた、前マイオール公の嫡男、マシューを一目見て、その美貌を気に入り、税の免除を約束した。
ギデオン帝は、好色でも有名で有った為、マシューの後宮入りが噂されたが、意外なことに、マシューと皇太子の婚姻が発表された。
この婚姻については、マイオール公家は人族と言われているが、実は獣人族で、婚姻こそしていなかったが、マシューには番が居たのではないか。
戦に敗れたとは言え、ギデオン帝に、なかなか膝を折らなかった、マイオールに対し、番からマシューを奪うことで、意趣返しをしたのではないかと、実しやかに囁かれた。
「このマシュー様が、ウィリアムの母君だ」
「マシュー様には、本当に番がいらしたのですか?」
「さあ、ご本人からは、何も聞いたことが無いからな。ただ人族である事は、間違い無かったし、儚げで、別腹の俺にも分け隔てなく接してくれる、優しいお方だった」
「・・・過去形って事は、お亡くなりになったんですか?」
「ウィリアムを産んだ後、体調を崩されて、次第に弱っていかれた。俺達が物心着く頃には、部屋で過ごされるか、ベットにいることが多かったな」
「そうなんだ・・・」
「先は長い、話しを戻していいか?」
「じゃあ、先にお茶を入れ替えましょうね?」
「茶なら俺が」
腰を浮かせる俺を
そっとレンの手が止めた。
「私が入れてあげたいんです。私の楽しみは取っちゃダメですよ?」
レン、君は優しい
だが、この先の話しを聞いても
君は、変わらずに居てくれるだろうか。
レンの入れてくれた茶で、喉を湿して、また語り出した。
「マシュー様の輿入れを機に、ギデオン帝は退位し、皇太子ハリー、俺達の親父殿が帝位に着いた。ギデオン帝は暴君だったが、親父殿は暗愚でな。大臣や上皇になったギデオンの言いなりだった」
ギデオンは政務に飽きていたが、一度手放した権力に、再び執着し始めた。
飽きたと、人にやった玩具が惜しくなる。
そんな、子供じみた性格の男だったからだ。
「輿入れから程なく、マシュー様が懐妊されて、産まれたのがジルベール。俺たちの長兄だ。ジルベールは多少乱暴で、悪戯好きなところはあったが、闊達で、いつも俺たちに、面白い遊びを教えてくれてな?剣の腕もよく、俺たちにとって頼れる兄だった」
「マシュー様が亡くなられた後、隣国との友好の証として、ロイド様が輿入れし、王配と成られた。この方がアーノルドの母君だ」
「アーノルドが生まれた頃から、ジルベールの様子がおかしくなった。政務に携わるようになっていたジルベールは、よく上皇に呼び出される様になってな・・・・」
「あの頃は、今よりももっと、魔物との戦い方が確立されていなくてな。俺だけじゃなくウィリアムも討伐に駆り出された、と言うより、ジルベールに、皇都から追い出された。俺達は辺境に向わされてな。遠征に次ぐ遠征、移動だけで1、2ヶ月かかる場所ばかりだ。国中を転々としていて、皇都にも皇宮にも戻れなかった」
「まだ10代とかですよね?」
「そうだな。だがあの頃は、そんな事で文句を言う余裕は無かったな」
「そうなんですね・・・・」
しょんぼりするレンの髪を撫で、俺は語り続けた。
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